Event report

2019.10.9

【イベント開催レポート】街にコーヒーショップがあるということ| 五条喫茶室

FabCafe Kyoto編集部

五条喫茶室とは

こんにちは。FabCafe Kyotoの高田です。私は大学院でコワーキングスペースなどの空間デザインを研究しています。カフェ文化も研究対象のひとつ。そこで「五条喫茶室 -コーヒーショップから考えるコミュニティ論-」というイベントを企画・実施しました。五条喫茶室は、さまざまなバックグラウンドを持つ人々がコーヒーを片手に集い、私たちの「いま」を語り合う場所です。

記念すべき第一回目はのテーマは「コーヒーショップから考えるコミュニティ論」「コミュニティ」が盛んに叫ばれる昨今ですが、「コミュニティ」という言葉の意味が日々変化し、拡大を続けていることを肌で感じている人も多いのではないでしょうか。

ロンドンの「コーヒーハウス」やフランスの「サロン」に代表されるように、文化や思想を育てる人と人との結節点として、コーヒーショップは常に存在してきました。街中のコーヒーショップに焦点を当て、小さなお店がまちの中で担う役割を考えることで、コミュニティの「いま」へのヒントを探ります。今回は3名のゲストをお招きして、それぞれのフィールドから「コーヒーショップとコミュニティ」について語っていただきました。

高田幸絵(五条喫茶室マスター/ FabCafe Kyotoクルー)

京都工芸繊維大学デザイン学専攻在学中。FabCafe Kyotoのクルーでもある。趣味のコーヒーショップ巡りをきっかけに空間と人との関わりに興味を持ち、現在はワークプレイスデザインを研究している。

今回のお客さま

  • TRAVELING COFFEE/牧野広志

「TRAVELING COFFEEは、地域の人がメイン。観光のお客さんもいらっしゃるけど、基本的に地域の方に来ていただいて喜んでもらえるように心がけています。」

 牧野さんが普段コーヒーを淹れているTRAVELING COFFEEは木屋町・元立誠小学校の職員室で始まりまった。今は仮設の図書館で営業している。2015年のパラソフィア(京都国際現代芸術祭)のビジターセンターから始まったトラベリングコーヒー。もともと2ヶ月の期間限定店舗の予定が、地域の人からの支援によって、現在まで続いているとのこと。

  • FabCafe Kyoto/木下浩佑さん

「多様な『ものづくり』のための場所なんだけど、つくることを目的にしない人や、興味関心が異なる人も受け入れられるのがカフェという場のあり方。直接の影響はなくてもカフェでものを作っていると、新しいアイデアがもっと生まれるんじゃないのっていう空気や感覚がFabCafe Kyotoにはあります。」

カフェであると同時にコワーキングスペースやメイカースペースとしての顔も持つFabCafe Kyotoの店舗運営を行っている。年間平均100件を超えるイベント開催を通して、「コラボレーションが生まれるコミュニティスペースづくり」「異分野の物事を接続させるコンテクスト設計」を実践中。

  • 名古屋大学/小松尚さん

「建築を、経済の論理じゃなくて、使う人とか街のひとがその建築を好きになる、残したくなる、用がなくても行きたい、そういう場所をこれから作れたらいいなあと、約30年前の学生の頃から考えてきました。」

建築計画やまちづくりが専門。建築の視点から喫茶店の社会的役割を研究・実践を行なっている。建築を作ることが正義だったバブル時代の中で、本当にそれでいいんだろうか、自分が行きたいと思ったときに愛着が持てるような、居場所はどこだろう、と疑問に感じていた。

「共在」感覚が現代のコミュニティ

「コミュニティ」のあいまいさ

「コミュニティ」を教科書通りに考えると「サイトコミュニティ=血縁・地縁」「テーマコミュニティ=同じ関心ごとを持って集まってくるもの」の2つの意味があります。でも私たちが普段使っている「コミュニティ」はそのどちらかに当てはまるものでしょうか。ゲストのみなさんに「コミュニティ」という言葉の意味を聞きました。

「僕は職業柄『コミュニティ』という言葉をよく使うのですが、あらためて考えると、文脈に合わせて言葉の意味を使い分けているかもしれません。こういうスペース、多様性を大事にし、個人が個人として許容される場所を『コミュニティ』と呼んでいることもあれば、特定の関心ごとに対してすごく熱量を持った有志の集まりのことを『コミュニティ』ということもあって。どちらも同じ言葉で呼んでひとくくりにすることに違和感を抱くことがよくあります。」(木下さん)

「共在」感覚が現代のコミュニティ

今日的な「コミュニティ」を別の言葉で言い換えるとしたら、「共在」だと小松さんは言います。「共在」とはそこでおしゃべりや挨拶をしなくても、一緒にいることが許容できる関係です。

