Event report
2025.8.17
伊藤 遥 / Haruka Ito
FabCafe Nagoya コミュニティマネジャー、ディレクター
みなさんこんにちは!
FabCafe Nagoya 教育コミュニティマネジャーの伊藤遥(こはる)です。
私は日々「教育」に関わる活動をしているのですが、実は多くの人が教育に関心をもっていることに気づきます。
教育水準の高い日本。ほとんどの人が何らかの形で教育に関わっており、自身の経験と実社会での出来事を照らし合わせ、さまざまな考えや思いを抱いているように思います。
「こんな教育だったら」「ここを変えられたら」
と、規模は違えど、それぞれの立場から、未来への意見や展望を描いています。
しかしその想いは、学校や家庭、企業や行政など、バラバラの場所やコミュニティ内で、閉鎖的に語られてしまうことが多いのが現実です。また、「壁が高い」と感じて行動に移せないケースも少なくありません。
「もっとこうできたらいいけど、でも……」「もうこれ以上は、無理かもしれない……」
さまざまな現場で、それぞれの立場で、そんな声がぽつりとこぼれる場面をよく目にしてきました。
私はこれまで、「民間企業」と「公立高校」というまったく異なる現場で教育に関わってきました。
そこで強く感じたのは——同じように教育に関心があっても、組織や役割が異なるだけで、交わりが起こりづらいということ。
幼小中高の市立・県立・県外・私立の教職員、教育委員会、大学教職員・研究者、ライフ・キャリア専門家、NPO団体や社団法人、民間企業、メディア関係者、学生、クリエイター……
私がこれまで「教育」を通して出会ってきた、またこれから出会う、さまざまな教育に関心のある方々がもし立場を超えて出会い、語り合い、一歩を動き出すきっかけとなる場所があったら?
そんな想いから生まれたのが「Nagoya After School Lounge」です。
「正解探しの議論」でも、「教える・教えられる」の関係でもない。ともに未来をつくる、フラットな対話の場として。
専門家も、他の参加者と一緒の立場で参加し、語り合う。
記念すべき第1回のテーマは「創造的で共感的な学びづくり」。
特別ゲストとして、沖縄を拠点に全国の格好へ向けて、SEL(Social Emotoional Learning /社会性と情動の学び)の大切さを伝え、広める活動をしている、株式会社roku youの下向依梨さんにお越しいただきました。
SELとは、人と良好な関係を築く「ソーシャルスキル」と自分や他者の感情に気づき行動する「エモーショナルスキル」の2つを軸に、社会性と情動を体系的に学んでいくことを指します。
教育移住先としても有名なシンガポールでは全校に必修化されているほか、アメリカやカナダ、北欧でも徐々に学校教育に取り入れられており、「学力」だけではない、幸せに生きていくための土台となる力として注目されています。(参考 下向絵梨『世界標準のSEL教育のすすめ──「切りひらく力」を育む親子週間』小学館、2024年)
そんなSELの専門家を交えながら、この日は「教育と感情」をテーマに対話を行いました。
特別ゲストも他の参加者の方と一緒の立場で参加する、というのが Nagoya After School Lounge らしさ。
会場には、小・中・高の学校の教職員、教育委員会の方、民間企業の方、大学教授、経営者、保護者、映像クリエイター、フリーランスなど、27名の大人と3名の子どもが参加しました。
それぞれがその日の気分にあったFabCafe Nagoyaのドリンク・手作りスイーツを味わいながら、自然とテーブルで会話が始まりました。
感情を色と形に—世界にひとつだけの名札づくり
最初のワークは、「今の感情」を色と形で表現し、名札にすること。
使用したのは、Circular Company SNT(株式会社エス・エヌ・テー)のアップサイクルブランド「Lune Lune」のデザインペーパー。新聞印刷の色調整で出る紙を利活用(アップサイクル)したもので、ひとつとして同じ色や模様はありません。このデザインペーパーを使用し、今の自分の感情に合う色を選び、自由に形を切り取ります。
トゲトゲだったり、まんまるだったり。大きかったり、小さかったり。細長いものや、何かの生き物まで。同じテーマなのに、同じ色形の人は誰一人いない。名札ができあがった瞬間から、姿形からはわからなかったその人のウチガワが少しだけみえてくる。自己紹介や会話も自然とひろがっていきます。
1日の感情の波を見える化する「Mood Chart Work」
2つ目のワークは、1日の感情の動きを一本の線で描く「Mood Chart Work」。
横軸は時間、縦軸は感情をプラスとマイナスと捉えて、1日を丁寧に振り返りながら1本の線を描いていきます。すらすらと書く人もいれば、どんな気持ちだったっけ、戸惑う人も。人によってなだらかな線の人もいれば、ジェットコースターのコースのような線の人もいました。
「意外と1日に感情の波があることに気づいた」
「最悪な日だと思っていたけど、小さな嬉しさがたくさんあった」
「感情の動き」という視点で今日一日の自分を振り返ることで、多くの感情が自身の中で生まれ、変化していることに気づきます。
Nagoya After School Loungeのコンテンツの中心は「対話」となっています。答えのない問いを、さまざまな立場や役割を超えてフラットに話し合った時に生まれる何かを、味わう。この日の対話は、自身のMood Chartの共有から始まりました。参加者それぞれが今日一日の感情の動きを線で描き、理由や背景をシェアしていきます。
