Interview

2019.4.14

大村卓さんインタビュー「#企業のノベルティを勝手に作る」

WAVEクリエイターインタビュー Vol.4

吉澤 瑠美

Tokyo

「発見をいつも求めている」アイデア先行型デザイナーのものづくり術

デジタル工作機械が身近になった昨今、ジャンルの垣根を飛び越えハイブリッドなものづくりを行う人が増えています。新しいムーブメントはユニークな活動や思いをもつクリエイターを続々と生み出し、そのうねりはまるで波のようにあらゆるものを吸収しながら大きさを増すばかりです。

FabCafe Tokyoでは「今、注目したいクリエイター」をキュレーションするプロジェクト「WAVE MONTHLY SHOWCASE」で毎月一組のクリエイターを迎え展示やワークショップなどを展開しています。

第四回のWAVEでは、プロダクトデザイナーの大村卓さんの「そのさきのかたち」展を開催(開催終了)。Twitter上で話題となった「#企業のノベルティを勝手に作る」の実物などが約40種類、FabCafeに勢揃いしました。本インタビューでは、大村さんにノベルティプロジェクトの裏話から、本業であるプロダクトデザイナーとしてのこだわりまで徹底的に深掘り。すべてのプロダクトデザイナー、クリエイター必読のインタビューです!

インタビュー・文=吉澤瑠美
編集=鈴木真理子

妄想を形に!大人気企画「#企業のノベルティを勝手に作る」のきっかけとは

「#企業のノベルティを勝手に作る」の作品制作は、仕事としてやっているものではありません。普段はプロダクトデザイン、ものをデザインする仕事を受託したり、自社オリジナル製品の製造販売などを行っています。革製品やキッチン用品、花瓶など、基本的には手に取れる大きさのものが中心で、日々生活している中で感じた課題やアイデアから着想することが多いです。

初めは別にノベルティを作ろうなんて考えていませんでした。普段、仕事をしている間に余計なことを考えてしまう癖があって。ばかばかしいアイデアとか、絶対製品化できなさそうなアイデアばかりが蓄積していくので、そういうものをどこかで出したいな、どうすれば出せるのかなと考えていました。

「KING JIM」のファイル、って分かりますか?分厚いファイルで、上にカラフルな四角いアイコンがありますよね。あれを見たときに「これは何だろう」と思ったんですよ。「もしかしたらこの四角は実はサイコロ状になっていて、取り出して横を見ると一面ずつ違う色がついているんじゃないか」って。じゃあそれをちょっと形にしてみようと思って。

その少し前に仕事で3Dプリンタを買ったので、試しにそのサイコロを作ってみたんです。でも、「作ったものの……これは何だ?」と(笑)。KING JIMは文具メーカーだから、ペーパーウェイトじゃない?そういう企業ノベルティ商品だったりして!みたいなことを勝手に妄想してTwitterにアップしたら、数百件もの反響が返ってきました。

「こんなことに反響があるんだ!」と驚いて、他の企業ロゴでもやってみようと作ったのがマクドナルドです。平面からちょっとだけ押し出すとクリップになって、もう少し押し出すとカードスタンドになる。マクドナルドのノベルティにどうですかと投稿したら、それもわりと反応があって、しばらくこのネタは続けられそうだなと思って現在に至ります(笑)。

「それは面白いか?」脳内から3Dプリンタで出力されるまでの試行錯誤

データを自分で作って、それを3Dプリンタで出力して「ああ違うな」と感じたらまた練り直して、というのを何度も繰り返して作っています。頭の中で思い描いたものをそのままデータ化してみても、実際に3Dプリンタで出力するとなかなか思ったとおりにはなりませんね。もうちょっとこうしたらいいなってブラッシュアップしたものもありますし、ボツにするものもあります。

自分では「イケそうだな」と思ってラフを描いて、データ化しても「うん、まあイケそうかな」と思ったのに、実際に形にしてみたら「これはつまらんな」というものも何割かはあります。品質という意味ではなく、そこに何か発見があるか、意外性があるか。

