Event report

2022.4.9

ファッションの解釈の拡張からこれからのファッションを探る【Youth Meets Fashion, Fashion Meets Youth レポート】

ファッションは私たちにとって、どんな存在なのか。そんな疑問から「ファッション」そのものを見つめ直すことをテーマにZ世代・ミレニアム世代の「若者」によるオンライントークセッションを2022年3月19日に開催しました。

服を着る理由、衣服とファッションの関係性、そして仮想空間におけるファッションの可能性など、いまのファッションから未来のファッションまで「自分」を起点にファッションのあり方を見つめ直すことができました。

ファッションに接しながらもその分野にとらわれない活動をしているゲストならではの、柔軟性のある思想からファッションにアプローチしたトークセッションの内容をレポートします。

当日のトークセッションはこちら

 

  • Christopher Loden

    仕立て屋。

    東京/オンラインを拠点に活動中。
    現在のメディアや置かれている環境によって「ファッション」という装いと身体に与える影響から、物理的/社会的身体に対する認識を様々なメディア/台座を用いてそれらの認識の境界を新たな視点から捉え直し、拓かれた身体変容の可能性について思考する。
    近年の活動に個展「2121 SS/AW COLLECTION」(デカメロン ,歌舞伎町,2022)企画展「パンゲア・オン・ザ・スクリーン」(TAV Gallery,東京,2020)がある。
    東京/オンラインを拠点に活動中。
    現在のメディアや置かれている環境によって「ファッション」という装いと身体に与える影響から、物理的/社会的身体に対する認識を様々なメディア/台座を用いてそれらの認識の境界を新たな視点から捉え直し、拓かれた身体変容の可能性について思考する。
    近年の活動に個展「2121 SS/AW COLLECTION」(デカメロン ,歌舞伎町,2022)企画展「パンゲア・オン・ザ・スクリーン」(TAV Gallery,東京,2020)がある。
  • Riku

    REING - Planner / Designer

    Tokyo Fashion Technology Labを卒業後、衣服を空間における境界線と捉え、意識の二面性をテーマにした二人分の用尺を取った洋服など、衣服を中心に作品を制作。
    また、二元論に囚われない表現を追求するクリエイティブ・スタジオ「REING」にてコンテンツ制作や企業のコミュニケーション設計などを行う。

    Tokyo Fashion Technology Labを卒業後、衣服を空間における境界線と捉え、意識の二面性をテーマにした二人分の用尺を取った洋服など、衣服を中心に作品を制作。
    また、二元論に囚われない表現を追求するクリエイティブ・スタジオ「REING」にてコンテンツ制作や企業のコミュニケーション設計などを行う。

  • 片平 圭

    MTRL クリエイティブディレクター

    武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒。大学ではインスタレーションを表現手法にしたファッションデザインを学ぶ。卒業後、アパレルのコレクションブランドで企画生産管理、店舗運営に従事。その後、素材やものづくりの新たな可能性を探求するためロフトワーク/MTRLに入社。趣味は日光浴。

    武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒。大学ではインスタレーションを表現手法にしたファッションデザインを学ぶ。卒業後、アパレルのコレクションブランドで企画生産管理、店舗運営に従事。その後、素材やものづくりの新たな可能性を探求するためロフトワーク/MTRLに入社。趣味は日光浴。

  • 加藤 あん

    2000年生まれ。水瓶座。

    2019年あいちトリエンナーレ育成プロジェクト参加をきっかけにアートとジェンダーについて興味を抱く。卒業論文のテーマは「身体とファッション」。鷲田清一の「モードの迷宮」がバイブル。現代の人々が衣服を着用する意味、身体本来の目的ついて深掘り中。 趣味は映画鑑賞。特に好きな映画は「SWEET SIXTEEN 」。

    2000年生まれ。水瓶座。

    2019年あいちトリエンナーレ育成プロジェクト参加をきっかけにアートとジェンダーについて興味を抱く。卒業論文のテーマは「身体とファッション」。鷲田清一の「モードの迷宮」がバイブル。現代の人々が衣服を着用する意味、身体本来の目的ついて深掘り中。 趣味は映画鑑賞。特に好きな映画は「SWEET SIXTEEN 」。

トークセッションはこの問いから始まりました。

”人が服を着用すること”を前提条件として、ファッションが語られることは少なくないと思います。本イベントでは人が服を着用する根源的な理由を提示した上で、ファッションについて考えてほしいと思い、この問いを投げかけました。

