Event report
2022.11.24
FabCafe編集部
2022年10月4日「循環型経済に向けたケーススタディとプロセスのデザイン- サーキュラー・アワード 2021受賞者と審査員が語る」を開催。イベントでは、2021年の 「crQlr Awards(サーキュラー・アワード)」の受賞者を迎え、「サーキュラーエコノミー」の普及と実践を行う最先端のケーススタディを紹介しました。
国内のサーキュラーエコノミーはどこまで進み、また何を課題としているのか。
最前線で取り組む活動内容や事例、パネルディスカッションをレポートします。
パネルディスカッションでは、「循環型経済に向けたプロジェクトの始め方」「プロセスのデザイン」「ゴール設定や成果の考え方」という3つにポイントを置き、トークを展開しました。
ロフトワーク小島和人(以下、小島和人):お二方とも取り組みをされているなかで、ご苦労もあったかと思うのですが、プロジェクトをどのように推進されていきましたか?
医療法人生和会グループ SDX研究所 大門恭平(以下、大門恭平):SOLIT株式会社でプロボノとして関わらせていただいたのがスタートです。サステナビリティに関してもそこで学んでいくなかで、チームで何か面白いことをしたいね、という話で始まったのが「odekake」プロジェクトです。
プロジェクトを進める中で、SOLITと病院がそれぞれもっている知識や情報を活かせるように、お互いが理解し合えるように、コミュニケーションをとってきました。
ニッコー株式会社 常務取締役 三谷直輝氏(以下、三谷直輝):理解に関しては、正直そんなに苦労はしませんでした。陶磁器事業、ずっと不採算なんです。会社全体としても非常に課題でしたし、何かやらなきゃいけないという共通認識のなかで、アイデアがあるんだったら、やってみようという空気感がありました。
色々メディアとかいろんな情報を集めていましたが、その1つの中でIDEAS FOR GOODのサイトをよく見てたんです。
すごく良い取り組みで、記事も分かりやすく書かれているなというふうに思いました。そこから、IDEAS FOR GOODが色んなサスティナブル商材を展開していたので、これを私たちが仕入れて売ったらどうかな?という発想から、問い合わせをしたのが最初です。
小島和人:お二方、立場がかなり違う状況にあるなと思ったんですけど、そもそもどのようにプロジェクトを始めていったのか教えていただけますか。
三谷直輝:勉強会やワークショップを重ねるなかで、社内のメンバーの理解度が高く、アイデアがすごくたくさん出てきたんです。意外なメンバーが意外とアイデアを色々出してくれて、この人こんな発想があるんだとか、結構アグレッシブに発言してくれると驚きました。非常にアイデアがたくさん出てくれたお陰で、プロジェクトがかたちになっていきました。
小島和人:いいですね。おそらくIDEAS FOR GOODさんが相当にいいファシリテートとかワークショップ的なことをされたんだろうなと思います。
ロフトワークもそういった導入段階で、「我々は何を考えていくべきなんだろうか」という全体のアジェンダを考えるワークショップをやったりしているんです。
そこで重要なのが、新しく何かをするときの状況のデザイン、場のデザイン。何か発言しやすくなるような没入感、これがないとおそらく、延々、人は疑ったままになる。だからその辺を丁寧にデザインされたんだろうなと予測しました。
そういった対話の場のデザインみたいなものは、大門さんはどう作っていきましたか?
大門恭平:患者さんも含めてそういう場を作りました。患者さんやデザイナー、現場のスタッフ、そうした方々をコロナの部分も考慮しながら、コミュニケーションの場を3、4回作ったんです。
小島和人:新しい取り組みをするときに、やはり1日で決めようと思っても、終わってから次の日とか、あるいは1週間後に、はたしてこれで良いんだろうかっていう、悶々とすると思うんです。
でも4回で考えると、合間に個人とかチームで振り返る隙があり、自分自身で構築を組み上げるというか、追加の要素を加えていける。スピード感がいる状況と、じっくりと会話をしたり、振り返るバランスがあるのは良いです。
小島和人:ではちょっと視点を変えてみて、冒頭で話していおりました、今回のクロストークの3つの視点で、イベントをご覧の皆さんが気になっていそうな、「長期的なプロジェクトのゴール設定や、成果のとらえ方」というところをちょっと触れていこうかなと思います。短期的に効果が出にくいであろうプロジェクトを、いかに社内やパートナー企業に理解してもらい進めていきましたか?
