Event report

2021.10.6

OMRON Human Renaissance vol.04「未来実践編 自律社会に向けて① ~暮らしの中に”循環”をつくる~」

FabCafe編集部

Tokyo

「人間と機械の融和」から人間の創造性と可能性を高めることを目標に活動するオムロンが、未来への問いを発信し議論するオンラインイベントシリーズ「OMRON Human Renaissance」 。
第4弾である今回のテーマは「暮らしの中に”循環”をつくる」 。世界的な人口増加に伴い、廃棄物処理や資源枯渇などの環境問題が顕在化している今、人間活動が自然環境と矛盾のない形でお互いの創造性を高めていくために、私たちができることは何なのでしょうか?
サーキュラーエコノミーを研究する安居昭博さん、国内外で造園・土木設計施工・環境再生に従事されている高田宏臣さんをゲストにお迎えし、オムロンの未来予測理論であるSINIC理論から、未来の「ありたい姿」について議論しました。

先行きが不透明な時代に、その先見性が再注目される未来予測「SINIC理論」

まずはじめに、株式会社ヒューマンルネッサンス研究所主任研究員の田口智博さんから、SINIC理論についての紹介がなされました。未来予測理論であるSINIC理論は、「社会のニーズを先取りした経営をするためには、未来の社会を予測する必要がある」という考え方のもと、オムロン創業者・立石一真らによって1970年に提唱されたといいます。

SINIC理論では、科学、技術、社会が円環的な相互作用により、それぞれ進化していく基本構造をとります。この3つの進化を前に進めるのが、その中心に位置する人間の進歩志向意欲です。そして、心/物、集団/個人、という2つの価値基準の変化を加えて、原始社会から自律社会までの10段階を一周期とする、立体的な螺旋構造で社会の変遷を捉えています。

情報化社会、最適化社会、自律社会、自然社会へと社会が進化していくなかで、現在は「最適化社会」に位置づけられます。この最適化社会は、価値基準が「物から心へ」、「個人から集団へ」とちょうど移行する時代です。この過渡期では、これまでの工業社会の課題解決と、自律社会への新たな価値創造という変化が同時に起こり、それが“渾沌と葛藤”の渦中という言葉として表現されたりもします。なかでも、気候変動や高齢化、経済格差などの社会問題に端を発する課題解決は、まさに工業社会の負の遺産の解消として見てとれます。

最適化社会を抜けた2025年には、ひとり一人が自分のありたい生き方をもち、おのおのが生きる歓びを感じる自律社会が待っていると、田口さんは話します。「この自律社会の実現に向けて、どう私たちがありたい未来づくりに向けて行動していくことができるのか?SINIC理論をベースに、ゲストの皆さんと一緒に考えていきたいです」とトークを締め括りました。

ゲストプレゼンテーション①欧州サーキュラーエコノミー政策から探る、日本の可能性

1人目のゲストは、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博さんです。安居さんは、2015年から5年間、オランダとドイツに拠点を持ちながら、視察イベントの実施や講習会を通し、サーキュラーエコノミーの取り組みを日本の企業や自治体に紹介してきました。2021年には書籍『サーキュラーエコノミー実践 ーオランダに探るビジネスモデル』を出版。現在は京都を拠点に、アドバイザリーや外部顧問として多分野に渡って企業・行政に関わっています。

「現在世界中でサーキュラーエコノミーへの注目が高まっています。なぜでしょうか?世界人口が増加していること、それに伴い、資源が枯渇し安定した供給が危ぶまれていること、これまでは蔑ろにされていた人間の活動による廃棄物や環境問題が、無視できないレベルになってきたことがその理由にあげられます」と安居さんは説明します。

ヨーロッパでは、欧州委員会が主体となりサーキュラーエコノミー政策を推進しています。「環境への負荷を下げるだけでなく、資源の効率的な利用が、国際的な競争力強化の主要政策の一つとして位置付けられているのもポイントです。」

オランダ政府が公表している、リニアエコノミーからサーキュラーエコノミー への図解。 左が大量生産・大量消費を生み出してきたリニアエコノミーを表現しており、地球の資源をとって作って使って捨てる、一方通行型のモデル。

 

サーキュラーエコノミーにおいては、企業が新しいビジネスモデルを作ったり、行政と自治体が新しい政策を決めていくうえで、そもそも廃棄を出さない設計やデザインを最初から導入するという特徴があります。

「理想すぎるのでは、という意見もあります。しかし、私が今履いているジーンズはオランダの企業が開発したサーキュラーなジーンズです。購入ではなくリースをしていて、履き潰したとしても捨てるのではなく返却すればいい。廃棄されることが前提となっているものではなく、開発の段階から廃棄が出ない仕組みが作られているところに、サーキュラーエコノミーの魅力があります。」

また、安居さんは、「Regenerative natural systems(自然サイクルの再生)」という概念を紹介します。「今まで私たちは、一方的に自然から享受してきた存在でした。一方、Regenerativeという考え方では、人間の活動によってポジティブな影響を自然にもたらし、共生していくことが重要になってきます。この考え方をビジネスに応用した、リジェネラティブ・ビジネスの事例もあるんですよ。」

サーキュラーエコノミーの日本での実践事例として、安居さん自身が手掛ける完熟堆肥の地域プロジェクトがあります。「アムステルダムには公共コンポストがあって、ここでできた堆肥が地域の農家に支給され、農家はそれで野菜を作り地域に還元する、という循環の仕組みが導入されています。可燃ゴミのうち、生ゴミが多くを占める日本でも有効なアプローチだと思いました。地域をリサーチし、今年の2月から完熟堆肥と培養土の販売を始めています。」

