Event report
2026.7.21
Nagoya After School Loungeとは?
教育に関心を持つ人たちが、セクターや立場を超えてゆるやかに集い、対話する場です。講演会でも勉強会でもなく、FabCafe Nagoyaのカフェという空間の中で、ドリンクを片手に、思ったことを自由に話す。そんな場です。
これまでの「Nagoya After School Lounge」の様子は、以下からご覧いただけます。
- Nagoya After School Lounge #1 イベントレポート
- Nagoya After School Lounge #2 イベントレポート
- Nagoya After School Lounge #3 イベントレポート
- Nagoya After School Lounge #4 イベントレポート
『やりたいことがわからない』のは、本人の問題?
「うちの学校は、勉強もしない、時間割もない、大人もいない。そんな学校です。」
今回ゲストである、瀬戸市民立小中高一貫校「瀬戸ツクルスクール」代表の一尾茂疋さんのトークセッションでは、こんな一言から始まりました。
一尾さんが、なぜ自身で学校を作るに至ったのか?それは、多くの子どもたちを見てきた中で、ずっと心に残っていた違和感がきっかけでした。その象徴が、冒頭で紹介した一人の女性との出会いです。
名古屋大学を卒業し、周囲から見れば順風満帆とも言える人生を歩んできた彼女に一尾さんは、「ここまで頑張ってきたんだから、これからはやりたいことをやればいいじゃない。」と声をかけたと言います。
すると返ってきたのは、意外な言葉でした。
「やりたいことが、わからないんです。」
「やるべきことを先にやりなさい。」そう教えられ、その通りに努力を重ねてきた結果、自分が何を望んでいるのかがわからなくなってしまった。一方で、画一的な授業や評価システムの中で、周囲と比較されながら「勉強ができない」と自己認識し自信を無くしてしまった子どもも同様に、やりたいことがわからなくなってしまったり、やろうという決断がもてなくなってしまっている。
「周りが良しとする設計の中で、一生懸命頑張ってきた。その結末が『やりたいことがわからない』なら、それは本人ではなく、システムの問題なのではないか。」
そう一尾さんは考えました。もちろん、一人の先生だけで学校全体を変えることは簡単ではありません。学校という大きな組織では、制度や仕組みを変えるには長い時間がかかります。けれど、その間にも子どもたちは毎日成長していきます。
「今、この瞬間にも目の前に子どもたちがいる。」
そうして、一尾さんは自分自身で学校をつくることを決意しました。現在、瀬戸ツクルスクールには77名の子どもたちが通っており、引っ越したあとも通い続ける生徒や、四日市から約2時間かけて通学する生徒もいるそうです。
「不登校についてよく話題になります。でも、子どもは行きたい場所があれば、どんなに遠くても行くんです。」

幸福度に大きく影響を与えるのは「自己決定」
「人は何を目指して生きているのだろう。」
学校をつくると決めた一尾さんが、最初に立てた問いはとてもシンプルでした。さまざまな研究を読み進める中で、一尾さんがたどり着いた答えは、「幸せに生きること」でした。では、人はどんなときに幸せを感じるのでしょうか。
そこで注目したのが、「自己決定」というキーワード。
学歴や偏差値以上に、自分で人生を選んでいるという感覚が、その人の人生を豊かにし、幸福度が高まるという研究結果を目にしました。
自分で選び、自分で決め、自分で動く。その積み重ねが幸福感を育てていく。こうした考えから生まれたのが、「ウェルプレナー(Wellpreneur)教育」というあり方です。
Well-being(幸福)と Entrepreneur(起業家精神)を組み合わせたこの言葉には、「自分の幸せを大切にしながら、自ら人生を切り拓いていく力を育む」という願いが込められています。
本質だけを残していくと、今の学校の「当たり前」がほとんどいらなくなった
一尾さんは、「教育方法」を考える前に「どんな前提に立つか」が何より重要だと話します。
そんな瀬戸ツクルスクールには、教育を支える3つの基本前提があります。
① 学びは、教室の外にもあふれている
一つ目は、「あらゆることが学びになる」ということです。
学びは、教科書を開いている時間だけに起こるものではありません。友達とのすれ違いも、アルバイト先で思うようにいかなかった出来事も、家族との会話も、すべてが学びの素材になります。
コロナ禍では「学びを止めない」という言葉が広がりました。しかし一尾さんは「本来家にいても、学びは止まりません。学校だけが学びの場と捉えているから、そういう発言になる」と話します。
学びは学校という場所だけでおこるのではなく、人が生きる日々そのものの中に存在している。そんな視点から学校が設計されています。
② 大人も子どもも、対等な存在である
二つ目は、「対等である」ということです。
対等とは、先生がいなくなることでも、ルールがなくなることでもありません。役割に上下関係を持ち込まないという考え方です。
あるとき視察者に「一尾先生ってどんな人?」と聞かれた生徒が、こう答えたそうです。
「うーん。人です。」
会場から自然と笑いが起こりました。
教師だから偉い、生徒だから従う。そんな固定された関係ではなく、ある場面では教える人になり、また別の場面では教わる人になる。互いに学び合う存在として関われること。それが、この学校の考える「対等」なのだと一尾さんはいいます。
③ 子どもは、すでに育つ力を持っている
三つ目は、「子どもは、最初から必要な力を持っている」という前提です。
一尾さんは、みかんの種を例に話しました。みかんの種には、みかんになるための設計図がすべて入っています。だから私たちは、種の中に枝や葉を入れようとはしません。必要なのは、水や光、土といった育つ環境です。
子どもも同じ。何も持っていない存在ではなく、本来持っている力が発揮できる環境を整えることが教育なのではないか。その発想から、「子どもに何かを詰め込む」という教育観そのものを問い直しています。
この3つの前提から生まれたのが、一尾さんのいう「本質教育」です。本質とは、「それがなければ成り立たないもの」。例えば、プレゼントの本質は高価な品物ではなく、そこに込められた「ありがとう」という気持ちです。どれだけ高価なものでも、その想いがなければプレゼントとは呼べません。
同じように、「学校とは何のためにあるのか?」「教育とは何を育てることなのか?」と問い続けた結果、時間割やチャイム、通知表など、「本質ではないもの」は少しずつ手放されていったそうです。
高校生世代が通う瀬戸プラクティカルカレッジでは、週2日の登校に加え、アルバイトが必修。年間約80回のリフレクション(振り返り)を行い、自分自身と向き合います。卒業要件は、事業発表で経営者から承認を得ること。小中学校で育んできた「感受性」「好奇心」「自己決定」を、高校年代で社会につなげていく設計になっています。

