Event report

2026.5.24

対話をベースに「これからの教育」を問いなおす

それぞれの専門家の視点をきっかけに織りなす教育の視点

正解を教える教育から、問いを立てる教育へ。その転換は、文部科学省の指針にも、企業の組織論にも、繰り返し登場する言葉です。しかし「対話」「主体性」「自律」といったキーワードは、現場の実感と乖離したまま、言葉だけ一人歩きしている印象も感じています。

2026年3月28日(土)、FabCafe Nagoyaにて「Nagoya After School Lounge#4 Special これからの教育について対話しよう〜プレイフルラーニング×SEL×ファシリテーション〜」が開催されました。

登壇したのは、それぞれの現場で「対話」と向き合っている3名のゲスト。
ホワイトボード・ミーティング®️を開発した株式会社ひとまちのちょんせいこさん、長野県にある学校法人茂来学園大日向小学校でイエナプラン教育やプロジェクト・アドベンチャーを実践する岩本歩さん、元公立高校教員で、教職員研修や教育イベントなどで「対話」の場づくりを実践している一般社団法人ひらけエデュケーションの若杉逸平さん。そして、FabCafe Nagoyaのコミュニティマネジャーであり、キャリア教育とSEL(Social Emotional Learning/社会性と情動の学び)を専門とする伊藤遥を加えて場が設けられました。

当日は参加者も交えながら、体験・問い・対話が幾重にも重なりあう時間となりました。

「まず、遊んでみよう!」——プレイフルな問いかけから始まる「対話」の冒険

第1部の前半は、岩本歩さんによる「アドベンチャー・ダイアログ」ワークからスタート。
「対話」ときくだけで、どことなく真面目な雰囲気を感じたり、肩に力が入ってしまう人もいる中で、岩本さんのワークは軽やかに始まります。

グループに分かれ、さまざまなお題(ミッション)が書かれたカードを片手に9つのトークに挑戦しながら、ポイント(スコア)を稼ぎ、宝物を発見しにいきます。「外に出てもいいよ」という一言に促され、桜が満開となる店前のシバフヒロバへ出ていくグループも。笑いや驚きなど、さまざまな声が混じりながら、FabCafe Nagoya全体が一気にあたたかな空気に包まれました。

「メンバーが着ている装備(服)のボタンの数を数えて」
最初は何それ?と思えるような、それでいて簡単なミッションを和気あいあいとこなしていきます。難しい、答えのわかりやすい話題なので、初めまして同士でも自然と会話が生まれていきます。進行するにつれて、段々と、自分の内面を掘り下げていくようなミッションが与えられ、それに伴いグループの空気感や声の雰囲気も自然と変わっていきました。

さまざまなミッションを経て、各グループにてたくさん貯まったポイント。このミッションのゴールは「グループでスコアを競うこと」……のように見えていました。しかし最後に岩本さんは、こんなふうに語りかけてくれました。

「スコアは単なる数字です。本当の宝物は、今ここで交わされた言葉と共有された時間です。」

対話において非常に大切な心理的安全性の4つの要因 「話しやすさ」「助け合いやすさ」「挑戦しやすさ」「アイデアを歓迎する空気」が、遊びを通じてそのグループの中に自然と育まれていく。このワークに組み込まれていました。

大人ほど自分の感情に、無頓着である——SELという視点

「みなさんは、このワークの間、どんなことを感じていましたか。その感情は、どのように変化しましたか」

岩本さんのアクティビティを受けて、FabCafe Nagoyaの伊藤より、SEL(Social Emotional Learning/社会性と情動の学び)の視点を交えて振り返りが行われました。

SELとは、感情を理解し、他者と健全な関係を築き、自分の行動を主体的に選択する力を育てる教育の総称です。この学びについては、20年以上にわたって研究が進んでいるにもかかわらず、日本の現場では、呼称も含めてまだ十分に浸透していない概念でもあります。

伊藤が特に強調したのは、「大人ほど自分の感情を正しく理解できていないことが多い」ということ。
効率化された社会の中で、感情というものはついつい置き去りにされがちです。目の前のことや「やるべきこと」になっていると、自分が何を感じているのかさえ、わからなくなってしまう。

「大人が感情だと自覚していることも、実は『思考』であることも多いです。『あなたはその時どう感じたんですか?』とたずねているのに、感情語は出てこず、あのときはこう考えた、こうだから、などといった、思考の言葉が出てくるんです。」

感情語が少ない。感じているのに自覚できない。感じていても抵抗があって言えない——そうした状態が積み重なると、感情はさまざまな形で外へ噴出します。そしてそれは、職員室の雰囲気、クラス内のトラブル、ひいては不登校や生徒間のいじめ、その根っこにある問題とつながっているかもしれない。

「感情って、自然にこの瞬間瞬間で湧き起こってきているもの。その感情を感じきらなかったり、ぐっとこらえたりしていたら、必ず何らかの形で外側に表出する。それは、イライラとして表出するかもしれない。暴飲暴食かも。体調不良や、肌トラブルとして出てくるかもしれない。」

また、岩本さんとの対話の中では、共感力の高さと発話量の関係についても話題が広がりました。

研究によれば、共感力の高い人ほど内省しながら聞くために対話の場での発言量が少なく、逆に共感力の低い人ほど自分の言いたいことを次々と口にする傾向があるといいます。「じっくり味わう」ことが、対話の質を変えていく。そのことを、参加者とともに確かめる時間となりました。