ある参加者は、「今日の気持ちの揺れは全部、子どもがきっかけだったと気づいた」と話します。
もちろん子どもの影響でマイナスになった感情もあった。でも、子どものおかげでたくさんの小さなプラス(幸せな出来事)があった。そしてそれを普段、見過ごしていた。このワークをしたことで、きちんと言葉で「ありがとう」と子どもに伝えられた。その瞬間、日常の中で感情を意識することの価値を実感できたそうです。
別の参加者は、「日常で感じる“最悪な出来事”も、感情の流れ全体で見るとほんの一部に過ぎない」と話していました。Mood Chartを描いたからこそ、小さなプラスの出来事—誰かが配慮してくれた瞬間や、道中のちょっとした幸せに目を向けられたと言います。
感情を大切にしやすいとき、しづらいとき
次の対話テーマは、「感情を大切にしやすいとき/しづらいとき」。
「時間や気持ちの余裕があるときは感情を受け止めやすい」
「相手にジャッジされない安心感があると素直になれる」
「映画を観ている時は、感情をとても大切にできていると思う」
そんな意見が付箋に書かれ、ホワイトボードいっぱいに貼られていきます。
中には、「忙しさで感情を押し込めてしまう」「職場で感情を語る機会がない」「生徒指導中や保護者対応中は、自分の心に蓋をしている」という働く現場のリアルな声も出てきました。「こんなにも深く自分の感情について考えたことなんてなかった」そんな声も聞こえていました。
自分にも相手にも共感的である学びの場(教室)にあるもの、ないもの
最後の対話テーマは、「自分にも相手にも共感的である学びの場(教室)にあるもの、ないもの」。
自身の感情と深く向き合ってきたところで、このラウンジのテーマである「教育(学びの場)」にフォーカスします。前提条件をどう設定するのか?捉え方や切り口をどのようにするのか?この大きな問いに対しさまざまな角度で対話が繰り広げられます。
「一人ひとりの話をちゃんと聞く姿勢」「違う意見を否定しない空気」「安心して沈黙できる時間」
そんな“あるもの”が挙がる一方で、
「成果や効率だけが評価される文化」「意見を言っても受け止められない経験」
といった“ないもの”も挙げられました。
多様な立場の人が集まっているからこそ、「自分の現場では当たり前だと思っていたこと」が別の現場では全く違ったり、場を超えて共感したりする場面もありました。学校の先生が「自分の感情を職場で話す機会がほとんどない」と言えば、民間企業勤務の参加者から「社員教育の現場でも同じ」という声が返ってくる。立場が違っても、共通する感覚がある——それが共有されたとき、場の空気がぐっと近くなりました。
教育と感情とテーマにした、フラットな対話の場がもたらしたもの
立場を超えて、教育をテーマにフラットに対話する場を作りたい。そんな想いで始めたこの場に集まってくださった30名の方々。私が想像していた以上に各々が自由にゆったりと、けれども熱のこもった対話が行われていました。
「普段考えないことを考えるきっかけになった」
「自分の話をしっかりきいてもらう経験が久しぶりで嬉しかった」
「こんなにも多様な人とフラットに話せる場は、普段働いている環境では作れない」
ついつい、社会の「こうあるべき」に対して適合的に生きてしまいがちな大人たちが、敢えて「感情」というものにじっくりと向き合うことで、新しい教育のあり方やヒントが見えてくる。それぞれの、小さな、でも確かな次への一歩が見えてくる。そんな時間をともにに過ごすことができました。
またここにいらっしゃる方々、そしてまだこれからいらっしゃる方々と、このような時間をともに過ごせることを心から願っています。
FabCafe Nagoyaでは、教育をテーマにした学校・学生連携や、子ども向けプログラムの開発・実施をしています。また、SEL(Social Emotional Learning)をベースにしたソーシャルスキル・エモーショナルスキルの研修やプログラム設計、企画のご相談も可能です。
まずはお気軽にお問い合わせください。
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伊藤 遥 / Haruka Ito
FabCafe Nagoya コミュニティマネジャー、ディレクター
大学卒業後、ReFaやSIXPADなどを手がける株式会社MTGへ入社し、新卒採用や組織開発を担当。多くの大学生と接する中で、「早期より多様な大人と経験に出会う機会が必要だ」と感じ、教育業界へ転身。2020年より名古屋市キャリア・サポート事業に参画し、高校常駐のキャリアナビゲーターとして、約5年間社会人・大学生等の外部人材を活用した探究プログラムの企画・実施や、高校生による主体的アクションの伴走支援を実施。現在はFabCafe Nagoyaのコミュニティーマネジャーとして、教育を中心とした新しいプラットフォーム形成を企画中。キャリアコンサルタント、キャリア教育コーディネーター。1児の母。
大学卒業後、ReFaやSIXPADなどを手がける株式会社MTGへ入社し、新卒採用や組織開発を担当。多くの大学生と接する中で、「早期より多様な大人と経験に出会う機会が必要だ」と感じ、教育業界へ転身。2020年より名古屋市キャリア・サポート事業に参画し、高校常駐のキャリアナビゲーターとして、約5年間社会人・大学生等の外部人材を活用した探究プログラムの企画・実施や、高校生による主体的アクションの伴走支援を実施。現在はFabCafe Nagoyaのコミュニティーマネジャーとして、教育を中心とした新しいプラットフォーム形成を企画中。キャリアコンサルタント、キャリア教育コーディネーター。1児の母。