Event report

2025.12.4

“ふしぎ”を入り口に、森と人をつなぐ。京都府立植物園「ふしぎラボ in どんぐりの森」イベントレポート

建石 尚子

ライター

2025年10月27日(月)から11月9日(日)にかけて、京都府立植物園、株式会社ジャクエツ、株式会社ロフトワークの共同企画として、「ふしぎラボ in どんぐりの森」が京都府立植物園にて開催されました。本レポートでは、トークイベントや体験型ワークショップが開かれた1日の様子をお届けします。

イベント概要

ふしぎラボ in どんぐりの森

■ 開催日時:2025年10月27日(月)〜11月9日(日)

■ 会場:京都府立植物園「どんぐりの森 Dongreen Lab(どんぐりーんらぼ)」

共催:京都府立植物園・株式会社ジャクエツ・株式会社ロフトワーク

今回のイベントの舞台は、京都府立植物園の開園100周年を記念して整備された新しいエリア「どんぐりの森 Dongreen Lab(どんぐりーんらぼ)」。植物園には国内産のブナ科樹種22種すべてを保有しており、その中でもこのエリアには海外種を含む15種類のどんぐりの木が植栽されています。多様などんぐりの姿を見比べながら、遊びを通じて植物の生態系を体感できる場所です。取材に訪れたのは、11月上旬のよく晴れた土曜日。気温も高く、まさに屋外でのアクティビティにぴったりの日でした。昼ごろには親子連れを中心に多くの来場者で賑わい、森のあちこちから楽しそうな声が聞こえてきました。

会場では、「ふしぎメガネ」と「探検ブック」がセットになった「ふしぎラボ in どんぐりの森 探検キット」が販売されました。

ふしぎメガネは、どんぐりを貯食する鳥の一種である「カケス」の見え方から着想を得てつくられた、色の見え方が変わるメガネ。葉っぱや木の実の色彩が普段と異なって見え、「実際に鳥はどんなふうに世界が見えているんだろう?」と想像しながら森を観察することができます。カケスの目元をあしらったデザインになっており、付属のくちばしパーツを差し込むと、まるでカケスになったかのよう!

探検ブックは、森の生きものの繋がりやどんぐりの種類、カケスの役割など、自然のしくみを遊びながら学べる小さな図鑑のような一冊です。ページをめくると、森の案内役であるくまのキャラクター「どんちゃん」からのミッションが登場します。

「カケスになったつもりで、違う形のどんぐりを3つ集めてみよう!」
「倒れた木を触って、カチカチ・ふわふわなど、腐り方の違いを肌で感じてみよう!」

そんなユニークな指令を追いながら歩いていくと、いつの間にか森の生態系のしくみを体感的に学べる構成になっています。ミッションを手に、どんぐりの森の中を夢中で歩き回る子どもたち。「これはなんていうどんぐりですか?」と、集めたどんぐりを両手に抱えて植物園のスタッフに聞きに来る姿もありました。

拾ったどんぐりや葉っぱ、木の枝を「ふしぎメガネ」に貼り付け、色や形の違いを観察しながら楽しむ姿も。メガネをかけた瞬間、「目がチカチカする!」「空が青紫に見える!」と、歓声が上がります。子どもだけではなく、年配の方や小学校の先生など、大人たちも興味津々の様子で探検キットを手に取っていました。世代を問わず、誰もが「見る」「触る」という行為を通して、新しい視点で自然と向き合っている光景が印象的でした。

イベントエリアの什器として置かれていたのが、若手設計者で構成された、(一社)日本建築協会「U-35」による木製ユニット「nomadogi(ノマドギ)」。穴のあいた木材と丸棒を組み合わせるだけで、誰でも簡単に設計・組み立てができる構造です。この日は、グッズ販売やワークショップの受付、ベンチとして使われていました。自然の中に置かれた木のユニットは、まるでどんぐりの森の一部であるかのように会場の雰囲気に溶け込み、人と植物園をやさしくつなぐ存在になっていました。

