Project Case
2020.8.3
FabCafe編集部
(この記事は、FabCafe Hidaを運営する株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)に掲載された記事の転載です。)
木を探し続け、飛騨へ
ライフスタイルブランド「re:koto(リコト) 」を手掛けるデザイナーの朝川賢一さん、三宅佳子さんは2019年7月、いくつかの条件を満たす木材を探すため、飛騨を訪れました。求めていたのは、「re:koto」のオリジナルプロダクトで、大さじ・小さじを計量できる木ベラ「15cc」の素材。とりわけ、「産地が分かる」「無加工である」という点を重視し、木材の調達元を探し続けてきました。本記事では「15cc」の開発ストーリーに加え、ふたりが理想の木を追った飛騨探訪について紹介します。
【プロジェクト概要】
- 支援内容
・製材所・木工所見学などの「木を知るツアー」の実施
・木材調達のコーディネート
- プログラム期間
2019年7月1日〜7月2日
- 体制
クライアント:ASAKAWA DESIGN(アサカワデザイン)
プログラム設計・運営:飛騨の森でクマは踊る
協力:西野製材所、柳木材、やわい屋、奥井木工舎、木と暮らしの制作所、飛騨の匠文化館
「15cc」の開発が始まったのは、2016年。ふたりは、日常にあふれた”コト”を見直すブランド「re:koto」の新商品として、「15cc」の素材や形状を考えました。デザインの発案は、飲食店での調理経験を持つ三宅さん。いくつもの鍋やフライパンの端の曲がり具合を調べたすえ、食材が集めやすい、湾曲部によく添う形状が出来上がりました。
素材には木を選択。質感の良さ、鍋や食材に対するあたりの優しさが理由です。一方で、調理器具に木を使うことへの心配事が湧いてきたといいます。「口に入れるものの素材を知らないことは、不安だなと気が付いた。友人の出産祝いとかに、どのように加工されたか分からない木で作った調理器具を贈って、大丈夫かと心配になった」(朝川さん)
そこで探し始めたのが、無加工かつ産地が明確である木材でした。朝川さんのことばで言えば「所在のわかる木」。しかし、デザインを決めるための試作品に使った市販の木材は、販売元すら産地を知らないものでした。素材の情報が曖昧なままでは、「15cc」を生産することが難しいと考えていたそうです。
「国土のほとんどが木で埋め尽くされているのに、その目の前にある木が簡単に手に入らないことに驚きました。そこで、他に木材を販売している所をあたり、売っている木は『どこでとれた木ですか?』と聞くと、国産なのは分かるが具体的な産地は分からない、そして“多分”何もされていない(無加工)だろうというような答えがほとんどでした」
材料調達が行き詰まる中、ヒダクマについてWebサイトで知った朝川さんは、一通の相談メールを送信。ヒダクマはそれを受け、ふたりに飛騨を案内することにしました。
ヒダクマは、森から製材所、家具工房までを見学しつつ、地元の木工職人との意見交換や文化にも触れられるプログラムを設計。単なる木材調達ではなく、森から木製品までの流通の理解に加え、新しい発見や制作活動のヒントが生まれることを目標に据えました。
Schedule
- [Check-in 2019/06/30]
- 飛騨古川に到着
FabCafe Hidaにチェックイン
- [Day1 AM 2019/07/01]
- 森歩き
西野製材所を見学
柳木材の土場で木材探し
- [Day1 PM 2019/07/01]
- 昼食
やわい屋で地元木工作家と談義
木と暮らしの製作所で木材探し・調達
- [Day2 AM 2019/07/02]
- 組み木技術が見学できる飛騨の匠文化館を訪問
FabCafe Hidaでクロージングミーティング
解散
木に触れて、過程を知る
プログラムは、森に分け入ることから始まりました。訪れたのは古川町畝畑(うねはた)地区。これから調達する木材の、まさに「産地」となる場所です。森を実際に歩きながら、針葉樹・広葉樹を観察し、それぞれの森の特徴や違いを確かめました。
続いて訪れたのは、西野製材所。森から切り出された原木がどのように製材されるかを見学。製材所オーナーの西野さん解説のもと、製材の詳しい工程、製材時に出る木屑の用途などについて知見を深めました。
西野製材所のすぐ隣には、木材業を営む柳木材の材木置き場があります。個性豊かな広葉樹の板材や丸太に触れながら、木材を探しました。
