Event report

2019.5.21

「クマと猟師 それぞれの目線」林縁会議 ♯01

FabCafe Hida 編集部

林縁会議 ♯01 レポート

こんにちは。

ヒダクマさんと一緒に「林縁会議」を企画しました、安江です。
私は、岩手大学農学部で林業と野生動物との関わりをテーマに修士論文を書きました。現在も、飛騨高山でカフェ「TRAVELLER Coffee House」を経営する傍ら、研究を続けています。

この記事では、2019年4月に開催した「林縁会議 ♯01 〜クマと猟師の目線で、森とヒトをみる〜」の当日の様子を紹介します。よろしくお願いします。

20年後の、ヒトと森の境界を考える


はじめに、「林縁会議」とは何なのか?
というところについて、ちょっと触れます。

私は、学生時代に自然科学を専攻していました。
その分野では、いわゆる“里山”と呼ばれる場所は、ヒトが森を使うことによって、多くの生き物の棲み処が維持されることが知られています。一方で、農林業を始めとした人間活動が衰退すると、里山の生き物の棲み処は減っていきます。
これは、森に棲む生き物の視点で森を見た時の問題です。

この問題を、ヒトの視点に置き換えてみます。
多くの農山村は、過疎化という深刻な問題を抱えています。ヒトの生活圏は、ヒトが森に働きかけることで維持されますが、人口減少や高齢化が深刻化すると、森への働きかけが維持できません。
つまり、近い将来、ヒトと自然の境界線(≒林縁)は、急激に書き換えられていきます。

人間活動が衰退し、“林縁”の書き換えられた、20年後の飛騨地域…

ヒトはその時、どのようなかたちで自然と寄り添いながら暮らしていけるのでしょうか?
限界集落の出身である私の中には、常にこうした“問い”があります。
この考えを、猟師の脇谷君、そして、ヒトと森の関り方を模索し続けているヒダクマさんと共有したことが、このイベントのきっかけです。

農山村の衰退が社会課題となっていますが、
ここ、飛騨地域にも、様々な立場で森に関わる方々がいます。
彼らは、ヒトと森の境界(≒林縁)に立ち、境界線を維持する人たちです。

林縁では何が起きていているのか?
ヒトと森の境界線は、この先どのように変わっていくのか?
ヒトのはたらきかけで、その境界を“書き換える”ことはできるのか?

森に関わる様々な立場の人たちとこの問いを一緒に考え、話し合ってみたい。
「林縁会議」は、そんな思いから始めました。

クマと猟師の目線で、森とヒトをみる


第1回は、猟師である脇谷くんと、クマの研究者である私が、話題提供者となりました。
(プロフィールは、こちらをご覧ください)

自然の恵みの活用を考え、命と向き合って生きる〝猟師〟の目線
そして、日本の自然の象徴と言われ、ヒトとも長いお付き合いのある〝クマ〟の目線
2つの視点を切り口に、参加者と議論してみます。

当日は、林業家・木工作家・自然観察ガイド・山岳パトロールなど様々な方にお集まりいただきました!
どんな人から、どんな意見が出てくるのか、楽しみですね。

命と向き合って生きる


まず、猟師の脇谷君からの話題提供です。
普段、一般の方が目にしない、猟師の様々な“リアル”についてお話ししてもらいました。

猟犬を使った“忍び猟”の様子、ジビエや獣皮の利活用、
猟師の楽しさ、猟師にとってのクマを獲る意味、
そして、命をいただくということに対する思い…

特に、彼の得意とする“忍び猟”を記録した映像は衝撃的で、猟犬がイノシシを見つけてから、銃で仕留めるまでの一部始終が記録されており、思わず息をのむ迫力でした。

私が一番印象的だったのは、彼が、獲物を狩る立場として命の尊厳を考える一方、熊牧場の子熊を可愛がったりと、自身の中の相反する感情について語ってくれたことです。

狩猟採集を生業にする人は、殺生=罪という意識があるからこそ、相手が憎くなくても命をいただくことの理由を自分の中で整理しています。猟師もたぶんそうなんだと思います。
けど、彼と話をしていると、猟師は楽しい、命がけで相手に向き合うことにスリルを感じる、という考え方が同居しているのがわかります。
猟師という集団ではなく、個人として、狩猟に関わって生きていくことの理由を持っている。
友達ながらに、そういうところが「カッコいいなぁ」といつも思います。
そうした考えを持ちながら、ジビエの利活用や、獣の皮を利用した製品のブランディングに取り組む彼には、「生業」という言葉がとても良く似合いますね。

