どういうわけか、木にはコブができます。何らかの病気で幹から膨れ上がったものもあれば、枝打ちを繰り返すうちに巨大なかさぶたのように形成されたコブも。しかし、コブの発生にはまだ謎も多く、よく分かっていません。そんなコブが、ものづくりの材料に。
コブの形をそのまま生かしたキャンバスをつくり、西洋画の伝統的な手法で図案を描いたのは、美術制作者の岡林利江さん。図案は下描きなしの即興で描いたものです。白い紙の上にしばらく置いておくと、木の粉が積もります。そう、このコブの住人は小さな分解者。日々分解は進み、この作品はいつか土に還るでしょう。
岡林さんが目指したのは、手のひらに収まるコブを使った工芸品のような作品でした。即興の勢いがありつつも精密さを感じる図案が、コブのキャンバスに描かれています。何も手を加えていないコブの荒々しさと図案の対比が印象的。
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①ヤスリで面を平らにする
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②砥の粉で目止め
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③ジェッソを塗ったのち乾燥させ、ヤスリで表面を平らにする。これを何度か繰り返し、平らな表面をつくる
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④白がコブの色から浮きすぎていると感じ、テールベルトという土由来の絵の具を混ぜた
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⑤金銀のボールペンそれぞれ太いもの、細いもの2種類を使い図案を描く。最後にスプレーニスを塗ったら完成
コブは板材をはじめとした木質材料と異なり、その形状は千差万別で立体的。そのため、ヤスリをかけて平らな面をつくる際は、コブを固定するための力がうまく入れられず、なかなか苦労されたそう。しかし、平面を出したあとに塗ったジェッソは、コブ断面のデコボコした面白い形を残すように工夫。人の加工を加えつつ、コブらしさを最大限活かす。制作工程からは、岡林さんのそんな意図を感じます。
岡林利江
美術制作者。暮らしの中で普段は和紙などに図案を描いている。森林インストラクターでもあり、森でワクワクすることを作りたいと動いているところ。最近では森でピエロになる修行を始めた。
乾燥が進むにつれホオノキのコブの緑色が抜けていったり、分解されていったり、コブを置いているだけで部屋が木の匂いに満たされて、生きている素材だということをいつも思っていました。そのことを大切にしながら、コブにふさわしい作業をしたいと思いましたが、今回は少し作りすぎてしまったと感じています。残っているコブで、今度は子どもが遊ぶように制作したいと思っています。
岡林利江
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志田 岳弥
Hidakuma 森のプロデューサー
1991年東京生まれ。琉球大学農学部を卒業後、国際協力機構(JICA)青年海外協力隊としてペルー共和国に赴任し、国家自然保護区管理事務局(SERNANP)ピウラ事務所にて環境教育に従事。流通業界紙記者、チリ共和国でのサーモン養殖産業についての取材活動を経て、2020年6月よりヒダクマに所属。マーケティングや滞在型プログラムの企画・運営などを担当している。地元漁業組合でも活動中。北アルプスや周辺エリアを源流とする高原川流域にて、渓流魚を対象としたフィールドワークを展開している。
1991年東京生まれ。琉球大学農学部を卒業後、国際協力機構(JICA)青年海外協力隊としてペルー共和国に赴任し、国家自然保護区管理事務局(SERNANP)ピウラ事務所にて環境教育に従事。流通業界紙記者、チリ共和国でのサーモン養殖産業についての取材活動を経て、2020年6月よりヒダクマに所属。マーケティングや滞在型プログラムの企画・運営などを担当している。地元漁業組合でも活動中。北アルプスや周辺エリアを源流とする高原川流域にて、渓流魚を対象としたフィールドワークを展開している。