Column

2021.3.14

“passage du vent” をつつむもの vol.1

宗形 直輝

デザイナー / FabCafe Tokyo Fabスタッフ

2021/3/13-14に限定40点で販売された、パティシエの小関智子さんによるソロユニットSrecette(エスルセット)のマカロンと、FabCafe Tokyoがペアリングしたコーヒー豆のセット、

”Passage du vent” (: 風の通りみち)。

マカロンのフレーバーは、Srecetteの今作のパフェ“Paralysie”から連なるCacao Bananeと、
シークレットフレーバーがひとつ。
FabCafe Tokyoが合わせたコーヒーは、Burundiです。そして、それらのオートクチュールのパッケージをご用意しました。

好きな時に、好きなお店に行く。当たり前と思っていたこともままならなくなった環境で、Srecetteのパフェだからこそ、食べに来て下さるお客様も多くいらっしゃると思います。もしかすると、これをお買い求めいただくためだけにお店まで足をお運び下さったお客様も。

そんな方と、そんな方の大切な人のお家に滞留してしまった何かを、さらさらと吹き飛ばすようなものを届けたい。様々な音や光、色を携えて、家の中を吹き抜けていくようなものを。

これは、そういった想いから始まった、SrecetteとFabCafe Tokyoのすこし特別なスイーツセット企画です。

今回、2回に渡り、FabCafe Tokyoがデザイン・制作したパッケージと、ペアリングしたコーヒーについてご紹介いたします。

知らなかった世界が広がるきっかけになりますように。

Passage du ventは、パッケージもFabCafe製です。

豆の袋と、ほろほろとした食感を持つフレンチメレンゲで作られた非常に割れやすいマカロン、それをひとつ乗せるのにちょうどいいお皿。それをぴったりと納め、安全にお持ち帰りいただくため、パッケージをいちからデザインしていきました。

横から見ると、長い三角形の形状になっています。
薄いコーヒーの袋とお皿をホールドしながら、マカロンがいちばん構造的に強い部分に収まる形状です。

オープンキッチンで、きびきびと、時に息をひそめて、真剣な眼差しと張り詰めた空気で芸術品のようなパフェを制作しているSrecetteさん。

パッケージの構想を練っている際、ふと
-マカロンの焼き上がりを待っているとき、どんな気持ちでしょう?と尋ねると、

『まずピエ(マカロンの周りのぽこぽこと盛り上がっている部分)がもこもこと出てきて、そこからぷっくりと生地のふくらみが生まれてくるのがかわいらしい』とおっしゃっていました。

オープンキッチンで見るSrecetteさんからは想像できない表情や表現がとても印象的でした。

そんなSrecetteさんの作るスイーツの、暖かくて、綺麗で、かわいらしくて、きりっとしていて、しかしはっとするような驚きや秘密をたたえているものを。コーヒーとマカロンの幸せな風味が漂ってきそうな、そんな空気感を閉じ込められたら素敵だな、という感情がデザインソースです。

嬉しくなって思わず帰り道で腕を大きく振ってしまいそうになる、軽やかなものを目指しました。

箱をのぞいて一つ一つ取り出していくときめきを大切にするために、すこし間口が狭くなっています。

今回のパッケージは、すべてこのレーザーカッターという機械で制作しています。

自由な形状にデザインした紙を同じ形状でいくつも切り出すためには、主に三つの方法がとられています。
金属の刃型を作ってプレスで型抜きする、刃のついたカッティングマシンで切り出す、レーザーカットする、等の方法です。

刃型は大量のものを作るのに適していますが、刃型の製作が大変で、あまりに複雑な形状は作れません。
カッティングマシンはきれいに複雑な形状を切り出せて、機械自体も割と安価ですが、刃を実際に素材に当てて加工するため紙を固定しなくてはいけなかったり、破けてしまったり、直角に折れ曲がる線のところで意図しないところまで刃が入ってしまったりします。

レーザーカッターは、複雑な形状のものを固定の手間なく切り出すことができ、操作に熟練度があまり必要ありません。しかし、機械の加工サイズが大きいものはとても高価で、紙を重ねて加工するのは難しく、あまりに多くのものを切り出すには不向きで、断面や裏面にコゲや煤がつくことがあります。

そのデメリットであるコゲや煤をどう解消して、効率的に生産するか、も併せてデザインしていくことで、少量生産の、複雑な造形を実現できます。

お皿とパッケージにしたためた文字やロゴも、同じレーザーカッターで彫刻しています。

当店のレーザーカッターは、Illustratorという一般的なアプリケーションで制作したデータと素材があればどなたでもお使い頂ける間口の広いマシンです。気になる方はぜひ、マシンの隣のスタッフにお気軽にお声がけください。

