Column

不条理で無意味なものから、批評性と笑いを生み出す 「Fish Hammer」

2018年度YouFab Global Creative Awardsにおいて大賞に選ばれた「Fish Hammer」は、無邪気な(少なくとも、一見何の罪も無さそうな!)金魚にミニチュアサイズの家具を破壊させるという作品です。作品は、長年にわたって人類が魚の生息環境を壊してきたのと同じように、魚が人類の生息環境を壊す側に回った状況を描いています。同時に、作品には風刺画のようなユーモアがあり軽快さを感じるのも特徴です。作者ニール・メンドーザ氏が「Fish Hammer」で表現した、遊び心と不条理が合わさったユーモア、そして環境問題に対するシリアスな眼差しの組み合わせは、今年のYouFabの審査員たちの心を鷲掴みにしました。本対談は、YouFab アワードチェアマンの福田敏也氏と、ニール・メンドーザ氏との対談です。メンドーザ氏が、自身の哲学、アワードに出展した他の作品、そしてそもそもなぜ金魚を題材に取り上げたのかなどを語りました。

ライター / Matt Schley 、撮影 / Aya Suzuki 、編集 / 鈴木真理子

もし、あの穏やかな金魚がハンマーを持ったら

 

福田 : まずはご自身の言葉で「Fish Hammer」を説明してもらえますか?

メンドーザ : 私は、自然が好きですが、人間も自然の一部ですよね。でも、私たちは人間は自然から切り離された存在と考えがちです。私はいつか動物と一緒に作品をつくりたいと思っていましたが、それが動物を搾取しているのか、それとも本当の意味で動物と共に取り組むという意味なのか、その線引きは難しいものです。

でも、芸術作品の一部としてであれ、水族館の中であれ、金魚をこれまでと同じような環境に置きながら、金魚と一緒に何かが作れるかもしれないと思いました。私たち人間は、たっぷりと時間をかけて魚の生息環境を破壊しているのだから、反対に、金魚がミニチュアサイズの人間の生息環境を破壊するものを作りたいと思いました。それがこの作品の前提になった思いです。

福田 : 最初のインスピレーションはどこから?

メンドーザ : 魚が機械をコントロールする、というアイデアを友人と話していたときだったと思います。最終的に、魚がハンマーをコントロールするというアイデアに行き着きました。このアイデアがいったいどう発展するかは分かりませんでしたが、魚とハンマーという2つのアイテムは、非常に象徴的だと感じました。この作品が意味するところは置いておいても、個人的に魚とハンマーという2つのコンセプトには、心がウキウキしますね。

福田 : 魚はとても象徴的なシンボルだとおっしゃいましたが、金魚は特にそうなんじゃないかと思います。その動き、飾り気のなさ、穏やかな様子。金魚を使ったのは絶妙な選択だと思います。

メンドーザ : 金魚のようなおとなしい魚が物を破壊するということに、ある種のユーモアを感じました。それと同時に、金魚は私たちにとって「初期設定」のような魚です。私たちが、魚の絵を描くと、金魚を描いてしまいますよね。また、金魚はペットとして飼うものと考えられています。だから、金魚と人間の立場を逆転させて、金魚に物を破壊させるというコンセプトに魅了されました。

福田 : またハンマーというのも象徴的なシンボルですね。

メンドーザ : ハンマーは、審美的に人目を引くものです。蛇口や魚、バナナといったものも同じですね。これらは地球上のほぼ全ての文化に存在するものです。ジャングルの奥地で現代社会から断絶された暮らしをしている人を除き、こういった物は誰でも知っています。人々の思考の中で決まった役割を担っているこれらの物を、お馴染みのコンテクストから取り出して、思いもしなかった方法で用いるのが、面白いなと思いました。

福田 : 他の魚を使うことは考えましたか?