「参加しないけど遠くで眺めていることを許容してくれるような場所・人の関係はとってもいいな。どこかで必要なら入って行くし、距離をおいていてもいい。そういうことを許容してもらえるのが、僕が今カフェという場について考えるときに、ピタッとくるコミュニティであり、コミュニティ感覚です。」(小松さん)

居場所としてのコーヒーショップ

コーヒーショップと一言で言っても、お店の形態や提供する商品・お客さんのニーズなど、様々な点で多様化が進んでいます。一方で、若年層を中心に古い喫茶店が再びブームになっている昨今、街中のコーヒーショップはどのような役割を担っているのでしょうか。

街に安心が生まれること

TRAVELING COFFEEがある木屋町は、京都でも随一の色街・飲屋街です。バーやクラブが軒を連ねつつ、そこに住んでいる人もいるとのこと。交わる機会がなく分断されていた木屋町の人たちの関係が、コーヒーショップをきっかけに少しずつ築かれています。クラブで働く人が街を掃除したり、地域の人と一緒に運動会が行われたり。このような動きは、TRAVELING COFFEEだけでなく、街の様々なコーヒーショップで起こっているのだそう。

「立誠小学校みたいな場所に一つお店があると、バーやクラブを経営してる人がコーヒー飲みに来る、地域の人も来る。すると顔が見える。そうすると、顔なじみになって、『あなたなにしてるの』って話をすると、ちょっと安心する。顔が見えるから。すると、いままでなかったような活動が始まるんですよ。」(牧野さん)

人と人が接続される仕組みを作っておくこと

つくるひと同士が出会い、新しいものづくりが生まれ続けているFabCafe。ここでは、コーヒーがコミュニケーションツールとして機能していると木下さんは言います。

「これといった用事がなくても、コーヒーを飲みに来ることができる。コーヒーを飲みながらおしゃべりしていると、想定外の素敵なものに出会う。いろんな人たちが誰でもいられる状態になってて、そこに繋がりたかったら繋がれるしくみを作っておくのが、カフェという場の役割だと思っています。」(木下さん)

アーバンリビングとしての喫茶店

喫茶店を語るキーワードとして「アーバンリビング」という言葉を挙げた小松さん。自分の家のリビングにいることに理由がいらないように、ここにいる理由がなくても許される、街中の居場所のことです。そのように成り立っている場所は、かつてどこの街にもあったはず。今、その価値がもう一度見直されています。

「お茶一杯頼めば、多少長居したとしても『いつまでいるの?』などとは言われない。そういう許容性や寛容性がある場所というのがやはり街の喫茶店のいいところかな。でもこれは最近生まれたものではなくて、昔からあったものなんですよね。」(小松さん)

京都と「いけず」

会場からも「コーヒーショップとコミュニティ」に関する質問を募りました。すると、最近東京から大阪に引っ越したばかりという方からこんな質問が…

「街の小さな喫茶店に興味があるけれど、足を踏み入れにくくて大規模チェーン店に行っちゃう。地域の人を大切にすることは大事だと思いますが、その上で別の土地からきた人にどうやって開こうと考えていらっしゃいますか。」

「通う!いけずを喰らいまくる!(笑)いけずは地域の人たちのバリアなの。それをうけても通えば、自分の場所をくれるから。行けば必ずいけずを喰らうけど、だんだん馴染んでくれば自分の場所ができる。」(牧野さん)

そう勢いよく答えた牧野さん。この「いけず」とは「いじわる」ではなく、お店とお客さんがより良い関係を築くためのステップであるようです。

「通うと、そこで情報をくれるから。あそこのごはんおいしいよとか、このコーヒー好きならここもいいよとか。そういうコミュニケーションがうまれるから。」(牧野さん)

ただの「知り合い」だった人が、ゆっくりと時間をかけて「大切な仲間」に変化していくように、コーヒーショップと人との関係も、徐々に築いていくべきかもしれません。

コーヒーショップから考えるコミュニティ論

どうやら、コーヒーショップにおけるマスターの仕事は、おいしいコーヒーを淹れるだけではないようです。そこを訪れる人の居場所を作ること。コーヒーを淹れる人と飲む人の両方にとって居心地のよい環境を少しずつ整えること。それらすべてをデザインできる喫茶店のマスターになりたい!私の修行はまだまだ始まったばかりです。

また、顔が見える関係を築くこと。共通言語がないと思っていた人とも、接続される仕掛けをつくること。多様性に寛容であること。このことは、コーヒーショップだけでなく、これからの社会全体に必要な考えであると感じました。

さまざまなバックグラウンドを持つ人々がコーヒーを片手に集い、私たちの「いま」を語り合う場所である「五条喫茶室」。第一回目は、街のコーヒーショップが担う役割を考えることで、コミュニティの「いま」へのヒントを探りました。

終始和やかな雰囲気で進行し、私が誰よりも楽しんでしまいました。ご来店いただいたみなさん、ありがとうございました。


次回もおたのしみに。

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  • FabCafe Kyoto編集部

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