Interview

Regenerative Reliquary:未来の聖遺物

FabCafeが主催するグローバルアワード「YouFab Global Creative Awards」。2017年度のグランプリに輝いた作品は、アメリカのアーティスト、Amy Karleさんによる作品でした。「Regenerative Reliquary(再生可能な聖遺物)」は、3Dプリントと再生医療を組み合わせ、アートとサイエンスの二つの領域をまたいだ革新的なプロジェクトです。3Dプリントで作られた骨組みに、幹細胞を植え付け、体外で人間の手の骨を育成した本作は、製作と医療技術の限界を押し上げるだけでなく、アート、デザイン、科学、宗教、そして生(そして死)の未来について深遠な問いを提起しています。

2/9に東京で行われた授賞式の後、YouFab アワードチェアマンの福田敏也が、Karleさんにインタビューをしました。Karleさんが「未来の聖遺物」と評するプロジェクトがどのようにして始まったのか、彼女が現在取り組んでいること、そして「再生可能な聖遺物」のコンセプトが人類の未来にとって何を意味しているのかーー。私たちが、普段疑問にとめないような認識に対して、アートの力でたくさんの「?」投げかける、刺激的なインタビューです。

文 = Matt Schley、写真=加藤甫、編集=鈴木真理子

Regenerative Reliquary, 2016 by Amy Karle. Photo by Charlie Nordstrom.

革新的なコンセプト

福田:「再生可能な聖遺物」はとても複雑な作品で、少し理解が難しい作品でもあります。作品を小さな子供に説明するとしたら、どう説明するとよいでしょう?

Karle:「未来の聖遺物」を作ろうとしているのだ、と伝えます。サイエンスフィクションの聖遺物ともいえます。未来の身体のことであり、また医学的な側面からは、どうやって身体を癒せるのか?を、作品を通じて考えています。概念的側面、技術的側面、両方についてお話ししましょう。

まずは概念的な点からお話しします。私は死体を見て育ちました。「Relics(聖遺物)」* のことです。(*編集部注 聖遺物とは、宗教上の聖人の遺品や、聖人自身の骨や毛髪などの遺骸をさす)。

私はカトリック教徒として育ちましたが、他の宗教でも聖遺物はありますよね。死体である聖遺物が神秘的な働きをしていることは興味深いのですが、私にとっては、聖遺物は逆のことを意味していました。それは、生命の賞賛です。死と同時に生の祝福を表現したのが聖遺物だと思います。

この作品では、テクノロジーを使って、身体を治し改善する方法を模索しています。しかし、別の角度からはこうも言えます。もしも、新しい技術を使って自らを回復させ、体の機能を向上させることができたらどうでしょう? もしも、私たちが体のパーツを交換することができて、命の長さを飛躍的に伸ばせることができたらどうでしょう? 生の意味はどう変わると思いますか? そして、生について話すとき、どう話始めるのでしょう? もしも、私たちが死という観念に直面していなかったら、生きることは何を意味するのでしょう?

この作品を技術的な側面から説明するならば、このプロジェクトで私が試みたのは、骨を育てるための形をつくることです。もし、医学的な試験をパスして使われるようになったら、拒絶反応のリスクが非常に少なく、骨を人体に埋め込むことができます。なぜなら、その人自身の遺伝物質からできているからです。これが、作品の制作にあたり、3Dプリントを選んだ理由です。


福田:3Dプリントについて、もうちょっと詳しく教えてください。細胞は、3Dプリントされたパーツに成長しているのですか?

Karle:この作品で使われている素材は、ヒドロゲル素材の一種PEGDAです。これは、細胞を成長させるために実験室で使用される媒体です。この物質は、プロジェクトのための条件を満たしていました。無害であること、細胞が付着するものでること、骨組みは壊され細胞だけが残るように、生物分解性であること、そして3Dプリント可能であることです。私は、数名の世界の最高技術者と働きましたが、それでも多くの失敗がありました。この物質を開発ポイントにまで到達させることは本当に難しいことでした。

3d print pegda trabecular scaffold for stem cell culture next to bone trabecular structure by Amy Karle

福田:今回、東京で開催されたYouFab受賞作品展で展示した作品は、アーカイブバージョンですよね。これまでに、生きた細胞を持つものを制作したのですか?