Rikuさんは「衣服を着ることに理由はないと考えています。でもどんな服を選ぶのかは重要で、それがファッションになっているんだと感じます」と言います。「モラルとして衣服を着なければならない、洗脳的になされていますよね。あるいは自分をキャラクターづけをするため、演出をするために衣服は機能しているとも思います。」とLodenさん。さらに片平さんは「着ることは生まれたときから前提条件だと思います。自分もキャラクターやアイコン的に着ているとは思うのですが、僕の場合、外に向けて発信しているという感覚はなくて、自分がウェルビーイングである為に服を着ている気がします。

衣服の起源である、環境から身体を保護する機能は、テクノロジーが発達した現代において衣服が担う必要はないのかもしれません。だからといって私たちは裸で過ごすことはありません。それは、生まれたときから衣服を着ることは当たり前で、モラルだと考えているからという意見があげられました。ただなぜその服を選んだのか、その選択が自分のキャラクターを形成し自分を演出しています。これこそがファッションだと気づかされた瞬間でした。

片平さんの「ウェルビーング的に着ている」という意見から、自分の装いと他者との関係についてディスカッションをしました。「装うことは表現すること、それ自体どういう服を纏うかでどういう見られ方をしたいのかが大きいのでは。」とRikuさん。
「肉体がある以上、社会と関わっていて、他者と共有されるときどう振る舞うかとしてファッションがあると思います。だからこそ他者ありきのファッションだと考えます。」とLodenさんは話します。
さらに「他者がいないと裸になるのか」とRikuさんは考えます。そこでRikuさんは「他者がいてもいなくても服は着るだろうし、他者がいることで自分の解像度があがるんだろうなと思います。相手と比べてどの位置にいるのか。自分の姿は自分が一番見れないという前提があった上で、それを他人だったりと比較して、自分の解像度を上げていくものだから、他者ありきでファッションが完成するのではないでしょうか。」

こうした話から考えると、他者の存在があることでファッションが成り立つと考えられます。他者がいなくとも服は着用しますが、それがファッションとは考えにくいことも言えます。プロダクトとしての衣服、営みとしてのファッション。わかるようでわからない、曖昧になりがちな両者ですが、そこに「他者」という存在が関係しているのか否かによって、より理解を深めることができました。

そして、Lodenさんの作品<Portable Shelter>(2016)のお話へ。

服と家というメディウム を用いプライベート/パブリック、移動/定住について言及したパフォーマンス作品

 

自身の体験から衣服は領土的な意味を持っていると考えたことがきっかけに作品を制作したLodenさん。「衣服を大きくすればするほど自分の身体から離れますよね。その瞬間、全てが服に内包された感覚でした。どこからが衣服なんだろう。これでは家と変わらないのではないだろうかと思いました。」環境によってその境界が異なると考えたLodenさんは河川敷や電車内でパフォーマンスを行いました。「電車内では、安心して暮らしていた河川敷と違って落ち着かなかったし、危険性を感じました。占有していれば家であるかというとそうではないことがわかりました。どこからが境界なのか固定できないからこそ、作品を通して提示しています。」
さらに衣服は肉体を認知したり位置付けをさぐるためにあるとLodenさんは考えています。
つまりRikuさんの話でもあったような裸でいることへの抵抗は、自分という存在がどこからあるのかがわからないからであり、衣服は自分の境界を知らせてくれる機能(例えば、シャツが背中に擦れると自分を認知できることのような)を持っていることが考えられます。

「外と内で境界はされているけど不安を感じる経験はしたことあるなと思っていました。」とRikuさん。Rikuさんは友人の家で就寝することにストレスを感じ、実家の自分の部屋をCGで再現したVRゴーグルを被って就寝した経験があるそう。その結果とても落ち着いたと言います。「仮想空間にいくことはある種、リアルな身体から離れているから、仮想空間の中に自分の身体が移って、リアルと逆転したあるいは、自分の身体の感覚がなかったから落ち着いたのでは。仮想空間もある種、ひとつのシェルターでもあるし、境界線でもあるなと思っています。」
また、Rikuさんはシェルターとしての衣服には二つの側面があると言います。一つは雨風をしのぐシェルター、二つ目は精神的なシェルターです。「肩肘を張るという表現もありますけど。自分を強く見せる服は肩に主張がある服や赤い服だったりするのが不思議で。それから肩肘が張るという表現がきたかはわからないですけど、ある種それもシェルター的なものだと思ってるし、他人から目線や自分の強さをシェルター的に纏う精神的なものとしてシェルターかなと思っていたりしますね。

そこに自分の身体があることを確認するための”自己認識”として、そして身体を環境から保護する”シェルター”として衣服が現代において機能している可能性を探りました。特に、寒さ・暑さなどから逃れるためのものだけにとどまらず、他者から見られることを前提に自分の強さを表現するためにその象徴として衣服をシェルター的に着用しているというRikuさんの考えは現代において要素の強いものなのかもしれません。

