Column
2025.3.3
森田 湧登 / Yuto Morita
FabCafe Nagoya ディレクター
Fab Meetup Nagoya vol.13「食と農、都市と分解」
Fab Meetup Nagoyaは多種多様なバックグラウンドの人たちが、アイデアやプロジェクトをシェアするミートアップイベント。様々な”つくる”に関わる方たちにご登壇いただきショートプレゼンテーションを行います。vol.13では「食と農、都市と分解」をテーマに、自然と調和し、循環を実現する新たな暮らしの可能性を探りました。
https://fabcafe.com/jp/events/nagoya/250130-fmn-v13
イベントレポートも公開中です。合わせてご覧ください。
FabCafe Nagoyaで2025年1月8日〜1月31日まで開催された「分解可能性都市 -自然と共生する都市生活考 名古屋巡回展」と関連して、「分解」という視点から食や農、建築といった私たちの暮らしに欠かせないテーマで議論した今回のミートアップ。
都市の「分解力」を通じて、私たちがコントロールできる、あるいはすべきスケールについて、ぼく自身も深く考えさせられました。
資本主義の下で標準化やグローバルなシステムが発展し、効率性や技術革新が加速した一方で、作る人と使う人の距離が遠くなってしまったと感じます。「分解」や「再生」の視点が置き去りにされてきたのもその影響でしょうか。
小粥先生の語った「小さな道具」は、個人が主体的に環境と関わり、循環を生み出すヒントです。
しかし、現代社会においてこうした「小さな道具」はどれだけ残っているのか、疑問に思います。
民主主義が到来した時、私たちは「社会を作る人」になれたはずだったのに、いつの間にか「社会を使う人」に甘んじてしまっているのではないでしょうか。
VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代と言われる今、技術の発展も目覚ましく、より高度で専門的なものになる中で、私たちは暮らしや思想までもこの手から溢れつつあります。
現に、ぼくはいまAIという手に余る技術と対話しながら、この感想をまとめているのです。
これがもたらすのは、内省的な思考の整理と深化なのか。はたまた膨大なデータとアルゴリズムによる大きなトレンドのインストールなのか。
「分解可能性」という視点でこれからの社会を考えると、重要なのはその柔軟性なのでしょう。
微生物の話や災害の話からミートアップでも示唆されたように、予測可能で完全に制御可能な社会なんてものは存在しないのだと思います。だからこそ、私たちは何度でも社会を繕い、修理していく必要がある。
時間と共に、環境と共に変化していくような社会こそが、「分解可能」で「自然と共生」する社会ではないでしょうか。
そんなことを考えていたら、とある手紙の一節を思い出しました。
われわれは一つの運動の先頭に立っているのですから、新たな不寛容の頭目になったり、新しい宗教の使徒を自任しないでおきましょう。たとえそれが論理の宗教や理性の宗教であったとしても、です。
あらゆる異議を歓迎し、奨励しましょう。全ての排他性や神秘主義を払拭しましょう。 いかなる問題でも解明されつくした問題であると見なさないようにしましょう。
そしてわれわれがとことんまで議論を尽くしたあとでも、もし必要なら、雄弁と皮肉でもってもう一度議論をやりはじめましょう。
—– プルードンがマルクスに宛てた手紙(1846年5月17日)
どんなに議論を尽くしても、常に問い直し、修正し続ける姿勢が、社会の柔軟性や持続可能性を支える鍵なのかもしれません。
ミートアップで紹介された発酵や建築、微生物の視点は、時間を味方につけ、自然のプロセスを尊重することで、資本主義の効率至上主義に抗う可能性を示してくれました。
巨大なシステムに依存するのではなく、個人が関与できる小さなスケールでの実践が、持続可能な未来への道を開くのだと思います。
では、持続可能な都市のために、社会のために、そして世界のために、ぼくはどんな「小さな道具」を手に取ろう?
自分の見たこと聞いたこと、読んだこと、考えたことを日記に書き留めるところから始めてみようか。
都市やデジタル空間のルールの隙間をちょっとずつハックしていくのも楽しそうです。
あるいは、今は到底手に負えない「大きな道具」を手のひらに乗せるために、
それらを支える学問を少しずつ勉強していくのもいいかもしれません。
北川先生の「食べられる建築」の発想や、tanjiさんのDIYガチャガチャのように、身近な素材やアイデアで変化を生み出す道具も魅力的です。
さて、あなたはどうでしょうか?
どんな「小さな道具」を手に取って、社会を繕い、作り直していきますか?