 

メンドーザ : 闘志を持つ魚という理由で、初めはベタという闘魚を考えました。でも、金魚が私たちの思考の中で担う役割のほうが、気に入りました。『LOONEY TUNES』のようなアニメに登場するのは金魚でしょうから。コメディー担当の魚という感じでしょうか(笑)。

福田 : まさに。虫の一匹さえも傷つけないような、おとなしい生き物。私たちが金魚に対して抱くイメージですよね。かたや「Fish Hammer」ではその金魚が物を破壊していく。その対比が作品を素晴らしいものにしてくれました。

メンドーザ : はい、それが作品の魅力だと思います。このとても美しい生き物がハンマーという力を手に入れる… … 。通常の金魚の存在コンテクストを無視したものです。

福田 : 「Fish Hammer」は、馬鹿げていて不条理なのに、強いメッセージ性が感じられます。それはあなたにとって大切なことですか?

メンドーザ : そうですね、自分の作品の多くがそういうものだと思います。テクノロジーや物をコンテクストから取り出して、一見不条理で無意味なものを作り出す。でも同時に、その不条理さを通じて人々と繋がる。そうやって何か奇妙なものを作り出すことで、人々はより深いレベルで通じ合えると思うのです。そのような作品を見た人たちは「なぜ」それが自分の目には奇妙に映るのかを知りたがりますから。

人々がテクノロジーについて、もう一度考えるきっかけにもなって欲しいと願っています。テクノロジーは何にだってなれるわけで。それは全く馬鹿げたものでも良いわけです。人々にイマジネーションを与えたいんです、テクノロジーは何になれるのか、何ができるのかという問いに対して。携帯電話だけがテクノロジーの役立ち場所じゃないはずです。

福田 : あなたは作品紹介で「人間は海を破壊することを好む。このFish Hammerは人間の所有物を破壊する力を魚に与える」と書いていました。環境問題に関するメッセージは作品にどの程度込めたかったのですか?

 

メンドーザ : 魚にハンマーを持たせて、人間の生環境の何らかを破壊させるというアイデアは早めに固まりました。ただし、最も効果的にメッセージを伝えつつ、見た目にもインパクトがある破壊対象は何か?ミニチュアの家具しかないという結論に至るまでは時間を要しました。リビングルームには人々のお気に入りの消費財が揃っていますが、これらは、製造の過程で何らかの悪影響を自然界に与えているわけです。その意味で、このアイコニックでかわいらしいリビングルーム家具を選んだということは、考えれば考えるほどいいチョイスだったって思ってます。

福田 : 僕たち、ただ暮らしているだけで自然界に悪さしていることもあるわけですよね。無意識のうちに。例えば、台所のシンクに使い終わった油を流してしまうことは川や海を汚してしまうかもしれないことなんだけど、台所と海の間には何百キロって距離があるから、自分がしている「破壊」を自覚することは難しい。でも汚されてる側の立場にたつと、立派な破壊者だし最悪な存在なわけです。この作品は、自分たちが無意識の破壊者だって気づかされたときの胸がキューっとなる嫌な感じを思い出させる力があるんです。理屈じゃなく。感覚に訴えるその設計が素晴らしいと思うんです。

メンドーザ : よかったです。たくさんのゴミが海に流れ込んでいることに疑いの余地はありません。2、30年前までは「でも海は大きいし、人間が何をしても大丈夫でしょ。平気だよ」という考えがあったように思います。でも今では「ちょっと待って、大丈夫じゃないでしょ!」となりました。

福田 : 例えば商業的な建築物ではなく、家庭にあるような家具を選んだのはなぜですか?

