Event report

2021.11.9

OMRON Human Renaissance vol.05「未来実践編 自律社会に向けて②〜社会の中に”多様性”をはぐくむ〜」

FabCafe編集部

人の創造性・可能性を高める近未来社会を目指して活動するオムロン。グループ内シンクタンクであるヒューマンルネッサンス研究所が、これからの社会における「ありたい姿」を考えるオンライントークイベントシリーズ「OMRON Human Renaissance」の第5弾が、2021年9月28日(火)に行われました。
今回のテーマは、「社会の中に”多様性”をはぐくむ」。株式会社オリィ研究所CEO・吉藤オリィさん、THEATRE for ALLディレクター、True Colors FASHIONプロデューサーの金森香さんをお招きし、未来のより良い社会づくりについてディスカッションしました。

先行きが不透明な今だからこそ活用したい、未来予測のための「SINIC理論」

まず、モデレーターである株式会社ヒューマンルネッサンス研究所主任研究員・田口智博さんから、SINIC理論についての説明が行われました。
「未来についてを考えようとしても、専門的知識や仕組みが複雑に絡まり合っており、社会を客観的に観察・説明することは難しいのが現状です。ここで、科学・技術・社会の3つを思考の軸とするSINIC理論が役に立ちます」と田口さんは話します。

オムロン創業者の立石一真らが経営に使える未来予測としてまとめたSINIC理論を羅針盤に、オムロンはこれまで、製造業におけるファクトリーオートメーション領域などで、社会の変化をいち早く捉えた事業創造を行ってきました。
科学・技術・社会が未来予測の基本構造となるSINIC理論では、科学と技術が相互作用し、社会に革新(イノベーション)が生み出されます。また、より良い暮らしを求める社会のニーズが、それを満たす技術の開発を促し、必要ならば新しい科学を生み出す構造をとっています。そして、それらを推進するのは中心にある「人間の進歩志向意欲」です。

「SINIC理論では、次なる社会フェーズとして自律社会が予測されています。現在は、自律社会に移行する過渡期である最適化社会です」と田口さん。数百年の単位で社会が変化したヨーロッパのルネッサンスに比較し、最適化社会では、2010年〜2025年の短期間で社会が急激に変化するとされています。

この最適化社会では、精神生体技術などの新しいテクノロジーの開発も含め、未来社会づくりへのさまざまな実践が求められています。「工業社会の課題解決から、自律社会の価値づくり。新たな価値創造を、皆さんと一緒に考えていきたいと思います」と田口さんはトークを締め括りました。

ゲストプレゼンテーション①孤独の解消、(株)オリィ研究所と「分身ロボットカフェの挑戦」

続いてのゲストトークでは、自律社会の社会像でもある多様性社会の確立に向けて活動を行う実践者を招き、事例をご紹介頂きました。
1人目のゲストは、株式会社オリィ研究所 代表取締役 吉藤オリィさん(以下、「オリィさん」)。オリィさんは、分身ロボットを通して、身体が動かなくなった先の生き方や、どうすれば孤独を解消できるかを研究されています。

「手を動かさなくとも、脳波や眼球の動きだけで車椅子を操作することができる仕組みを開発したり、身体とテクノロジーを組み合わせりしながら、身体の可能性を拡張させる活動をしています」とオリィさんは説明します。例えば、難病を患って身体を動かせない6歳の子供が、視線入力だけでお母さんの後を追いかける、といったことが実現できました。「”できなかったこと”が”できる”に変わった瞬間に、新しい可能性について、前向きに物事を考えることができます」。

オリィさんは、かっこ良くて羨ましくなるような福祉機器があっても良いのではないか、と参加者に問いかけます。「車椅子って、羨ましがっちゃいけないんでしょうか?車椅子は障害者が乗るものだ、と誰が決めたのでしょうか?」

「小学生が次の学年に憧れを持つように、人間は次のフェーズに対して憧れを持ち続けてきました。でも意外と、老後は身体が動く期間は長くない。老後をいかに自分らしく自由に生きられるか。それが私の活動のテーマです」。

子供の頃、不登校だった時期があるというオリィさん。ご自身は当時身体が弱く、健康な人が羨ましかったと言います。今、病気で学校にいけない子が全国で6万人。引きこもりになってしまう人が18歳以下で20万人。一人暮らしの高齢者は1000万人。どうすれば孤独という問題を解消することができるのでしょうか?

