Event report
2026.3.3
森田 湧登 / Yuto Morita
FabCafe Nagoya ディレクター
こんにちは。FabCafe Nagoyaディレクターの森田です。
みなさん、お手入れしながら長く使い続けている愛用品はありますか?
僕はこの前、お気に入りのローファーのソール交換と靴磨きをして、街行く足取りがなんだか軽くなった気がする今日この頃です。
さて、そんな「物を長く使い続ける」ということを考えたときに僕たちの前に現れる「修理(リペア)」という営み。
そんな「リペア」という思想をテーマに、2025年12月11日、FabCafe Nagoyaにて、IDEAS FOR GOODオリジナルのショートドキュメンタリー『リペアカフェ』の上映会とトークイベントを開催しました。
上映後はトークゲストに作品ディレクターの瀬沢さんと、有松でまちづくりに取り組む武馬さんを迎え、リペアが繋ぐものやまちと私たちの関係性、そしてその実践の最初の一歩について探るトークセッションも実施。
この記事では、イベントを通して探った「リペア」そして「参加のデザイン」にまつわるエトセトラについてレポートします!

世界中のリペアカフェ ©Repair Cafe International
What do you fab, and…?
FabCafeの「Fab」は、Fabrication(ものづくり)とFabulous(素晴らしい・楽しい)を掛け合わせた言葉。デジタルファブリケーションの到来とともに構想された「自分たちの使うものを自分たちでつくる」文化をカフェというオープンな場で広げていく。そんな原点があります。
私たちは「What do you fab?」という合言葉を掲げて、多種多様な仲間といろんなアイデアを様々な形で「Fab」してきました。では「Fab」したその先は?
「作る」だけじゃなく「直す」という営みについても考えてみたい。
循環型社会への移行が叫ばれてから久しいものの、私たちを取り巻く社会やテクノロジーの変化はますます見通しにくいものとなっています。そんな時代だからこそ、自分たちが使うものを、自分たちで作る、あるいは直す。そうしたモノと私たちの一連の営みを、自分たちの手に取り戻すことはきっと大きな意味を持つはずです。
あとはシンプルに直してまた使えるって嬉しいですよね。リペアカフェって何それめっちゃええやん。
そんなこんなで今回の企画は始まりました。
修理したいのは、モノだけじゃなかった
「リペアカフェ」を制作された瀬沢さんは、アムステルダムでリペアカフェを訪れ、古い時計の修理を目の当たりにしたことが制作のきっかけになったと語ります。
「時計をリペアラーさんが一生懸命、どこが悪いのかなとチェックしているときに、ふと彼が直しているのは本当にモノだけなのかなと思ったんです。」
リペアを通して、単なる「モノ」だけではなく、そのモノにまつわる持ち主の「記憶」や「人生」といった時間のようなものを、直せるのではないかと気づき、企画に至ったと続けます。
制作をしていく中で、リペアという営みはそれだけでなく、都市部における孤独問題によってほころびかけた「コミュニティ」を直す活動であり、さらには資源を使い捨てる現在の「リニアエコノミー(一直線の経済)」の中で、ぷつんと切れてしまったシステムをもう一度繋ぎ合わせる営みなのだと気づいたそうです。
映画の中ではさまざまなリペアの事例がドキュメンタリー方式で描かれ、そのリペアを通して紡がれるモノたちの物語を静かに見つめるみなさんのあたたかな表情が会場のやさしい空気を作り出していました。

「いい言い訳」からはじまるコミュニティ
トークセッションでは、名古屋・有松でまちづくりに取り組む武馬淑恵さんも加わりリペアカフェを起点に、人々が参加する場の始まり方について話題が膨らみました。
まず印象的だったのは「いい言い訳があると人は寄ってくる、集まってくる」という話です。まちづくりやコミュニティ形成において、興味はあっても参加するとなると、なんとなく心理的なハードルが存在します。しかし、そこに「いい言い訳」を作ってあげると人は集まりやすい。
実際に、武馬さんが手がけた古民家再生プロジェクト「moss ARIMATSU」では、改修の際に地域の人々にも参加を呼びかけてDIYで内装工事を行ったところ多くの人が集まったそうです。さらに、そこでの出会いがきっかけで継続的に庭のメンテナンスやワークショップをしてくれる関係性が生まれたとか。
