Interview

アイデアとツールを柔軟に繋げるクリエイター・相樂園香にきく、Creative Cloudを使ったFabの楽しみ方

すべては「作りたい」という気持ちから。

現在開催中の、FabCafeが主催するデジタルファブリケーション(デジタル工作機械を使ったものづくり)のアワード「YouFab Global Awards」。国やフィールドを超えた応募が多数集まり年々広がりを見せていますが、デジタルファブリケーションと聞いて「難しそう」「特殊なソフトが必要なのでは」と身構えてしまう人も少なくないのでは?

そこで、デザインに関わる人なら誰もが使っているアドビのクリエイティブツールを使いこなし、これまでに多くのデジタルファブリケーションを手がけてきた相樂園香さんに、「アイデア」と「ツール」をどう結びつけてものづくりをしているのか、お話を伺ってみました。

(インタビュアー・文=吉澤瑠美/編集=木島千加子)

――相樂さんは、以前はFabCafe TokyoのFABディレクターとして、今はフリーランスとして、デジタルファブリケーションによるものづくりやプロジェクトをサポートされているとお聞きしました。最近はどんなものをつくられているんですか?

テレビCMのグラフィックやコンテンツの制作や、Fab施設の立ち上げに関わったり、色々やってます。この夏は子供向けのものづくりワークショップにも携わって、コンテンツ企画から当日の運営まで手掛けました。

――ものをつくるだけじゃないんですね。MacBook Proをお持ちですが、普段のものづくりもこれで?

MacBook ProとデスクトップのMacがメインです。でもデジタルファブリケーションの機械はWindowsしか使えないものが多いので、今はMacにWindowsを入れて対応してます。

よく使うソフトはPhotoshop、Illustrator……基本デザイン系ならアドビを使っていますね。アドビはCreative Cloudで複数のクリエイティブソフトが使える上、インターフェイスや機能が似ていて使いやすいし、領域が異なる他のソフトと一緒に使えるので表現の幅が広がりやすいんです。大学の時からずっと使っていますね。

デジタル工作機械については、実は最初に触ったのはFabCafeに来てからなので、4年前くらいからなんです。その前はものづくりはほとんどアナログでした。

 ――デジタルファブリケーションの魅力である、「データ」だったデザインを「もの」として出力できる点に惹かれたのでしょうか、後半ではそのあたりも聞かせてください。
まずは、デジタル工作機械のうち「3Dプリンター」「UVプリンター」「刺繍ミシン」とデザインについて、相樂さんが手がけたプロジェクトと一緒に伺いたいと思います。

Case1:二次元データが作れれば、3Dプリンターでクッキー型も作れる

――人気漫画『宇宙兄弟』とのコラボレーションプロジェクトでは、3Dプリンターで出力したクッキー型が作られましたね。以前からクッキー型を3Dプリンターで作る企画は開催されていましたが、きっかけは何だったのでしょう?

3Dプリンターで作れるものといえばフィギュアなどもあるんですが、本当に生活の中で使える身近なものを作りたくて、クッキー型のアイデアが出ました。

――正直、立体ということもあって3Dプリンターは少しハードルが高いんじゃないかと思ってしまいますが…。

データはモバイルアプリのAdobe Illustrator Draw(Adobe Draw)で描いた一筆描きの絵でも作れますし、レーザーカッターのようにIllustratorでも作れますよ。

今回の宇宙兄弟のクッキー型はIllustratorとCADソフトで作ってます。やり方はとても簡単で、Illustratorで平面でデザインをしたら、それをCADソフトに移動し、デザインの線どおりに高さを垂直に立ち上げるだけ。外側の型抜きと中のスタンプみたいな形で、クッキーの上に顔も作れるようにしました。

ちょっと前に3Dプリンターでできた醤油皿が流行ったのを知ってますか?醤油を入れると、その濃淡によって絵が浮き出るっていう。あれはPhotoshopを使えば簡単に作れるんですよ。Photoshopの3D機能を使えば、自動で白黒の濃淡にあわせて3Dデータの深度を変えてくれます。10分くらいでできちゃう。

醤油皿を作ってみたくて、最初3Dモデリングが得意な人に相談したら「難しい」って言われたんです。たぶん3Dの専門家だからこそ、Photoshopで簡単にできるという発想がなかったんでしょうね。そもそもやろうと思わないから、っていうのもあるのかもしれない。