オス・メスの見分け方や習性を話す脇谷くん

参加者の方も熱心に聞き入っていました。

脇谷くんの作った革製品。

アクセサリーも。会場にて展示・販売されました。

自然の恵み、いただきます

今回、参加者のみなさんには、脇谷君が提供するジビエ料理を食べていただきました。

メニューは、くま飯、ぼたん鍋、シカのワイン煮、猪と鹿のジャーキー、ふき味噌
自然の恵み満載です。

猟師の話をききながら食べることで、どんな思いをもった猟師が、どのような経緯で捕ったジビエを料理しているのか、少しでも伝わればと思います。
というかこれ、びっくりするくらいおいしいんです。参加者からもおいしいとご好評をいただきました。

興味のある方は、彼の家族が経営する飛騨高山のジビエ専門店「山の幸 うり坊屋」にぜひ行ってみてください。

クマの目線で森とヒトをみる


続いて、私です。
学生時代、研究と称し、クマを追いかけて山に籠っていた時の話をさせていただきました。

クマってどんな生き物で、森でどうやって暮らしているか、
ヒトとのお付き合いの歴史、林業との関係性…
目を輝かせながらたくさん喋りましたが、長いので割愛します。

伝えたかったことを簡単に言えば、
私の研究は、クマと、アリと、林業に関するものです。

これまで、クマの生息地といえば、主食となるドングリの実る落葉広葉樹林が重要で、針葉樹の人工林はクマの食べ物が少ない、と言われてきました。
けど、ドングリの実らない季節、クマはいろんなものを食べて食いつないでいます。特に、食べ物が少ない夏場は、朽ち木に巣を造るアリが、クマにとって重要な食べ物です。
実際に私が追跡調査をしたクマも、夏場は針葉樹の人工林で頻繁にアリを食べていました。特に、間伐が行われ、林内に倒木のたくさんある場所をよく利用しています。間伐された森というヒトの手で造り出した環境が、クマに食べ物を供給する重要な生息地になっていたのです。
つまり、クマにとっていい棲み処でないと言われていた針葉樹の人工林でも、適度な間伐をすれば、クマにとっていい棲みかになるよということです。

ヒトが森に関わり続けることが、森に住む生き物にとってもメリットを生む
その典型例としてお話ししました。

論文を読む耐性のある方は、よかったらどうぞ(笑)
「夏期のツキノワグマによる針葉樹林の利用とアリ類の営巣基質としての枯死材との関係」

森に関わる いろんなヒトのまなざし

最後に参加者とディスカッションを行いました。

山岳パトロールの方から、乗鞍のクマの話
アリ好きなアウトドアガイドさんから、アリの話
林業家さんから、現在の林業の実情や間伐の話
木工作家さんが、広葉樹を使う思い…

さすが、普段から森に関わる方々、それぞれの立場から、実に多様な意見をいただきました。

もっと時間をとって、ゆっくりお話ししてみたいです。

飛騨地域の林縁、将来の姿


最後に少しだけ、林縁に関わる話題提供をさせていただきました。

この図は、飛騨地域でヒトが居住するエリアに着色したものです。
2015年を基準として、国立社会保障・人口問題研究所が30年後の推計を行っています。

紫色の部分は、無人化…
飛騨地域で現在ヒトが住むエリアの12%は、30年後には誰もいなくなると予想されています。

この推計をどう捉えますか?と、参加者に問いました。

衝撃的?いやいや、その時はその時でそれなりに地域は成立してるのではないか?

時間がない中でしたが、既に、ヒトによって目線が異なっていました。
林縁会議では今後、こうしたリサーチも少しずつ深めつつ、
みなさんと議論していきたいと思っています。


今回は、以上です。

森に関わる立場が変われば、目線や考え方も変わります。

ヒトの生活圏の縮小は避けられないのか?そもそも、避けるべきなのか?
ヒトは森に、これからどのように関わっていくべきなのか?

ひとりで考えているより、視野が広がった気がしています。
今回出た意見を踏まえながら、今後の進め方を考えていきたいと思います。

「林縁会議♯2」開催決定!

第2回目の会場は、高山市にある猟師・脇谷さんの山小屋と、その周辺の森。
異なる立場で森に関わるヒトが一緒に森を歩き、
それぞれの森への視点を垣間見ながら、
興味関心や疑問を追求するディスカッションの場を設けたいと思います。

「林縁会議♯2」
日時:2019年6月15日(土)と6月22日(土)の2回開催
定員:各回 8名様
参加費:3,500円 / おひとり様(夕食代込み)

※2つの日程で同じプログラムを開催します。どちらかご都合のよい方にご参加ください。

お申込み・詳細は、FabCafe Hidaのイベントページをご覧ください。
イベントページはこちら。

皆様のご参加お待ちしております。

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