Event report

2022.9.26

“Future is an attitude.” ミラノデザインウィークが問う、未来への心構え – ミラノデザインウィークレポート2022

FabCafe編集部

Tokyo

世界最大規模のデザインの祭典、ミラノデザインウィーク。地球温暖化により世界各地で続発する気象災害、そして世界を混乱に陥れたコロナ禍を経て、今年のミラノデザインウィークではサステナビリティ、サーキュラーデザイン、エシカルといったキーワードが多くの企業やデザイナーによって発信されました。

ミラノデザインウィーク2022に参加されたMTDO inc. 代表取締役 デザイナー/アートディレクター 田子學さん、エレファンテック株式会社 取締役副社長 杉本雅明さんが、展示の模様とそこで得られた気付きをレポート。国内外のものづくりに造詣の深いMTRL / FabCafe Kyotoの木下浩佑がモデレーターとしてお話を伺いました。

ミラノデザインウィークとは、毎年4月に1週間をかけてミラノ郊外の会場で開催されるB to B中心の家具の見本市「ミラノサローネ国際家具見本市」と、時期を同じくして市内各地で同時多発的に開催される自由展示「フォーリサローネ」を総称したもので、今年はいずれも6月7日(火)~12日(日)に開催されました。ミラノサローネには主に世界的な大企業が出展するのに対して、フォーリサローネは気鋭のアーティストから先進企業まで幅広く出展し、家具に限らずライフスタイルにまつわる全般の多種多様な展示会が行われます。

ミラノサローネに関して言えば、今年の動員は26万人超。コロナ禍前に比べ10万人以上減少していますが、それでもミラノの街には十分な活気があったそうです。フォーリサローネはさらに広範囲で市民を巻き込みながら現象的に開催されるため、具体的な総動員数は発表されていませんが、2007年頃から毎年足を運んでいるという田子さんも「総じて経済が元に戻りつつあることを感じた」といいます。

 

杉本さんが今年のミラノデザインウィークで最も印象的だったと語るのは、Audiの展示で掲げられていた「Future is an attitude.(未来とは心構えである)」というメッセージです。35歳以下のデザイナーが作品を展示・発表する「サローネサテリテ」の今年のテーマが「Designing for our future selves.(自分たちの未来を自分たちでデザインする)」であったことからも、未来を描くことが今年のミラノデザインウィークの大きなメッセージだったのではないかと杉本さんは指摘しました。

続いて杉本さんは、人類の歴史において用いられてきた様々な素材を解説する展示を紹介。田子さんは「食や建築といったイタリア特有の豊かな文化背景の中で『我々にできることは何か』という問いを掲げていたこと、また、このような展示がフォーリサローネではなく本会場で行われたことは非常に画期的」と補足しました。

イタリアを代表するコーヒーメーカー「illy」は、樹脂製のコーヒーカプセルから作った椅子を展示。広報担当者いわく、「いかに美しいものを作るか、では不十分。マテリアルを含め、なぜこれを使ったのか、なぜこの形になったのかを語れるデザイナーでないと今は話にならない」とのことで、サステナビリティ、トレーサビリティへの関心度の高さがうかがえます。

 

一方で、「サステナビリティ」が飽和状態になっており、ただ展示品を作るだけ、問題提起するだけの展示が少なからず存在したのもまた事実だといいます。杉本さんは「アティチュードの差が生じていた」と指摘し、「サーキュラーデザインは誰か一人のアクションでは成立しない。良い循環を生むには材料からロジまで関係者全体が連携しそれぞれのやり方を変えていく必要がある。そこまで考え、行動に移すことがアティチュード」と気付きを共有しました。それに対し田子さんも「思いを宣言できることが大事な時代。地に足のついたメッセージ、デザインをいち早く発信できた企業が勝っている」と展示に紐付けてコメントしました。

続けて田子さんは、サステナブルなプロダクトを購入することで得られる心の充足感とあくまで損得勘定に重きを置く価格との天秤について言及。「自動車シートの材質ひとつをとっても、現在は天然皮革よりも100%リサイクルPETのほうが高値に設定されている。それでも社会貢献したいと考える知識層はPET製のシートに移行し始めているが、お値打ち品に執着しているうちは旧来的な意識から脱却できない」とし、その点で、ミラノデザインウィークでも欧米と日本の意識の違いが顕著に表れていたことを指摘しました。杉本さんもAudiの事例を挙げ、「作り手だけでなくユーザーも、全員でフィロソフィーを育まないとサーキュラーは立ち上がらない」とコメントしました。

