Event report
2025.11.12
FabCafe Global 編集部
都市探検の実験 — FabCafeから、街へ
もし、一本の電話が、あなたの心をガイドしてくれるとしたら?
もし、一匹のネコが、遊び心をくすぐってくれるとしたら?
ご紹介するのは、そんな不思議な問いから始まった、台北の街角での小さな実験の物語です。
私たちFabCafe Taipeiは、ヒトとモノとの「インタラクション(コミュニケーション)」とは、空間や、キャラクター、そして街そのものとの「対話」だと考えてきました。
LANdLine Projectは、その想いをカタチにした、私たちにとって初めての試みです。このプロジェクトは、従来の地図によるナビゲーションではなく、あなたの「今の気分」から始まり、会話を通して展開していく「感情のナビゲーション」という体験を提供しています。
2025年、FabCafe Taipeiは西門(Ximen)地区に移って2年目、創業から12年目を迎えます。過去と未来が交わるこの街角で、私たちは日々、クリエイター、学生、旅行者、地元の人々といった、実にさまざまな背景を持つ人々と出会います。
こうした多様な出会いが、私たちの心に次の問いを芽生えさせました。
もしFabCafeが、街の「感覚が集まる結節点」なのだとしたら、それは「都市探検のきっかけ(触媒)」にもなれるのではないか? 遊び心のある会話をテクノロジーを介して促せれば、街の風景を体験する方法を変えることができるかもしれない。
LANdLine Projectは、この想いと問いに対する私たちの実験的な答えです。決まったスケジュールや地図に頼る代わりに、一本の電話とキャラクターとの会話を通して街を探検してみる。そうすることで、街のリズムや香り、空気感を、もっと親密に、もっと自分らしく再発見してもらいたいのです。
編集・翻訳:青山俊之
なぜ人と街の「対話」をつなぐ媒体として、あえて固定電話を選んだのでしょうか。その理由は、アナログな固定電話による直感的な操作は、ゆったりとしたリズムで待つこと・聴くことのムードを演出し、「友人に電話で道を聞く」ときの温かさを思い起こさせてくれるからです。
ただ、受話器を取ったとき、何が聞こえてくるかわかりません。その「不確かさ」こそが、心躍る探検の旅の始まりなのです。
電話の向こう側には、「Milo(ミロ)」というバーチャル猫が待っています。機敏で、好奇心旺盛で、少しいたずら好き。Miloは、私たちが「LANdLine」実験のために特別にデザインした、オーダーメイドのシティガイドです。
Miloは中国語、英語、日本語、またはタイ語で「今日の気分はどう?」「どんな雰囲気に浸りたい?」といった簡単な質問をいくつか投げかけてきます。あなたの答えに基づき、Miloはその瞬間の心境にマッチした場所を提案してくれます。
このMiloと「対話する仕組み」は、AIと共同で設計し、改良を重ねて実現しました。コミュニケーションとその文脈を機械的に処理し、多様に花開く会話の流れを推測しながら、それに合わせてMiloの声色や話し方も変化するようにチューニングしました。その結果、単なる翻訳ではなく、言語ごとにキャラクターのニュアンスが微妙に変化する、「多言語で表現力豊かな」体験を実現できました。
音声ガイド、NFCタップ、リアルタイム・プロジェクション、そして物理的な電話機を組み合わせ、LANdLineの展示は会話から始まる都市探検を創り出しているのです。
私たちが発見したのは、FabCafeへの初訪問者であれ、この空間をよく知る常連客であれ、誰もがノスタルジックで遊び心のある固定電話に容易に惹きつけられたということでした。
周囲を見渡しながら「これ、本当に電話できるの?」と尋ねる人もいれば、興奮した様子で受話器を手に取り、都市探索を始める人もいました。
中には、Miloとセルフィー(自撮り)を試みる人さえいたのです。
利用者はMiloとの会話を楽しめるだけではありません。Miloからの質問に答えることは、人々に内省を促す効果もあったのです。
利用者「今日、私はどんな気分だろう?」
Milo「癒やしが必要なのかな? それとも冒険を求めている?」
こうした会話を続けることは、「自分自身をやさしく見つめ直す」機会にもなっていたのです。一連の応答の後、利用者はMiloが浮かべた「その人固有のおすすめの場所」を受け取ります。
Miloの肉球の形をしたセンサーゾーンに自分のスマートフォンを近づければ、パーソナライズされた地図と追加情報をすぐさま受け取ることができるのです。この体験を、多くの人は再び味わずにはいられないようです。友人グループで結果を比べ合う姿もよく見られました。
