Interview

WAVEクリエイターインタビュー Vol.5 「FabMath ―数学からつくるデジタルファブリケーション」巴山竜来さん

デジタル工作機械が身近になった昨今、ジャンルの垣根を飛び越えハイブリッドなものづくりを行う人が増えています。新しいムーブメントはユニークな活動や思いをもつクリエイターを続々と生み出し、そのうねりはまるで波のようにあらゆるものを吸収しながら大きさを増すばかりです。

FabCafe Tokyoでは「今、注目したいクリエイター」をキュレーションするプロジェクト「WAVE MONTHLY SHOWCASE」で毎月一組のクリエイターを迎え、展示やワークショップなどを通じて新たな表現や技術・アイデアを発表しています。

第五回となる今回迎えた巴山竜来さんはなんと数学者。「FabMath ―数学からつくるデジタルファブリケーション」と題し、数学的な技法やプログラミングを基にした絵画やテキスタイル、オブジェの展示を行いました。なぜ数学者がアートに取り組むのか? プログラミングと手工芸に接点はあるのか? 学生時代、数学が苦手だったあなたにこそ読んでほしいインタビューです!

インタビュー・文=吉澤瑠美
編集=鈴木真理子

「植物を育てるようにものをつくる」アートと数学をつなぐ手法

小さい頃から数学者になろうと思っていたわけではありません。元々、将来の夢は絵描きになることでした。高校の途中までは美大に行きたいと思っていたのですが、両親に反対されてしまったんです。美術以外で一番アートに近いのは何かと考えたとき、ふと数学なんじゃないかと思いついて、それで理系のコースに乗り換えました。

数学の研究を続ける間も、ものをつくることにはずっと興味があって、研究と並行して創作活動はしていました。その中で、数学とアートという一見バラバラに見える二つのものをつなげる手段として、プログラミングを使い始めたのは5年ぐらい前の話ですね。そんなに昔の話ではありません。

プログラミングを使った表現の中でも、特に「ジェネラティブアート」と呼ばれるものに興味を持っています。ジェネラティブアートとは、簡単に言うならば「植物を育てるようにものをつくる」表現のこと。ここで「ジェネラティブ(generative)」とは生成的という意味です。植物は天気や環境に大きく左右されて、自分が思ったようには育ちません。そういった予想不可能な要素をプログラミングでうまく仕組んで造形し、ジェネラティブアートはつくられます。プログラミングには、サイコロのようにどんな目が出るか分からない、ランダムな値を返す関数が備わっています。例えばそれをプログラムの中に仕込むことによって、そこに予想不可能な要素を加えることができます。

ジェネラティブアート自体はコンピュータでつくることを前提にしているわけではありません。そこに人間が予測できない要素が付け加わったものを総称する呼び方で、たとえばコンピュータを使わずにサイコロを振って絵を描いてもそれはジェネラティブアートと言えます。ただ、人間がサイコロを転がして絵を描くとものすごく時間がかかりますが、コンピュータなら1000回サイコロを振るのも一瞬なので、コンピュータを使うことによって試行錯誤の幅も大幅に広げることができます。

デジタルを出力することで表れる、画面にない「予測不可能」な味わい

今回展示した絵画作品ではカッティングシート(マーキングフィルム)を重ね貼りし、表面上の材質感を出しています。デジタルファブリケーションによって、単なる印刷ではない手触りを出すことができます。このような新しい素材と工作機械を使った表現には大きな可能性があると考えています。

この絵画の元のデータはプログラミングから生成したコンピュータグラフィックス(CG)ですが、私が興味を持っているのは、CGからうまく「もの」につなげるということです。今回の展示でも、単にプリント出力したものではなく、絵画やクラフト、インテリアプロダクトなど、デジタルファブリケーションによるさまざまな応用を試みました。

コンピュータの中で絵をつくると、その中で完結してしまいがちですが、デジタルファブリケーションによって、そこに「もの」の持つ力が加わります。今回、コースターサイズのものをいろいろ出力しましたが、木やアクリル板に出力することによって、CGとはまったく味わいが生まれました。機械加工や手作業の要素が加わることによってノイズが生まれ、それがまた表現を面白くする要素にもなります。

今回の制作にあたっては、デジタル加工機器の使用でFabCafeに協力していただきました。使ったのはUVプリンタとレーザーカッター、カッティングプロッターです。細かいエッジがきれいに出るレーザーとプロッターはプログラミングで生成した細密なデータと非常に相性が良いと思います。