大門恭平:現場のゴールは、日常生活の活動がどこまで楽になったとか、介助の程度がどれくらい減ったとか、実際に服を着替える速度がどれくらい変わったのかという、QOLの指標や、患者さんにとって本当にいいものが出来たのかというところなので、その辺りは今も検証をしています。
後は経済的なところの利益は、コロナも色々重なって、これからなのかなと思っています。
三谷直輝:「table source」は、レストランとか飲食店さんがサスティナブルに関しての情報を欲していたっていうことが前段にあります。それを単なる陶磁器のサプライヤーではなくて、付加価値も提供できるパートナー企業になりたいという思いがありました。
一方で、今までだったら当社に問い合わせをしてこなかったような業種や人からの問い合わせという、コンバージョンも目標設定にしています。そういった出会いがあるということは新しい市場に参入ができる可能性が高まるのではないかと思っています。
「NIKKO Circular Lab」の取り組みで言うと、1番分かりやすいのがBONEARTH®(ボナース)です。BONEARTH®は、我々の食器が最終的には廃棄されるところまでデザインされているので、どうせ使うんだったらニッコーの食器を使おうかな?という流れになってもらえたら嬉しいです。
小島和人:なるほど。かなりバランスを考えられて設計されているということですね。
サーキュラーエコノミーやサスティナブルな考え方のビジネスって、作る側の話ももちろんですが、生活者側の変容も重要じゃないですか。僕たちも含めた使う側が変化していかないと、サーキュラーエコノミーで描いているような未来は来ないと感じているんです。
生活者をどう捉えていくか。これがBtoB企業であっても、それがないとおそらく、言われているからやっていますというようなサーキュラーエコノミーに逆に囚われていくような考え方になってしまいます。
ルールに縛られて良いプレイができない。例えば、サッカーで足以外がつかえないからこそ、たまにスーパープレイが生まれるような、そういうようにルールがあるからこそのアイデアも生まれてくるのかなと感じました。
大門恭平:世界的にもそうなんですけど、医療の現場の中にデザイナーさんが入るということがなかったんです。日本の論文とか研究を見ても、研究者の皆さんとデザイナーさんが話し合ってプロジェクトとかロゴを作るみたいなのはあっても、現場にデザイナーさんが入って色んなプロジェクトを進めていくっていうことができなかったんです。
でも、それが実現すると、僕たち医療人にないアイデアや発想みたいなものが、直接患者さんに渡り患者さんも「そんなのできるの?」から、新しい発想やアイデアにつながりました。そうした輪がプロジェクト内では実際にあったので、非常に僕たちにとっても勉強になりました。
小島和人:いいですね。ちょっとニヤニヤしてしまったのは、ロフトワークはその辺を大事にしているからです。デザイナーだけがそういうわけじゃないですけど、やっぱりデザイナーの力って、何かと何かをつなぐ力、何かをつなげる天才であると思います。
要素をつないだ何か新しいアイデアというのは間違いなく我々も分かる「なんかいいね」という感覚になっていく、そういう気がしました。
三谷直輝:さっきの制約の話をさせていただくと、自分たちが持ってるリソースっていうのはある意味制限じゃないですか。そこから何を生むのかっていうのは、そもそも自分たちが持ってるリソースで「何かできないか」を考え続けるというのが重要なのかと思います。
私たちが陶磁器で主力製品としている「FINE BONE CHINA」は、牛の骨灰が使われている特殊な素材です。その素材で、他のものと比べて優位性を出すために「何かできないか」をずっと考えていました。だからそれが肥料になることに気づいたことから、アイデアが実現に動いていきました。
後もう1つ、実は肥料法が変わったタイミングだったんです。今まで窯業(ヨウギョウ)で出る副産物は肥料にしてはいけなかったんです。つまりそれはある意味では制限なんですけど、我々がお皿を肥料にしたいということを農林水産省に話に行きました。最初は「なんですか、それ?」と、可能性の低い印象があったんですけど、何度も取り組みを説明しに行くなかで共感していただくことができました。
今年の2月に申請が通り、食器から生まれた世界初の肥料が誕生しました。やっぱり担当者に共感していただけたのが良かったんじゃないかなと。これは推察でしかないですけど。
小島和人:めちゃめちゃあついですね!今の話。やっぱり分かりやすいのは数値的な売上とか、ロジックで説明するのが間違いなく分かりやすいんですけど、これから先の世界って、最近よく言われるように、多様な文化になっていくと。
何が気持ちよくて、何が気持ち悪いかという、感性的な部分に紐づけていくことが多いんじゃないかと思っています。そういったロジックだけで推し量れないところを捉えていくと、もっと新しいモデルケースのサーキュラープロジェクトも出てくるかもしれません。
そういった感性に特化したサーキュラープロジェクトとか、何かアイデアありませんか?