とはいえ、それは日本がヨーロッパに追いつけないということでは決してありません。イタリアが生んだ世界的ファッションブランド「PRADA」の主催するシンポジウム「PRADA Frames」で盛んに語られていたことは「自然と共生していた先人の知恵に学べ」というメッセージです。日本でも、サーキュラーエコノミーの文脈で江戸時代の文化を参照し、現代に活かしている企業が続々と現れています。縦割り行政にチャンスを阻まれることなく、文化背景を活用して新しいビジョンを切り拓く企業が今後いっそう増えることを期待するばかりです。

最後に、エレン・マッカーサー財団による著書『​​Circular Design for Fashion』で示されていた「サーキュラーデザインとは、コラボレーションであり、インタラクションであり、ジャーニー」という言葉を引用し、杉本さんのプレゼンテーションは締めくくられました。

一連のレポートを受け、木下は「サーキュラーデザインはエコシステム全体のデザインである」という杉本さんの言葉を引用し、「日本では環境保護やエシカルであることと産業、工業が分断されて語られがち」と指摘しました。それに対して杉本さんはものづくりの立場から「最新の技術が好きな人も、誰かを嫌な気持ちにさせたくはない」と述懐し、「エシカルと産業のバランスをとるには相互理解が必要。素材がどこから来てどのように使われ、どう循環し次のステップへと行くのか、エコシステムにもっと関心を持つ必要がある」と提案しました。

また木下は、サステナビリティやアップサイクルの取り組みが小規模に収束しがちな現状に対して、レポートで紹介されたillyの事例を挙げ、大量生産や工業への安直なアンチテーゼに対する違和感を唱えます。「大企業が本気でトレーサビリティを担保していけば、商品は適正価格で流通するようになるし、トレーサビリティも実現するはず。企業責任も重い責務としてではなく強みとして公開していけばリスペクトになる。本気でやれば良いことが起きそう」と語り、大企業が本腰を入れてものづくりのあり方を見直す転換期に来ていることを示しました。

一方、田子さんには日本社会が取り組むべき課題について質問。「機能やデザインではなく、アティチュードの発信・実践によってリスペクトを集めるために、日本企業はどうすれば良いか」と木下は尋ねます。

それに対して田子さんがポイントとして挙げたのは「自分自身の言葉で夢が語れるか」ということ。誠実で正しくありたいという発想から、日本人はエビデンスや正確性を列挙したり、スライドを棒読みするようなプレゼンテーションに終始したりすることが珍しくありません。ミラノデザインウィークで二人が圧倒されたのはプロダクトや場そのものが持つメッセージ性。テキストのプレゼンテーションではなく、非言語的なものでも人は動かされるという体験を振り返り、「相手を能動的にさせるのがデザインの力。その観点が日本には欠落している」と指摘しました。

また、フォーリサローネで軍病院の跡地を使って展示していた写真を紹介し、「文化背景の上で自分たちのコンセプトを示すというのは、最も理想的なアセットの使い方。こういった施設を国や行政が貸し出していることに意義がある」とコメントしました。日本では、地方芸術祭やオープンファクトリーイベントでは文化に根ざした施設を使用する例があるものの、大規模展示会はフラットで汎用的な展示場で開催することが一般的です。

田子さんは、文化背景がアティチュードの説得力を強めるという側面に加え、デザインウィーク自体が産業としてのサーキュラーを描こうとしているという点についても指摘します。「今回のミラノデザインウィークが終わった後、『ここでこんな展示をやっていた』」と評判になると、地価が上がり、街全体が盛り上がる。日本でも徐々に火がつき始めているが、場に人を集め、社会にインパクトを与える取り組みが、全体としてどのようなサーキュラーに発展するか考えられるとより面白い時代になるのではないか」と提案しました。

最後に、今年のミラノデザインウィークを振り返って、杉本さんは「自分自身も話題提供をしていきたいし、そこからまた刺激を得たい」と出展に意欲的。「今年のミラノが終わったことで来年のミラノが始まった」とユーモア交じりに語りつつ、示すべきアティチュードの方向性などをコミュニティとシェアしながら、来年に向けて挑戦したいと宣言しました。

田子さんは、「サーキュラーデザインを考える社会的文脈の中で、古いものを良しとしつつ新しいチャレンジに取り入れていく風潮を日本でも作れれば」とコメント。サステナビリティを事業や施策から産業・文化へと拡張していくことが日本の課題であり伸びしろでもあることを改めて感じるイベントとなりました。

Share

Author

  • FabCafe編集部

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

    この記事に関するご意見やご感想は、ぜひお気軽にこちらからお寄せください。
    お問い合わせフォーム

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

    この記事に関するご意見やご感想は、ぜひお気軽にこちらからお寄せください。
    お問い合わせフォーム

FabCafe Newsletter

新しいTechとクリエイティブのトレンド、
FabCafeで開催されるイベントの情報をお伝えします。

FabCafeのビジネスサービス

企業の枠をこえて商品・サービスをともに作り上げていく
FabCafeのオープンイノベーション