窓際に展示したインスタレーションにはペンローズタイリングと呼ばれる数学的な技法を使っています。これは2種類のパーツの組み合わせだけでできていて、うまく組み合わせれば平面全体を埋め尽くすことができます。こうしてたくさんのパーツを切り出して組み立てたのは初めてですが、実際に広い空間で見てみると、迫力のある面白いものができました。また、見た目の面白さだけではなく、数学的な構造からつくることによって、施工がうまくできる利点があります。

10年前、20年前だとデジタルファブリケーションで何かつくるといっても、機械が非常に高価で、一般の人にはなかなか手を出せませんでした。ここ10年ぐらいの間にFabCafeのような施設が増えて、個人的なアイデアを形にすることがかなり簡単になりましたね。

展示しているコースターも、彫刻刀で彫ろうとするとかなり高度な職人芸が要求されますが、レーザーを使えば5分ぐらいでできてしまいます。もちろん機械でできることには限りがありますが、ある程度精度の高いものもつくれるようになってきました。そこにうまく職人の手作業が入ってくることによってまた新しいものができるんじゃないかと思っています。そういった点でクラフトとデジタル、数学のつながりは非常に興味があります。

 

「ものづくりと数学の間を繋ぎたい」書籍と連動したワークショップはすぐに満席に

4月に、『数学から創るジェネラティブアート―Processingで学ぶかたちのデザイン』という本を出版しました。この本で意識したのは、プログラミングを使って数学をものづくりに接続することです。工芸の分野はいまだ手作りへのこだわりが強く、機械やプログラミングを使うことに抵抗がある人も少なくありません。でも、デジタルの技法とアナログの技法をうまく融合することによって、新しい工芸の形ができると思っています。この本では、織りや寄木細工といった工芸と数学のつながりについても書いています。

この本と展示に関連して、Processingを使ってジェネラティブアートを体験するワークショップもFabCafeで開催しました。初級編と中級編にクラスを分け、それぞれ「ユークリッド互除法」などの高校までに習う数学を題材に、Processingのサンプルデータを使ってカラフルなジェネラティブアートを作るワークショップです。ありがたいことに好評で、あっという間に満席になったので急遽増席していただきました。

「数学」というだけで苦手意識を持っている人もたくさんいると思いますが、実際にプログラムを書いてみることで、数学を使うとこんな絵も描けるのか、と感じてもらえたのではないかと思います。数学のことを分かりやすく書いた本はたくさんありますが、「つくる」ことに焦点を当てた本、数学から実際に何かをつくる過程をまとめた本は、これまでにはあまりありません。この本や今回の企画を通じて、数学を勉強するというより、何かをつくるという視点で数学に興味を持ってもらえたらな、と思っています。

数学がなぜとっつきにくいかというと、数学というとどうしても中学や高校で習った数式や図形のような「味気ない」ものを想像してしまい、なかなかそこに面白みを感じることができないからです。実はその味気ないように見える数学も、使い方によっては絵を描くための素材になり、かたちの規則性を生むための骨格となります。今回の本では「つくる」ことを通して、数学をおいしく味わってもらえることを目指しました。

デジタルの力で工芸はさらに広がる

最近は建築関連のプロジェクトでデザイン協力もしています。建築や工芸など、ものづくりと数学との接点に関心があり、そういった異分野との共作にも興味を持っています。

工芸には、デジタルテクノロジーの入る余地がたくさんあります。特に手工芸で使われている模様などでは、作り手は意識せずともそこで使われる反復するパターンや対称性には、実は数学的な仕組みが隠れています。そこにITと数学が入ることによって、工芸はさらに広がりを持つでしょう。

「ジェネラティブアート」というとダークな色使いで、繊細な線を使っているものが多いのですが、今回の本では色使いや素材感などで今までと違ったイメージを提示することを試みました。CGやジェネラティブアートと呼ばれているものは、制作の手続きや技術によってそう括られているだけであって、その表現はもっと多様であってもいいと考えています。固定概念にとらわれて敬遠していた人にも興味をもってもらえたらなと思います。

FabCafeは今後も新たな波を余すことなく紹介します。そして、ユニークな波が出会いぶつかる場として、さらに大きなうねりを生み出していきます。次回の「WAVE MONTHLY SHOWCASE」もどうぞお楽しみに。

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