「nomadogi」詳細はこちらから:
https://fabcafe.com/jp/magazine/kyoto/2025_nomadogi-fck/

会場の一角では、株式会社ジャクエツ主催のどんぐりを使った「Dongreen ボール」をつくるワークショップが開かれていました。常に順番待ちをされている方がいるくらいの人気ぶり。ボールを見せてもらうと、透明な球体の中にどんぐりやドライフラワーが閉じ込められ、光を受けてきらきらと輝いています。森の小さな欠片をそのまま持ち帰るような感覚で、インテリアとして窓辺に飾っても素敵です。思わず大人も夢中になってしまうのも納得でした。

制作の工程は、森で拾ったどんぐりや落ち葉、木の実を透明のボールに入れるところから始まります。その後はスタッフが透明の液体を流し込み、UVレンジで硬化。仕上げに研磨機で表面を磨くと、自分だけのオリジナルボールが完成します。子どもたちは真剣な眼差しでその工程を見つめ、時折「もうできた?」「どんな風になるの?」と声を弾ませていました。完成したボールを受け取った瞬間の笑顔は、まさに宝物を手にしたよう。

ボールを持って、子どもたちが次に向かったのは、「CoroCoroコース」。竹やプラスチックの筒で作られたコースにボールを転がすと、コロコロと心地よい音が森の中に響きます。何度も試しては、転がる速さや軌道の違いを確かめる子どもたち。自然の素材と遊びのアイデアが重なり合い、どんぐりの森をさらに賑わせていました。

「植物って、生きていると思いますか?」

木漏れ日が差し込むどんぐりの森で、京都府立植物園の樹木医・中井貞さんの問いかけから、ツアー&トーク「森をつくる、あそびを育てる」が始まりました。

参加者からは、「呼吸してたら生きてる」という声が。

「そう、植物も生きているんです。では、切られた木はどうでしょう。生きていると思いますか?」少し首を傾げる参加者たちを前に、中井さんはこう続けます。

「これがね、実は難しいんです。木が“死んだ”のはいつか──その定義は専門家の間でも意見が分かれます。伐採された木を切ってみると、年輪が見えますよね。その年輪の中心部分は“死んだ細胞”でできているんです。つまり、木というのは、“死んだ細胞を包み込みながら生きている”存在なんです」

木の中では、新しい細胞が育つ一方で、古い細胞は役割を終え、年輪の一部となっていきます。生きている部分とそうでない部分が一本の木の中に同時に存在する。だからこそ、「木がいつ死んだのか」を簡単に言い切ることはできないのです。中井さんの言葉に、参加者たちは思わずうなずき、「へえ」と小さく声を漏らしていました。中には、目の前の大きな木を見上げながら、幹にそっと手を触れる人の姿も。

中井さんは落葉や根の働きを、木々を前に解説しながら、「実際に見たり触れたりすることで、植物が生きていることを感じてもらいたいと思っています」と語りかけました。ある参加者は「いつも来てるけど、今日はこの森の意味を初めて知った気がした」「子ども向けの場所だと思っていたけれど、大人も十分に楽しめた」と感想を話してくれました。

ツアーの後半では、株式会社ジャクエツの西井洸平さんが登場。どんぐりの森の入口にあるインクルーシブ遊具「RESILIENCE PLAYGROUND(レジリエンス プレイグラウンド)」のエリアへと移動し、参加者に遊具づくりに込められた思いを語ります。

「“医療的ケア児”と呼ばれる子どもたちの中には、遊びたくても環境のせいで遊べない子がたくさんいます。でも、“遊ぶ権利”は、誰にでもあるはずですよね。この遊具づくりでは、障がいの有無に関係なく、みんなが一緒に過ごせる場所をデザインしたかったんです」

その想いをかたちにした「RESILIENCE PLAYGROUND」は、2024年度グッドデザイン大賞を受賞。“共に遊ぶ”という行為を通じて、誰もが自然に混ざり合える場づくりが評価されました。

