Column

2018.1.30

【開催レポート】不確実さと対峙するためのツールボックス #01ゲスト:小川さやかさん

FabCafe Kyoto編集部

新しいサービスやビジネスモデル。まだ見ぬ価値をつくるために、不確実な状況下でプロジェクトを設計していく場面が増えています。もしくはあえて不確実さを取り入れることで予定調和を壊し、可能性を探っていく試みも生まれています。
この混沌とした状況に、わたしたちはどう対峙し、どうプロセスを組み立て、どう価値を作り出していけばよいのでしょうか?そのために、フィールド(現場)というある種《不確実さ》の固まりと対峙し、様々な人と交流しながらリサーチを重ね、ユニークな解釈や発見を紡いで価値を作り出すゲストをお招きし、みんなでビール片手にゆるく議論する勉強会がはじまりました。

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18年1月19日。会場となるMTRL KYOTOには多種多様なバックグラウンドを持ちながらも「フィールド(現場)」に対峙する15名の参加者が集まりました。和室にオレンジとグリーンの照明という、落ち着くようでぞわぞわした雰囲気のなか、第1回イベントがスタート。
最初に主催のロフトワーク京都ブランチの国広から、このイベントを始めた背景と自身が参画したフィールドリサーチで得た「新たな視点」や「小さなメソッド」について紹介しました。このイベントではこういった「新たな視点」や「小さなメソッド」を「ツールボックス(道具箱)」と呼び、参加者が自分たちのツールボックスをつくっていくことをゴールとしています。

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参考:
ツールボックスとは
経済産業省 高齢社会の機会領域を探るデザインリサーチ
没入できる”基地”がプロジェクトを加速させる

興味深すぎるタンザニアでのリサーチの話

第1回のゲストは文化人類学者の小川さやかさん。文化人類学、アフリカ研究を専門とし、フィールドリサーチを通じて様々な論文や書籍を出されています。このイベント企画はロフトワーク国広が小川さんのお話を聴きたくて始まったと言っても過言ではありません。今回は小川さん自身がタンザニアで行ったフィールドリサーチの話と、これまでの経験を踏まえたフィールドリサーチにおけるポイントについて約1時間にわたりお話頂きました。

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#1 ゲスト 小川さやかさん
文化人類学、アフリカ研究。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程単位取得退
学。博士(地域研究)。 日本学術振興会特別研究員、国立民族学博物館研究戦略センター機関研究
員、同センター助教を経て、2013年より立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授。著書『都市
を生きぬくための狡知――タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(世界思想社)で、2011年サ
ントリー学芸賞(社会・風俗部門)受賞。

明日のことすらままならない日々の暮らしの中で

タンザニアにおいて、マチンガと呼ばれる路上商人がおこなっているユニークな商慣行とそれを支える共同性についてリサーチするため、3年半の滞在の中で、自身も行商人として商売をしていたという小川さん。貧困かつ人口の多くが若者で、「まるで学生寮だった」という現地での「私たちは学歴も財産もない。あるのは知恵だけ。」という言葉を切り口に、彼らが何を武器にして生活しているかという話を伺いました。

ずる賢さを誉める・許容する価値観の関係性。

基本的に個人は複数の仕事をかけもち、家族のメンバーがみな異なる仕事をする。一見「助け合い」の社会のように見えて、現実は助ける人は助けるばかりになる不条理な世界。その中で生まれたのが「ウジャンジャ」という価値観

たとえ嘘であっても、「いい嘘」はユーモアさ滑稽さ悲哀さを昇華させることでやりきり、
逆につまらない嘘は認めない。心を動かされた対価で関係性が成立する社会。
この土地では2000シリングを貸してくれる1人よりも、200シリングをカンパしてくれる10人を持つ人間スキルのほうが大事で、ときに嘘があってもそれがウジャンジャであればよい、そんな社会。

遠い未来のことなんて考えてられない、「今」をなんとしても切り抜けようとする、ウジャンジャを発揮する彼らの「生命力とは無条件性、無根拠性の力」「不確実は希望」という話が面白く、そして小川さんはとても楽しそうに話します。
日本で言う「絆」って、本当に絶対大事なことなん?という、
価値感や関係性がその土地によって大きく変わることについて、聞いてる私達はどんどん引き込まれて行きました。

