Interview
2026.4.9
岩崎 諒子
FabCafe Tokyo
味覚・嗅覚・聴覚を使って、“読まずに読書する”ブッククラブ《本を飲む》。本に書かれていない著者(あるいは読者)のエピソードに触れ、物語を追体験できるドリンクを飲むという、ちょっと変わったイベントです。
本を「“読む”じゃなく、“飲む”。そして味わう」という、かつてない読書体験を提供する本イベントの仕掛け人は、梅田サイファーのラッパー KZと、FabCafe Osaka ディレクター/ドリンクコーディネーター 福田拓未。これまで大阪で、落語家やラジオDJ、現代美術家をゲストに、読書体験をドリンクで味わうイベントを開催してきました。2026年4月20日には、満を持して東京で4回目となる《本を飲む》を開催します。
今回、KZさんと福田拓未の両者にインタビュー。このシリーズに込めた思いや、参加する人たちに提供したい体験について掘り下げます。
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KZ 梅田サイファー/旅人

大阪・梅田サイファー出身のラッパー。ラッパーとしての活動だけでなく、映像監督やトラックメイカーとしても才能を発揮。近年は車での日本一周、徒歩での鹿児島から北海道までの4600km踏破、日本百名山のうち40座登頂など、身体性を使った表現に傾倒している。
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福田 拓未 FabCafe Osaka ディレクター

京都のフレンチレストランにて、調理師としての経験・感性を学ぶと共に、ノンアルコールドリンクを担当。アルコールを飲まずとも満足できる体験づくりを目指し、現場での経験を積む。FabCafe Osakaでは、“Fab”という思想を取り込んだ新しい食体験の創出と提供を目指している。

—— 《本を飲む》という企画が生まれた経緯を教えてください。
KZ 元々、FabCafe Osakaの企画で「L’In parfait(アンパフェ)」という、音楽をパフェとドリンクで味わうイベントがあって、初めて拓未さんとパティシエの畑谷実咲さんとご一緒したんです。そこで、「音楽を食に変換する」という体験をした時に、「何やこれは、こんなことができるんだ!」っていう衝撃を受けて。
それまで僕は、食事という行為が芸術になり得ると、あまり意識できていなかったんですね。生命を維持する活動としてしか捉えられてなくて。

FabCafe Osakaがプロデュースする「L’In parfait」は、音楽・アート・ストリートカルチャーといった異分野との掛け合わせによって、「食」というフィールドに新たな表現の可能性を見出す、新しいデザート体験プロジェクト
—— 食の芸術性をあまり認識できていなかった、ということでしょうか?
KZ もちろん、料理が綺麗だなとか、お店の空間も含めて「あのお店にご飯を食べに行きたいな」と思うことはありました。ただ、食べものや飲みものは他の形式のアートと比べて、向き合える時間が短いじゃないですか。それに、お腹いっぱいになると楽しめなくなるので、身体で感じられることにも限界がある。
自分が好きなだけ吟味できないから、食とアートは少し遠いもののように感じていたんです。でも、拓未さん・実咲さんとのアンパフェの経験を通して、自分の中で食事という行為はアートになり得るんだと理解できました。
KZ なぜそう思えたのかを考えると、人間が何かを美しい・醜いと感じる本能にその要因があったんじゃないかと。例えば、毒のある蛇の模様を気持ち悪いと感じるとか。うんちを臭いと感じるとか。食べていい・悪いとか美味しそうという判断は、身体が感じる美醜や快・不快の感覚とつながっています。
そうした身体感覚の中にこそ、美意識やアート的な感性につながる源泉があるのではないか。そこに、自分がよりフォーカスしたいコミュニケーションがあるような気がしたんです。

—— なぜ、本という形式にこだわっているんですか?
KZ 自分がラッパーであるというのもあって、元々テキストが好きなんです。
本って、かなりコスパがいいですよね。本を読めば、2026年の今日という時間にいながら、好きなだけトリップできる。ニューヨークの証券マンになれるし、昆虫研究者にもなれる。SFを読めば未来にも行けるし、過去に遡って戦国時代も経験できる。いろんなところに行って、すごい経験ができます。これだけ面白いのに、一冊二千から三千円ぐらい。数百円の文庫本もあります。
一方で、これまで音楽活動をしながらいろんな人と出会っていく中で、本を読む人が少なくなったと感じています。SNSとか、ショート動画とか、短いコンテンツを摂取する人が増えていて、「本を読むのが難しい」と言われる世の中になっている。
自分が食という身体的な行為を芸術として捉えられるようになったことと、本を読む人が減っていると実感したこと。この二つの出来事が重なったんです。テキストをより身体感覚で捉えられたら、本を読むことの楽しさがもっと伝わるんじゃないかという気がしました。

