Project Case

2024.3.24

みんなで考える「 SS=サービスステーション」の“これまで”と“これから”
中部経済産業局主催ワークショップ

SSは、産業・生活・文化の拠点!未来にどうトランスフォームできる?

コーヒーを片手にほっと一息つきたくて「SS」に立ち寄る。

住宅のリノベーションについて相談したいから「SS」を訪ねる。

「SS=サービスステーション」は燃油を提供する給油所としての役割のみならず、地域に暮らす人たちの様々なニーズを満たすことで、近年、私たちの生活にもっと寄り添う存在へトランスフォーム(変革)しています。

そもそも、災害時には、各地域へ石油製品を安定して供給できる“インフラ”であるSS。

地域に根ざしているからこそ、本来、個性があるSSは、それぞれの地域にとってオンリーワンの存在であることができるのでは…?

そんなポテンシャルを探るため、SS事業者が課題や新規事業のアイディアを学ぶためのワークショップが開かれました。

  • 中部経済産業局 二村 真基さん

  • 資源エネルギー庁 宮内 光弘さんによるオープニングトーク

愛知・岐阜・三重の東海3県から、SS事業者を集めて開かれた今回のワークショップ。まずは、主催者である中部経済産業局の二村 真基さんが登壇し、2024年1月に起きた能登半島地震で、現地に派遣された際のエピソードを報告しました。

石川県庁に派遣され、被災地への燃料配送を担当していた時に、SSの重要性を目の当たりにしました。SSの自主的な判断で緊急車両への燃油の優先供給を迅速に行う動きがあった一方で、地域のSSでは、近くの避難所への給油を行なっていたんです。SSは災害時のエネルギー供給の“最後の砦”であることを実感しました。(中経局・二村さん)

続いて、資源エネルギー庁の宮内 光弘さんががオンラインで登壇。自動車の燃費向上などに伴い、ガソリンの消費活動は、2004年をピークに減少の一途である厳しい需要見通しが説明されました。今後も、カーボンニュートラルへの取組によって、こうしたトレンドが継続することが見通される中、SS事業者は、すぐにでも、経営維持に向けた事業の多角化、協業・経営統合などによる、より踏み込んだ取組が必要であるとの見解が示されました。

需要見通しの厳しい未来に向けて、SS事業者が、どうトランスフォーム(変革)していくことができるのか。今回のワークショップは、既存事業を多角化するにあたって具体的なアイディアを練る際に、ユーザーのニーズに寄り添いながら、自らの強みを活かすことのできる思考方法を知り、そのやり方で、実際に新規事業を考えるまでを体験してもらうよう設計されました。

プロセスは、4つのステップに分かれます。まず、インプットトークで「デザイン経営」について学び、その上で、各事業者に「Will=やりたいこと」を書き出してもらいます。そして、 それぞれの事業者がすぐに「Can=できること」と考えた上で、両者を結びつけ、事業者自身や地域の環境を活かした「SSの“これから”」を描いてもらおうという仕組みです。

講師の土生 哲也さん

  • 土生 哲也

    株式会社IPディレクション 代表取締役

    金融/知財/デザインの分野を越境しながら、20年以上にわたり中小企業の経営改革に伴走する活動を続けており、中部地区でも中小企業向けの知財セミナー&ワークショップを10年以上担当している。平成29年度知財功労賞経済産業大臣賞受賞。武蔵野美術大学造形構想研究科修士課程修了。

    金融/知財/デザインの分野を越境しながら、20年以上にわたり中小企業の経営改革に伴走する活動を続けており、中部地区でも中小企業向けの知財セミナー&ワークショップを10年以上担当している。平成29年度知財功労賞経済産業大臣賞受賞。武蔵野美術大学造形構想研究科修士課程修了。

