Interview

2024.3.31

crQlr dialogue 1 on 1 vol.6
蒲郡市役所 杉浦 太律

【後編】工場排ガスでみかんを育成し、家庭ゴミを燃料に?サーキュラーシティの完成形とは?

東海サーキュラー・ラボ(TOKAI CIRCULAR LAB) 兼 FabCafe Nagoya 代表の矢橋 友宏がイノベーターと循環型の未来を描く対談連載「crQlr dialogue 1 on 1」。第6回目は、自治体として「サーキュラーシティ」の実現を目指す蒲郡市にフィーチャーします。

コロナ禍で、“質的な豊かさ=ウェルビーイング”の必要性に気づいたことをきっかけに、蒲郡市が打ち出した「サーキュラーシティ」のビジョン。蒲郡にとってのサーキュラーのあり方や、難解な概念をどのように周知したのかについて伺った前編に続き、後編では、2024年時点で実証実験中という最先端の取り組みについて、蒲郡市役所 企画部企画政策課 サーキュラーシティ推進室の杉浦 太律さんに伺います。

前編は、こちらからご覧ください。

蒲郡市・杉浦 太律さん(左)とFabCafe Nagoya・矢橋 友宏

2021年に、鈴木 寿明市長が「サーキュラーシティ」を目指すことを宣言した蒲郡市。翌年には、全国の自治体として初めてメルカリでの粗大ごみのリユースに乗り出し、メディアにも多く取り上げられたことから、市民からの理解が得られるようになったと杉浦さん。では、その次のステップは…?

矢橋)家庭から出る粗大ゴミをメルカリショップでリユースする施策は確かに目を惹きますよね。一方で、「ものづくり」や「観光」など、掲げられた他の重点分野(前編参照)には、どのようにアプローチしていったんですか?

杉浦)メルカリ事業と並行して、ものづくりから出てしまう事業者の廃棄物についても、当初から実態を把握したいと思っていました。なので、市内の様々なものづくりの現場、数十軒に足繁く通って、話を聞くところから始めたんです。すると、カーテンの製造メーカーの工場では、当時、端材が大量に廃棄されていたんです。これは何かに利用できそうだと業者と相談し、様々なご縁もあり、後に、ウェディングドレスにアップサイクルするところに行きつきました。また、マテリアルリサイクルできる、梱包資材のビニールも廃棄されていたことがわかったんです。「リサイクル業者に買い取ってもらえますよ」とお声がけしたりもしました。これは盲点だったようです。

矢橋)…以前、家族が喫茶店を営んでいた時に、プラごみや生ゴミなどを全部一緒に事業ゴミとして回収してもらっていたのをよく見ていました。家庭だと分別して自治体が回収しているゴミも、案外「事業用」となると一緒くたに廃棄してしまっているんですよね。(苦笑)。まとめて一括で廃棄物回収を請け負う業者がいたりするので、事業者さんがマテリアルリサイクルについての認識が薄くなりがちなのも理解できます。自治体との連携があれば、リサイクルについても、もっと改善できそうですね。

カーテンメーカーの端材でつくったウェディングドレス

  • サーキュラーシティのPRイベント

  • アップサイクルドレスのPRには市民をモデルを採用

矢橋)そして、端材から何かできないか、最近は多くの事業者さんもアイディアを探していますよね。FabCafe Nagoyaでも、事業者さんから提供をいただき、アクリルパネルや木材などの端材で工作キットを扱ったりしています。それにしても、カーテンからウェディングドレスはなかなか思いつかないですね!