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岩沢 エリ
株式会社ロフトワーク Culture Executive/マーケティング リーダー
東京都出身、千葉市在住。大学でコミュニケーション論を学んだ後、マーケティングリサーチ会社、不動産管理会社の新規事業・経営企画室を経て、2015年ロフトワークに入社。マーケティングチームのリーダーとして、ロフトワークのコミュニケーションデザイン・マーケティング戦略設計、チームマネジメントを担う。2022年4月からCulture Executiveを兼任し、未来探索と多様性を創造力に変えるカルチャー醸成に取り組む。最近では、「分解可能性都市」をテーマに、生産・消費に加えて分解活動が当たり前となる都市生活へシステムチェンジするためのデザインアプローチを探究している。1児の母。
東京都出身、千葉市在住。大学でコミュニケーション論を学んだ後、マーケティングリサーチ会社、不動産管理会社の新規事業・経営企画室を経て、2015年ロフトワークに入社。マーケティングチームのリーダーとして、ロフトワークのコミュニケーションデザイン・マーケティング戦略設計、チームマネジメントを担う。2022年4月からCulture Executiveを兼任し、未来探索と多様性を創造力に変えるカルチャー醸成に取り組む。最近では、「分解可能性都市」をテーマに、生産・消費に加えて分解活動が当たり前となる都市生活へシステムチェンジするためのデザインアプローチを探究している。1児の母。
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村井 裕一郎
糀屋三左衛門 種麹屋29代当主
1979年生まれ。慶應義塾大学卒業後渡米し、国際経営学修士(MBA in Global Management) を取得。帰国後すぐに家業に入り、現場での経験を積んだのち2016年糀屋三左衛門第二十九代当主となる。新しい発酵文化の創造をめざし、世界的に有名なレストランを始め海外取引など、種麹の市場を拡大する新規事業に取り組んでいる。種麹メーカーの経営者として国内外に麹を伝える講演活動をおこなう傍ら、2022年京都芸術大学大学院修了(芸術学修士)、伝統とデザイン思考について研究を開始している。
1979年生まれ。慶應義塾大学卒業後渡米し、国際経営学修士(MBA in Global Management) を取得。帰国後すぐに家業に入り、現場での経験を積んだのち2016年糀屋三左衛門第二十九代当主となる。新しい発酵文化の創造をめざし、世界的に有名なレストランを始め海外取引など、種麹の市場を拡大する新規事業に取り組んでいる。種麹メーカーの経営者として国内外に麹を伝える講演活動をおこなう傍ら、2022年京都芸術大学大学院修了(芸術学修士)、伝統とデザイン思考について研究を開始している。
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小粥千寿
デザイナー
名古屋芸術大学芸術学部デザイン領域准教授専門はコンセプチュアル・デザイン/地理学。地理学及び考現学的視点や手法から都市空間と人間生活の関わりについてリサーチし、展示や書籍、プロダクトなどの形で作品を制作。2023年より「食における生産・流通・消費のあり方」をテーマに、フィールドサーベイを行う「Edible Classroomプロジェクト」を、名古屋芸術大学の学生とともに展開している。静岡県浜松市在住。
専門はコンセプチュアル・デザイン/地理学。地理学及び考現学的視点や手法から都市空間と人間生活の関わりについてリサーチし、展示や書籍、プロダクトなどの形で作品を制作。2023年より「食における生産・流通・消費のあり方」をテーマに、フィールドサーベイを行う「Edible Classroomプロジェクト」を、名古屋芸術大学の学生とともに展開している。静岡県浜松市在住。
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伊藤 光平
株式会社BIOTA 代表取締役
慶應義塾大学卒業。高校時代から慶應義塾大学先端生命科学研究所にて特別研究生としてヒト常在菌のゲノム解析に従事。学部生時代には都市の微生物コミュニティのメタゲノム解析に従事。大学卒業後、株式会社BIOTAを創業し、微生物研究を主軸に建築・ランドスケープデザイン、素材開発によって微生物多様性を高める都市デザイン事業を行っている。個人では循環をテーマとしたスペキュラティブデザイン作品を制作・展示している。
慶應義塾大学卒業。高校時代から慶應義塾大学先端生命科学研究所にて特別研究生としてヒト常在菌のゲノム解析に従事。学部生時代には都市の微生物コミュニティのメタゲノム解析に従事。大学卒業後、株式会社BIOTAを創業し、微生物研究を主軸に建築・ランドスケープデザイン、素材開発によって微生物多様性を高める都市デザイン事業を行っている。個人では循環をテーマとしたスペキュラティブデザイン作品を制作・展示している。
