Event report

2025.7.10

セルフ・オーナーシップ  〜 幸せとは「状態」ではなく「自己選択」の積み重ね〜 デンマーク発 フォルケホイスコーレの風を感じるランチ会レポート

伊藤 遥 / Haruka Ito

FabCafe Nagoya コミュニティマネジャー、ディレクター

2025年6月30日、デンマークにある全寮制教育機関「フォルケホイスコーレ」へ留学し、一時帰国中の中学校教員・chisaさんをゲストに、FabCafe Nagoyaにて「フォルケホイスコーレの風を感じるランチ会」が開催されました。

フォルケホイスコーレとは、「試験も成績もない、自分の興味関心をテーマに学ぶ場所」。そこには10代からシニアまで多様な人々が集まり、対話と実践を通して“生き方”と向き合っています。

chisaさんの語りを通じて浮かび上がった、デンマークやフォルケホイスコーレに文化として根付いている“自由と幸福”の哲学。その一部をご紹介します。

  • chisa

    旅途中の教員

    希望叶わず入学した女子校で「女性史」に出会い、男女対等に働ける教員の道へ。しかし学級委員タイプの自分に疑問をもち、ファシリテーションに出会う。進路指導にも疑問をもち、キャリアコンサルタント取得し「聴くこと」の意味が変わる。学年主任の立場に悩み、「このままでは病む」と思いコーチングを学ぶ。“変えられるのは自分と未来(と過去の解釈)”。コロナ禍で発酵生活にハマり、発酵ライフアドバイザー取得。ご縁と直感でデンマークへ。円安と教育のあり方に嫉妬し(笑)今は休職して学び直し現地探究中。どこでも歌っちゃう人。

    希望叶わず入学した女子校で「女性史」に出会い、男女対等に働ける教員の道へ。しかし学級委員タイプの自分に疑問をもち、ファシリテーションに出会う。進路指導にも疑問をもち、キャリアコンサルタント取得し「聴くこと」の意味が変わる。学年主任の立場に悩み、「このままでは病む」と思いコーチングを学ぶ。“変えられるのは自分と未来(と過去の解釈)”。コロナ禍で発酵生活にハマり、発酵ライフアドバイザー取得。ご縁と直感でデンマークへ。円安と教育のあり方に嫉妬し(笑)今は休職して学び直し現地探究中。どこでも歌っちゃう人。

自分で「祝って!」と言える自由──幸せは受け身じゃなく、自分でつかみにいくもの

 

「誕生日を祝ってほしいなら“祝って”って自分で言うし、ケーキも自分で用意するんです」

chisaさんのこの一言に、会場がふっとあたたかい笑いに包まれました。

chisaさんによると、デンマークでは「察してほしい」という文化よりも、「自分が望むことは、遠慮せずに伝える」という空気が根づいているとのこと。それは決してわがままなことではなく、自分の内側にある願いを素直に表現することから始まる「対等な関係性」の在り方を体現しているようでした。

お祝いして欲しいなら自分から祝ってもらえるよう自分で企画する。逆に祝ってほしくないならやらない。自分の欲求や願いを我慢して他者の出方を待つのではなく、「私はこうされたい」と言葉にする。それが、自由と責任を両方引き受けるということ。だからこそ、自分をどう満たしていくのか?という「幸せの主導権はいつも自分にある感覚」が自然に育っているのだといいます。

「子どもが水をこぼしたとき、私たちはすぐに“どうして?”とか“気をつけてよ”って言いがちだけど、本当はただ『水がこぼれた』という事実があるだけ。そこから自分がどう行動するかをただ自分で選ぶだけなんですよね」

幸福とは、特別な誰かに与えられる“状態”ではなく、目の前にある事実を冷静に見つめ、日々自分の幸せとは?という問いに対して小さな納得解を重ねながら、自分自身でつくりあげていく“姿勢と行動”そのものなのだと。

 

デンマークでは国旗のピンがたくさん売られていて、お祝い事の際によく使用されるのだという

 

 

「やりたいならやる。やりたくないならやらない」──双方の自由を尊重することで育まれる信頼関係と自発性

デンマークでは、「言い出した人が責任をもってやる」という文化が根付いているそうです。たとえば週末にイベントをやろうという話が出ると、企画から準備、実行までを提案者がすべて担うのが前提。「誰かが手伝ってくれて当然でしょ」「みんなで協力してやるものでしょ」という感覚は、そもそも存在しません。

協力したい人がいれば自ら手を挙げて手伝うし、参加しないという選択も尊重される。つまり、関わることも、関わらないことも、すべては“自分で決める”自由のなかにあります。

あるとき、イベントの片付けに数名しか来なくて、作業していたときのこと。通りかかった学生たちが「なんかやってるな」と気づいて自然に手伝い始めたのだそうです。しかもそのやり取りも「ありがとう」と軽くハイタッチするくらいのラフさで、見返りも評価も求めない。あたたかく自由な関係性がそこにはありました。

「クラスでの企画は、仲間として手伝うことが当たり前だ、と思っていた自分に気づいた」

そうchisaさんは言います。やらされ感のない自発性、それを土台とした信頼関係が根付いているのを感じました。

「幸せじゃなかったら変えていい」──継続も変化も“自分の感覚”が基準

「『18年間教員を続けている』」と話したとき、『すごくハッピーなんだね!』って言われたんです。でも、これまでこの仕事を続けていることがものすごく幸せだなんて思って過ごしたことがなかった。むしろ、大変だったね、って言われることのが多かった。」

