Event report

2026.8.9

「正解のない問い」と「やってみたい」が交差して。

後半:『あいちフューチャーフェス'26』開催リポート

「あいちに世界とつながる未来体験と未来創造の場を創り出す挑戦。無限の未来に出会える新しいお祭り」をコンセプトに掲げる『あいちフューチャーフェス』。前編では、6回目を迎えた今年のテーマ「PLAYFUL!—やってみたいでつながろう」が生まれた背景と、前夜祭で人と人とがつながり、翌日のフェスへの期待が高まっていく様子をお届けしました。

いよいよ迎えた本番当日。メイン会場のFabCafe Nagoyaでは世代や肩書きを越えた「対話」が交わされ、目の前に広がるシバフヒロバでは、マルシェやプレーパークといった「遊び」が同時多発的に立ち上がります。そして夕方には、小学生から社会人までが「いま、やりたいこと」を語り合う時間が訪れます。純粋な好奇心が街へと溢れ出した一日を、後編のリポートでお届けします。

「やってみたい」が街へ溢れ出す

翌5月30日(土)、五月晴れの空の下でフェス本番の朝を迎えた。メイン会場となるFabCafe Nagoyaでは、10時のオープニングとともに未来を語り合う参加者たちが集い始め、目の前に広がるシバフヒロバでは、プレーパークやマルシェが早くも心地よい賑わいを見せている。屋内の「対話」と屋外の「遊び」が同時進行で動き出す、ダイナミックな1日の始まり。

フェス未来会議

「あいちフューチャーフェス未来会議」では、5つのテーマ(都市と地域・防災・教育・人と組織・こども大国 KIDS FIRST JAPAN)に分かれ、参加者が小グループで自由に対話する時間が設けられた。冒頭、元高校教員で現在は「対話」を軸に活動する若杉 逸平さんが登壇。自身の著書『対話について対話しよう』の内容を交えながら、次のように語りかけた。

対話って、誰かと話をするだけのこと?

話したくない時でも話さないといけないの?

わたしは、聴くだけでも対話だと思う。
聴くことこそ、対話だと思っています。

沈黙も対話だと思う。

なんとなく沈黙になると間を繋がなきゃって頑張っちゃいませんか。
でも、全員沈黙でもいいんじゃないでしょうか。

無理して話さなくていいと思う。

話したくなったら、でいいと思う。

「対話って、人と人の関係性そのものかもしれない」
そう締めくくった若杉さんの言葉は、参加者が実際の対話に入る前に、改めて「対話とは何か」を自分自身に問い直す時間となった。
それは、自身がそれまで置いていた前提や、自分の枠、あるいは環境の中だけで通用していた「当たり前」を剥がしていくプロセス。こうした対話のあり方こそが、この未来会議を、大人も子どもも対等に未来を考えるという、あいちフューチャーフェスのあり方を象徴する場にしているのではないだろうか。

正解のない問いを、みんなで抱える

「対話とは何か」を問い直す空気が共有された会場で、参加者たちはそれぞれの関心に沿って各テーブルへと分かれていった。ビジネスパーソン、学生、教育者、自治体職員など、異なるバックグラウンドを持つ人々が交わした対話の様子を、各グループをリードしたメンバーたちの言葉から紐解いていく。

教育・組織の枠組みを揺るがす「モヤモヤ」との対峙

「教育」のテーブルを担当した株式会社ICMGの辻 悠佑さんは、日常から少し離れたこの場の役割をこう語る。

「普段、仕事や家庭、勉強など目の前のことに追われていると、未来がどうなっていくのか、自分がどう生きていくのかという、本当に大切な『モヤモヤ』と向き合うことができません。フェスはそういう場所を作りたいというコンセプトであり、未来会議はそのフラッグシップのようなものです」

その言葉通り、辻さんのグループでは「教育の本当の目的とは何か」という本質的な問いが自然と立ち上がった。既存の「大学に入るための教育」や「教室の中での教育」という価値観の限界をどう超えるか。これまでの枠組みを揺るがす対話が展開されたという。

