Interview

作ること自体が批評となり創発しあう:OTON GLASS × 川田学 対談

YouFab Global Creative Awards 2016の「ヤマハ賞」を受賞したのは、視界に入った文字を読み上げてくれるOTON GLASS(グランプリとのダブル受賞)。今回のYouFabで新設された「ヤマハ賞」は、ヤマハ株式会社が受賞者との共創を目指す試みです。3月8日から3月19日まで開催された「YouFab受賞作品展示会」では、ヤマハ賞のテーマ “エモーションのスイッチ”をテーマに、ヤマハ社員とOTON GLASSが開発したプロトタイプ「emoglass」を展示しました。(emoglassの展示についてはこちら

今回の対談では、開発チーム代表の島影圭佑さんとヤマハデザイン研究所所長の川田学さんが、創発しあうデザインとオープンイノベーションについて語り合いました。

(聞き手・文/高橋ミレイ)
(編集/鈴木真理子)

「Use」の道具が「Play」の道具にもなる ー OTON GLASSの可能性

―川田さんはデザインをデザインすること、つまり枠組みを作ることを大切にされていると伺いました。その作業のプロセスにおいて、最初に問いを立てる際に大切にしていることはどのようなものでしょうか? また、それを踏まえ、今回ヤマハ賞として選んだ「OTON GLASS」のどの部分に川田さんが魅力を感じたのかについてもお聞かせください。

川田:僕たちデザイナーがスケッチブックにポンチ絵を描くことも抽象概念を視覚化する第一歩ではありますが、これをさらにプロトタイプとして具現化すると、その形が人を巻き込んでいきます。言葉だけで言っていたのとは全然違うものが表れてくるんです。今回のOTON GLASSを見た時、実働しているプロトタイプが実に様々な妄想を掻き立てるものだと思いました。


僕は会社でよく「正しい答えが欲しいなら、正しく問いを立てなきゃいけない」と話しています。デザインの仕事をやる時に、立てた問いが適切かどうかをまず初めに疑ってみるということは大切です。夢枕獏の『上弦の月を喰べる獅子』という小説の中で、主人公が神様のような存在に「野に咲く花は幸せだろうか」と尋ねた時、「その問いは問いとして不完全です」と言われます。そして逆に「野に咲く花は問うだろうか」と問われることで、彼は「ああ問わない。なぜなら、野に咲く花はすでに答えだから」と気づくシーンがあるんです。プロトタイプは、その瞬間瞬間に、まだ途上のところで完成形をいつも求めているようなものだから、幸せを求める人間みたいなものだと思います。いつか完成することを求めながら、どこまで行っても次に次にとなるかもしれない。それは長い歴史のある楽器もそうで、ずっと進化するものなのだと思います。未完成の存在自体が問いなんですね。
 
楽器について話す時に、僕は「Use」と「Play」の話をよくしてきました。「Use」は初めに目的がちゃんと決まっていて、それに対する手順やタスクがあり、手順はなるべく少なく手間がかからないほど便利といわれています。一方で「Play」の方は、何だかよくわからないけども、ちょっと触ってみたい存在。触れることでひとつ何かができるようになると、また次に何かしてみたくなるという感じです。楽器の演奏もそうですね、何かひとつできるようになると、今度はもうちょっと難しいことに挑戦してみたくなる。つまり「Play」の道具は、何かができると次の目標が発生するのです。OTON GLASSも、まさにそうだと思っています。Useの側面で言うと、見えなくて困っている状態のユーザーに対して、目に見たものを音で返して助けることができる。でもOTON GLASSには、もしかしたらこの「Use」を「Play」の道具に変えられるかもしれないと可能性を強く感じました。これこそヤマハがOTON GLASSを選んだ一番の理由だと思っています。

 

性能の評価軸では測れないのが、感動という体験
 

―おっしゃるようにOTON GLASSは、UseとPlayの間を行き来しているような感じがしますよね。島影さんも、具体的な問題を解決するための道具として開発をしてきたなかで、途中から見方が変わってきたのでしょうか?

