Interview

2016.9.7

『Strangers in A Room』- イスラエルのデザイナーが床の間を異邦人の目線で作品表現

FabCafe Hida 編集部

Hida

2016年8月9日から9月5日まで、イスラエルより、デザイナーのマヤ・ベン・デイビッド(Maya Ben David)とオリ・ベンジ(Ori Ben Zvi)が飛騨に滞在しました。オリは、廃材などを利用して新しい家具にアップサイクルするインダストリアルプロダクトデザイナー。木が大好きで、木工の経験もあります。マヤは、デジタルテクノロジーと国々の文化との融合をテーマに作品を生み出すコンセプチュアルなデザイナーで二人ともイスラエルのデザイン学校でデザインを教えています。

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彼らが住んでいるイスラエルには森がほとんどなく、森林率は国土の7%ほど。日本の1/10です。そしてあるのも人工の針葉樹のみ。特に”木づかい”をすることが大好きなオリにとっては、面積の9割が森である飛騨はとても魅力的。さらにその7割が天然の広葉樹で、色も匂いも木目も個性豊かな木々たち。オリは木の香りを嗅ぐだけで興奮してしまうそう。
そんな二人は、まだ2歳にならないシフィー(Asiff)を連れて世界中のデザイナーインレジデンスプログラムを体験しながら、”strangers (異邦人)”としてその国の文化や歴史を見て作品を創作しています。昨年は台湾のナイトマーケットに、機能性のある便利でポップな椅子を持ち込んで話題になりました。
http://www.taipeitimes.com/News/feat/archives/2015/07/05/2003622287

そして今年はその活動拠点に飛騨を選びました!
目的は、飛騨の広葉樹を材料に、職人技術の組み木をつかい、日本文化を”strangers”の視点で表現すること。彼らが飛騨へ来て3日ほどしてから早速「ブレストをしたい」と打診がありました。幾つかのアイデアを持ってー
その一つが床の間。「FabCafe hidaの和室の部屋には”床の間”というスペースがあるのに日本人は何も物を置かないね。日本人にとって何か大切な機能があるの?」
文化の違いから発生した素朴な疑問。そうしてブレストがスタートしました。
オリ:「僕らはたくさんの荷物を持ってきた。だからあそこのスペースがブランクになっていることが勿体なくて。でも誰もものを置かないからなにか特別なものを感じていたんだ。」
FabCafeスタッフや職人さん達:「日本には”間”という考え方がある。場所も文章も会話も人との距離感でも”間”が必要なんだ。」「昔は位の高い人の家にしかなく、家の中でも一番高価なもの、生け花、掛け軸などを床の間に飾りお客様をお迎えしていたんだ。」

数日後、彼らは『Strangers in A room』というタイトルで、「床の間プロジェクト」を行うことになりました。コンセプトは、あくまで異邦人が日本のスペースに入った時の視点で表現をすること。
そして上がってきたスケッチはこちら。\この構造を組み木でつくりたいと、まずは飛騨の職人の鈴木岳人さんに相談してみました。\
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3Dモデリングを使って解析。\
次に岐阜県の中でも一番広葉樹の扱い量の多い製材所で木を買い付けます。オリは栗の木を買うことにしました。\

オリは古材が大好きです。
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次に組み木の技術を持つ職人の工房を訪ねました。
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職人さんの千鳥格子の技はこちらより
https://vimeo.com/182532292

図面を見せて説明をします。\
同時に、FabCafe hidaの蔵にある木工機材で栗材の加工をスタート。オリは今回の作品を、手仕事とFabとを組み合わせて作りたいと話します。それはヒダクマのビジョンでもあります。手仕事だけの場合とFabだけの場合、そして両方を掛け合わせた時の時間的効率、作品としての風合いやクオリティなどを実験し、分析したかったのです。
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CNCルーターで実験です
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CNCルーターの仕上げの様子はこちらをご覧ください
https://vimeo.com/182539591

仕上がった仕口はこちら\
結果的には凹凸がぴたりと合う結果が出ず、今回は時間がなかったため、経験の深い職人さんへお願いすることになりました。

ということで、2日間という短い納期の中、飛騨古川で工房を持つ職人の堅田さんへ依頼をしました。
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細かい構造を説明します。
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さすが職人の技!凹凸もぴったりとはまります。
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プロフェッショナルな仕事ぶりです。
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ところで、滞在中、オリとマヤは、床の間の意味や、そもそも日本の文化を体験を通じて理解したいということで、茶道体験を行いました。高山の茶道庵へ。
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小さな扉から入ります
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初めてのお抹茶を体験します。
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茶道の歴史、その歴史文脈の中で形づくられた日本の文化や考え方、美観などについてレクチャーを受け、最後は深い御礼をします。
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帰りに美しい広葉樹を見つけました。
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そして組み木の進行は・・・
なんと堅田さんは、2日間というタイトな納品期限で仕上げてくださいました!
早速、FabCafe hidaの床の間に導入します。
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細かい部分もはめこんでいきます。
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木のホゾをはめます。
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いよいよ完成です。
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9月3日(土)に、この成果発表を飛騨の地域の皆さんにお見せするべく、ミートアップイベントを開催しました。