その限界を超えるヒントは、隣の「人・組織・チーム」のテーブルにも響き合っていた。株式会社スノーピークビジネスソリューションズの秋吉 直樹さんのもとには、教育NPOや学校の教員、子育て支援関係者など多彩な立場の人が集結。個性を認めながら生産性を保つ難しさや、組織の多様性を受け入れる心の余白について意見が交わされた。

「仕事の多くをAIが担う時代、人間にしかできないのは、生身の人間との関係性づくりや、思いやり、愛情といったもの。それを育むコミュニケーションのスキルこそ、これからの教育で扱うべきではないかという話になりました。このフェス自体も、大人にとっての教育の場の一つなのかもしれません」

「子どものため」を当事者の視点から問い直す

さらにその視線は、「こども大国 KIDS FIRST JAPAN」を担ったウーブン・バイ・トヨタ株式会社の小田 健博さんのグループで、より当事者性を帯びていく。不登校児の支援者や、子どものための活動を志す大人たちに混じり、このテーブルには現役の高校生も席を並べていた。

「『子どものため』ということは大人ばかりが考えていて、子どもの意見が反映されていない。もっと私たちも当事者として発信したいし、話を聞いてほしい、という声が高校生から出てきたことが非常に響きました」

大人と子どもが対等に未来を考えるというフェスのあり方が、ここでも生々しい言葉となって表れていた。

地域観をほどき、新たな視線を向ける

一方で、視点を「都市と地域」へと広げた株式会社FabCafe Nagoyaの矢橋 友宏のグループでは、参加した学生の「名古屋=地方(=田舎)」という率直な発言から対話が始まっていた。

この固定化された地域観に対し、矢橋さんは「名古屋は都市としてすでに都会であり、十分自立していける」という視点を提示する。いわゆる地方として一括りにするのではなく、名古屋を都市として捉えた上で、さらにその先にある郊外や里山といった本当の「地域」に目を向けるべきではないか、という投げかけだ。

「名古屋はもう十分自立していけると思うから、もっと郊外や里山のことを話した方がいいんじゃないかと途中で(議論の方向性を)投げかけてみたんです。そしたら参加者の意識が少しずつそっちに向き始めて。何か目的があるから行くのではなく、住むという感覚でもない。ただ、意識的にそこへ『行く体験』をいかにつくるかが重要ではないか、と感じました」

明確な結論が出ないままタイムアップを迎える心地よさ。アジェンダに縛られないゆるやかな空気のなかで、それぞれの目線から語られた言葉は、正解のない問いをみんなで抱えること自体の意義を物語っていた。

「やってみたい」をカタチに、好奇心が連鎖する遊び場

この日、目の前のシバフヒロバやFabCafe Nagoya店内は、誰かの「やってみたい」が、みんなの体験となって広がる実験場へと姿を変えていた。

フューチャーフェス マルシェ

今年初開催となった「フューチャーフェス マルシェ」には、発酵調味料を用いたお弁当を届ける「TOMO CAFFE」や、現役教員起業家によるクラフトビールと高校生のグラノーラを並べた「Dragon Brewing × 東海中高ビジネス愛好会」、レジンアートのワークショップを開いた「ウェルシード」、囲碁を気さくに教える「IGOGeeK × 日本棋院中部総本部」など、多様な出展者が思い思いの挑戦を持ち寄ったブースを連ねた。

山田商会ホールディングの山田さんは、マルシェに込めた想いをこう振り返る。

単なる物販ではなく、いろんな方の挑戦が見える化され、体験を交えながら参加できる場所にしたかった。目的や思いを持って参加してくれる方が多いからこそ、熱量のある『体験型マルシェ』になったと感じています

プレーパーク/FabCafe Nagoya店内の展示

同じく広場に設けられた、ぎなんプレーパークの会による「プレーパーク」では、コマや木工、水遊びのプールなど自由な遊び場が広がっていた。

一方、FabCafe Nagoya店内でも、出展者による多様な体験企画が来場者を迎えていた。NPO法人HanaMichiによる「未来のたまごカード作成ワーク&展示」では、「未来のお祭り」をテーマに参加者がアイデアを壁に並べていく。

「アイデアを『卵』としてたくさん産んでいってもらう。自分だけで頑張ろうと思ってもなかなか出てこないけれど、誰かのアイデアをきっかけにして、また新しい卵が生まれていくのが面白いんです」