対話とファシリテーション——問いを立てる人が、場を変える

対話とは何か?「会話」との違いを問う

後半では、若杉逸平さんとちょんせいこさんがフリートーク形式で登壇。最初の問いはシンプルなものでした。

「対話って何ですか。会話との違いって、なんとなくわかるけど、説明するとなると難しいですよね」

若杉さんは、直前に訪れた鳥取・隠岐の高校魅力化プロジェクトへの同行体験を振り返り、まちづくりの現場でも対話が中心にあったこと、そしてその対話のあり方を模索し続けている人たちの姿が印象的だったと話します。学校教育・家庭教育・社会教育のどの領域においても、一人一人異なる人と人とをつなぐ対話は「必需品」になっていると言います。

一方、せいこさんはファシリテーターの役割に着目しました。

「誰しもがファシリテーターになれれば手っ取り早い。バトンを渡すように、ファシリテーターが交代できるような場が増えていけばいい」

これまでファシリテーターは、リーダーやまとめ役が担うものとされてきました。しかし、それは一部の人だけが場を動かすということでもあります。1人1人が問いを立て、場を耕せるようになること——それが、これからの教育が目指す姿の一つだという考えが、言葉を交わしながら共有されていきました。

参加者同士でも「これからの教育」をテーマに話し合う時間が設けられました。教育関係者あり、育休中の方あり、学校の外から教育を見る方あり——さまざまな立場の人が混ざることで、「社会と学校が繋がることの大切さ」「先生だけが先生じゃない時代」「自己理解を深めながら人と繋がる教育」といった言葉が次々と生まれていきました。

「ホワイトボードミーティング®️」を実践

せいこさんが持参した、ミニホワイトボードとカラーマーカーのセット。これが「ホワイトボード・ミーティング®️」の実践ツールです。

幼児からおじいちゃんまで同じ方法で使えるというこのメソッドは、黒で意見を発散し、赤で収束し、青で結論・活用へとつなぐ流れを基本とします。「質問の技カード」を使い、「というと」「具体的には」「もう少し詳しく」「エピソードを教えてください」などといった問いを重ねることで、情報の階層が深まっていきます。

「第1階層は抽象的で話し合いが深まりにくい。でも第4階層のエピソードまで聞けると、その場にいない人も情景を動画のように思い浮かべられる。それが情報の共有です」

デモンストレーションでは、若杉さんの「好きな食べ物」をテーマに問いを重ねてみせました。「寿司」から「かっぱ巻き」へ、「きゅうりは苦手だけど巻くと好き」へ、そして「父がたまに握ってくれたかっぱ巻きが嬉しかった」というエピソードへ——問いの重なりが、人の記憶と感情をどれほど丁寧に引き出せるかを示していました。

その後、参加者同士が2人1組でホワイトボードを手に「これからの教育というと」を実践。「地域と学校と保護者が繋がること」「先生自身が地域に出ていくこと」「子供の主役性」——それぞれのボードに、対話の跡が刻まれていきました。

クロストーク:ノンジャッジメンタルで受容的な場づくりが、個々の感情と対話を引き出していく

セッションの最後には、4人の登壇者が一堂に会しました。

伊藤より、SELでしばしば取り扱う「感情の階層」と、ホワイトボードミーティングの「情報の階層」が構造として似通っていることへの気づきに触れました。

「受け入れがたい、むずかしいとされる感情の根っこにも、実はあたたかな願いが隠れていることがほとんど。その願いまで深く降りていって、その願いをもとに対話をしていけると、暴力的なコミュニケーションを取らなくてもよくなっていく」

岩本さんは、アドベンチャーダイアログの設計を改めて整理します。遊びから入ることで心理的安全性の因子が自然に生まれ、それが深い対話の土台になる。感情の階層を意図的にデザインすることの大切さを、SELの言葉と重ねながら語りました。

ちょんせいこさんは、「平和で幸せな社会を目指す」という根っこで、SELもファシリテーションも対話もすべて繋がっていると話しました。感情をジャッジせず、ニュートラルに受け止めてもらえる場があること、そういった場をともに目指すこと——それが、自分の感じていることを言葉にできる第一歩だと言います。

 

若杉さんが最後に強調したのは、「話さなくてもいい」という安心感の重要性でした。

「関係性ができてから、自己開示のボリュームは自分で調整してね、というくらいのスタンスでいい。強制的に言わされる経験を積み重ねてきた私たちが、次の世代に同じことをしてしまわないように」

話さなくてもいい、いつきいてもいい——Nagoya After School Loungeの開始当初から掲げているグラウンドルールも、同じ考えのもと設定されています。自分の感じ方を自分で選び取っていける環境が、対話の質を変えていく。4人の実践者が、それぞれ異なる言葉で同じ方向を指していた時間でした。

その後行われたDialogue Partyでは、FabCafe Nagoyaの手作りキッシュBOXを食べながらじっくり対話を行いました

 

今後もNagoya After School Loungeでは、さまざまなゲストをお招きし、多様な方と「教育」というテーマでつながり、対話する場として開催していきます。教職員の方はもちろん、教育関係者、会社員、経営者、フリーランス、NPO団体、学生などさまざな方にご参加いただけます。

みなさんとお会いできることを、心より楽しみにしています。

FabCafe Nagoya では、教育を中心とした学校・学生連携や、子ども向けプログラムの開発・実施、まちづくり支援をしています。また、SEL(Social Emotional Learning)をベースにしたソーシャルスキル・エモーショナルスキルの研修やプログラム設計、企画のご相談も可能です。

まずはお気軽にお問い合わせください。

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