「もう一個の身体があればいいのに。そう思って作ったのが、”OriHime”というロボットです。入院していても遠隔からロボットで学校に通ったり、結婚式に行ったり、旅行したり、お墓参りしたり。サッカーや脱出ゲームなどに使われたりすることもあります。このロボットを使って、眼球だけ動かして、文字を入力したり、絵を書いたりしている人もいます」。

例え、身体が動かなくとも、居場所と役割があれば、生きがいが生まれます。オリィさんがプロデュースした分身ロボットカフェでは、体を動かせない人々57人が雇用され、ロボットを通して接客を行っています。「寝たきりの人たちが他の場所で働けるチャンスを作ること。介護者の人たちも楽になりますし、ここから新しい仕事につく事例も増えています」。

「超高齢化社会になったときに、どうやって生きるか?を、寝たきりの先輩方と一緒に考えていきたい。自分の意思で会いたい人に会いに行ったり、死ぬ瞬間まで人生を謳歌することができる未来を、どうやったら作れるか、そんなことを考えながら活動しています」。

※「分身ロボットカフェ」は、(株)オリィ研究所が有する商標です。
※「OriHime」は、㈱オリィ研究所が有する商標です。

ゲストプレゼンテーション②ファッションやアートの取り組みから多様性をはぐくむ

続いて、THEATRE for ALLディレクター、True Colors FASHIONプロデューサーの金森香さんから、多様性とインクルーシブデザインについての取り組みを紹介頂きました。

ロンドンの美術学校を卒業し、THEATRE PRODUCTSというファッションブランドを立ち上げた金森さん。その後、服を作って売る以外のこともしたいという想いから、一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONALを立ち上げ、デザイン、ファッション、アート、建築など領域横断で人材育成や研究会運営などを行っています。ブランディングや新規事業の立ち上げなども手掛け、最近ではパフォーミングアーツを通じて、障害・性・世代・言語・国籍など、個性豊かな人たちと一緒に楽しむ芸術祭True Colors Festival – 超ダイバーシティ芸術祭 –のディレクションも務めました。

「イベント企画やアートマネジメントなど、いろいろやっていますが、中心の軸にあるのは、”身体に立脚した表現”です」と金森さんは話します。「身体を考えるときに、身一つ、という身一つ感が時代によって変わっていくと考えています」。

「例えば、色白で細く、目がぱっちりとした画一的な美しさのモデルばかりだった時代は変わり、今では多様なモデルの身体に向き合うことの価値が認められてきました」と金森さん。そこで、身体の多様性を未来にはなつダイバーシティーファッションショーを制作。落合陽一氏に総合ディレクターに入ってもらい、身体の多様性とテクノロジー、インクルーシブデザインの可能性を発信しました。

「ファッションは、最も生活に肉薄した身体芸術です。劇場に行くのも、日常に華やぎをうむドラマチックな行為ですが、ファッションは誰にとっても身近なトピック。日々の生活から劇場を体験できる手段として、私はファッションに興味があります。多様性社会というメッセージを、ファッションを通して届けたい」。

ダイバーシティーファッションショーでは、義足のキッズランナーや、腕に障害のある人々にユーザーモデルになってもらった服、乙武洋匡さんに登場いただくなどしました。

また、True Colors Festivalを通して、パフォーミングアーツや劇場の鑑賞の機会が持てなかった人々もいることを学んだ、という金森さん。「車椅子や子育て、介護、視覚や聴覚に障害のある人、日本語が母国語でない人。そんな人々にも、劇場へのアクセスを開いていきたい」。そんな想いで、THEATRE for ALLというサービスの立ち上げにも関わりました。「多様性社会に向き合うには、一体どのような心構えが必要なのか、どんな作業が必要なのか、このサービスを使うことで感じられたり、できることを発見するようなサービスになればいいなと考えています」とトークを締め括りました。

クロストーク:自律社会に向けて、私たちができること

クロストークでは、自律社会に向かう最適化社会の今、私たちにとっての多様性との向き合い方、「違い」を大切にする社会の作り方について、議論がなされました。

誰もがなんらかの当事者

田口さんは「多様性を包含できる社会になるには?」と参加者に問いかけます。「人間が、テクノロジーの恩恵を過度に受けて心身の弱体化が危ぶまれる時代に、どうしていけばいいのか。人がみずからを律して生きていくとは?を考えることで社会がより良くなる」と話します。

では、その自律した人々からなる社会での多様性を考える上で、それぞれの違いに対して、どう関わりを持てば良いのでしょうか?