――そこでPhotoshopを使おう、という発想が浮かぶのは強みですよね。相樂さんの柔軟に考えられるという強み。

手法を限定しないで、いろんなやり方を組み合わせて考えられるから、専門家じゃなくてもどうつくれるかを見つけられるのかもしれません。

Case2:iPadで自由に描ける!革のスリッパをUVプリンターで色鮮やかにアレンジ

――次に、UVプリンターと革とのコラボレーションが印象的だった「MiY -旅するレザースリッパ」プロジェクトについて。革に印刷するって斬新ですよね。

UVプリンターの説明をすると、UVを照射してインクを瞬時に硬化させるプリンターで、インクに伸縮性があるので木やアクリル、プラスチックなど色んな素材に印刷できるんですね。
そもそもこの企画はレザースリッパのプロジェクトを手がけているKULUSKAさんとのコラボなんですが、革にも印刷できるUVプリンターを使えば新しいスリッパを作れるんじゃないか?というアイデアからスタートしました。

――公募や受賞作品の展示、それに一般の人も参加できるワークショップも開催されましたね。参加者はどういった方々が多かったですか?

ワークショップは親子連れが多かったですね。UVプリンターなら絵をプリントできるので、お子さんがiPadで描いた絵をUVプリンターでスリッパに印刷する方がたくさんいました。最近では、FabCafeでKULUSKAさんによる長く革製品を使うためのメンテナンスワークショップも開催しています。

――iPadで描いた絵をその場で印刷できるんですね!小さい子でもできるなんて驚きです。

こちらもAdobe Drawで描いてもらっています。Adobe IDアカウント(※)があれば誰でも使えて操作も簡単ですよ。iPad上で描いてボタンを押すと、Illustratorにデータが転送されてベクターデータ化して開かれるからすぐプリントできる点も便利なんです。

――データはIllustratorで作れるんですね。では、私もFabをやってみたい!となったらIllustratorでデータを作って持ってくれば良いのでしょうか?

初めてFabに挑戦する方には、FabCafeではiPadを貸し出してその場で描いてもらうことが多いですよ。Illustratorは使えるけれどFabをやったことがないという方に向けては、「Fab教室」がFabCafeで開催されています。

――レザースリッパのように、デジタルファブリケーションで何かをつくるときに考慮すべきことはありますか?

ワークショップでは、その人のイメージと実物がずれないように、機械の特性などを先に説明しています。たとえばレーザーカッターは彫刻する機械なので、カラーで描けないよ、とか。UVプリンターだったら色見本帳を作っておいて発色の参考に見てもらう、とか。
できること・できないことやその機械の特性を知らないと、完成とイメージがかけ離れることも多いので、それを知っておくことが一番大事かもしれないです。

Case3:刺繍ミシンでつくる、世界に一つのオリジナルワッペン

(左:刺繍ワッペンのプロジェクト「MiY #02 Make it Wappen!」展示風景 右:二宮佐和子「CLUSTER PIECE」)

――昨年FabCafeで展示していた、刺繍ワッペンのプロジェクトについても伺いたいと思います。

刺繍の既存イメージって、名入れとかパッチワークみたいな、ちょっとダサいものが多かったじゃないですか。もう少しクリエイティブなイメージにしたい、と刺繍ミシンメーカーのブラザーさんから相談を頂いてあれこれ考えたんですが、やっぱりワッペンじゃない?と。じゃあワッペンの印象を変えてみよう、というのがこのプロジェクトの趣旨です。

――でも難しいですね、印象を変えるというのは。

そうなんですよね。このプロジェクトではワッペンの図案と、それを楽しむためのアイデア、使い方までをクリエイターから募集しました。穴を塞ぐだけじゃない、楽しい使い方を募集しようというテーマで。
そしたらいろいろ面白い作品が出てきて。レーザーカッターで切った木と組み合わせてブローチにするとか、シールにしていろんなところに目が付けられるとか。このピザワッペンは各ピースに分かれてて好きなところに貼れるんです。これは靴下専用のブローチで、履くと足元に花が生える。

(左:ラッコの「らー」「じゃぁ、ここは?」 右:rikko618 「SOCKS FUSEN」)

――アイデアが伴うと、単なるワッペンから一歩進んでバリエーションが豊かになりますね。これもやはりIllustratorで作っているんですか?

データはIllustratorで作って、最後に専用ソフトで変換しています。データ自体は普通ですね。ただ結構時間はかかります。綺麗に刺繍するためには、糸の角度や糸密度などを指定しなきゃいけなかったりします。

――指定によって出来も変わってくるものですか?