Miloが提供する推奨スポットは、FabCafeチームが地域のパートナーと共に慎重に選んだものです。私たちのコミュニティで温めた「思い出の記憶」が、利用者にパーソナライズされた体験へと染み込み、魅惑的な探検へと誘い込むのです。
LANdLine Projectは、テクノロジー、デザイン、キュレーション(企画実践)といった異なる分野から集まった4人のメンバーによる共同実験でした。私たちはまず、この地域(ご近所)のどの片隅を、どの記憶を推薦したいか、一緒に選ぶところから始めました。
そこから、各自が異なる役割を担いました。スクリプト(台本)とコンテンツデザインに集中する者。アニメーションとビジュアル・アイデンティティを通じてバーチャルガイドであるMiloに命を吹き込む者。そして、技術担当のチームメイトは、音声、映像の投影、センサーによるインタラクションがシームレスにつながるよう、システム全体を支えました。
開発スケジュールはタイトでしたが、私たちはあえて立ち止まり、チームで何度も試行錯誤を重ねる時間を優先しました。それこそが、このプロジェクトの肝である「文化的なディティール」を織り込むために必要だったからです。私たちは対話のペースを整え、Miloの声のトーンを調整し、アニメーションと発話を注意深く同期させました。
そして、バンコクを拠点とするチームメイトのおかげでタイ語も加わり、標準中国語、英語、日本語、タイ語のそれぞれでMiloの話し方を微調整しました。各言語の文化的な期待に合わせた、異なるスピーチのリズムと感情的なニュアンスを込めるためです。これらの文化的なディテールは、広範なシミュレーションと実地テストを繰り返す中で創り上げられたものでした。
私たちが磨いてきた対話的な展示制作の経験と、急速に進化するAIツールとを組み合わせることで、この展示システムの構築と実装を成功させることができました。一つひとつの調整、一つひとつの進展は、チーム全員のブレインストーミングと実践的な問題解決から生まれたものです。
この情熱をかけられたのは、私たちにとって、これが単なる技術的なショーケースではなかったからでした。このLANdLine Projectは、「都市と対話する」とはどういうことか——その大きな問いの答えを、電話を通した一人ひとりとの小さな対話を通じて探求していく、創造的な試みだったのです。
この展示は、LANdLine Projectの始まりにすぎません。台北市の西側から始まったこのプロジェクトは、文化イベント、アートフェスティバル、近隣ツアー、あるいは地域活性化プロジェクトまで、あらゆる都市の文脈に適応させ、持ち込むことができる可能性を秘めていると信じています。そこに物語が、路地が、そしてそこに住まう人々の記憶がある限り、「LANdLine」の対話的なデザインは、きっと共鳴し、その意義を見出してもらえるはずです。
今後、私たちはこのシステムの体験を継続的に進化させていきたいと考えています。たとえば、キャラクターの「Milo」がもっと巧みに自然言語を理解できるようにし、よりスムーズで人間らしい音声会話を生み出すことを目指しています。あるいは、リアルのツアーとゲームのような仕組みを組み合わせ、探検が電話機だけで終わってしまうのではなく、人々がその街のリズムに乗って足を踏み出し、リアルな街の質感に触れるきっかけを作るなど、さらなる構想を企てています。
私たちはまた、この展示がストーリーテリングの一つの「ひな形」となり、クリエイティビティとテクノロジーを融合させた、さらなる都市実験を触発することも願っています。LANdLineは、未来にどのような姿になっているでしょうか? 私たちは、あえてその答えを一つに定めるつもりはありません。なぜなら、それぞれの都市が、すべてのコミュニティが、そしてあらゆる路地が、それら自身のユニークな「答え」をきっと示してくれると信じているからです。
プロジェクト概要
プロジェクト期間:2025年3月~5月
プロジェクトチーム:Tim Wong, Paul Yeh, Jetsada Wongwanjaroen, Pinhua Chen, Jean Wang
特別協力
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FabCafe Global 編集部
FabCafe Global チームを中心に作成した記事です。
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