Interview

2016.2.21

フランス人アーティスト アラン・ビュブレックスの飛騨滞在における作品制作活動インタビュー

FabCafe Hida 編集部

Hida
今回のデジタルショックの展示は、写真とハイブリッド家具。タイトルは『うごかざるもの、うつろふなり』で、展示は渋谷のアートギャラリー、アツコバルーにて(3/11-4/3)
複数の機能をもった三つの家具の製作プロジェクト。フランスでデザインされ、日本の飛騨の伝統技術「組み木」を使い、異なるフォルムや機能やコンセプトを組み合わせて「ハイブリッド」な家具を作ります。家具の形の中に、それらが生み出された経緯や環境を見いだすことができるような。
アラン・ビュブレックス Alain Bublex
コンテンポラリー・アーティスト。1961年リヨン生まれ。マコン美術学校、パリ国立高等工業デザイン学校にて学ぶ。自動車製造会社で工業デザイナーとして勤務した後、1992年、パリのギャラリー・ヴァロワにて初の展覧会を開催。
そんな彼に、飛騨での1週間滞在を経ての印象や、今後のアーティスト活動などについて聞いてみました。
ヒダクマ:
まずはじめに。飛騨にはどうして来ようと思ったのですか?飛騨をどのように知りましたか?
アラン:
飛騨はInstitute of Franceを通して知ったんだ。以前にフランスの哲学者Elie During と共に「未来は存在しない」という本を書いたんだけど、その後、Institute of Franceの担当からデジタルショックに参加しないかと提案をもらって、彼が飛騨を勧めてくれたよ。飛騨のことを聞いて、昔日本を旅した時に飛騨高山を通り過ぎたのを思い出した。その時の印象は美しい街並みだと思ったけど、残念ながら止まる時間がなくて悔やんでいたんだ。今回来ると聞いて、さらに冬の時期だからとてもワクワクしたよ。冬は木に葉がならないから家々がよく見えて建築写真にはとても向いてる。特に雪の降るところが好きだよ、空気がきれいだからね。
飛騨に来ると知って5つの本を買ったよ。ひとつは飛騨の組み木についての本。もうひとつはドイツ人の建築家が日本人の建築について書いた本 (Bruno Taut, Japanese House and Life, 1936)。その本はヨーロッパ人が書いた日本の建築に関する初めての本だったから、その視点がとても面白そうだと思ったんだ。3冊目の本はフランス人のリサーチャーによって書かれた本 (Augustin Berque, Le Sens de l’espace au Japon. Vivre, penser, bâtir, 2004) で、日本とフランスの歴史や風景、スペースに対する考えの違いについて書かれたものだった。さらに、「Le Vocabulaire de la spatialité japonaise, Philippe Bonin, Nishida Masatsugu & Inaga Shigemi, 2015」も読んだね。
これらの本を読んで、飛騨でどんなものを見てどんな写真を撮れるかイメージが広がったよ。だけど飛騨特有の何かとコラボレーションして作品をつくるといったところまでのアイデアは飛騨に来る前のこの時にはまだなかったね。家具をつくるということ以上のね。
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(C) Alain Bublex
ヒダクマ:
飛騨に対する印象はどんなものでしたか?
アラン:
山の奥地で都会の生活とは縁遠い何もないところかと思っていたよ。飛騨古川は小さい街だと聞いていて、フランスだと小さい街となると、本当に小さくて何もないからね。
前述の本を通じて既に日本の建築がどんなものかというイメージは持っていたのと、職人の存在は知っていたからもっと知識を深めたいと思っていたよ。
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(C) Alain Bublex
ヒダクマ:
1週間を過ごしてみて飛騨への印象は変わりましたか?
アラン:
飛騨の人たちは自分たちの家を自分なりにリノベーションしているのがとても興味深いね。元の家を少し改造して(延長したところに)小さな工房のようなエリアを作ったり。
世代間を通じて引き継がれた技術を適応させて自分たちなりに作っている。それが自然に調和していてとても素敵です。
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(C) Alain Bublex
ここにはまた戻りたいね。ここの職人たちとコラボレーションしてこれまでとは違った家具のモデルを作りたいんだ。僕は、自分の思った通りの作品を他人とコラボレーションして実現させることは不可能だと思っている。だからその人とやることでできる融合や化学反応を楽しみたいんだ。それを実現させるためには、その人を理解する必要がある。その人が生活する環境、街並み、家々、家の前にある小さな花とかそういう小さなことを理解することでその人の背景や歴史を感じ取ってから一緒に仕事をしたいんだ。
その人がいる場所と時を共有して同じものを見たいんだ。