最後に、経済効果と環境だけでなく、人々の幸福度の向上も含めてプロジェクトを考えていくことが大切だと、安居さんは話します。「資源循環を進めることで観光業の活性化にも繋げられたり、地域の防災や新しいネットワークの構築など、人間的にもメリットがあることで、プロジェクトも持続的に回っていきます」とトークを締め括りました。

ゲストプレゼンテーション②土中環境から、生態系の循環を観察する

高田造園設計事務所代表・高田宏臣さんによる続いてのトークでは、土中環境から循環型の未来を考えるアプローチを学びました。災害を環境面から調査し、新たな対応を発信する活動をしている高田さん。想定外の災害が広域化、日常化する時代に私たちは生きていると説明します。「これまでは、人間が土地を良くしながら暮らしてきました。現代の私たちの感覚は、自然からあまりにも離れている。人間と自然の繋がりを、もう一度呼び覚ましたい。」

災害が起きると対策を求めるのが一般的ですが、その対策自体が環境を痛めるものであったら、一時的な効果しかないと高田さんは話します。「今起こっているのは、人為的な要因による自然災害の広域化です。氾濫危険水位を超えた件数は、2014年頃から急激に増加しました。技術で解決しようとするのではなく、自然環境のポテンシャル、つまり、周辺の環境や山の状態までを観察する必要があります。」

国連の2021年の報告では、自然環境の制約により人間の居住が不可能になりうる臨界点に近づいていると発表されています。そんななか、高田造園設計事務所では2019年に、独自に気候非常事態宣言を発表しました。

「まず注目したのが、土の中の水と空気の動き、いわゆる風水でした。かつての人間はこれを読みながら、人間の活動を自然環境のなかに調和させ、安全と豊さ、環境のポテンシャルを保ちながら暮らしてきたんです。伝統的な知恵や昔の営みから考え直す姿勢を、取り戻す必要があります。」

高田さんが暮らしている千葉県では、全国に先駆けて生物多様性ちば県戦略が発表されました。科学的実証を待っていたのでは、取り返しのつかない事態になってしまう。その前に必要なアクションをとる必要があると、高田さんは参加者に呼びかけました。

クロストーク:欲しい未来を手にするために、私たちができること

クロストークでは、ゲストの2名に加え、田口智博さん、MTRLプロデューサーの小原和也を交えた議論が行われました。

感覚的なもの、非効率なものの価値

モデレーターを務める小原はまず、人間が失ったものは何か?と高田さんに問いかけます。人間が真の変容を遂げる自律社会において、変化の過程で人間が失いつつあるものはなんなのでしょうか?

「人間は感覚的なものをどんどん無くしています。ナビがないと土地も読めない。情報ではなく、環境を読み取る力がなくなってしまったのだと思います」と高田さんは話します。

高田さんが現在の活動を始めたのは、郊外に庭付きの別荘をつくる、ダーチャという文化にロシアで出会ったことがきっかけでした。都会に暮らしながら、週末は郊外で半自給自足的な暮らしができ、自分で家を建てて畑を耕し、森を管理することができます。「日本人にはこれが必要だと思いました。ダーチャのようなフィールドを日本にも作り、発酵食品作りやコンポスト、森の再生、動物の葬り方など、命の循環について体験してもらえる場所を作っています。」

これに対し、安居さんも「経済にとって非効率なことでも、大切なことに関心を向ける人が増えている」と賛同します。「例えば最近、近所の公園で土中環境についてのワークショップに行ってきました。都心に住んでいると森へのアクセスはないかもしれませんが、近くの公園レベルで土の再生活動が広まっています。」

 

経済価値では測れない、人間らしさややりがい

それでは、企業はここからどのようなアクションを起こせば良いのでしょうか?

SINIC理論において、技術の発展に伴い人間は弱体化してしまうことが予想されています。自然への感知力が失われている、というのも、この理論と繋がる部分があると田口さんは話します。「SINIC理論では、価値基準が物から心へ移行する、と言われています。安居さんがおっしゃるように、経済価値だけでは人間の生きがいは説明できない。企業もここを理解したうえで、モノやサービスを考えていく必要があります。」

これを受け、安居さんはドーナツ経済について紹介をします。「ドーナツ経済とは、経済成長がある程度充足したら、そのまま成長を促すのではなく、維持をしながら社会の充実を目指す考え方で、アムステルダム市はこれを根幹に掲げています。GDPを元にした短期的な成長ではなく、中長期のビジョンを考えているんです。」

自然と繋がることで得られる人間の喜び

SINIC理論とサーキュラーエコノミーの共通点は、人間の進歩志向と意欲だと高田さんは話します。「ここで大切になるのは、人間の喜びや楽しみ、心地よさです。今までは環境と人間のそれとが分断していましたが、これからは融合の時代がくると思っています。」

最後に、人間社会と環境の創造性を融合させるために、私たちができることは?について質問がなされました。

安居さんは、「こころに向き合う、やりたいことをやってみる」ことが大切だと話します。「経済・社会の評価基準が変わっていくなかで、非効率なことでも、やりたいことをやりやすい世の中になってきています。ひとり一人が自分らしく生きる世の中がいいですね。これは個人でも企業でも同じです。」

高田さんは「まずは体験して、その楽しさを実感して欲しい」と話します。「自律社会というのは、常に問いかける社会である必要があります。その時に基準になるのが、自然界です。都会のなかにも自然はあります。スコップを持って、私たちの活動に参加して欲しいです。」

SINIC理論で螺旋構造的に成長していく社会があるなかで、その逆側に動いている潮流や人間が失ったものも含めて、一方通行的な「成長」とは異なる社会のあり方を議論できた回となりました。

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