インプットトークでは、弁理士の土生 哲也さんを講師に迎え「デザイン経営」について講演していただきました。講演で土生さんは、時代と共に企業が向き合う“問題”が移り変わっていると指摘。「量産のニーズに向き合った昭和」から「多様なニーズを満たすため市場分析が加わった平成」までは、“問題”に対する“正解”があったものの、「環境配慮や働き方改革などに直面する令和」は“正解のない問題”に向き合う時代だとし、解決するには「デザイン経営」の手法が必要だと話しました。「デザイン経営」では、「仮説→トライ→フィードバック→改善」を手探りで進めます。「調査→計画→設計→開発」という従来の事業開発と異なり、ゴールが見えない中で、よりフィットする在り方を模索し続けるのが特徴です。SS事業者が、これからの在り方を考える上で必要なのは、「“人間(ユーザー・従業員・経営者自身)”に向き合うこと」、そして「人格を形成する(自分をよく知る)こと」だと、土生さんは力説しました。

自分(自社)だからできることとは?社会的な存在意義は?こうした問いを腹落ちするまで考える。そして、事業の本質を問い直してください。あなたがやる意味はありますか?それはずっと持続できますか?そもそもSSって?何を提供しているの?自分たちが何者かを問いかけた上で、何をどう提供するか。そのために市場を分析すればいい。そうすると、顧客への“語り方”が変わるんです。我々はこういう存在です、と語り出すと、顧客が相談してくれるようになる。すると、共創が生まれ、パートナーが増える。事業に関わる人々が、想い、ビジョンを語り、ぶつけ合う、“対話の経済”が出来上がる。よりより社会をつくるためには、これをやっていかないといけないと思うんです。(講師・土生さん)

ワークショップでは、参加者であるSS事業者が3つのグループに分かれ、それぞれがファシリテーターの進行のもと、これから「Will=やりたいこと」と、自社の環境で「Can=できること」をポストイットに書き出しました。「なぜ?」「具体的には?」といった質問に、初めはぼんやりと書き出された言葉の深層心理や本質が次々と露わになります。この時、参加者から共通して聞かれたのが、こうした“Will”や“Can”が「当たり前過ぎて自社の特徴だと気づかなかった」という声。例えば「法人の顧客が多い」という環境を自社の特徴と捉えると「地元の菓子折りを販売すれば喜ばれるかも」というアイディアに結びつくことも。また「推し活が好き」という個人的な趣味から、「洗車待機中に好きな曲を選べるシステムにできないか?」という発想も浮かんできました。フルサービス(スタッフが給油するサービス)歴20年以上の事業者は、日々、顧客とのコミュニケーションを大切にしてきたからこそ、草刈りや引越しの人手が欲しいという個人的な相談も顧客から持ちかけられているとわかり、事業多角化への様々なニーズの可能性が目に見えて明らかとなりました。

約2時間に渡るワークショップの最後に、各グループが本日の成果を発表しました。すると、そのアイディアの数々は実に斬新なものばかり。参加者一人一人が「デザイン経営」の思考方法を習得し、改めて自信をつけた様子が伺えました。

お客様にSSへ来ていただいている限りある時間の中で、どのような時間を過ごしてもらうかが鍵だと感じました。釣り好きなオーナーは釣り堀を設置したり、隙間時間でネイルサービスを行ったり、体を鍛える場所や子供が楽しめるUFOキャッチャーを用意するなど、他にはない場所づくりをしたいです。(参加者)

忙しい顧客への気の利くサービスを時間ごとに変えて提供したいです。朝は、給油ついでにゆで卵が食べられる“モーニング”サービス。昼間は、マッサージチェアやサウナを設置して疲れを癒してもらう。夜は、店長の趣味で、ウィスキーを出すバーも併設しても面白いと思いました。(参加者)

また、講師の土生さんやファシリテーターからは、こんな激励の言葉がかけられました。

かつて、日本の産業、生活、文化は渾然一体で成り立っていたけれど、時代を経て、産業は工業団地、生活は住宅街…と分けられてしまい、自分自身は、経済を成り立たせるための“部品”のように感じてしまう人もいるのではないでしょうか。これからの時代は、産業や生活をもう一度一つにするようなコミュニティが求められていて、SS事業者は、その拠点になり得るのではないかと思います。(講師・土生さん)