マークやロゴはできるだけシンプルにまとまった形のものを選んでいます。こちらの勝手な想像を落とし込みやすいから。そして最小限の操作を加えて立体にし機能を持たせます。複雑なことをするとそもそもそのロゴを選ぶ意味がなくなってしまうので避けています。

そして「ロゴを載せた何か」というだけでもダメなんです。普通のよくあるノベルティ商品になってしまって、まったく面白くない。ロゴそのものの形が何か他のものに使えそう、ということにこだわっています。みんなが知っていてシンプルなロゴはあまり多くないので、だんだんネタ切れが近付いています(笑)。

思いついたことはすべて吐き出す、「大村卓」を知ってもらうために

反響もモチベーションの一つではありますが、思いついたことは頭の外に出しておきたいという気持ちのほうが強いです。本業のネタも、バカバカしくて製品化にも至らないようなネタもかなりのストックがあります。

デザイナーという仕事をやっていく中で、内容によって向き不向きがあると感じています。かっちりとしたもの、上質なものを作る路線は僕より上手い人ががたくさんいるから、そっちだけで勝負するのは正直厳しい。じゃあもっと違う、アイデア先行型というか、違う提案ができるデザイナーになったほうが生き残れるんじゃないかと思って。

昔はかっこよくアウトプットすることにこだわっていましたが、だんだんそれが息苦しくなってきた。これだけバカバカしいネタも考えついているということは、それも含めて自分なんじゃないか、と思うようになりました。それなら手持ちのネタを全部晒して、「大村卓」という人間がどういう人なのかをある程度分かってもらったほうが、今後の仕事もやりやすいんじゃないか、って。そういう感じで今は積極的にアウトプットしています。

体験に基づくものづくり、自然な状態を目指すものづくり

どちらかというと、自分の体験に基づいてものづくりをしています。たとえば、もともと花にまったく興味がなくてうちに花瓶がなかったんですが、たまに人から花をもらうことがある。とりあえず風呂場の洗面器に水を張って入れておくけれど、そのまま風呂場で枯れていってしまう。これでは花を贈ってくれた人に申し訳ないし、花もかわいそう。

じゃあ、洗面器に花を活けるにはどうしたらいいか。水面に花が刺さった状態で固定できたらどうだろうかと考えて、最初は発泡スチロールの板に花を刺してみたんですが、当然ながら美しくないし、何も面白くないな、と。今度は透明の板を浮かべてそこに刺してみる。発泡スチロールよりは良くなったものの、まだピンとこない。丸い透明な板が違和感の元だと気付き、どういう形になれば違和感が少なくなるのか考えました。それが平らな板ではなく波紋のような形をしていたら、花が水面に刺さったときにできる波紋のようなデザインなら良いんじゃないか。そうやってできたのが「Floating Vase」でした。不都合を感じたときにそれを解消する道具を作る、そしてそれがどういう状態にあるのが自然なのかを考え工夫をするというのが僕のやり方です。

かつてデザインした商品に、溢れ出す泡のような形のボトルキャップ「Overflow」というのがあるのですが、それも同じような考え方です。世の中のボトルキャップも、製品自体のデザインが凝っていたり、素材が優れていたりというものはありますが、そのボトルとキャップの関係性はあまり注目されません。ボトルに乗っていて一番なじむものは何だろう、と考えて、中から出てきた泡を形にして固定してみました。ボトルキャップを挿して置いてある状態がひとつの画となる、というか。違うものがくっついているのではなく、ひとつのものになる形を求めています。

発見、発明をいつも求めている

「何かのバリエーション」ではないものを作りたいんです。たとえばこういうコップがあったらコップの色違いを作りましたとか、ちょっと大きいコップを作りましたとか、丸みを帯びたものを作りましたとかじゃなくて。そのコップがどうなったら新しいコップと言えるだろうか、ということを考えて作っています。発見とか、大げさに言うと発明みたいなものがあるといいですよね。

FabCafeは今後も新たな波を余すことなく紹介します。そして、ユニークな波が出会いぶつかる場として、さらに大きなうねりを生み出していきます。次回の「WAVE MONTHLY SHOWCASE」もどうぞお楽しみに。

Author

  • 吉澤 瑠美

    1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。

    1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。

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