三谷直輝:実はサーキュラービジネスに自然に乗っかっちゃってるっていう、そういうシームレスなデザインが重要なんじゃないかなと思うんです。今はすごいサスティナブル推しなものが売れると思うんですけど、一過性に過ぎないと思います。
ジェネラルストア「LOST AND FOUND」は、これも立ち上げ前に、サスティナブルな要素をどう取り入れるかという議論をしました。やっぱり1番重要なのって、究極に言えば今持っているもので生活すればいいんじゃないの?っていう。そこまで行きついちゃうんですけど、とはいえ、新しいものを買うときに1番重要なのは長く使えるものっていうことなのではと思います。
小島和人:いいですね。物理的に長く使えるっていうのはあるし、長く使いたくなるから丁寧に使うっていうのはありますよね。磁器なんかも落としたら割れちゃうから、私はこれが大好きだから落とさないように丁寧に生活するっていうのが1番いいですよね。大門さんはいかがですか?
大門恭平:身近なもので、もう1つ取り組んでいるのが、入院患者さんの「おやつ」です。病院とかのお菓子はあまり美味しいとは言いにくい。そこを改善しようとしています。
栄養補助食品として飲んだり食べたりする「おやつ」って美味しいとは言いにくいんです。美味しい方が絶対いいし、でも、たんぱく質もしっかり取れて、飲み込みもしやすい方がいいってなったときに、今までは実現できずに終わっていた部分を、実行に移し、医師と栄養士とパティシエの方がコラボして美味しい「おやつ」をつくりました。今後も、そういう身近にある課題なのに見逃しがちなプロジェクトをしていきたいと思います。
小島和人:いいですね。ちょっと僕が思った妄想を言います。病院の「おやつ」なんですけど、もちろんパティシエさんがつくる「おやつ」すごく美味しいと思います。
そこに感性的な感覚を入れるのはどうですか?駄菓子ってたまに食べたくなりませんか?よっちゃんイカみたいな。そう考えると、駄菓子メーカーとつくると、食感とか謎な感じも取り入れてくれて、たまに食べたくなる感覚の駄菓子感覚の病院「おやつ」ができるのではないかと思いました。
大門恭平:面白いですね。僕らも病院の中での患者さんの生活空間、体験を変えていくことがミッションなので、今後、感性的な要素を取り入れていきたいです。
循環型経済へ向けてのプロジェクト創出のヒントは、日頃、制約と感じているところに可能性の種が隠れている。今回ご登壇いただいたニッコー株式会社、医療法人生和会グループ SDX研究所のプロジェクトを通して、新たな気づきを与えてくれました。
「crQlr」では、今後もプロジェクト単体のサポートに留まらず、それぞれのプロジェクトを有機的に繋げ、循環型経済に向けたうねりを生み出したいと考えています。
今後もさまざまなイベントを通して、循環型経済に向けた取り組みを推進するプロジェクトをサポートして参ります。
イベント動画のアーカイブはこちらからご覧いただけます。
crQlrについて
2021年、ロフトワークとFabCafeは、循環型経済に必要な「サーキュラー・デザイン」を考えるコンソーシアム「crQlr(サーキュラー)」を立ち上げました。crQlrは、グローバルアワード、イベント、ハッカソンなど、世界中の知⾒を集め、出会いとイノベーション機会を創出し、あたらしい価値の創造、活性、発信を生み出すエンジンとして次へのアクションへのサポートを行っています。
公式サイト:https://crqlr.com/ja/
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