まずは二人の自己紹介から。
マヤは、デジタルテクノロジーと国々の文化との融合をテーマに作品を生み出すコンセプチュアルなデザイナーです。3Dプリンターを使って普段目視では見ることのできない植物やきのこなどの細かい繊維をスキャンし、それを3DプリンターやUVプリンターで出力し、アートとして表現するなど相手がふと考えさせられるデザインを行います。
3Dプリンター使うと水道管などもデザインできます。彼女が話した興味深い話としては、「家の構造設計は、実は、水や電気などのエネルギーの配管に大きく作用されています。でもそれを3Dプリンターで代用できれば、家の構造自体が大きく変わる可能性があるのです」と。目から鱗の視点ですね!

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オリは、廃材などを利用して新しい家具にアップサイクルするインダストリアルプロダクトデザイナー。森のないイスラエルだからこそ、木が大好きで、廃材を使ったり、使わず日の目を見ずにエネルギーの原料になってしまうようなパーツを価値化することに興味があります。まさにヒダクマがやろうとしていることで、ぴったりのデザイナーさんなのです!
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いよいよ今回のテーマ、『Strangers in A Room』(異邦人からの視点) のプレゼンがスタートしました。

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そして実際の作品を見に上の部屋の床の間へ。
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こちらが完成作品です。
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この作品には3つのコンセプトが混在しています。
1. 一番左端の棚は機能性を重視した 収納スペースです。洋服をかけたり、靴を置いたりなど好きなように使えます。
2. その右隣が、床の間が本来持っている”機能”としてのスペースで、家で一番大切なアート作品やお花などを飾り、お客様をお迎えする意味を持ちます。
3. 家型のオブジェは、床の間が本来持つ意味の”間(スペース)”を表わしています。オリたちにとって、床の間や押入れは、部屋のように見えるようで、日本の家は入っても入っても家(スペース)があって家の連なりだ、と話します。その表現方法として家という形をつくりました。また、飛騨で暮らしている中で築いた 自然と近い暮らしぶりー例えば月と森と家。そんな外の風景をそのままカポっとこの”家(スペース)”の中に持ち込みたかったー「bring the outside into the inside」ということで、家の左上には月を擬えた鏡が、家の右隣(一番右端)には木や森を彷彿させる植木などを置くスペースが存在します。
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この作品に対しての評価は人それぞれ様々です。床の間は日本人にとって大切な”間”であって、「そこにごちゃごちゃとして家具を置くなんて信じられない」とか、「床の間に座るなんてけしからん」などなど。
でも彼らはあくまで「Strangers」の視点でこの床の間という空間を表現したのです。彼らが表現をしなければ、日本人の私達は普段思いを馳せないような気づきを与えてくれました。現代の生活における床の間のあり方や存在意義、日本の文化を外の視点で見た時の違いやその価値、現代や将来につながる暮らし方のデザイン等々、様々なことを考えるきっかけを与えてくれたのです。それは価値のある”気づき”だと思います。

あなたのお家の”床の間”は、どんな風に使ってますか?

この作品はFabCafe hidaにありますので、いつでもご自由に見に来てください。実際に見ると、その『Strangers in A Room』の視点が腑に落ちると思います。

オリとマヤとシフィーは一旦イスラエルへ帰りましたが、また来年、学校の学生さんを連れて合宿滞在で戻ってくるかもしれません。その時にはまた面白い視点をもたらしてくれるかもしれませんね!
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Maya Ben David

Maya Ben David (1980, Israel) is a practicing designer and the head of the experimental design track in the M.Des program at Bezalel Academy for Art and Design, Jerusalem. Her projects question traditional material culture and digital culture. She initiated several international collaborations bringing together design, social technologies and digital craft. Maya ‘s diverse experience integrates industrial design thinking and knowhow with experimental approach leading to new potentials both in design-art and commercial product realm. Maya graduated cum laude from the Social Design Master program at Design Academy Eindhoven (NL) in 2011.
http://mayabendavid.com

Ori Ben Zvi

Ori Ben-Zvi is an industrial designer, Ma (Research Id, Royal Melbourne Institute of Technology – Australia) operating in the field of furniture design and sustainability. His work explores the interrelations between the social and cultural as they coexist through objects. Ori specialized in woodcraft and “hands on” methodology in furniture development. Ori is a staff member and lecturer at Holon Institute of Technology in the department of industrial design. A considerable part of his professional work focused in the last decade on utilizing scrap wood from various sources (industrial waste and city dumpsters) into furniture design.
www.oribenzvi.com
www.studioubico.com

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