Event report

2018.9.5

発想力と思考力を身につける方法 ー三谷宏治「思考の体幹を鍛える」ワークショップレポート

FabCafe Kyoto編集部

MTRL KYOTOより
本記事は 2018年6月4日、7月4日、7月19日の全3回にわたって、MTRL
KYOTOで開催されたイベント『三谷宏治「思考の体幹を鍛える」ワークショップ』のレポートです。(筆者:小島和人 [ロフトワーク
プロデューサー])

こんにちは。プロデューサーの小島です。2018年6月4日、7月4日、7月19日の全3回にわたって、MTRL KYOTOで三谷宏治さんによる「思考の体幹を鍛える」ワークショップが開催されました。三谷さんのワークショップは、渋谷のロフトワークでも過去に6回開催され、毎回チケットが売り切れになった人気イベントです。

デザインや、ものづくりの現場はもちろん、会社の会議や日々の生活でも「発想力」や「思考力」が求められるシーンは様々あるかと思います。でもこの発想力や思考力は、天性による特別なものだと思っていませんか?

今回の「思考の体幹を鍛える」ワークショップは、特別なセンスを必要とせず、少しだけ視点や考え方・動き方を変化させるだけで、誰でもすぐに実践できる「思考力」を学ぶ事ができました。ではその気になる講義がどのような内容だったのか、当日のワークショップと講義で学んだ事をお伝えします。

SPEAKER / GUEST

講師 三谷宏治

1964年大阪生れ、福井で育つ。東京大学 理学部物理学科卒業後、ボストン コンサルティング グループ(BCG)、アクセンチュアで19年半、経営コンサルタントとして働く。92年 INSEAD MBA修了。2003年から06年 アクセンチュア 戦略グループ統括。2006年からは特に子ども・親・教員向けの教育活動に注力。現在は大学教授、著述家、講義・講演者として全国をとびまわる。 K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授(MBA責任者)の他、早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学 客員教授、放課後NPO アフタースクール・NPO法人 3keys理事を務める。『経営戦略全史』(2013)はビジネス 書2冠を獲得。 永平寺ふるさと大使。3人娘の父。 公式サイト:http://www.mitani3.com/

 

1. 「決める技」と「重要思考」という考え方

お互いの知識や、前提の共有がなければ議論ができないということ

目的を見失って、何も決められない長い長い会議。ビジネスのシーンでもよく見かけますよね。第一回目のワークショップ&講義では、こういった不毛な状況を打開すべく、複数人の議論でスムーズに意思決定を進めるための「決める技」と「重要思考」を学びました。

ワークの内容は、同じ机の4-6名のチームが極限のサバイバル状況に陥ったという設定のもと、どうすればこの状況で生還ができるかに対する答えをみんなでディスカッションをして導き出す、というもの。三谷さんのワークショップは少しスパルタな所があって、1回目は必ず失敗をさせられます。今回も1回目は見事にグダグダな議論のまま制限時間が迫り、半ば投げやりな決め方で終わってしまいました。2回目のワークに移る前に、なぜ1度目の議論はうまくいかなかったのかをチームで考えた後、三谷さんの「決めるための議論」について教わりました。

まず、議論の目的など大事(ダイジ)な事から決めていく「重要思考」という考え方。1回目のワークではサバイバルから生還するため、自力で生還しようと進む動かずに救助を待つかの目的が共有されていないまま、各々が好きに話してしまっていました。前提・知識をチームですり合わせ、話がを噛み合う状況を作った上で目的や戦略など大事なことから順に決定していくという、冷静に考えたら当たり前のことなのですが、これがなぜかできない。すぐディテールの話にみな突っ込んでいきます。そもそも目的が定まっていないのに、他のことが決まるわけないですよね。

この他、各個人の役割や、発言ルール、時間配分などの取り決めなどの細かな「決める技」を教わり、2回目のワークに臨みます。すると、前提となる目的や発言ルール、意思決定ルール、役割などが共有されているだけで明らかに議論の速度があがり、スムーズに意思決定が進み、内容も格段に実のあるものになりました。

決めるための議論か、広げるための議論か

僕はいつも「でも、こういう考え方もあるんじゃないだろうか」といった、他人と違う視点やアイディアなどを積極的に発言しようとする所があるのですが、決めるための議論では必ずしもそれは必要がないことに気づきました。その議論がなんのために行われているのか、目的や前提を共有する事が最も大事だということを改めて感じました。