金森さんは、「誰もがなんらかの当事者」であると話します。「他人の当事者性を、想像することはできても、完全に理解することはできない。その限界があるなかで対話をするんです」。

それぞれの当事者性のなかでの対話を積み上げ、最大公約数ではなく、1対1の対話のなかで解決策を探っていく必要があると金森さん。こうすることで、前時代的なマインドセットから価値観がどんどん変わっていきます。「効率をよくしていくことも大切ですが、時間をかけて個別性に向き合いながら課題解決をするための仕組みを作る、そういう考えに切り替わりました」。

田口さんも、近道をしたソリューションは長続きしない、とこの考えに賛同します。「金森さんのような存在がいれば、自律社会への移行のスピードが速くなるのではないでしょうか?」と田口さん。

生きがいを維持する装置の大切さ

「違うこと」をネガティブに捉えがちな社会において、「違うこと=かっこいいこと、羨ましいこと」と、どのようにマインドチェンジができるのでしょうか?

世の中には、みんなと同じでありたい、という欲求もあるとオリィさんは話します。学校のユニフォームが嫌いだったというオリィさんは、自分のアイデンティティとして自分で作った服を長年着続けています。

「自分の生に対して、ファッションなど文化的な選択肢があることは、解決策になりうると思っています。老後をどう気持ちよく生きていくか。ファッションなどのアプローチは、生きがいを維持する装置になりうるはずです」。

同意する金森さんは、「ファッションを楽しむ手法を知っている人は、規定されたサイズのものであれど、上手く自分のものにして着ている」と話します。そういう人たちの生き方をきちんと世の中に発信していくことで、選択肢や機会を開いていく姿勢を学ぶことができるかもしれません。

身一つの体験の変化とは?

オリィさんの分身ロボットカフェを最近訪れたという金森さん。「自分の身体はどこまでなんだろう、という拡張を体験できた」と話します。対峙している相手の人の身体性も拡張しており、「身体」と一口にいえど、その意味や範囲は時代によって大きく異なると指摘します。

オリィさんは、自分の身体はメディアだと思っている、と話します。「キャラクターメイキングが、現代は昔に比べて出来やすい。そういう意味で、身一つでも身体的な自由度が高いのが現代です。分身ロボットに限らず、見た目や身体を変えることで、今のコミュニティを脱却し違う人たちとつながることができます」とオリィさん。自分の分身、アバターを使うことでの社会参加も可能です。

それぞれの違いを表現できる社会へ

最後に、どんな場を作っていきたいのか?という問いかけに対して、オリィさんは「関係性」と回答します。

「今までは、便利なものの時代でした。安く早くの時代から、高くて量産性のないもの、不便だけど、豊かなものに価値がおかれるようになっています」。

「身体が動かなくなった後、どう社会と関係性を結ぶか。役に立つことや機能性から脱却し、権力でもお金でもなく、関係性を老後に持っていくこと。そして、自分のスタンスや、生きがいをどうつくるか。これが自律社会の本質になると思っています。その実験を、一緒にやってみたいと思っています」。

金森さんは、「自分のこと、他人のことを認め、それぞれの違いを表現できる社会を作りたい。その装置として、ファッションを捉えています」と話します。「多様性、というと大きなことのように聞こえがちですが、人に対峙するとき、気持ちの持ち方を変えるだけでいい。ちょっとしたことで変わることができます」。

オムロンというとテクノロジー企業というイメージが強いですが、人や社会と技術の関係を踏まえた事業活動を進めていて、多様性の考慮ということにもつながっていると田口さんも話します。

「まずは、自分とは違う誰かと友達になることが大切ですね」とオリィさん。「もしかして次に来るのは、関係性社会かもしれません」とトークを締め括りました。

 

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