メンドーザ : 一人一人に、身近に感じて欲しかったのです。私たちはみんな自然から切り離された、小さな繭の中のような家に暮らしています。そういった日常環境と地球環境をリンクさせようと思いました。もし破壊の対象が何か商業的なものであると、自分には関係のないって距離を置けますから。「これは自分のリビングルームかもしれない」と思えることは重要なんです。

福田 : でも、この作品の伝わりは、人の頭をゴーンと殴るような暴力的なものではなく、緩やかで柔かいものですね。

メンドーザ : アートを通じて人々とコミュニケーションをする場合、説教じみていてはいけません。「私が主張したいメッセージを感じろ!」という一方的なアプローチでは、それは一次元的な作品になってしまいます。押しつけがましいものではなく、見た側がそれぞれのレベルでそれぞれの価値を見出せるような作品であるべきだと思います。何を意味するのかの判断はその人自身に委ねたいのです。

 

石、ハムスター、包丁、ブロックチェーン

福田 : このアワードには、他にも4つの作品を出品されましたね。それらの作品についてもご自身の言葉で表現してもらえますか?まずは「Rock band」からどうぞ。

メンドーザ : 「Rock band」はロック(石)で音楽を作る電気機械の楽器です。文字通りロックバンドですね。ビートルズの「Here Comes the Sun」を演奏します。ロックの自伝的な物語です。(石が)太陽が昇るのを地面の上で毎日待つという物語です。「Fish Hammer」と同じような材料で作りました。楽しかったですね。

福田 : Hamster Powered Hamster Drawing Machine (ハムスターがハムスターを描くマシン)」はどうですか?

メンドーザ : ハムスターの絵を描くマシンがあり、本物のハムスターが、回し車の中を走ることで、そのマシンが動き出す仕組みです。友達がペットとして飼っているハムスターのケージの中に一晩ウェブカメラを入れて、20時間かけて撮影したものを20分間に編集しました。

この作品は、絵を描くことをいかにコード化できるのかという問いからスタートしました。まずソフトウェアを作り、絵を描かせました。そして、その工程で見えてきた必要な部品をCNCマシンで切り出して作品をつくりました。現在はピッツバーグのルーブ・ゴールドバーグ展で展示されています。

福田 : なぜハムスターだったのですか?

メンドーザ : ええと、かわいいしフワフワしているでしょ(笑)。最初はハムスターの絵を描くだけの機械でした。でもハムスターが動かしている方が良いとなりました。定番の小さなフワフワしたペットの魔力だったのかもしれません。ハムスターは極度にペット化された動物です。様々な動物を家畜化あるいはペット化することで自然を変えてしまうという、人間社会の症状ですよね。

福田 : セルフィー世代に関する論評のようにも感じられますね。

メンドーザ : セルフィー世代もそうですが、他のことを想起させると解釈するものもあります。このハムスターは自身の姿を描く為に懸命に走ります。意味のない頑張りとも言えます。この作品にはそういう観点もこめました。

福田 : THE ELECTRIC KNIFE ORCHESTRA (包丁の電子オーケストラ)」はいかがですか?

メンドーザ : 16本の包丁と1本の肉切り大包丁がビージーズの「Stayin’ Alive」を演奏する音楽的な作品です。ミュージックマシンを作って遊んでいた時に大量の包丁を見つけて、包丁を使って色々と試してみたのです。それが始まりです。音楽といかにも危ない物の間にある、緊張感を表現したものです。

この作品を見る人たちは、作品が動いていない時には「大きな脅威」としてこの機械を認識するのですが、音楽を奏でている時には近寄って触れようとするのです。おもしろいですよね。高速で動く鋭い物ですから賢明な考えとは言えませんが。

福田 : 「Stayin’ Alive」を使ったのはこの曲がパワーある曲だからですか?

