Event Report

イベントレポート:Fab Meetup Tokyo Vol.39 —野生の創造性— 前編

お酒を飲みながらつくることについて語らう「Fab Meetup Tokyo」が2ヶ月の充電期間を経て帰ってきました。第39回目となる今回からは、参加者一人一人がよりトークに参加しやすく、より深い学びを持ち帰れる場であることを目指し、「ナビゲーター(道先案内人)」が「今、会いたい“ゲスト”」を招き、「参加者全員」で語らうスタイルにバージョンアップ。

そんな今回はナビゲーターのOTON GLASS代表の島影圭佑さんが、ゲストに慶應義塾大学環境情報学部教授 /SFCソーシャルファブリケーションラボ代表の田中浩也先生をお呼びして、「ファブとは何なのか」について語り合いました。「Fab Meetup Tokyo Vol.39 —野生の創造性—」の模様をお届けします。

バイオからまなぶ「未分化→機能分化」

ナビゲーターのOTON GLASS代表の島影圭佑さんの自己紹介の後、島影さんがお招きしたゲスト、田中先生のプレゼンから、Fab Meetupはスタート! 「ファブ施設とメイカースペースのこれまでとこれから——セカンドステージに向けて」についてお話いただきました。こちらにスライドがありますので、発表と合わせて読んでみてください。

田中:僕が日本で初めて「FabLabつくろうぜ!」と代々木上原のカフェで言ったのが2009年。その後、2011年に最初のFabLabが鎌倉と筑波にできてから、もう6年が経ちました。赤ちゃんが小学生になる年月と考えると、時の流れとしてはかなり長い。これだけ長いと、社会も動いて盛り上がったときもありましたし、社会との摩擦の中で逆風になることもあります。去年くらいから「Fab施設って、これからどうなるんですか?」という質問がたくさん来るようになりました。それに対する答えはまだ固まりきっていないのですが、これからのFabLabについて考えていく上で、ひとつバイオをヒントにしていきたいと思っています。

FabCafe Tokyoの2Fにもバイオテクノロジーの実験施設「バイオクラブ」があると思いますが、僕らの慶應の研究室にもバイオ系の機材がだいぶそろってきています。例えば4D-CTスキャンを使って植物を育てるといった、これまでとは違うモノづくりの可能性を探っていこうと。この研究が何に役立つかは特に決まっていません。とにかく「生物からいろいろ学べることがあるのではないか」、「それを社会の閉塞感を打開する突破口にできないか」という仮説のもと、ヒントを探して実験を繰り返しています。

特に私は生物の「発生」に興味があります。人間はたったひとつの細胞(受精卵)から始まって、大人になるとだいたい37兆個になっている。ひとつひとつの細胞に身体ぜんぶの設計図であるDNAが入っているのですが、細胞は自分がどこの何になるのか、例えば目とか骨とか決まっていないまま分裂するんです。ある時になると体幹ができてきて、「あれ?俺ってここにいるなら、指になるんじゃない?」といった調子で各機能の役割を持った器官になっていく。身体というのは、各器官による非常に高度なコラボレーションによって、複雑なシステムで成り立っているということなんです。

こうして未分化だったものから機能分化していくというのは、社会にも当てはまることなのではないかと。生まれた時点では未分化だけど、大人になるにつれて「私は警察官になろう」「俺はパン屋さんになるぞ」と、それぞれの役割を担いながら、社会という人体を作り上げているんですね。

そんな社会の中で、FabLabは未分化のまま何にでもなれる“万能細胞”でありたいと思っていました。成熟した世の中の機能に当てはまるのではなく、何が起こるかわからない、未分化な不思議な存在をつくってみたかった。実際、世界中で1,000を超えるFabLabやファブ施設では、インターネットと結びつきながら、山ほど不思議なモノがつくられています。

マーシャル・マクルーハンというメディア論者が「人間がつくり出すものは、人間の身体のどこかの機能を取り出したものだ」と言っていて、馬車は足の拡張だし、フォークやスプーンは指の拡張だと。そういう意味で、インターネットは神経系の拡張であると言われています。身体中の細胞をつなぐ代わりに、世界中のPCをつないで情報伝達をするからですね。では、FabLabは身体の何に相当するかというと、免疫系ではないかと思っています。怪我で身体が傷ついたり、病気で調子が悪くなったら、修復するパッチを運んでくれる免疫系のように、困ったことが起きたら、オープンソースとしてデータを共有しながら、その場で必要なモノを何でもつくってしまうのがFabLabというわけです。