参加者の中には、車のメンテ中に、地域の仲間が経営する店を載せたオリジナルの地図をお客さんに配り、自転車をレンタルする取り組みをつくった人もいました。今後は、そうしたポジティブな情報を積極的に発信していくなど、まだまだできることはあるし、さらなる新しい可能性はあると感じています(ファシリテーター・浅野 翔さん)

中部経済産業局は、今後も関係機関との連携を深めながら、SSへの必要なサポートを行う構えです。燃油のインフラでありながら、今後、どのような“人格”を形成し、その個性を発揮していくのか。SS=サービスステーションの“これから”の変貌に大きな期待がかかります。


  • 浅野 翔(あさの・かける)

    1987年兵庫県生まれ、名古屋育ち。2014年京都工芸繊維大学大学院デザイン経営工学専攻修了。同年から、名古屋を拠点にデザインリサーチャーとして活動を始める。
    「デザインリサーチによる社会包摂の実現」を理念に掲げ、調査設計、ブランド・商品開発、経営戦略の立案まで、幅広いジャンルで一貫したデザイン活動を行っている。
    「未知の課題と可能性を拓く、デザインリサーチ手法」を掲げ、文脈の理解〈コンテクスト〉と物語の構築〈ヴィジョン〉を通した、一貫性のある提案を行う。

    kakeruasano.com

    1987年兵庫県生まれ、名古屋育ち。2014年京都工芸繊維大学大学院デザイン経営工学専攻修了。同年から、名古屋を拠点にデザインリサーチャーとして活動を始める。
    「デザインリサーチによる社会包摂の実現」を理念に掲げ、調査設計、ブランド・商品開発、経営戦略の立案まで、幅広いジャンルで一貫したデザイン活動を行っている。
    「未知の課題と可能性を拓く、デザインリサーチ手法」を掲げ、文脈の理解〈コンテクスト〉と物語の構築〈ヴィジョン〉を通した、一貫性のある提案を行う。

    kakeruasano.com

  • オゼキ カナコ

    ショップアドバイザー・ライフコーチ/3rd penguin

    岐阜県各務原市在住。ライフスタイルショップ「長月」の経営を経て、現在はショップアドバイザーとしてさまざまな店舗や事業者に伴走。2016年に地域コミュニティ「一般社団法人かかみがはら暮らし委員会」を仲間たちと立ち上げ、2022年にはコーチングサービス「3rd penguin」をスタート。コミュニケーションによる思考整理や課題解決、ファンベースによるお店作りが得意。人と人がゆるくつながる場づくりをしています。

    岐阜県各務原市在住。ライフスタイルショップ「長月」の経営を経て、現在はショップアドバイザーとしてさまざまな店舗や事業者に伴走。2016年に地域コミュニティ「一般社団法人かかみがはら暮らし委員会」を仲間たちと立ち上げ、2022年にはコーチングサービス「3rd penguin」をスタート。コミュニケーションによる思考整理や課題解決、ファンベースによるお店作りが得意。人と人がゆるくつながる場づくりをしています。

  • 後藤麻衣子

    株式会社COMULA コピーライター / 「句具」代表 / 俳人

    1983年岐阜生まれ。コピーライター・編集者。地元バス会社のバスガイド、地域情報誌の編集部を経て、2010年にライターとして独立、その後コピーライターに。工業デザイナーの夫が経営する株式会社COMULAで、商品開発やブランディング、コピーライティングに携わる。コピーライターズクラブ名古屋会員。
    俳句が趣味で、2020年10月に俳句のための文具ブランド「句具」を立ち上げる。蒼海俳句会所属、現代俳句協会会員。「全国俳誌協会 第4回新人賞 特別賞」受賞、「第11回 百年俳句賞」入賞。