杉浦))実は、アップサイクルのプロジェクトは偶発的に生まれたんです。サーキュラーシティのPRイベントで登壇者にカーテン製造メーカー(上記)を視察してもらった時に、登壇者のお一人から「ウェディングドレスにできるかも」とアイディアをいただいたんです。プロの視点を借りたことでアップサイクルが一気に本格化しました。でも、それ以上の収穫もあって。蒲郡市も事業者の取組みについて広報PRのバックアップをしたので、結果的に新聞などに掲載されたんです。事業者さんはとても喜んでくれて。「もっと頑張ろう!」というやる気に繋がったようで、事業者さんが自発的に次のステップを考えてくれるようになったんですよ。マテリアルリサイクルも、メリットを感じたカーテン事業者さんが同業者にも声をかけてくれて、今では、賛同した数社共同でビニールの回収車両を手配するようになったり。こういうプラスの変化を目の当たりにすると、まだまだ資源を循環させる新しい仕組みがつくれると思うんです。

矢橋)自治体が旗を振ることで「その地域にとって有意義なことを実行している」という意識が根付きやすい。小さなことでも具体的に実現すると、関わった人の意識が変わって、主体的に他の人たちを巻き込み始める…まさに自治体ならではの役割を担われていると感じるし、中長期的には自治体が関わらなくても活動が持続するという、まさにサステナブルなアクションですね!

蒲郡市内の工場から排気されたCO₂が充填されたドラム缶(写真左)をみかんを栽培するビニールハウス内に設置し、適宜CO₂を放出することで光合成を促進させる

矢橋)今、一番新しい取り組みはどのようなものですか?

杉浦)工場から排出されるCO₂をみかん栽培に再利用するプロジェクトや、家庭ゴミをバイオマス燃料に変えるプロジェクトの実証実験をしています。ビニールハウスを締め切って行われる冬の温室みかん栽培では、光合成を促進させるために、灯油を燃焼させてまでCO₂を発生させていると聞いています。一方で、わざわざCO₂を発生させなくても、無くしたいCO₂はたくさんありますよね(笑)。そこで、蒲郡市のサーキュラーへのアクションに興味を示してくれた日本特殊陶業が自社の技術を使って、同様にして繋がった竹本油脂(本社・蒲郡市内)の工場から排出されるCO₂をドラム缶に回収する実証が始まりました。それを市内のビニールハウスに運び、みかん栽培に再利用する循環システムをつくりはじめています。CO₂濃度が担保できるなどのメリットが出て品質も安定すれば、特産品の蒲郡みかんにさらなる付加価値が出るし、地域で出たCO₂を地域で直接再利用する新しい循環モデルができる。これは、全国的にも珍しい取り組みだと思います。

  • 家庭ゴミを再生させた“燃料”

  • プラントの説明会において特殊機材が公開された

杉浦)一般廃棄物からバイオマス燃料をつくるプロジェクトでは、名古屋の産廃業者、ダイセキと組んでいます。ダイセキは、サーキュラーシティの表明当初から「ビジョンが一致するので何か一緒にできないか」とご相談いただいていたんです。廃棄物を資源化しようという事業者は増えているんですが、プラントの土地探しから建築確認、それに、廃棄物自体をプラントで処理する行政手続きなど、自治体である蒲郡市にしかできないこともありますので、どんどんと事業者と繋がり、新しい流れができればいいと思っています。

矢橋)民間事業者だけだと、どうしても規制や申請手続きなど、乗り越えるのが容易じゃないハードルがいくつか存在するので、そこに主体的に自治体が関わってもらえるというのは、心強いしスピード感も上がりそうです。

矢橋)これまで、サーキュラーシティをつくるような全く新しいことをするためには、FabCafe Nagoyaのようなディスラプターが入って旧体制的な構造を壊していかないと!と思っていたけれど、今回お話を伺って、社会システムの変革への自治体の介在意義がものすごくあるなという印象を受けました。規制への対応や補助金をサポートしてくれるというメリットもあるし、中立的な蒲郡市が介在してくれることで、しがらみなくパートナー選びができる。最初の一歩を踏み出しやすくなりそう。自治体だから社会の仕組みを大胆に変えることができるんじゃないかと。今は市が中心となって事業者を繋いでアクションを起こしているけれど、サーキュラーに賛同する人がもっと現れてきて、人と人が自発的に繋がり始めたら、自治体が先導しなくても自走し始めるでしょうね。