メンドーザ : そうです。最適な曲を見つけるのに時間がかかりました。「Stayin’ Alive」が最もしっくりと感じられました。

福田 : 最後に「ART 3.0 (アート3.0) 」についてお願いします。

メンドーザ : これは(仮想通貨の)イーサリアムを使っているので、少し説明が難しいです。まずはブロックチェーンとスマートコントラクトが何かを知っている必要があります。

アートの世界に対する批評のようなものとしてつくっています。美しさに惚れてアートを買う人もいれば、投資として買う人もいる。またはステータスの象徴として買う人もいる。いろんな理由から変われる事で決まっていく価値をまばゆいLEDの数字で表すのがこの作品です。この作品は誰でもいつでも、表示されている金額をスマートコントラクトに送金するだけで購入できます。すると作品価値が50%アップします。その40%が作品の前所有者に、残りの10%の半分ずつがアーティストと展示してくれているギャラリーに還元されるという仕組みになっています。

つまり、独自のビジネスモデルを実装した芸術作品なのです。ギャラリーは必要ありません。作品を作品自身から購入し、作品は次回購入された時点での価値を自ら弾き出します。

アンディ・ウォーホルのような作家が1000ドルで絵画を売り、それが20年後に100万ドルになったとしても、アーティストには1銭も入りません。でもこの作品は、自らを値付けるビジネスモデルが作品の一部になっているのです。常にアーティストにも利益が還元されるようになっています。コードを書いていったんスマートコントラクトをオンにしてしまうと、それを変えることはできません。

福田 : すごい。経済が埋め込まれたアート作品ということですね。アルゴリズムを用いて現代の経済市場で起こっていることに物申すという作品。容易に理解できるものではありませんが、メンドーザさんの解説を伺って、この作品がアートとしての新たな形式を提示していることが理解できました。

テックからテック+アートへ

福田 : メンドーザさんはアートだけではなく理系分野にも精通しています。でも活躍の場として、アートの世界を選んだのはどのような理由からですか?

メンドーザ : 最初の仕事は、コンピューターサイエンス分野でした。コンピューターゲームの会社。それから次に銀行を経営するグループやデザインの会社でウェブ開発をしてました。でも、もっともっとクリエイティブな仕事をしたいとずっと考えていました。その当時の仕事はクリエイティブ・コーディングなどがメインで、面白いものには触れていなかったのです。

ある時、フリーランスとして関わっていたデザイン代理店でプロセッシングを使った仕事をしている人と出会いました。その時、ひょっとすると自分は、テクノロジーやコンピューターを使ってもっとクリエイティブな仕事が出来るのではと思ったのです。そして、アートを学ぶ為に2014年ごろ大学院に戻りました。2016年に卒業した後は、Autodesk社での研修生プログラムに応募しました。もともと形のあるものを作るのが好きなわたしですが、Autodeskという会社は、つくりたいものを何でもつくれる会社だったんです。

現代のアーティストには、様々な素晴らしいツールが用意されています。でも一般的には企業では、テクノロジーは物を売ったり、ソーシャルネットワークへの依存度を高めるための道具として使われます。でも実は、会社の制約に縛られることなく、今どきなるツールを活用してアートを作り出せるのは本当にパワフルなことなんです。アーティストは、「未来におけるテクノロジーの在り方を見せる」という重大な役割を今の時代で担っているのです。

福田 : いま取り組んでいる新しいアイデアやプロジェクトはありますか。

メンドーザ : 考えているプロジェクトはいくつかあります。リアルな物とバーチャルな物を組み合わせた作品に取り組んでいます。スクリーンや映像と相互に作用する機械や、CGとメカニズムを融合させて1つの世界と思わせるような作品とかですね。

またある美術館のためには、来場者が、有名な絵画と触れ合うことのできる作品を作りました。この作品は非常に評判が良かったようなので、この分野をもっと調べたいと思っているところです。同じような原理の、建造物の縮小版を作ったりね。

あと、最近バナナの彫刻を使って実験をしています。買ってきたバナナを保管しておける動く彫刻のようなものができるかもしれません。じっくりリサーチと実験の末に作品をつくるのが私のやり方です。あれこれ試してみたいタイプなので、プロジェクトがある程度進展するまでは全貌は見えてきません。次のプロジェクトがわかったらお知らせしますね!

 

 

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