「古民家の壁を塗ってみたい」「壊れたものを直したい」「ちょっとお茶を飲みに来た」
まちづくりもリペアも、そんな「いい言い訳」を作ってあげることが大事。リペアカフェに集まるモノは最初から壊れているのだから完璧でなくていいというエピソードも、やってみる「いい言い訳」として一役買っているようでした。最初はただそこにいるだけ、見ているだけの人も、だんだんと壊れたモノやDIYを通して参加のレベルが上がり、タレント(才能)が可視化されていく。
無完璧とでも言えそうな余白やプロセスを楽しむことが、人々を柔らかく繋ぐコミュニティ形成に役立っている。そんな気づきが会場に広がった瞬間でした。
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映画「リペアカフェ」を制作された瀬沢正人さん
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名古屋・有松でまちづくりに取り組む武馬淑恵さん
愛着を生み出す「ケア」としてのリペア
トーク後半ではリペアによって生み出されるモノと私たちの新たな関係性についての話に広がっていきました。
瀬沢さんは液晶もカメラも壊れたiPhoneを自分で直し、バッテリー交換もしながら5年間使い続けているそうです。※1
それはただ経済的というだけではなくモノに対する深い愛着に繋がっていました。
「自分の手を入れて時間をかけていくと、ただの壊れたスマホではなくて、5年間を共にしたパートナーみたいになってくるんです。そうなると、なんだか捨てにくくなってくる(笑)」
リペアとはケアすることなのだと瀬沢さんは語ります。
このエピソードを聞いたとき、僕は『星の王子さま』を思い出しました。
きみがバラのために費やした時間の分だけ、バラはきみにとって大事なんだ
–『星の王子さま』(集英社文庫, 著 サン・テグジュペリ, 訳 池澤 夏樹)
王子さまが赤いバラに手間暇かけてお世話をしたように。
キツネと友達になるために時間をかけて飼い慣らしたように。
「時間をかけて関係を築く」行為を通してモノと私たちの間には深い関係性が生み出されるのだと思います。
モノもまちも、壊れたり関係が悪化したりしたからといって捨てるのではなく、手を入れて関係性をケアしていくことで、地域や社会を優しくしていく力がリペアにはあるのではないでしょうか。(愛は地球を救うって言いますからね!)
※1 日本では、メーカーや登録修理業者以外がスマートフォンを分解・修理した場合、修理後に電波を使用すると電波法に抵触する可能性があります。ご自身での修理の際はご注意ください。
イベントの最後には参加者同士で、最近困っていることや直したいことをシェアする時間をとりました。リペアカフェに触発されてか、思い思いの「不完全さ」を持ち寄り、静かに共有するあたたかな空間が広がっていました。
まとめ:いい言い訳からはじめよう。
Repairという単語は「Re(再び)」+「Pair(ペア, 対)」と捉えることができます。
効率性や完璧さが優先される都市の中で、リペアという営みは、私たちに「不完全さ」を共有し、時間をかけて関係を築き直すチャンスを与えてくれます。
私たちはリペアを通じて、一直線になってしまった経済の循環、希薄になった地域の人間関係、そしてモノやまちに対する愛着といった元々はペアだったものをもう一度「繋ぎ直し」ているのだとまとめることができそうです。
ものづくりのどまんなか・名古屋で私たちはどんな「いい言い訳」を持ち寄り、手を動かし、どんな関係性を繋いでいけるでしょうか?
「What do You fab?」と掲げた私たちの合い言葉は、今や「What do you repair?」へと広がったような気がします。FabだけでなくRepairから始めてみるという「作ること」への参加の仕組みも考えられそうです。
まずは壊れたモノをUVプリンターでデコってみる。
まずは汚れた服を刺繍して隠してみる。
そんなことから「作る人」への一歩を踏み出す可能性も感じた一夜でした。
さて、ではあなたは何を繋ぎ直しますか?
What do you fab, and repair?