未分化ではいられないFabLabのジレンマ

田中:FabLabは最初よくわからないものとして社会に生まれ、未分化なままでずっといたかったのですが、時の流れには抗えない面もあります。人間や社会は周りとの関係で役割を与えて、どこかに収めようとしはじめます。そうしなければ周りから理解されないし、役割が固定されないと、ビジネスもはじまらない、というのが通常の社会システムなのでしょう。何とか既存の社会システムのどこかに収めようとした結果、既存の施設とFabを合体させて、ちょうど未分化でよくわからないFabLabと既に存在している施設の間くらいをつくることで、社会的存在になるためにいろんなトライが続けられてきました。

そんなFabLabのビジネスを4つに分類した「ファブラボ・ビジネス4類型説」を唱えたのが、SFCの僕の愛すべき同僚である渡辺智暁先生です。彼はFabLabのビジネス形態から、機器使用料で儲ける「アクセス(機材提供)」、講習会費用で儲ける「トレーニング(教育提供)」、受注/制作/納品で儲ける「サービスビューロー(受託開発)」、資金/研究/開発/知財で儲ける「イノベーションハブラボ(新技術/新製品/新表現開発)」に分類しました。さらに、それぞれに所属する人のスキルや関係性から、「サービス・プロバイダ・モデル」と「エンゲージメント・モデル」の2つの形態に落ち着くのではないかと考えたのは僕です。

そしてもう一人の僕の愛すべき同僚である水野大二郎先生からは、「FabLabの核はエンゲージメントにあり、いろんな人と人がつながりあって新しいコミュニティを作ることこそが、最大の社会的意味である」ということを教えられ、それを受けて、いま田中研では浅野義弘くん(M2)が、アクターネットワーク理論を用いたエンゲージメント過程の視覚化にチャレンジされています。これが今、とても大事だと思っているのです。たとえば、自治体がFabLabをつくると、ほんとうに意味があったのかと何年かあとに評価することになるのですが、そのとき「製品がいくつできて」、「いくつ売れたのか」といった評価指標で見られると、分が悪いと思うんです。「どういうコミュニティが生まれて」、「コミュニティとモノづくりがどう高め合っているか」といった点を評価して欲しいわけです。そうした“コト的な価値”を可視化しようと、がんばって研究を進めているところです。

正直、当初FabLabに期待されていたほど、モノづくりスタートアップが爆発的に増えているわけではありません。ハードウェアスタートアップは、それなりにハードですから。生易しいものじゃない。しかし、FabLabをやっている間に(クリス・アンダーソンの)「MAKERS」が出て、モノづくりスタートアップも確実に広がってきてはいます。こちらはIAMASの小林茂先生のスライドですが、従来の「ものづくり(家電)」ではハードウェアとエレクトロニクスだけで済んでいたものが、「Internet of Things」:新しいものづくりになると、それらに加え、ソフトウェア・ネットワーク・サービスも必要になるため、いろんな能力の人がチームにならないと、これまでの縦割り組織では完結できない。これはファブにとって好都合です。新しい人のつながりで異能技術集団を構成しないといけないわけだから。

僕が今やっている通称FabTechsという研究チームも、ディレクターの僕のほかには、ソフトウェア開発者・ハードウェア開発者・マテリアル研究者・デザイナー・アーティスト・法律家・社会学者・経営学者までいて、こうしたまったく異なる職能を持った人たちが、一丸となってプロジェクトに取りかかる時代になっているんですね。愛すべき同僚の脇田玲先生は、こうしたラボやリサーチをイノベーションの駆動力とする社会を「ラボドリブン社会」と名付けて、webちくまで連載をされています。その連載を読んでいて、僕もまた刺激を受けるのですが、これから本当に大切なことは、すでに広く導入された「ファブ」の機材よりも、それを真に活かすための、「ラボ」の精神と実践なのではないか、と思うのです。FabLabの「Fab」よりも「Lab」のほうがより大切になる時代。これが、私の考えるセカンドステージです。さらに今年の慶應ORFのテーマは「LAB IS THE MESSAGE」なんですよ。

メイカーとユーザーがともにつくる「Social Fabrication」

田中:さて、いわゆるIoTのようなハードからソフトまでいろんな分野の専門家がコラボレーションしないとモノづくりができない分野が出てくる中で、そうした人たちの出会いの場としてもFabLabは機能してきたわけですが、それでもまだチームの中に巻き込めていない存在が社会にはいるんですね。…ユーザーです。使う人というのは、メイカソンやハッカソンには出てきてくれない。だけどメイカーやファバーだけで結束するのではなく、ユーザーも巻き込んでチームアップしている人たちも中にはいます。島影さんもそうですね。