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フィールドリサーチの向き合い方

興味深いタンザニアでのリサーチの話の次は、小川さんの考えるフィールドリサーチのポイントをいくつか紹介頂きました。数々の印象的なトピックを以下のように整理してみました。

1.人の心は分からないが、人々の心は分かる。

人が話すことは、嘘や記憶違い、見栄や思い込みという不安定の集合体であり、首尾一貫しないのに、まとめるときにはなぜかまとめられてしまう。ここにはみ出た重要な情報があるかもしれないのに、それをうやむやにしてしまう”魔法”がある。そういった、「他者(人)は理解したいように理解する」という前提を忘れ無い方がよい。
「いつか互いの理解が深まるかもしれない」という考えも危険。逆に相手は離れていくかもしれない。人の心を分かろうとするよりも、人々の生活の中に入り込むこと
そこにはそれぞれの「生活の都合」があり、それによって見えてくるものがある。
理解できるというスタンスではなく、「関わる」中で見えてくる。理解がなくても関われる。

2.しっかりとインプットをして、賢く忘れる。バイアスを崩す。

リサーチに先立ってキーワードに沿って100冊程度の本を集め、1冊5分以上かけないルールをつくり、脳内マップをまず作っておく。そして賢く参照する。それを点検読書と言う。
しかしながら事前のインプットが余計なバイアスにならないように「賢く忘れる」ことも重要。
そしてまた、フィールドでは「前提を疑う」「バイアスを崩す」ことが大事。
他者理解のための日頃の練習として、たまには「正義」を疑ってみたり、些細な違反をしてみる「アナキスト柔軟体操」のススメもとても刺激的でした。

3.分かったあとにやってくる「不気味の谷」。

フィールドワークには妄想力が大事。普段から「なりきる練習」を小川さんは実践している。例えば、スーパーで3人の子供を抱えたパン工場の奥さんとか、さっき夫と喧嘩したばかりの主婦を”憑依”させる。そうすると買うものが変わってきたりする。
小川さんはその土地に馴染むことを得意としているが、しっかり馴染んだと思うタイミングで、現地の人の態度が急によそ者扱いに戻ったりする、そういった状況はすなわち、自分では気づかない微妙な違いが大きな違いになっていることである。なりきっても越えられない壁、そこにブレークスルーが潜んでいるのではないかと小川さんは考えている。

keyword for toolbox
アナキスト柔軟体操 / 点検読書 / ラガール(信頼関係)構築のための小道具を揃える / 質問を切り出すテクニックを磨く / 「ついで」調査法 / 「時間を計る」タイム・アロケーション法 / ノートの取り方 / 「書く」をめぐるスタイル

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まだまだ聞きたい、質問したい。参加者の思いは募るばかりですが、すでに時間は22時を超えておりこの日はタイムアップ。最後に「京大カード」というツールにこの日の気づきをアウトプットして第1回イベントは終了しました。

参加メンバーの感想(抜粋)

その人の今の状態というものを受け入れる。狡猾さの中にその人の知恵があって、今自分が置かれている状況や環境を客観視して、観察対象と自分を相対化してみたいと思った。

最終的なデザインへのアウトプットや事前調査の内容を意識するばかりでなく一旦それらを忘れた状態でフィールドワークに取り組むことで、より純粋なデータを集めるよう意識してみたい。

どうやったらフィールドでうまく会話が弾むかを考えて、小道具が質問を考えたり、書き留めやすいように日付は書いておいて略語を用意しておいたり、といった細かな準備が自分のフィールドに入る前の気持ちを高めることにもデータ取集の量と質の担保にもつながるような気がしました。小川さんのようにワクワクしながら楽しくフィールドワークをしたいなと心底思いました。

ビジネスの現場では、短いサイクルで調査・分析・検討が求められる。文化人類学のようなアカデミックなアプローチだからというわけでもなく、自主プロジェクト・サイドプロジェクトをあえて長期間取り組むことで普段見えない可能性や課題をデザインとして取り組み発表してみたい。

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