作品情報『リペアカフェ』

「修理したいのはモノだけじゃなかった。」
お店では修理を受け付けてくれない壊れた家電や服、自転車など、あらゆるものを地域のボランティアが無料で直してくれるオランダ発祥のリペアカフェ。彼らはモノを修理するだけではない。
離れ離れになった家族の「思い出」、疎遠になりつつある地域の「コミュニティ」、捨てることを前提に成り立つ消費社会の「システム」…
リペアカフェにはどのような人とモノが集うのか?壊れかけた「モノ以上のもの」を直す人々の物語がここにある──
(30分 | 日本語字幕 | 英題 The Repair Cafe | 制作年: 2024年 | 企画制作 IDEAS FOR GOOD)
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瀬沢 正人
IDEAS FOR GOOD編集部 クリエイティブ・ディレクター
オランダ・アムステルダム在住。
サステナビリティやサーキュラーエコノミー領域で映像制作、 リサーチ、企業や行政との共創プロジェクトを手がける。
監督作『リペアカフェ』は、企画・撮影・編集・翻訳を一貫して担当し、 2025年アムステルダム地域映画祭にノミネート。NHK WORLDや日経新聞でも紹介され、 多様な場で200回以上上映、累計1万4千人以上が視聴。大阪・ 関西万博では経済産業省主催展示に採用された。
パタゴニア、日立製作所などと協働し、循環型社会に向けたストーリーテリングやリペア文化の社会実装に 関わる。 ジャーナリストとしてフィンランド環境大臣など欧州の政策担当者 、研究者を取材。デンマークのフォルケホイスコーレ卒業生。 アムステルダム大学夏期コース Circular City 修了。 オランダ・アムステルダム在住。
サステナビリティやサーキュラーエコノミー領域で映像制作、 リサーチ、企業や行政との共創プロジェクトを手がける。
監督作『リペアカフェ』は、企画・撮影・編集・翻訳を一貫して担当し、 2025年アムステルダム地域映画祭にノミネート。NHK WORLDや日経新聞でも紹介され、 多様な場で200回以上上映、累計1万4千人以上が視聴。大阪・ 関西万博では経済産業省主催展示に採用された。
パタゴニア、日立製作所などと協働し、循環型社会に向けたストーリーテリングやリペア文化の社会実装に 関わる。 ジャーナリストとしてフィンランド環境大臣など欧州の政策担当者 、研究者を取材。デンマークのフォルケホイスコーレ卒業生。 アムステルダム大学夏期コース Circular City 修了。 -
武馬 淑恵
合同会社ありまつ中心家守会社 共同代表(コミュニケーションマネージャー)
名古屋市役所に21年間勤務。産業振興部署では、有松・鳴海絞の職人とともに新商品開発や展示イベント等を開催。2016年に市役所を退職後、名古屋市立大学大学院でテキスタイルデザインについて研究。2018年に有松・鳴海絞の老舗絞会社社長と若手デザインリサーチャーとともに「合同会社ありまつ中心家守会社」を設立。有松にある遊休不動産を活用し、“つくりながらくらす”という有松の特徴を活かしたまちづくりをすすめている。
2024年4月には、有松の古民家を改修したレンタルスペース・レンタルキッチン【moss ARIMATSU(モス アリマツ)】をオープン。さまざまな人のチャレンジが有松のまちに根付くよう、新たな交流拠点を運営中。名古屋市役所に21年間勤務。産業振興部署では、有松・鳴海絞の職人とともに新商品開発や展示イベント等を開催。2016年に市役所を退職後、名古屋市立大学大学院でテキスタイルデザインについて研究。2018年に有松・鳴海絞の老舗絞会社社長と若手デザインリサーチャーとともに「合同会社ありまつ中心家守会社」を設立。有松にある遊休不動産を活用し、“つくりながらくらす”という有松の特徴を活かしたまちづくりをすすめている。
2024年4月には、有松の古民家を改修したレンタルスペース・レンタルキッチン【moss ARIMATSU(モス アリマツ)】をオープン。さまざまな人のチャレンジが有松のまちに根付くよう、新たな交流拠点を運営中。
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森田 湧登 / Yuto Morita
FabCafe Nagoya ディレクター
愛知で育まれた人間。名古屋大学大学院工学研究科物質プロセス工学専攻修了。
技術の精緻さに魅せられつつも、次第にそれらを取り巻く社会の構造や、構成要素の関係性に関心を抱くようになる。科学と倫理、秩序と自由、正しさや望ましさと信念。複雑に絡み合う問いについて思惟するなかでグラフィックデザインに触れ、単なる課題解決ではなく、新たな視点や対話を掬い上げ、生み出す場や道具の必要性を感じるようになる。科学と工学とデザインのバックグラウンドを活かしながら、「正しさ」と「豊かさ」が両立するようなしなやかな未来のあり方を探っていきたいと思っています。
好きなものはエレクトーンとアイスクリーム、あとコンポタ。実はアイスクリーム屋さんもやっています。
愛知で育まれた人間。名古屋大学大学院工学研究科物質プロセス工学専攻修了。
技術の精緻さに魅せられつつも、次第にそれらを取り巻く社会の構造や、構成要素の関係性に関心を抱くようになる。科学と倫理、秩序と自由、正しさや望ましさと信念。複雑に絡み合う問いについて思惟するなかでグラフィックデザインに触れ、単なる課題解決ではなく、新たな視点や対話を掬い上げ、生み出す場や道具の必要性を感じるようになる。科学と工学とデザインのバックグラウンドを活かしながら、「正しさ」と「豊かさ」が両立するようなしなやかな未来のあり方を探っていきたいと思っています。
好きなものはエレクトーンとアイスクリーム、あとコンポタ。実はアイスクリーム屋さんもやっています。