さらに、今年からの新たな試みとして、外の受付にはドネーション企画を設置。事前に店内のFab機器(レーザーカッター、UVプリンター)で制作されたカラフルなチャームを組み合わせてオリジナルキーホルダーを作る体験に加え、前夜祭でも実施されたAnd-On(行灯)を通じた応援の仕組みも用意された。来場者が気軽にフェスを支え、その想いを形にできる取り組みとして、多くの人で賑わっていた。

愛知から、世界とつながる場所として

こうして「やってみたい」が同時多発的にカタチになる今があるのは、このフェスが6年間かけて培ってきた確かな歩みがあるからに他ならない。コロナ禍のオンラインから始まったフェスは、年を重ねるごとに広がりを見せ、今年ついに初代実行委員制度が動き出した。30人の学生ボランティアが集い、個人やコーポレートパートナーという新しい応援の仕組みも生まれている。

「AIやデジタルといった無機質なテーマではなく、共感を呼ぶ『ストーリー』や『パーパス』をみんなで徹底的に考え、こだわってきた。それが今、じわじわと効いてきているのだと思います。だからこそフェスは、愛知県の外や海外に出ている人、あるいは既存の枠に囚われないアプローチをしている人など、あえて『枠を飛び越えた人たち』を集める場にしたかった。今までの価値観や枠組みが生む限界をどう超えていくか。そのヒントが、この多様なストーリーの交差にあるはずです」

肩書や世代、そして既存の枠組みを心地よく飛び越えて、「やってみたい」という純粋な好奇心で人がつながる場所。心地よい活気に満ちたシバフヒロバとFabCafe Nagoyaの賑わいは、午後から始まる店内のメインプログラム、そして多世代の熱量が交差する「クロス・ピッチ」へと引き継がれていく。

防災コレクション2026

午後1時からは、北側イベントスペースで「防災コレクション2026」がスタート。フェスのテーマパートナーとして3年連続登壇している弁護士の尾形さんが仕掛けるこの企画は、「防災意識の高い人にしか届かない」という課題意識から出発し、今年は落語と防災ファッションショー(防災ランウェイ)を掛け合わせたユニークな試みで会場を沸かせた。

前夜祭で「防災ってかっこいいんだよって伝えたい。おしゃれなファッションがあれば、みんなかっこよく逃げられるはず」と語っていた尾形さん。その想いに応え、大阪から駆けつけたモデルで看護師の北村さんは「かっこいい文脈で届け、日常からの意識づけをしたい」とランウェイから発信。さらに「選ぼうさい」を提唱する伊藤機工商会の大野さんも登壇し、一人ひとりが自分事として防災を選ぶ意識の大切さを訴え、実業家や教育者たちから強い共感を呼んでいた。

クロス・ピッチ

午後3時、いよいよ「クロス・ピッチ」が始まる。年齢も肩書も国籍も関係なく、「いまやっていること・これからやりたいこと」を3分間でシェアするこのプログラムは、フェスが積み重ねてきた多様性と熱量が、もっとも鮮やかに体現される時間だ。登壇者は総勢18名以上。小学生から社会人まで、愛知から全国から。この多様さこそが、クロス・ピッチの核心だった。

英語を教えるかたわらクラフトビール会社を立ち上げた高校教員。将来設計より先に「自分の好きに正直になること」を学ぶべきだと訴える高校生。30人に教えて25人はハマらなくても、続けてくれる5人のために囲碁を広める棋士。成層圏で撮影した地球の写真を掲げ、宇宙へ思いを馳せてほしいと呼びかける天文部員。子ども向けマネー教育サービスを落ち着いた口調で説明する13歳。始める話ばかりの場で、あえて「辞めてきた話」を切り出した人。能楽堂に通い、日本文化を再認識してほしいとカードゲームを世界へ届ける14歳。

小学生から社会人まで、それぞれの「いま」と「これから」が、3分間ずつ、次々と手渡されていく。年齢も肩書も違う登壇者の言葉が、聞き手の中に思い思いの熱を灯していった。