これまでのメイカーズムーブメントやFabは、どちらかというと「つくりたいからつくって、売る」という風潮にありましたが、ユーザーと一緒につくることは非常に重要です。例えば、いまラボで一緒にお仕事をしている、ファブラボ関内の増田さんが率いる3Dプリンタ義足のプロジェクトで何がつくられたかというと、“ヒールを履くための義足”でした。義足患者の人に「どんな義足が欲しいか」と聞いても、すぐに「ヒールを履きたい」とは言ってくれません。患者さん本人が、最初はヒールを履くための義足を作れるだなんて、思ってもみないことだからです。ただテクノロジーでできることを説明するだけではダメで、「ヒールを履きたい」という気持ちを出していいんだと思ってもらえるくらい、信用してもらうまでにも、長い時間がかかったと聞きます。つまり、この“ヒールを履くための義足”ができるには、ユーザーとメイカーの両方の立場が重要なんですね。

僕が次に書こうとしている『Social Fabrication』の本で言いたいのは、「使う本人がつくる“Personal Fabrication”ではなく、つくる時点で複数の人間が関わって、使う人とともにつくり、育てる、という意味での“Social Fabrication”が、とても大事だ」ということです。そして結局、モノをつくって売るだけのビジネスは、もう古いとはっきり明言したい。物質とお金を交換するのは、20世紀のビジネスです。FabLabによって、大企業しかできなかったことが個人でもできるようになってよかったね、だから個人でもモノをつくって売れるよね、というだけじゃつまらない。極論、インターネットの時代なのだから、モノは無料で使ってもらって、ユーザーからセンサーデータを集めて、そこから何か今までにはなかった物事の理解を深めたり、新しい知見を得たりする、つくるだけでなく、つかってみて、わかる、というところまで一連のプロジェクトから意味ある知識を育てられるようなトータル・デザイン・エンジニアリング・ファームみたいなのが日本中にどんどんできるのが僕の夢です。

というわけで、“つくる”と“使う”をもっと混ぜていきたいと考えている僕のこれからのイチオシは、「現場」隣接FabLab。今年の10月に病院に「Medical FabLab」ができる予定なのですが、病院で看護師さんが、現場で必要なモノを自分でつくれるようにしていきたいと考えています。そもそも、世界で最初のファブラボは、「ものが必要とされる」現場につくられている。「つかうためにつくる」ことが本質だった。もともとそういう考え方だったのに、いつのまにか、ものを使う場所と離れた場所にファブラボがつくられていってしまいました。都内の大型施設などは、「つくる」ことと「つかう」ことが離れてしまっています。それは必ず行き詰まります。「Back to Original Fab Spirit」ということで、つくったモノを使う場所が隣にあるというのは、すばらしい。一方で、「現場」隣接FabLabをやりだすと、やることがどんどん増えてくるので、注意力散漫になるという問題もあるため、「イキイキと活動するためには、どのような環境をつくればいいのか」、もうしばらく考えてみたいと思っています。

最後になりますが、鹿児島にダイナミックラボというラボができました。今日のもともとのテーマであった「野生の創造性」という意味では、ぜひ、鹿児島のダイナミックラボに行くことをお勧めします。あらゆる意味で、根源的なFabの力に溢れていました。僕が2008年にはじめて遭遇して感動した、インドのFabLabと同質の空気です。ここの主宰者のテンダーさんとも、最終的には、「モノの売り買い」ではなく、「スキルの売買」という経済にシフトしていくためにはどうするのか、という話を始めているのです。この場を借りて強く言いたいことは、「ファブは"モノづくり"ではない」ということです。今年の第13回世界ファブラボ会議のテーマは「Fabricating Society」。社会をつくる、ということを私は2020年までの残り4年のファブのテーマにしていきたいと思います。

最後の最後になりますが、文部科学省COI (Center Of Innovation)の一環として進めている「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会」(2013-2021、中核拠点:慶應大学)の研究成果には期待していてください。「拡張ファブパッケージ」というものをつくっています。今日お話ししたような、現状のファブラボの困難を突破するための新技術や制度をすべて盛り込みたいと思っており、近々、また別の機会にはなりますが、研究成果の 中間報告をしたいと思っています。

 

〜このあと、ナビゲーターの島影さんと参加者のみなさんを交えたディスカッションに移りました。後編に続く。〜

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