    1983年岐阜生まれ。コピーライター・編集者。地元バス会社のバスガイド、地域情報誌の編集部を経て、2010年にライターとして独立、その後コピーライターに。工業デザイナーの夫が経営する株式会社COMULAで、商品開発やブランディング、コピーライティングに携わる。コピーライターズクラブ名古屋会員。
    俳句が趣味で、2020年10月に俳句のための文具ブランド「句具」を立ち上げる。蒼海俳句会所属、現代俳句協会会員。「全国俳誌協会 第4回新人賞 特別賞」受賞、「第11回 百年俳句賞」入賞。

  • 白石 恭一

    錦2丁目エリアマネジメント 広報・企画・運営

    名古屋・東京の飲食業界で約6年間働く中で関わった愛知県 岡崎市の社会実験やD&DEPARTMENT株式会社に入社したことをきっかけに、まちづくりに興味を持ち、思い切って不動産会社へ転職。2021年、食と街の業界で得た多数の経験を活かし2022年にオープンする拠点運営を担う為、錦二丁目エリアマネジメント株式会社へ入社。

    名古屋・東京の飲食業界で約6年間働く中で関わった愛知県 岡崎市の社会実験やD&DEPARTMENT株式会社に入社したことをきっかけに、まちづくりに興味を持ち、思い切って不動産会社へ転職。2021年、食と街の業界で得た多数の経験を活かし2022年にオープンする拠点運営を担う為、錦二丁目エリアマネジメント株式会社へ入社。

  • FabCafe Nagoya

    ものづくりカフェ&クリエイティブコミュニティ

    デジタルファブリケーションマシンと制作スペースを常設した、グローバルに展開するカフェ&クリエイティブコミュニティ。
    カフェという”共創の場”でのオープンコラボレーションを通じて、東海エリアで活動するクリエイター、エンジニア、研究者、企業、自治体、教育機関のみなさまとともに、社会課題の解決を目指すプロジェクトや、手を動かし楽しみながら実践するクリエイティブ・プログラムなどを実施。
    店頭では、農場、生産者、品種や精製方法などの単位で一銘柄とした『シングルオリジン』などスペシャリティコーヒーをご提供。こだわり抜いたメニューをお楽しみいただけます。

    デジタルファブリケーションマシンと制作スペースを常設した、グローバルに展開するカフェ&クリエイティブコミュニティ。
    カフェという”共創の場”でのオープンコラボレーションを通じて、東海エリアで活動するクリエイター、エンジニア、研究者、企業、自治体、教育機関のみなさまとともに、社会課題の解決を目指すプロジェクトや、手を動かし楽しみながら実践するクリエイティブ・プログラムなどを実施。
    店頭では、農場、生産者、品種や精製方法などの単位で一銘柄とした『シングルオリジン』などスペシャリティコーヒーをご提供。こだわり抜いたメニューをお楽しみいただけます。

  • 斎藤 健太郎 / Kentaro Saito

    FabCafe Nagoyaプログラム・マネジャー、サービス開発 / 東山動物園くらぶ 理事 / Prime numbers syndicate Fiction implementor

    名古屋における人ベースのクリエイティブの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。

    電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。

    インドカレーと猫が好き。アンラーニングを大切にして生きています。

    名古屋における人ベースのクリエイティブの土壌を育むためにコミュニティマネージャーとしてFabCafe Nagoyaに立ち上げから携わる。

    電子工学をバックボーンに持ち科学技術への造詣が深い他、デジタルテクノロジー、UXデザインや舞台設計、楽器制作、伝統工芸、果ては動物の生態まで幅広い知見で枠にとらわれない「真面目に遊ぶ」体験づくりを軸とした多様なプロジェクトに携わる。

    インドカレーと猫が好き。アンラーニングを大切にして生きています。

Author

  • 東 芽以子 / Meiko Higashi

    FabCafe Nagoya PR

    新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。

    「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。

    趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。



    新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。

    「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。

    趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。



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