杉浦)そうなんです。僕らが何もしなくても、皆さんが動いてくれるような、市役所の出番がないのが理想です。そうなれば目標達成かな、と思います。今思うと、市長がビジョンを先行して表明して「サーキュラーシティ」構想がスタートした時は、具体的な施策が見えず、正直不安でした(笑)。でも、蓋を開けてみると、サーキュラーへ関心を寄せる人は確実にいて、様々な問い合わせをいただいた中から、現在の実証実験の実施にも繋がった。なので、仲間を集めるという意味でも、ビジョン先行が功を奏したのかなと改めて感じています。今後は、情報を一元管理したり、事務機能も持つコミュニティをつくりたい。サーキュラーに関心のある事業者や市民が集まって、そこからそれぞれが自走し始めたら…きっとそれがこのプロジェクトの完成形になるんだと思っています。

矢橋)循環型“経済”という概念を一歩進めて循環型“社会”を構想した時に、モノの循環に留まらない、自然の循環や、お金の循環、人から人への恩の循環など、あらゆるものがその地で循環するのが目標だと感じています。そこでは、あらゆる人が役割を担うことができるし、経済以外での豊かさが実感できるはず。今回の対談を通じて、蒲郡がそんな理想を目指してトップランナーとして走り続けていく期待感を抱きました。他の事業者やエリアの方々との連携も増えていくといいですね!

 

後編 完


  • 杉浦 太律

    蒲郡市役所 企画部 企画政策課 サーキュラーシティ推進室 主査

    1983年生まれ、愛知県蒲郡市出身。2006年蒲郡市役所に入庁。
    総務や教育部局で従事し、国土交通省中部運輸局への派遣を経て、2016年から企画政策課へ配属。2022年4月に企画政策課内にサーキュラーシティ推進室が新設され、推進室においてSDGsやサーキュラーエコノミーの推進に関わる業務を担当。

    1983年生まれ、愛知県蒲郡市出身。2006年蒲郡市役所に入庁。
    総務や教育部局で従事し、国土交通省中部運輸局への派遣を経て、2016年から企画政策課へ配属。2022年4月に企画政策課内にサーキュラーシティ推進室が新設され、推進室においてSDGsやサーキュラーエコノミーの推進に関わる業務を担当。

  • 東海サーキュラー・ラボ

    東海エリアでのサーキュラー・サスティナビリティの挑戦者・実践者たちが「とどける」「つながる」「つくる」オープンイノベーション・コミュニティ

    循環型のプロダクトやサービスを共同で研究・開発する創造的実践の場で、定期勉強会、アドバイザリーサービスなどを通してメンバーの挑戦の第一歩を後押しします。
    東海エリアを中心に、サーキュラー・サスティナビリティ関連の取り組みをしているクリエイター、企業、自治体、団体、教育・研究機関、学生たちと共に、サーキュラー・エコノミーを軸とした、「とどける」機会の場を有し、「つながる」機能を持ち、創造性あるプロジェクトを共に「つくる」きっかけを提供します。

    https://fabcafe.com/jp/labs/nagoya/tokai_circular_lab/

    循環型のプロダクトやサービスを共同で研究・開発する創造的実践の場で、定期勉強会、アドバイザリーサービスなどを通してメンバーの挑戦の第一歩を後押しします。
    東海エリアを中心に、サーキュラー・サスティナビリティ関連の取り組みをしているクリエイター、企業、自治体、団体、教育・研究機関、学生たちと共に、サーキュラー・エコノミーを軸とした、「とどける」機会の場を有し、「つながる」機能を持ち、創造性あるプロジェクトを共に「つくる」きっかけを提供します。

    https://fabcafe.com/jp/labs/nagoya/tokai_circular_lab/

  • 矢橋 友宏 / Tomohiro Yabashi

    FabCafe Nagoya 代表取締役
    株式会社ロフトワーク 顧問

    岐阜県大垣市出身。1989年名古屋工業大学を卒業し、株式会社リクルート入社。通信事業や新規事業開発に従事。2006年ロフトワークに合流、取締役としてマーケティング・プロデュース部門の立ち上げ。プロジェクト管理、人事、労務、経理など経営システムの基盤構築・運用を指揮したのち、2023年より顧問に就任。