クロージングセッション—学校では生まれない対話が、ここにあった

「校長先生と高校生が芝生の下でフラットに話している。この絵ってなかなかない」

そう語ったのは、株式会社FabCafe Nagoyaの伊藤。2026年運営事務局メンバーの一人として運営に携わりながら、その珍しさをむしろ惜しむように口にした。こんな場が、当たり前になってほしい。

「普通のカンファレンスは主催者側がピリピリしていて、それが参加者にも伝わってしまう。でもここは余白があって、遊びがある」

楽しむ側と創る側の境界が溶けていく。それこそが、この場が6年かけて育ててきたものだった。

 

「楽しい未完成」を、来年へ

フェスを終えた実行委員たちの言葉には、手応えと宿題が入り混じっていた。前夜祭でのキックオフ、新しい入り口となったマルシェ。一方で、「未来体験」をどうコンテンツで体現するかは、まだ問いのままだ。

「楽しくない正解よりも、楽しい未完成」

このフェスが掲げてきたカルチャーキーワードは、今年もそのまま来年への宿題になった。それでいい。完成してしまったら、次に来る理由がなくなる。
灯火を携え、希望の輪を広げる旅は、まだ始まったばかり。2026年のあいちフューチャーフェスは、その旅の6ページ目を刻んだ。

個々の「やってみたい」が、誰かの「やってみたい」と出会い、また新しい何かが生まれていく。あなたの「やってみたい」の種は、どこに眠っているだろうか。

  • 一般社団法人あいちフューチャーフェス

    あいちフューチャーフェスは、「あいちに世界とつながる未来体験&未来想像の場を創り出す挑戦 -無限の未来に出会える、新しいお祭り-」をコンセプトとして2020年にスタートしました。現実世界の忙しさの中で失いつつある「未来への大切な問いに向き合う場」を目指す、誰もが楽しく参加できるお祭りです。毎年毎年、世界中・日本中の未来への挑戦者が愛知県に集結します。国境・地域・業界・会社の垣根を超えた社会的イニシアチブとして運営しており、誰もが運営にも参加でき、みんなで共に創っていく、未来型のお祭りです。

    あいちフューチャーフェス 公式サイトを見る

    あいちフューチャーフェスは、「あいちに世界とつながる未来体験&未来想像の場を創り出す挑戦 -無限の未来に出会える、新しいお祭り-」をコンセプトとして2020年にスタートしました。現実世界の忙しさの中で失いつつある「未来への大切な問いに向き合う場」を目指す、誰もが楽しく参加できるお祭りです。毎年毎年、世界中・日本中の未来への挑戦者が愛知県に集結します。国境・地域・業界・会社の垣根を超えた社会的イニシアチブとして運営しており、誰もが運営にも参加でき、みんなで共に創っていく、未来型のお祭りです。

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Author

  • 中垣音衣

    FabCafe Nagoya アシスタントディレクター

    大学時代、土にかえる新素材を、農学的な観点から活用する研究に携わる。そこから”新しいマテリアルをどのように活かすか”といったデザイン的な問いに関心が広がり、素材と社会をつなぐクリエイティブな役割に引かれるようになる。

    私は、テンプレート化された幸せや、与えられた正解ではなく、日常の中で、自分の感性で発見していく幸せが「本質的な幸せ」であると考える。そうした個人的で持続的な喜びが人から人へと伝播し、循環する社会を実現したいと思い、FabCafe Nagoyaに辿り着いた。想いを形にできる可能性をここで日々感じている。

    コーヒーゼリーが好き。絵本の構成に興味がある。

    大学時代、土にかえる新素材を、農学的な観点から活用する研究に携わる。そこから”新しいマテリアルをどのように活かすか”といったデザイン的な問いに関心が広がり、素材と社会をつなぐクリエイティブな役割に引かれるようになる。

    私は、テンプレート化された幸せや、与えられた正解ではなく、日常の中で、自分の感性で発見していく幸せが「本質的な幸せ」であると考える。そうした個人的で持続的な喜びが人から人へと伝播し、循環する社会を実現したいと思い、FabCafe Nagoyaに辿り着いた。想いを形にできる可能性をここで日々感じている。

    コーヒーゼリーが好き。絵本の構成に興味がある。

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