2. 「ハカる」ことと「例外に目を向ける」こと

課題を発見するためには、触れてみなければわからない

企画書のアイディア出しなど発想力を求められるシーン。始めはアイディアが出せても、徐々にネタがなくなって苦しくなっていきませんか?。第二回目のワークショップ&講義では、少ない情報から多くの発想・発見を得て、そこからさらに物事を読み解く事で発想を広げる方法を学びました。

この日に行なったワークは、同じ机の4-6名のチームで紙コップの形状を観察し、特徴を探し、「この形状である理由は何なのか?」を議論することでした。

ここでの三谷さんの教えは、「頭だけで考えない(ハカれ!)」でした。

たとえば手に取って手触りや硬さを調べてみる、ハサミで切り取ってみる、水を入れてみる、重ねてみる、落としてみる、転がしてみる…。紙コップという身近で当たり前なものでも、実際にモノに触れて調べてみる事で、頭だけでは予測できなかった発見を多く得る事ができました。

例外に目をむける

一般的なアンケートや調査では、一部の例外的な案は除き、平均値で考えることが多いです。けれども、発想や可能性を広げる場合においては、例外的な言葉にこそ耳を傾け、「なぜそうなっているのか?」を読み解いてみることで、新たな着想を得られることがあると学びました。発見した課題を探究するためには、平均値だけを見るのではなく、あらゆる方面から考察することが大切ですね。

課題を発見するために必要な「動いて試す(ハカる)」ことと、探究するために必要な、常に「なぜそうなっているのか?」という視点。日常では常識すぎて意識的に見る事がない部分に注意して目を向け、なぜそうなっているのか原因を考えることで、日常に紛れている課題を発見できるという考え方です。

私はプロデューサーをする一方、アーティストとしても活動しています。その活動の中で、日頃触れる物事に対していつも「なぜそうなんだろうか」「本当にそうなんだろうか」と考えるのですが、これは課題の探究において必要な考え方だと改めて感じました。鍛錬として引き続き、日常への問いかけをしていこうと改めて意識が高まりました。

3. 要素を分解して再発見する

広い視野で課題を発見する

最終日の講義は、とあるホームセンターの事例から始まりました。

この店舗は競合他社が多い中で、なかなか成果を出せずにいました。でもある時、駐車場で働くスタッフが「手ぶらで帰るお客さんが多い」と気がつきます。声をかけてみると、「探していた商品が無かった」という声ばかり。しかしその商品はすべて店舗で販売しているものでした。商品がなかったのではなく、見つけることができなかったんです。

これをキッカケに、売り場面積を減らしてでも、商品を見つけやすいレイアウト作りを始めたそうです。これは思い切った施策で反対の声も多かったものの、結果を見れば売り上げは大きく伸び、急成長を遂げたそうです。

このホームセンターが成長した理由は、課題を見つけるために普段意識しにくい所にも目を向けて課題や発想へのキッカケを得ようとしたこと。そしてそれを検証して深め、広げる事で発展したということだと思います。

アイデアを膨らませたい時に即、実践できる「JAH展開」

最終日のワークショップでは、一つの要素をJiku)・値Atai)・幅Haba)に分解し、それらを組み合わせる、あるいは軸をズラす事で別のアイデア・発想に変換する手法「JAH展開」を使い、実際に変化させたアイデアをチーム内でプレゼンテーションをする実践形式で身につけました。

要素の分解はクライアントの課題や要望を理解し掘り下げていく中で、日々行っていますが、中には思う様に理解が進まない、あるいは時間がかかりすぎる事があります。そういったシチュエーションではこの「JAH展開」をすぐ活用できそうです。

「思考力」は特別な力じゃない

毎回難しいお題に意欲的に取り組み、思考の方法を学んだ三谷さんのワークショップ。とてもハードで、みんなワークショップ終了後には毎回疲労感に見舞われていましたが(笑)、全3回のワークショップや講義を通して、今まで感覚的にやっていた議論やアイディア出しを、改めて、論理立てて効率的に考える方法を身に付けられました。

冒頭にも書きましたが、今回教わった三谷さんの思考法はセンスがある人にしかできないようなものではなく、少し変化を加える事で「思考力」を高めるための、まさしく「体幹を鍛える」ワークショップと講義でした。

僕は独創的・直感的な発想は得意なのですが、今回のワークショップと講義ではそれらを活かすための基礎となる論理的な思考の組み立て方やその伝え方を学ぶことができました。

今まで少し苦手としていた論理的な組み立て方を理解し、得意な非論理的な直感を組み合わていく事で、ここからさらに僕なりの発想法を作っていけそうです。

 

Author

  • FabCafe Kyoto編集部

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