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*飛騨の伝統の組み木技術をどのように自信の家具に組み込めるかを地元の大工、田中建築さんと話し合う
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*飛騨で圧縮杉や曲木で最高の技術を誇る家具メーカー、飛騨産業さんと打ち合わせ  (C) Ania Martchenko 
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*デザイナー原研哉氏による一筆書きの椅子の座り心地を体験  (C) Ania Martchenko 

僕は仕事を完成させるのは好きじゃない。結果を見るよりもプロセスを見るのが好きなんだ。それは旅のようなもので、到着するよりも旅をしている方が楽しいんだ。時間をかけて誰かと何かに取り掛かっているのが好きなんだ。何かをスタートさせても完成前に作業をやめて他のことを始めるんだ。もし完成してしまったらそこでアイデアを考えることも挑戦することも終わってしまう。だから考え続けるために完成させないんだ。

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(C) Ania Martchenko
ヒダクマ:
 将来の作品制作につながりそうなインスピレーションは飛騨で得ましたか?
アラン:
もちろん。飛騨で得た直感や刺激は将来に必ず活かせると思うよ。例えば興味深かったのは、飛騨の家々の外壁にはパイプとか生活に必要ないろんなものが出てたり設置されてたりするけれど室内に入るととてもシンプルで無駄なものがない。これはヨーロッパの僕らにしてみたらすごく面白くて刺激的だよ。
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(C) Alain Bublex
今は見たものや感じたことを吸収してプロセスする時間だから、アイデアはあるけどまだ具体的なプランには落とし込めてないよ。でもたくさんの写真を撮ったからフランスに戻ったらそれらを見ながら他の家具や、写真、風景、展示、そして本のことなど色々とアイデアを深めたいと思ってるよ。
ヒダクマ:
飛騨の魅力はなんだと思いますか?
アラン:
観光客であふれてないところがいいね。観光化した街と比べると、虚構ではない”本物”の生活がある。粗野な感じだけど、だからこそ本物なんだ。
小さな街はコンパクトで簡単にいろんなところに行けるので住みやすいし、住人はオープンでフレンドリーだね。僕らを受け入れてくれていると感じる。だからここの滞在をとても楽しんでいるよ。
ヒダクマ:
飛騨の将来に可能性、もしくは何か難しい点を何か感じましたか?
アラン:
世界中の小さな街が今、高齢化とか過疎化の問題を抱えてて、みんなに共通する難題だよね。だからヒダクマが選んだ伝統の技術と組み合わせて未来をつくっていくというのは面白いと思う。もし街が観光化したらこの”本物”感(リアルさ)が消えてしまう。街を活性化することは保存することではない。飛騨には将来良い街になる可能性を感じるよ。FabCafe Hidaが良いのは、休むところではなく、住んで美しい景色を見ながら作業ができるところ。世界のいろんな人とつなげて飛騨の人と交流できるのはとても面白いと思う。
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工事中のFabCafe Hida   (C) Alain Bublex
ヒダクマ:
飛騨で何かやりたいことなどはありますか?
アラン:
そうだね。飛騨の人と一緒にコラボレーションして何かつくりたいと思ってるよ。パリからは遠いけど何かしらできることがあると思ってる。いずれにしても今回の滞在から得た結果は既にいくつかあって、東京での3週間の展示も含め、今後行っていく展示で展開していく予定だよ。
\*撮影した写真を加工して作品をつくるアラン

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\*今回デジタルショックで展示する家具の模型のひとつ

 

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