長らく横道に逸れてしまいました。

すべてカフェの中のマシンで製作できるので、ここがちょっと違うなー、と思い立ったその瞬間にアップデートできます。

紙に合わせた折る線の位置の微調整や、形状のバランスや組み立てたときの固さ、ディテールの質感などを微妙に変えながら、デザインを整えていきます。

温かみを出すために、文字のスタンプを製作してプリントの代わりにする、なんて変更もレーザーカッターがあればお手の物です。

すべて手作業で組み立てるので、組み立ての簡単さも重要です。
縁の二か所をとめるだけでしっかりした箱になる構造です。

素材の規格から逆算して、作りたい理想のデザインのバランスと擦り合わせていくことで、素材をほとんど無駄にすることなく制作することができます。

実際に切り出した後の素材です。すべてあわせても、名刺ほどのサイズの端材も出ません。

また、サスティナブルな方法で製作された、やさしい素材を使用しています。
おいしいものを食べれるのは地球のおかげですからね。

パッケージの外側なんてなくていい、資材はつかわないのが一番、という考え方もありますが、人工林では木が生えすぎて間伐しなくては生態系が崩れる山や、そのままでは何にも使用できない木材というものも存在します。

それらを有効に利用するには、細かく砕いて紙などの素材に使用するのも必要なことであったりも。その工程で有害物質を出さないのも大切です。
このパッケージは、そんな営みが素材になったものを使用しています。

Srecetteさんの想いと、FabCafeの想いを、開封するときに順に目にするように、重ねてつけさせていただきました。
ペアリングに込めた私たちの精一杯が、皆様の素晴らしいひと時の記憶の一部になりますように。

Srecetteをもじった”Secret”の文字がスタンプされたタグには、秘密が隠されています。

今作のパフェ、”Paralysie”はご賞味頂けたでしょうか。

いちSrecetteさんファンの僕もいただきました。
『麻痺』を意味するそのパフェは、不思議なしびれや味わいを感じ、さわやかな安寧の泥睡のような後味で幕を閉じる、何に麻痺しているのかわからないような不思議な浮遊感がありました。ミステリアスなSrecetteさんの作品の中でも謎の多いものです。

Cacao Bananeのマカロンと、シークレットフレーバーのマカロンは、”Paralysie”のフレーバーをもとに製作されました。

“Secret”タグには、その謎の断片を明らかにする仕掛けがあります。

パフェに使用された柑橘、せとかの皮を用いて、あぶり出しのスタンプが押されています。

高温のオーブントースターで5分ほど加熱するか、ゆっくりとガスコンロやライターの遠火であぶって、浮き上がらせてみてください。
火の扱いにはくれぐれもお気をつけて。

(designer 宗形直輝)

 

道玄坂の頂上まで足をお運びいただきましたお客様、ここまでお読み下さった皆様、本当にありがとうございます。
またいつか、新作を携えてFabCafeでお待ちしております。どうか楽しみにお待ちください。

Author

  • 宗形 直輝

    デザイナー / FabCafe Tokyo Fabスタッフ

    広告代理店でデザイナーを務め、その揺り戻しから、手触りや手から手へと伝わるデザインを渇望する。皮革製品のスモールブランド“MUNACHO!!!”他4つの小さなブランドを営み、そのデザインや職人仕事の全てを行う。その過程で、汎用レーザーカッターを単なるプロトタイプメーカーではなく、様々な素材で商用に耐えるメタなものづくりマシンに高め、2.5Dの新たな質感を探る素材・加工研究を行う。
    お客様との関わりからスモールスタートが無数に生まれる場、それが世界のFabCafeで共有されることの可能性への興味で入社。プロダクトとFABサービスのディレクターを担当。

    広告代理店でデザイナーを務め、その揺り戻しから、手触りや手から手へと伝わるデザインを渇望する。皮革製品のスモールブランド“MUNACHO!!!”他4つの小さなブランドを営み、そのデザインや職人仕事の全てを行う。その過程で、汎用レーザーカッターを単なるプロトタイプメーカーではなく、様々な素材で商用に耐えるメタなものづくりマシンに高め、2.5Dの新たな質感を探る素材・加工研究を行う。
    お客様との関わりからスモールスタートが無数に生まれる場、それが世界のFabCafeで共有されることの可能性への興味で入社。プロダクトとFABサービスのディレクターを担当。

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