Karle:生分解性バージョンは、17作り、その内3つが成長しました。成長するまでに2年の時間がかかっています。これらが成長を続けていくのか、もしくは衰弱していくのか、どうなるかはまだわかりません。

生と死は同時に起こる


福田:なぜ「骨」という素材に惹かれたのでしょう?

Karle:骨は、命と死を象徴していて、そこに魅力を感じます。また、タイミングも重要でした。私が作品をつくり始めたのは妊娠中の時です。2つの細胞がどうやって一緒になり、違う形を作り上げていくのかと考えていました。私たちは、体の中に生きた固い骨があると考えがちですが、そうではありません。実際には、骨は置かれている場所の力によって再形成されているのです。私は、骨を見て、考えていました。「この骨をこのような形にして、この場所に置いたのは何なんだろう」と。

この作品以前に、私が骨と真剣に向き合ったのは、まだ若かった頃。私の母が癌で亡くなろうとしている時でした。そこに偶然の奇妙な一致を見出さずにはいられません。あの頃私が考えていたことは、保護と死についてであり、母が逝った後に残る骨のことでした。何かが一周したような気がします。きっと私は生と死のサイクルを表現しているのでしょう。

Feast of Eternity, 2016 by Amy Karle

福田:「再生可能な聖遺物」というタイトルは、今言った「生と死」というコンセプトと結びついていますね。

Karle:「再生可能」という言葉は、再生医療と私たちの基本的な構造から新しい形へと再生していく、つまり細胞が新しい形へ再生していくということから取りました。そして聖遺物、もしくは聖骨箱は、神秘的な意味を帯びて神殿に安置されている体の一部のことを指します。もちろん、私の作品を創造主として崇めるというのではなく、生のコンセプトと、その儚さをもっと大事にしたかったのです。なぜならそれを育むのは本当に難しいことだから。世界で最高の幹細胞学者でも、失敗することがあるのです。

Regenerative Reliquary, 2016 by Amy Karle. Photo by Charlie Nordstrom.

福田:一番興味深かったのは、作品が示す矛盾です。つまり教会に安置されている伝統的な聖遺物はあなたに言わせると死んでいるのですが、あなたの作り出した聖遺物は生きているのです。なんと神秘的な生と死の混在でしょうか。

Karle:そして、ここ東京で私たちが展示しているアーカイブバージョンは、さらに新たな次元を加えます。なぜなら、それは本物の生命ではない生の表象だからです。この点において、これは聖遺物の本来の意味に近づきます。

 

医学とテクノロジー、芸術の最先端で


福田:本作はアート作品ですが、この方法論は医学にとっても大きな可能性がありますね。

Karle:もちろん、大きな可能性があります。金属製のインプラントは、すでに多く使われていますが、やはり体にとっては異物です。本作を作った方法で、患者自身の幹細胞で骨をつくることができればその人に合わせた移植ができます。手術の時間が減るかもしれませんし、体の拒絶反応も減るかもしれません。移植された骨は体の中で成長する可能性もあります。

福田:デジタルテクノロジーという点ではどうでしょう?

Karle:デジタル面の近年の進歩といえば、ニューラルネットワークとマシンラーニングです。例えば、心臓スキャン。今では医師は、ビッグデータを利用することによって、一万の健康な心臓と、異常や奇形を持つ患者の心臓を比較することができます。医者が見落としてしまう点をコンピューターが見つけてくれるのです。

もちろん今は、テクノロジーの力でできないこともたくさんあり、医者は、直感や力覚による判断力を使っています。しかし、場合によっては、テクノロジーが私たち人間を上回っていることもあります。私が想像では、次のステップは、健康な心臓を設計しそれをバイオプリントするジェネラティブ・プログラムが受け入れられ、使われることです。

テクノロジーの進歩とともに、医学と科学は急速に発展し、多くの利点をもたらしています。しかし、私はテクノロジーがきちんと吟味されずにどこでも使われてしまうことを心配しています。広い視野で注意深く考えなければならないのですが、残念ながらそのようにことが進んでいるとは思いません。テクノロジーは人類の終焉の道具ともなりますが、私たちを次の段階へ引き上げることもできます。どう使うのかを考えることが大切なのです。


福田:芸術とデザインの分野からは、この作品についてどう考えていますか?