島影:そうですね。開発を始めたときは、問題を解決する道具としてつくり始めました。その後、プロトタイプが完成してから、視覚から聴覚的な情報が入ってくる感覚的なおもしろさに気がつきました。最初から狙ってはいたわけではなく、プロトタイプによって体験をつくってみて、自分の知覚が拡張されている感覚を得たことで、そのおもしろさに気づいたんです。
 
川田:OTON GLASSには、身近な人の具体的な問題を解決するという真面目で誠実な意味づけがあったので、そこにあえて違う軸を差し込みたくなりました。たとえば僕たちが作ったemoglassの動画で、ケーキを選んでいるシーンがありますが、見ているケーキの名前をただ平坦に読み上げるだけでなく、おススメしている雰囲気が言葉のニュアンスとして追加されたりとか「それ、今日1番売れてるよ」という声も入ってくるとか。質疑応答が1対1にトントンといくのが良いダイアログというわけではなく、そこにちょっとそういう寄り道があったり、違うものが差し込まれることで、生き生きした会話になるような、そういうのを足してみたいと思ったのです。
 
島影:僕たちの使命はOTON GLASSを本当に求めている人々に届けることです。なので、まずOTON GLASSを使えるものにしなければならない。そうなってくると、サイズを小さくする、認識の精度を上げる、処理の速度を上げる…といった基本的な性能を向上させていくことに集中しないといけません。ですが、OTON GLASSを体験して得られる感動というのは、その基本的な性能の評価軸だけでは測れないところにも存在しています。そこを今回ヤマハさんが開拓してくださったと思っています。


 
―OTONGLASSの制作チームはスタートした時点で課題があり、それを課題を解決するグラスをつくるという形で制作の意義が完結していました。そこにヤマハさんの方から、別の視点が来たことで、チーム内で見方が変わってきたと思います。それがどのように変化したのかについてお話いただけますか?
 
島影:視覚から聴覚的な情報が入ってくる、知覚の拡張としてのおもしろさに気づきながらも、僕たちが「音が引き起こす感情的な側面」を、改めて掘り起こしていくのには、僕たちがそれに向き合ってきた時間が少なすぎるし、歴史が浅すぎます。そこに今回のアワードを通して、「音」やそれを引き起こす「楽器」と向き合い続けてきたヤマハさんとの出会いがありました。ヤマハさんが、自身の知見を生かしながら、OTON GLASSから発想してもらい、それをデバイスのモックアップ、体験可能なプロトタイプ、使用場面を伝える映像を制作し、提案してくださいました。その制作物によってOTON GLASSの新たな可能性について、想像を駆り立てられる機会となりました。
 

川田:OTON GLASSの場合は、ヤマハ賞の「エモーションのスイッチ」というお題のために作品を作ってくれたわけではなく、すでに世の中に出ているものに対してお題の観点から評価している。さらに評価するだけにはとどまらず、そこにアイデアをかぶせていくアワードというのは、普通はないんですよね。この賞の面白いところは、表彰で終わりではなく、そこからもう1セッション始めません?という感じになっている。キャッチボールの途中の段階がイベントになっている所が面白いと思います。

作ることで創発し合う、ポーカーゲーム的なオープンイノベーション

―ヤマハさんは、このようなオープンイノベーションへの取り組みを近年は積極的にされてきたのでしょうか?
 
川田:いろんな外部との連携は昔からやっていますが、特にプロトタイピングが早くできるようになってから加速しているのは確かです。でも今回のようなパターンはないですね。今回のアワードではOTONGLASSの展示があり、その横に弊社とのコラボレーションから生まれたemoglassが展示されている。それを見た他の企業の方が、「ちょっとウチもそういうふうにやってみよう」と思えば面白いと思います。
 

島影:入念に設計されたオープンイノベーションではなく、作っているものが挑発をして、それに対してまた作ることによる挑発が返ってきてという感じで、作ることで挑発し合ってる構図があります。
 

川田:よく褒め言葉でインスパイアリングと言いますが、そういう感じですね。インスパイアし合う状態にできるのがすごく良いんだと思います。
 

島影:「これ、いいね」で終わるんじゃなくて、作ること自体が批評になる。もっとこういう可能性があるんじゃないかというのを、作ることを通して相手に伝えていく。
 
 
川田:今回面白いと思ったのが、細かく打ち合わせをしたわけではなく、本当にキャッチボール的だったということです。ちょっとポーカーゲームっぽい感じですね。お互いに完成した手札を見せずに、「こう来たか。じゃあこうでしょう」という感じでやりとりをしている。ちょっとジャムセッションというか即興っぽいのが面白いと思います。


―確かに、今回のコラボレーションは、プロフェッショナルな作り手同士が、真剣勝負で、それでいて心から楽しみながら技を出し合っているように感じました。お互いの強みを活かした今後の二社の取り組みを楽しみにしています。今日はありがとうございました!

 

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