KZ それに、「読む」と「飲む」という組み合わせは「何だこれは」って思いませんか? どちらもよく知っている言葉なのに、未知の体験になりそうな予感がする。「読むじゃなくて、飲む」っていうフレーズも韻を踏んでいて、語呂も良い。このアイデアを思いついた時に、拓未さんに一緒に企画をできないかなって相談したのが始まりでした。
福田拓未(以下、拓未) 僕自身、全然本を読めない人だったんです。子供の時から本を読む習慣がなかったし、動機もなかった。でも、KZさんのお話を聞いて、もしかしたら読書をするのに、直接本に出会わなくてもいいのかも知れないと思ったんです。
—— 「直接本に出会わなくていい」とは、どういうことですか?
拓未 どうしたら自分が本を読みたくなるだろうと想像したんです。もし、僕がすごく美味しいドリンクに出会って、それが「ある本を元につくられた」と聞いたら、絶対にその本を読みたいと思うはず。
仮に、読書を「飲む」という身体的な体験に翻訳できたなら、ある人たちにとっては、本との出会いという体験そのものを変えられるかもしれない。そういう企画なら、僕自身もトライしてみたいなと強く感じました。

—— 拓未さんに伺います。これまで「本を飲む」のシリーズを3回やってみて、本へのイメージは変わりましたか?
拓未 めっちゃ変わりました。多分、人って普段からいろんな妄想をしていますよね。「こうしたら、事業が成功するんじゃないか」とか、「もっと人生がうまくいくんじゃないか」とか。本を通して、今自分が考えていることや、悩んでることへのヒントに触れた瞬間が楽しいです。「おお、この著者も自分と同じようなことを考えていたのか」と共感できます。振り返れば、自分は本が苦手だったんじゃなくて、読もうとする気持ちの準備ができていなかったんじゃないかと思います。
KZ 本が好きな側としては、そういう話を聞くと「しめしめ」と思いますね。「自分が美味しいと思っていたお店が流行った」という感じ。

—— これまで一緒に企画をやってきた中で、改めてお互いに対する印象を教えてください。
KZ 拓未さんは、食を通して身体性の奥深さを感じさせてくれる人。都会にいると、なかなか身体で感動できる体験に出会えないですから。かつての自分みたいに、飲む・食べるという行為をまだ芸術だと感じられていない人に、ぜひイベントに来てもらって、その驚きを感じて欲しいと思います。
拓未 僕から見ると、やっぱりKZさんは言葉に翻訳する能力がすごい。《本を飲む》というタイトルには、本をドリンクとして表現するという意味だけじゃなく、ドリンクを言語化するという逆のベクトルにもカラクリがあるんですね。
このイベントでは、KZさんを通して、自分がつくったドリンクを表現するための新しい言葉に出会えるんですよ。ゲストや参加者など、いろんな方々にもそれを言語化してもらえることが、僕にとってインプットになっています。そこが、個人的には面白いなって。
多分、このイベントの進行ってなかなか難しいと思うんです。本の話をして、さらにドリンク味の言語化もするので。でも、KZさんの進行ってそういう難しさを感じさせなくて、いつも心地いいんです。やっぱりすごいなって。

KZ 自分としては難しいというよりも、楽しい感覚の方が強いですね。これまでやってきた回は、落語家、ラジオDJ、現代アーティストなど、ゲストの人生の転機になった本を紹介してきました。その本がいかに彼らの職業観に変化をもたらしたのか。本との出会いでどんな革新的なことが起きたかを聞いていく課程は楽しかったです。
ドリンクの言語化に関しては、正解はないです。毎回、拓未さんがどんなドリンクを出してくるのか予想できないので、飲んだ感想を正直に言葉にする。拓未さんが必ずストライクを投げてくれるから、それを受け取るだけかなって。ズレることがないと信頼しているので、気負いなくやれていますね。