設置されていた遊具は、スプリング遊具〈UKABI〉、ブランコ〈KOMORI〉、トランポリン遊具〈YURAGI〉の3種類。座ったりまたがったりすることが難しくても乗ることができ、感覚刺激に敏感な子も揺れの心地よさを体験できるよう工夫されています。寝た姿勢のままでも楽しめる設計で、身体の状態にかかわらず誰もが「遊び」に参加できる構造です。

特徴的なのは、それらが“障がいのある子のためだけ”にデザインされたものではないという点。西井さんが説明するそばでは、〈KOMORI〉の中にすっぽり収まり、安心した表情で揺られる子どもや、〈YURAGI〉の上で跳ねる子どもの隣で寝転び、振動を全身で感じている子の姿もありました。

「気づいたのは、みんな“遊びを持っている”ということ。私たちは、それを引き出すきっかけをつくりたかったんです」

西井さんの言葉の通り、遊具を中心に、子どもたち一人ひとりの“遊び”が交錯していました。そこでは、障がいの有無も年齢も関係なく、自然に関わり合う。まさに「インクルーシブ」という言葉がかたちになっているような空間が広がっていました。

中井さんと西井さん、お二人の話に共通していたのは、“人も自然の一部として多様性の中で共に生きている”という視点でした。どんぐりを育む森も、子どもが遊ぶ空間も、どちらも「共に生きる」ための場所。ツアーの最後に、中井さんが語った言葉が印象的でした。

「ここはただ見に来る場所ではなく、“感じに来る場所”なんです。季節ごとに姿を変えるどんぐりの森を、また体感しに来てください」

さらに、植物園という場所が持つ価値についてこう続けます。

「植物がつくり出す物質は、私たち人間を含むすべての命の源です。樹齢100年の木を今日切ったら、次にその姿を見られるのは100年後。その価値は、“今日いくら儲かったか”とはまったく違う尺度なんです。植物園という場を通して、そうした長い時間の価値を感じてもらえたらと思います」

どんぐりの森での時間は、自然と人、遊びと学び、障がいの有無や世代の違いといった“分かれ目”を越えて、同じ場で過ごすことの意味を問い直す時間でもありました。「ふしぎラボ in どんぐりの森」は、その名の通り、“ふしぎ”を入り口に、森と人の関係をもう一度編み直す実験だったように思います。

今回のイベントで販売された「ふしぎラボ in どんぐりの森 探検キット」は、 FabCafe Kyoto で引き続き販売中。探検キットを手に、どこかの森へ、木漏れ日の下へ。
季節の移ろいとともに、自然の“ふしぎ”を見つける旅に出かけてみませんか。

取材・執筆:建石尚子撮影・動画制作:BUNCA. 廣川文花

ふしぎラボinどんぐりの森 探検キット

森でどんぐりを集める鳥「カケス」は、私たちとはちがう色の世界を見ていると言われています。
このふしぎメガネをかけると、いつものどんぐりや森が、ちょっと特別に見えるかも!?
「自分の見え方だけが世界のすべてじゃないんだ」
――そんな気づきを、あそびながら体験できるツールです。
カケスの生態や色の見え方、どんぐりの多様性を紹介するブックと共に、森の中を探検してみよう!

内容物
・カケスをはじめとした鳥類の紫外線の見え方を想像するためのツール「ふしぎメガネ」
・どんぐりの森」にあるどんぐりや植物のふしぎを深堀って学ぶことができる「探検ブック」

価格:1000円(税込)
販売場所:FabCafe Kyoto
お問い合わせ:fushigi_lab@loftwork.com(担当:笹島)

 

共同制作:京都府立植物園・株式会社ジャクエツ・株式会社ロフトワーク
デザイン・イラスト:Kuwa.Kusu
探検ブック編集:建石尚子
監修:福井亘(京都府立大学大学院・教授)

Author

  • 建石 尚子

    ライター

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