たとえば動物の毛並みだったら一方向じゃなくて向きを変えることで立体感が出て、印象ががらりと変わります。質感とか、手触りも表現できる。それが刺繍の魅力ですよね。でも手作業だと刺繍って難しくて、なかなかきれいにできないじゃないですか。それが思い通りにできちゃうのが機械刺繍の面白さかな、と思います。

――なるほど、同じデータでもこだわり方で雰囲気が変わるんですね。

 

「ものづくりを始めるのに必要なのは、ノウハウよりもトライ」

――冒頭で、デジタルファブリケーションに触れたのはFabCafeに入ってからの約4年前と伺いましたが、ノウハウは使っていく中で覚えたのですか?

もちろん最初にメーカーからの説明も受けますが、使いながら習得したものが多いですね。トライアンドエラーで経験を積んで知っていきました。今も作っている中でイメージと違うものができて初めて「ああ、そういうことか」と気付くことが多いです。スリッパのワークショップでも、「革の裏側を使いたい」という子が出てきて初めて挑戦したりしました。

――IllustratorやPhotoshopユーザーの多くは平面デザインで使う方が中心かと思いますが、2Dから3Dにジャンプする発想の転換には何かポイントがあるのでしょうか?

私も最初3Dのデータ作成とかできなかったんです、全然。私の場合はすごく作りたいものがあって、実現には3Dプリンターを使うしかなかったので、じゃあどうしようって考えてやってみた…という感じです。
たとえばクッキー型をいきなり3Dモデリングソフトで作ろうとすると「本当無理」って思うかもしれませんが、「Illustratorのデータも読み込めるんだ」と分かればちょっとハードルも下がるじゃないですか、慣れ親しんでいるツールだし。ツールを絞る必要はないと思う。

あとは…箱を作るとして、3Dプリンターを使って箱を作るのは簡単なんですが、出力に数時間かかる場合もあるんです。でもレーザーカッターで抜いた平面を組み合わせると5分でできるかもしれない。水を入れる箱にしたい、じゃあやっぱり機能的には3Dプリンターだねとか。目的のためにどれが一番いい方法か、複合的に考えて選んでいくという感じですね。

――最後に、相樂さんがものづくりの際に心がけていることを聞かせてもらえますか?

丁寧にやることが大事だと思います。「2mmぐらい違うけどまあいっか」と流すと後で絶対に全部直さなきゃいけなくなるので、面倒くさがらないことが大事ですね。実際3Dプリンターで、データでは部品同士がはまるけど作ったら膨張率が加味されていなくてはまらなかった、みたいな事態はよくありますよ。あとはトライアンドエラーを続けるしかないですね。

――失敗しても「失敗しちゃった、難しい…」とすぐに諦めるより「ハイ次」って切り替えたほうが良いということですね。

この夏はフランスのFabCafeでワークショップをしていたのですが、私も試したことのない素材を持ってきたお客さんがいて、どうやったらいい?と聞かれたので「テストしなよ」って答えたことがあるんです。「冷たい!ホスピタリティないじゃん!」と言われましたが(笑)、「でもFabはテストするしかないから」と言って一緒にテストしましたね。
やってみるしかないんです。やってみて分かることはたくさんあるし、トライ&エラーをすぐに繰り返せるのがデジタルファブリケーションの一番良いところなので。

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2D・3Dにとらわれず作りたいものの完成形をイメージして、必要なツールや手法を取り入れる、一度やってうまくいかなくても繰り返し試してみる。大事なのは特別なバックグラウンドやスキル、ツールではなく「作りたい」という気持ちなのかもしれない、と感じるお話でした。相樂さん、ありがとうございました!

 

PROFILE

相樂園香 Sonoka Sagara

大阪芸術大学出身。2013年春から3年半、FabCafe(ロフトワーク)で働く。FabCafeではカフェ運営やイベントの企画、デザインを担当。2017年、フリーランスとなる。2ヶ月のフランスFabCafe拠点での滞在を経て、現在はFAB施設の立ち上げからワークショップなどの企画、平面・立体両方のデザインワークまで幅広く活動。

 

【関連リンク】

Adobe Creative Cloud とは https://www.adobe.com/jp/creativecloud.html

Adobe Illustrator Draw https://www.adobe.com/jp/products/draw.html

※Adobe IDの取得には13歳以上であることが必須です。

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