    これまでの経験を東海エリアでも活かしたいと、2020年、ロフトワークとOKB総研(本社 岐阜県)との合弁で株式会社FabCafe Nagoyaを立ち上げ、代表取締役に就任。東海エリアにおけるデザイン経営の浸透と循環型経済(サーキュラーエコノミー)の社会実装をテーマに、製造業をはじめとした企業へのプロジェクト提案、コミュニティラボの立上げ・運営に奔走している。
    これまでの活動・登壇

    岐阜県大垣市出身。1989年名古屋工業大学を卒業し、株式会社リクルート入社。通信事業や新規事業開発に従事。2006年ロフトワークに合流、取締役としてマーケティング・プロデュース部門の立ち上げ。プロジェクト管理、人事、労務、経理など経営システムの基盤構築・運用を指揮したのち、2023年より顧問に就任。

    これまでの経験を東海エリアでも活かしたいと、2020年、ロフトワークとOKB総研(本社 岐阜県)との合弁で株式会社FabCafe Nagoyaを立ち上げ、代表取締役に就任。東海エリアにおけるデザイン経営の浸透と循環型経済(サーキュラーエコノミー)の社会実装をテーマに、製造業をはじめとした企業へのプロジェクト提案、コミュニティラボの立上げ・運営に奔走している。
    これまでの活動・登壇


crQlr

FabCafe Global と株式会社ロフトワークが2021年8月にスタートさせた”crQlr(サーキュラー)”は、循環型経済に必要な「サーキュラー・デザイン」を考えるコンソーシアム。
循環型経済を実現する「未来の作り手」に必要なクリエイティビティとビジョンを創造し、共有することを目指しています。環境負荷の低いサービスやプロダクト、生産プロセスを実現し、多くの人々の共感を得るためには、売上などの見かけの数値目標の達成だけでなく、アートやデザインを採り入れた社会的なクリエイティビティ、そして未来へのビジョンの提示が必要であると我々は考えます。そのため、crQlrは、オンラインアワード、イベント、ハッカソン、プロジェクトの4つの取り組みによって、出会いとイノベーションを継続的につくるための機会を提供します。このコミュニティデザインが、複雑な課題の解決をつくり、知⾒を集めるメソッドになると考えています。

crQlr Awards (サーキュラー・アワード)について

crQlr Awards(サーキュラー・アワード)は、循環型経済の実現に欠かせない「サーキュラー・デザイン」を実践するには、既存の産業における実践的なノウハウだけでなく、国内外の事例に触れて視野を広げ、起業家やアーティストなど幅広い分野のクリエイティビティを活用する総合力が必要という思いのもと、その方法のひとつとして、2021年にスタートしたアワードです。いままさに未来を作り出している国内外のクリエイターやプロフェッショナルを審査員に迎え、新たな世界の設計図を称賛し、その実現を模索します。

2023年度の受賞結果はこちらから閲覧いただけます。

Author

  • 東 芽以子 / Meiko Higashi

    FabCafe Nagoya PR

    新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。

    「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。

    趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。



    新潟県出身、北海道育ち。仙台と名古屋のテレビ局でニュース番組の報道記者として働く。司法、行政、経済など幅広い分野で、取材、撮影、編集、リポートを担い、情報を「正しく」「迅速に」伝える技術を磨く。

    「美しい宇宙」という言葉から名付けた愛娘を教育する中で、環境問題に自ら一歩踏み出す必要性を感じ、FabCafeNagoyaにジョイン。「本質的×クリエイティブ」をテーマに、情報をローカライズして正しく言語化することの付加価値を追求していく。

    趣味はキャンプ、メディテーション、ボーダーコリーとの戯れ。



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