「何をするかわからない。でも、きっとうまくいく。」
後半は、Nagoya After School Lounge恒例のDialogue Time。
あらかじめ用意された問いや、自身が感じたことについて、来場者と対話を行います。今回は瀬戸プラクティカルカレッジに通う高校1年生9名も、それぞれのテーブルに分かれ、大人たちと対話を行いました。年齢も立場も関係なく、一人の参加者として同じ輪の中で言葉を交わします。

あるグループで、こんな問いが投げかけられました。
「もし目の前に10人いたら、この学校を何人に紹介したい?」
高校生は少し考えたあと、静かに答えました。
「10人全員です。」
場の空気を読んだ答えではなく、心からそう思っていることが、その表情から伝わってきました。
また別の高校生は、卒業後について聞かれ、こう話しました。
「何をするかは、まだわかりません。でも、きっとうまくいく気がします。」
その言葉に、多くの大人がハッとした表情を見せていました。
未来が決まっているから安心なのではない。自分なら大丈夫だと思える感覚がある。その「自己への信頼」こそが、この教育の中で育まれているものなのかもしれません。
対話の最後に、一人の参加者がこんな感想を話してくれました。
「農業を始めて初めて知ったんです。どんなに良い種でも、土が整っていなければ育たない。逆に、土が豊かなら、種は自分の力で育っていく。今日のお話を聞いて、一尾さんがやっているのは、教育ではなく”土づくり”なんだと思いました。」
その言葉に、会場全体が深くうなずいていました。教育とは、子どもを変えることではなく、育つ環境を整えること。知識を与えることよりも前に、安心して挑戦できること。失敗しても戻ってこられること。自分で選び、自分で決められること。
そうした「土壌」があって初めて、人は本来持っている力を発揮できるのだと感じました。
教育について、立場を越えて語り合える場所
Nagoya After School Loungeを始めて約1年。今回で5回目の開催となりました。
続ける中で、あらためて感じていることがあります。それは、学校の先生、高校生、大学生、企業、行政、NPOなど、多様な立場の人たちが、教育について肩書きを外して対話できる場は、実はあまり多くないということ。
この場を始めたきっかけも、とても小さな問いでした。
「学校の先生と企業の人が、教育について気軽に話せる場があったらいいのに。」
先生は学校の外へ出る機会が限られ、企業も教育現場と接点を持ちづらい。
だからこそ、誰でもふらっと立ち寄れて、「こうあるべき」ではなく、「こうだったらいいな」という気持ちで教育について対話できる場所をつくりたいと思いました。
そんなNagoyaAfterSchoolLoungeでは、毎回お伝えしているグラウンドルールがあります。
「話したかったら話してもいい。
話したくなかったら話さなくてもいい。
お腹が減ったら、いつ食べても、飲んでもいい。」
たったそれだけのルールですが、不思議と場の雰囲気が変わります。
「ちゃんと話さなきゃ」
「積極的に参加しなきゃ」
そんな”こうあるべき”を少しだけ脇に置き、自分の感覚に従って過ごす人が増えていきます。
話し疲れたら少し席を外す人。
FabCafe Nagoyaのカレーを食べながら耳を傾ける人。
静かに誰かの話を聴き続ける人。
そのどれもが、この場では大切な参加の仕方です。
きっと、子どもたちだけでなく、大人にも「自己をはぐくむ土壌」が必要なのかもしれません。立場を越えて出会い、違いを受け止め、対話を重ねること。その積み重ねが、人にも、教育にも、社会にも、新しい芽を育てていくのだと思います。
次回のNagoya After School Loungeは、この秋に開催予定です。
教育について少し話してみたい人も、ただ話を聞いてみたい人も。ぜひ気軽に遊びに来てください。

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FabCafe Nagoya 編集部
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