日本であれば「頑張ったね」とか「大変だったでしょう」と返されがちなこの経験が、「幸せだったから続けてこられたんだね」と捉えられる。その文化の違いに驚いたとchisaさんは振り返ります。

デンマークでは、継続も転職も、外からの評価ではなく「自分が今幸せかどうか」が判断の基準。ある日突然「明日で辞めるね」と言っても、「そうなんだね」と自然に受け止められる。一人の平均転職回数が6~7回とも言われる背景には、「違和感を感じたら、自分の気持ちの軸を大切にする。我慢するより変化することを選ぶ。それこそがお互いにとって大切なことであるという感覚を前提としてもっている」からとのこと。

特別なことがなくても、平凡な1日を「今日もいい日だったね」と喜び合える。これは、何かが“あるから幸せ”なのではなく、「今ここにある日常のなかで、自分の幸せや心地よさは何か考え、選びとっている」からこその感覚です。

幸福度ランキングで北欧諸国が上位にあるのも、何か特別なことをしているから幸せであるというよりも、「日々常に自分自身が幸せでいるための自己選択を尊重する文化」が支えているのだと、chisaさんの言葉から強く伝わってきました。

 

「Just BODY!」──違いを違いのまま、ありのあまの事実として受けとめる、やさしい社会のまなざし

「あるとき、目の前に全裸で泳いでいる男子学生がいて、目のやり場に困ったことがあって。その話をデンマークの友人に伝えたときに返ってきたのは、「Just BODY!”」という一言。じっと見るのは失礼になるけれど、ただの身体だよ、と。

「いやらしいかどうかは、見る側の問題であって、身体そのものに意味や優劣はない」──その考え方は、ジェンダーや見た目、障がいのあるなしなど、多様な違いを“ありのまま”に受け入れる文化の根っこにあると感じられました。

性教育の授業も一部の学校で行われており、性に対してオープンで、恥やタブーではなく、「知ること」として、対話が行われているとのこと。性教育指導員という専門の方がファシリテートするそうです。「完璧な体」ではなく、「多様な体」に触れること、性的自己決定権の基礎作りにもつながっています。

障がいのある生徒も含めて「一人一人の身体がどれほどユニークで、それが当たり前のことなのか」を感じ、考えを伝え合う対話の機会がある。これは単に知識を得る教育ではなく、「自分の輪郭を知り、大切に扱うこと」を学ぶ時間でもあると思います。

違いを問題にせず、違いのまま、ただ尊重する。その視点は、多様性を大切にしながら生きていく上でとても大切なヒントを投げかけてくれているように思えました。

幸せは、どこかにあるものじゃない。選び取る感性として育てていくもの

「幸せって、どこかにあるんじゃなくて、“気づく力”なんだと思う」

chisaさんのこの言葉に、会場の多くの人が静かにうなずいていました。外側の出来事を変えることは難しい。でも、その出来事にどんな意味を与えるか、どんな選択をするかは、私たち一人ひとりに委ねられています。

自分の感覚に正直に、「今、自分はどう感じているか?」に耳を澄ますこと。それができるようになると、どんな環境にいても、小さな幸せに気づく力が育っていく。彼らがもつ「今ここにあるもの、感じたことを大切にする力」から多くの気づきが得られた時間でした。

イベント終了後も、多くの参加者がカフェに残り、スイーツやドリンクを片手に、余韻を味わいながら語らいを続けていました。それは「この場にいたい」「もっと話したい」という純粋な気持ちに導かれた行動であり、まさに“自分の幸せを選ぶ”という感覚を体現していたように思います。

 

FabCafe Nagoyaでは、DE&Iやウェルビーイング、これからの働き方や生き方に関するテーマに対して、企画から運営まで様々なソリューションを提供しています。お気軽にご相談ください。

 

Author

  • 伊藤 遥 / Haruka Ito

    FabCafe Nagoya コミュニティマネジャー、ディレクター

    大学卒業後、ReFaやSIXPADなどを手がける株式会社MTGへ入社し、新卒採用や組織開発を担当。多くの大学生と接する中で、「早期より多様な大人と経験に出会う機会が必要だ」と感じ、教育業界へ転身。2020年より名古屋市キャリア・サポート事業に参画し、高校常駐のキャリアナビゲーターとして、約5年間社会人・大学生等の外部人材を活用した探究プログラムの企画・実施や、高校生による主体的アクションの伴走支援を実施。現在はFabCafe Nagoyaのコミュニティーマネジャーとして、教育を中心とした新しいプラットフォーム形成を企画中。キャリアコンサルタント、キャリア教育コーディネーター。1児の母。

    大学卒業後、ReFaやSIXPADなどを手がける株式会社MTGへ入社し、新卒採用や組織開発を担当。多くの大学生と接する中で、「早期より多様な大人と経験に出会う機会が必要だ」と感じ、教育業界へ転身。2020年より名古屋市キャリア・サポート事業に参画し、高校常駐のキャリアナビゲーターとして、約5年間社会人・大学生等の外部人材を活用した探究プログラムの企画・実施や、高校生による主体的アクションの伴走支援を実施。現在はFabCafe Nagoyaのコミュニティーマネジャーとして、教育を中心とした新しいプラットフォーム形成を企画中。キャリアコンサルタント、キャリア教育コーディネーター。1児の母。

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