話題は未来のファッションへ。近年VRなどの仮想空間でのファッションも普及しつつあります。仮想空間のファッションが現代のファッションと同じ地位を確立するとき、ファッションにとって肉体は必要なくなってしまうのでしょうか。または肉体に衣服を纏うことがなくなってしまうのでしょうか。

実空間の身体の所在を考えた上で、ファッション、装いを考えなければならないとLodenさんは言います。「メタバース空間にファッションが移行したとき、肉体を放棄してしまい、肉体の不甲斐なさを考えるきっかけが希薄してしまったり、ルッキズムの問題をそのまま解決しないまますり替えた感じがします。」Lodenさんのお話から、イメージの身体のあり方の問題を解決しないまま仮想空間へ移行しているのは懸念点であることを知りました。

Rikuさんは仮想空間におけるファッションについて、自分をまるっと変えることができて楽しいなどポジティブに捉えていました。一方で、「せっかくの仮想空間なのにリアルの延長線上に身体もあるし、衣服もあるなと思ってて。プログラムで何にでもできるはずなのに、人間をベースにしているんだろう、現実の服をベースに作っているんでいるんだろうなとつまらなく思ったりします。」という意見も。
そして、片平さんも「仮想空間を楽しむなら、人の身体それに対する服ではなく、飛べるとか一生わからない感覚が体験できて、なりたい動物やものになってみる、そういう意味での装いができたら楽しい未来だなと思っています。結局自分を認識する、布との関係は根本にあるので、現実の世界でも自分を認知しないと安心できない部分は少なからず残るのかなと思いますね。」

さらに、「メタバースなどの空間は肉体とは違ってOOになるという感覚が強い感じがしますよね。生身のファッションとは違う、身体レベルでのカスタムが可能ということは身体自体が何かになるための媒体なのかなと思っていますね。」とLodenさん。

仮想空間での身体がヒト型であることへの疑問や、自己認識として肉体には衣服が必要であるため未来においても実空間の衣服はあり続けるのではといったように仮想空間の身体と実空間における衣服にはまだまだ課題が残っていることが明らかに。しかし、改めて仮想空間におけるファッションは生身のファッションを超えて、新たな価値を私たちに与えてくれる可能性があることも示唆されました。

仮想空間と実空間のファッション。両者の存在によって今後、ファッションは大きく揺れ動くのではないでしょうか。現に今、揺れ動いている最中なのかもしれません。
ファッションを仮想空間に完全にシフトすることは難しいと思います。それは実際に実空間のファッションを楽しんでいるからではないでしょうか。実空間における限られた選択肢から自分を装うことは、0から形成することができる仮想空間におけるファッションに比べて、魅力を感じる人もいると考えています。
数年のうちにファッションを仮想空間で行う人、実空間でこれまでのように楽しむ人、さらには仮想空間・実空間の両者を横断する人など、ファッションを楽しむ空間が複数存在することがより明瞭になる世界になるのではないでしょうか。その中で、どのようにしてファッションのあり方が変容していくのか、非常に興味深いです。

Z世代・ミレニアム世代の「若者」がファッションそのものについて議論することで、いまとこれからのファッションの価値、本来の衣服の意味、身体との関係性を提示することができたイベントとなりました。
近年、環境課題によって、ファッションの分野においても驚くべきスピードで変化しています。そんな中、一度「ファッションとは何か」を考えてみることで、社会と自分との関係性から成り立つ本来のファッションを取り戻すことができると本イベントを通して実感しました。
普段何気なく身に纏っている服、そしてその行為としてのファッションはどのようなものなのか、一人ひとり異なるはずです。それぞれの思想を、あらゆる人と共有することで馴染みのあるファッションの世界に新しい価値観が生まれ、より豊かになっていくのではないでしょうか。

Author

  • 加藤 あん

    2000年生まれ。水瓶座。

    2019年あいちトリエンナーレ育成プロジェクト参加をきっかけにアートとジェンダーについて興味を抱く。卒業論文のテーマは「身体とファッション」。鷲田清一の「モードの迷宮」がバイブル。現代の人々が衣服を着用する意味、身体本来の目的ついて深掘り中。 趣味は映画鑑賞。特に好きな映画は「SWEET SIXTEEN 」。

    2000年生まれ。水瓶座。

    2019年あいちトリエンナーレ育成プロジェクト参加をきっかけにアートとジェンダーについて興味を抱く。卒業論文のテーマは「身体とファッション」。鷲田清一の「モードの迷宮」がバイブル。現代の人々が衣服を着用する意味、身体本来の目的ついて深掘り中。 趣味は映画鑑賞。特に好きな映画は「SWEET SIXTEEN 」。

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