2026年 夏、福島県 飯舘村(いいたてむら)に FabCafe Global 東北地方初の拠点となる FabCafe Fukushima がオープンします。
JR福島駅から車で東へ1時間程度で辿り着く、阿武隈(あぶくま)山系北部の高原にある広大な村、飯舘村。なだらかな山々に囲まれた美しい田園風景、標高500m前後の冷涼な気候を活かした畜産や高原野菜の生産のほか、「凍(し)み餅」やどぶろく造りといった独自の食文化が根付く地域として知られています。「手間暇を惜しまず丁寧に」という意味をもつ相馬地方の方言「までい」はこの地の生活文化を象徴する言葉として伝わっており、「日本で最も美しい村」連合に名を連ねる理由のひとつとなっています。

撮影:佐藤直己
FabCafe Fukushima がオープンするのは、そんな飯舘村の玄関口といえる深谷(ふかや)地区、県道12号線沿いに位置する「図図倉庫(ズットソーコ)」の館内です。都市でも観光地でもない、鉄道の駅さえもない農山村の一角に、なぜ FabCafe の新拠点ができるのでしょうか。その背景には、2011年の原子力災害以降、この地域で続いてきた協働のプロセスが大きく関わっています。
「飯舘村」の名を聞いたことがあるという方のほとんどが、2011年3月の原発事故を連想することでしょう。福島第一原子力発電所から北西へ30km~50km離れている飯舘村にも、事故当時の風向きによって運ばれた放射性物質が雨とともに降り注ぎました。同年4月に村の全域が計画的避難区域に指定されて以降、住民はおよそ6年間の全村避難を強いられることになりました【※1】。
2011年6月、飯舘村民と研究者、そしてボランティアたちによって、この地での暮らしと生業の再生を目指す「ふくしま再生の会」が発足しました。全活動の基盤となっているのは、事故によって原子炉の建屋から放たれた放射性物質が、地域の環境にどのように入り込み動いているのかを正確に読み解く測定活動です。空間放射線量のみならず、農地、山林、野生動物などに存在する放射性物質についても継続的にモニタリングを行っており、農地では村民が自身で行うことができる除染の方法を編み出し実践するなど、現在に至るまでさまざまな取り組みが続いています。

土壌の放射性物質を測定するためのサンプリング 撮影:佐藤直己
当初から「ふくしま再生の会」では、「支援者」と「被支援者」の関係性とは異なるあり方として「協働」という指針を打ち出しています。首都圏から福島に通い続ける研究者やボランティアの人々は、自らの知的好奇心や、そこで得られる人とのつながりを原動力として活動に参加していました。そこに「助けてあげる」「助けてもらう」という非対称の関係性はありません。分野を問わず「知りたい」と思った人どうしが集い、立場を超えて一緒に汗をかくことそのものを楽しみながら、理解と実践を深めていきました。
こうして災害から10年が経った2021年、地域の再生を目指す人々の背中を見ながら活動に関わってきた若者たちが、村内の旧ホームセンターの建屋をリノベーションするプロジェクトを開始しました。2017年3月に避難指示が解除されて以降、営業再開の目途が立っていなかった「コメリ ハード&グリーン 飯舘店」。地域の方々にとって身近な存在だったこの空間に少しずつ手をかけて、「環境づくりの秘密基地」にしようという試みです。「協働」の考え方を引継ぎながら、企業や学生、住民や芸術家などの多様な人々が集うこの場所は、「工夫して努力する」「目的のために工夫する」という意味を持つ「図」の字を重ね、飯舘村での地域環境づくりが「ずっと」続くようにという思いを込めて「図図倉庫(ズットソーコ)」と名付けられました。

改装のようす

常に変わり続けている図図倉庫館内
図図倉庫では、飯舘村の環境をまるごとフィールドミュージアムに見立てて巡るツアープログラム、地域の環境課題にアプローチする企業とのコラボレーション、この地の歴史や経験を無二の体験に変えるアートプロジェクトなど、多様な取り組みを展開しています。例えば、福島市を拠点とする電気設備業の六洋電気株式会社は、館内にテナントとして入居し「いいたてワサビラボ」を設立。ワサビが育つ山の水環境を室内で再現する水耕栽培に挑戦しており、図図倉庫に出入りしている研究者や学生たちと一緒になって技術の確立をめざしています。

六洋電気 いいたてワサビラボ
2023年には、アートとサイエンス、そして食と風土に焦点を当てた企画「めぐりあるきレストラン ヒカリノトリ-観測者たちの集い-」が開催されました。観客を「観測者」に見立て、飯舘村ならではの環境世界へ五感を通して誘う、回遊型のディナー体験です。俳優や音楽家、料理人などのクリエイターたちがジャンルを横断して協働し、この土地が持つ多層的な魅力の一端をご体感いただきました。

「めぐりあるきレストラン ヒカリノトリ-観測者たちの集い-」撮影:山田谷直行
2026年には、飯舘村トレーラー基地計画が始動しています。図図倉庫の空間設計に携わった建築家の佐藤研吾氏が主宰する一般社団法人コロガロウ/佐藤研吾建築設計事務所、そしてトレーラーハウスの輸入・製造を手掛ける株式会社おおほり建設のオリジナルブランド「DISCOVER」とともに、動く高機能な空間としてのトレーラーを開発することを通して、未来の地域インフラのあり方を私たちの手で探究します。防災上重要な役割を果たすライフライン機能を搭載したトレーラーを販売するほか、環境ラボのような実験的なトレーラーの開発、実際に宿泊体験をすることができる展示場の整備などを計画しています。

FabCafe Fukushima × 飯舘村トレーラー基地計画 将来像イメージ
立場や肩書を超えて多様な人々とともに取り組みを進めてきた図図倉庫には、Do It Together の精神が息づいています。震災から15年が経過し、環境と人間の関係性がより一層問われ続けている現代において、ここ飯舘村に FabCafe があるということ。個人の中にある小さな創造性と、協働によってひらかれる可能性によって、さまざまな問いや実践を遊び心とともに社会へ投げかけ続けることに、その意義があると考えています。
FabCafe Fukushima では、不定期で環境やものづくりをテーマとしたイベントやワークショップを開催するほか、日帰りからご案内可能なガイドツアー、飯舘村の環境をフィールドとした具体的な協働/協業のご相談などを受け付けています。遊びに来てくださる方も、真剣に未来のビジネスを語り合いたい方も。あなたと飯舘村でお会いできる日を、心待ちにしています。

館内常設展示《環境世界を旅する》ガイドツアーの模様

FabCafe Fukushima/図図倉庫 外観
【※1】村内の長泥地区に関しては、2023年5月1日に特定復興再生拠点区域、2025年3月31日に長泥曲田地区の農地等の避難指示が解除された。除染によって発生した除去土壌を再生資材化し、盛土として利用する事業が実施されている。