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北川 啓介
名古屋工業大学教授|建築活動家
愛知県生まれ。2017年米国プリンストン大学客員研究員を経て、2018年から現職。2019年大学発ベンチャーの株式会社LIFULL ArchiTech代表取締役社長兼CEO。建築構造物領域のプロフェッショナルであり、インスタントハウス技術の考案者。国内外での建築設計や建築教育の経験を経て、知財をもとにした未来志向の建築や都市を考案し、実用化した上での事業化を推進。
愛知県生まれ。2017年米国プリンストン大学客員研究員を経て、2018年から現職。2019年大学発ベンチャーの株式会社LIFULL ArchiTech代表取締役社長兼CEO。建築構造物領域のプロフェッショナルであり、インスタントハウス技術の考案者。国内外での建築設計や建築教育の経験を経て、知財をもとにした未来志向の建築や都市を考案し、実用化した上での事業化を推進。
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森田 湧登 / Yuto Morita
FabCafe Nagoya ディレクター
愛知で育まれた人間。名古屋大学大学院工学研究科物質プロセス工学専攻修了。
人々の心がうねる瞬間が好きで、学問やデザイン、音楽やパフォーマンスなど物事をつくることに広く興味を抱く。在学時代、野良で見境なく学問やデザインに取り組む中で「はじまり」のデザインを実験したいと思い、FabCafe Nagoyaに参加。
エレクトーンとアイスクリームが好き。コール&レスポンスは世界を救うと思っているし、実はアイスクリーム屋さんでもある。
愛知で育まれた人間。名古屋大学大学院工学研究科物質プロセス工学専攻修了。
人々の心がうねる瞬間が好きで、学問やデザイン、音楽やパフォーマンスなど物事をつくることに広く興味を抱く。在学時代、野良で見境なく学問やデザインに取り組む中で「はじまり」のデザインを実験したいと思い、FabCafe Nagoyaに参加。
エレクトーンとアイスクリームが好き。コール&レスポンスは世界を救うと思っているし、実はアイスクリーム屋さんでもある。
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FabCafe Nagoya
ものづくりカフェ&クリエイティブコミュニティ
デジタルファブリケーションマシンと制作スペースを常設した、グローバルに展開するカフェ&クリエイティブコミュニティ。
カフェという”共創の場”でのオープンコラボレーションを通じて、東海エリアで活動するクリエイター、エンジニア、研究者、企業、自治体、教育機関のみなさまとともに、社会課題の解決を目指すプロジェクトや、手を動かし楽しみながら実践するクリエイティブ・プログラムなどを実施。
店頭では、農場、生産者、品種や精製方法などの単位で一銘柄とした『シングルオリジン』などスペシャリティコーヒーをご提供。こだわり抜いたメニューをお楽しみいただけます。デジタルファブリケーションマシンと制作スペースを常設した、グローバルに展開するカフェ&クリエイティブコミュニティ。
カフェという”共創の場”でのオープンコラボレーションを通じて、東海エリアで活動するクリエイター、エンジニア、研究者、企業、自治体、教育機関のみなさまとともに、社会課題の解決を目指すプロジェクトや、手を動かし楽しみながら実践するクリエイティブ・プログラムなどを実施。
店頭では、農場、生産者、品種や精製方法などの単位で一銘柄とした『シングルオリジン』などスペシャリティコーヒーをご提供。こだわり抜いたメニューをお楽しみいただけます。
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森田 湧登 / Yuto Morita
FabCafe Nagoya ディレクター
愛知で育まれた人間。名古屋大学大学院工学研究科物質プロセス工学専攻修了。
人々の心がうねる瞬間が好きで、学問やデザイン、音楽やパフォーマンスなど物事をつくることに広く興味を抱く。在学時代、野良で見境なく学問やデザインに取り組む中で「はじまり」のデザインを実験したいと思い、FabCafe Nagoyaに参加。
エレクトーンとアイスクリームが好き。コール&レスポンスは世界を救うと思っているし、実はアイスクリーム屋さんでもある。
愛知で育まれた人間。名古屋大学大学院工学研究科物質プロセス工学専攻修了。
人々の心がうねる瞬間が好きで、学問やデザイン、音楽やパフォーマンスなど物事をつくることに広く興味を抱く。在学時代、野良で見境なく学問やデザインに取り組む中で「はじまり」のデザインを実験したいと思い、FabCafe Nagoyaに参加。
エレクトーンとアイスクリームが好き。コール&レスポンスは世界を救うと思っているし、実はアイスクリーム屋さんでもある。