Karle:「もし体の外側で細胞を育てることができるならば、何を育てれば良いか」と考えていました。それに対して明確な答えを未だ持っているわけではありませんが、この作品は、そういうアイデアの中で生まれました。芸術とデザインの分野において、私たちは今、引き算をしていかなければならないような状況にありません。むしろ私たちは足していけるのです。自然がそうであるように、時間をかけていくつもの層を足していくのです。このプロジェクトは、そういった足し算の試みでした。

ここで問わなければならないのは、生命を構築している部品を使って、私たちは何を育んでいけるのか、ということです。そしてこのプロジェクトは、その問いに対する膨大な数の答えの1つです。「育っていく芸術をどうやって作るのか」という問いは、大変興味深いものです。そしてそこには産業デザインに対する示唆すらあります。成長する建物をどうやったら作れるでしょう?成長する基板はどう作れるでしょう?

成功と、次のステップ

福田:この作品は、複雑であり、様々なコラボレーターとの共同作業がうまくいって、ようやく成功したプロジェクトだったと思います。どこかで諦めそうになったことはありますか。

Karle:ほとんど毎日、諦めそうでした(笑)。しかし、それがまた共同作業の面白いところでもあります。私が思うのは、何かいい考えが浮かんだ時というのは、磁石のようなものだということです。それに惹きつけられて、相応しい人が集まってきます。私は芸術家ですから、一人の力ではこのプロジェクトはできません。つまり、人が私のアイデアに多くの人が賛同してくれて、かつ、芸術、デザイン、テクノロジー、科学などの違った分野にとって意義のあるものでなくてはなりません。人々が私のアイデアを信頼してくれて、助けてくれることが、私にとって大きな力となります。不可能に思えることでも、挑戦する力が湧いてくるのです。

Artist Amy Karle 3d printing bioprinting

福田:今は、どんなプロジェクトを行なっているのですか?

Karle:マシンラーニングとニューラルネットワーキングを使って、身体の問題を解決することに取り組んでいます。表現方法としては、2D、3Dのアートやサイエンスを用いています。目標は、人間の構造を3Dでスキャンし、身体の細部を理解することです。また体の機能と働きにも興味があります。マシンラーニングシステムを使って、3Dのジェネラティブデザインを作りだし、それを彫刻のような形で展示できればいいですね。ただこれは非常に難しく、まだ3Dではできておらず、平面で行なっています。

The Wisdom of the Heart, 2017 by Amy Karle, made via artificial neural networking and by hand

アーティストとして、私がどうやっているかというと、まずカリフォルニア・アカデミー・オブ・サイエンスのような機関にいき、美しいと私が感じる骨を10ほど手に入れます。その骨から着想を得て、私は新しい骨の形を描きます。似ているのだけれども、新しい骨です。

そして、同じことをコンピューターが人工知能や自動化を使ってできるようにしています。コンピューターにアーティストの私が考えるように考えさせ、同じ手順を行わせます。現在私が使っているシステムは大変手間のかかるものなのですが、アーティストとしての私の考え方をシステムに教え込み、データとしてインプットすれば、うまくいくでしょう。

福田:あなたはコンピューターにもう1人のあなたになるように教え込んでいるようですね。

Karle:そうです。私は人工知能を人工想像力として使用し、プロトタイプを作るプロセスを速めようとしています。それで全てが解決するわけではありませんが、アーティストとして1つの道具として使っています。またこうしたニューラルネットワークを構築することを通して、私たちは、創造的になるとは何か、私たちの脳はどう動いているのか、ということについて学んでいるのです。

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