—— これから、《本を飲む》としてやってみたいことはありますか?
KZ 試したいアイデアは何個かあるんですけれど。一番は、毎回のトークと紹介した本と、拓未さんのドリンクのレシピを合わせて、本を作りたいな。イベントのままの味は作れなくても、自宅だったらこんなふうに再現できるというアレンジしたレシピを入れて、一冊にまとめたい。
あと、新刊が出た時のタイアップ企画として、著者の人と《本を飲む》ができたらいいですよね。番外編として、ドリンクを飲まずに読んだ本の交換会もやってみたい。
拓未 いいですね、飲まない回があってもいいです。図書館や書店・古本屋さんのような本がたくさんある場所とコラボレーションしてみたいですね。あとは、《本を飲む》って展示にも向いていると思うんです。これまでの紹介した本の総集編として一定期間、FabCafeで展示とドリンクを楽しめる企画展ができたらいいですね。
それと最近、対話型鑑賞というイベントをよく見かけます。美術館などで、絵画を見ながらお客さん同士でおしゃべりするんですけれど。そんな感じで、ドリンクを言葉にしてみるという、《本を飲む》の反対のイベントもできるかもしれない。
—— 参加者が、自分自身の身体で感じたことを言語化するイメージでしょうか。

KZ ちなみに自分は、30歳ぐらいの頃に山に登って、そこでノンバーバルな驚きや感動と出会いました。山には言語を超えた身体的な接触があって、いろんな理屈をすっ飛ばして自然と泣けてくるような凄まじさがありました。
でも、その後すごく落ち込んだんですよ。「自分の言葉はこの山の高さに達していない」と、まざまざと見せつけられてしまった気がして。言葉なんていらんやんって。
それで、2、3年ぐらいぐるぐると悩んだ後に行き着いた結論として、やっぱりもう一度、自分自身の体で感動したことを素直に言葉にしたいなって。めちゃ美しいものを見た時に「キレイ」と言いたい。危ないと思ったら「危ない」と言いたい。
言葉は身体ありきで生まれてくるから、身体を追い越すことはできない。重力に反することができないのと一緒で、身体あっての言葉。逆に、身体があるから受け取れる情報があると感じて欲しい。これが、「本を飲む」に参加する皆さんに提供したい体験です。
—— KZさんにとって、言葉とは?
KZ 結局、言葉って“癒し”だと思うんです。俺がラップをやっててよかったと思う瞬間は、苦しんだことや壁にぶち当たった時です。ラップには、必ず“I”から始めて、今の自分のことを歌わないといけないという呪いがあるんです。
「自分に何が起こったかわからん」という時に、“I”から書き出すとそれが何なのかが見えてきます。今、自分はこういうことに落ち込んでいて、こうやって壁に向かっていくんだって書き出していくと、大体“希望”に帰結していくことが多くて。
多くの人がもっと、自分を癒すために言葉を使えるようになるといいんじゃないかって思います。だから本を通して、多くの言葉に触れてほしい。このイベントが、そう感じられるきっかけになるといいですね。
4/20開催「本を飲む Vol.4|読むじゃなくて、飲む。そして味わう“ブッククラブ”」
味覚・嗅覚・聴覚を使って、“読まずに読書する”ブックイベント《本を飲む》。今回の一杯は、池田光史さん『歩く マジで人生が変わる習慣』です。本に書かれていない著者とっておきのエピソードに触れ、物語を追体験するドリンクを飲む。本との刺激的な出会いの場を提供します。
・開催日時:2026年4月20日(月)19:00~21:00(18:45 開場)
・会場:FabCafe Tokyo(東京・渋谷)
・定員:40名
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岩崎 諒子
FabCafe Tokyo
株式会社ロフトワークで、クリエイターコミュニティLoftwork.com(現AWRD)の企画・編集・コミュニティ運営を担当。クリエイターと企業、自治体などとの共創プロジェクトの設計と事務局業務に従事した。2019年より、同社マーケティングDivで、組織体制変更に伴うリーダーインタビューシリーズをはじめ、マーケティングとブランディングを横断するコンテンツの企画・編集に携わる。2024年から地域共創に特化したマーケティング・PRに従事。2025年10月より、FabCafe Tokyoでコミュニティ運営を担当。二児の母。
株式会社ロフトワークで、クリエイターコミュニティLoftwork.com(現AWRD)の企画・編集・コミュニティ運営を担当。クリエイターと企業、自治体などとの共創プロジェクトの設計と事務局業務に従事した。2019年より、同社マーケティングDivで、組織体制変更に伴うリーダーインタビューシリーズをはじめ、マーケティングとブランディングを横断するコンテンツの企画・編集に携わる。2024年から地域共創に特化したマーケティング・PRに従事。2025年10月より、FabCafe Tokyoでコミュニティ運営を担当。二児の母。