昼食後は、民芸の器を中心とした生活道具を扱う「やわい屋」に向かいました。やわい屋では、高山市を拠点に制作活動をしているの奥井京介さんと待ち合わせ。奥井さんは、有道杓子という飛騨高山で古くから親しまれてきた木製杓子を作ってきた経験を元に、より使いやすい木杓子を制作しています。
ともに木製の調理道具を制作するだけあり、三人は意気投合し情報交換。気付けば4時間にわたり、木工用刃物の使い方から杓子の販売方法まで、様々なテーマについて木工談義を交わしました。
「私はまだ木の素人で試行錯誤しているけど、奥井さんも同じく苦労をされた経験があるのだと感じた。そういう情報交換というか、教えてもらえる時間があっという間で、ずっと喋っていられた」(朝川さん)
Day1の最終プログラムとして訪問した木と暮らしの製作所は、飛騨の木を使った家具や小物の企画・製造を手掛けています。制作現場を見学しながら話し合う中で、端材を提供してもらえることになりました。
飛騨の匠の技を体感
Day2は、ヒダクマの拠点「FabCafe Hida」からほど近い飛騨の匠文化館を訪れ、伝統技術である「組木」を実際に触りつつ、この土地で磨かれてきた建築・木工技術を体感。最後はFabCafeにて、この滞在を振り返り、今後の木材調達やヒダクマができる支援について話し合うミーティングを行いました。
産地が分かる木で制作した「15cc」の販売開始からおよそ1年が経過した今、改めて朝川さん、三宅さんにお話を伺いました。「食べ物と一緒で、どこで誰がどのように作っているか聞けるっていうことが『所在がわかる』ということとイコールなのかなと思う」と朝川さん。三宅さんは「昨年飛騨に実際に行って、森や製材所に行った経験があって初めて、土地とつながるという捉え方をした」と振り返りました。われわれヒダクマとしても、ふたりのお手伝いをさせていただいたことを嬉しく思います。
安心して長く使える天然木の調理道具「15cc」
現在販売している「15cc」の素材として選んだのは、クリとヤマザクラ。クリは軽量で強度に優れ、ヤマザクラは適度な重みが心地よい。何度も修正を繰り返し、大さじ・小さじを量れるだけでなく、フライパンや鍋の底によく添い、木ベラとしても使い心地の良い形状が実現しました。食材へのあたりも優しく、調理から盛り付けまでそのまま利用できます。
柄の長さや形状へのこだわりも。調理時の腕と手の動きを確認しながら、より手に馴染むデザインとなっています。
現在、「15cc」は直販ECサイトや石川県の道具店「ツカノマ」で取り扱われています。今後は素材となる樹種や取り扱い店の拡大を目指すそうです。
「もうこの開発は中止にしようか」そんな事を考えていた時にヒダクマさんに送った一通のメールから縁がつながり、飛騨に行くことになりました。この滞在の中で、自分たちの長年探していた問題に答えてくれるかのように日程を組んでいただき、訪れる一つひとつが今までの過程への回答を頂いているような時間となりました。そして、この滞在で飛騨の人、山や森を近くで感じることができ、とても飛騨が好きになりました。また、ここからつながりができて、訪れて、また広がる。そんな未来を想像してしまいます。最後にお忙しい中お時間を頂きました飛騨の皆さま、そして全力でサポートして下さった「株式会社飛騨の森でクマは踊る」の皆さまに心から感謝いたします。
朝川賢一
飛騨へは昨年の夏に行き、ヒダクマさんには大変お世話になりました。滞在中は私たちの抱える問題を解決するプログラムを組んでくださったほか、様々な飛騨の風景を見せていただき、素晴らしい時間でした。今回の滞在では、国産材が直面している問題や端材の事を深く考えるきっかけにもなり(現在私たちの作っている製品には、飛騨産広葉樹の端材を使用させていただいております)、これは当初「自分たちの欲しい樹種や材の部位」の事だけを考えていた私たちにとって大きな変化です。滞在時にお会いした人との出会いも忘れられません。また是非飛騨に行きたい、ヒダクマさんの開催されているイベントにも参加したいなと思っております。
三宅佳子
樹脂製品の意匠デザインと設計を主として行うデザインエンジニアリングスタジオASAKAWA DESIGN (アサカワデザイン)から生まれたプロジェクト。培ってきた設計の考え方や技術をベースに、セルフプロダクトを展開。re:koto(リコト)という名は「再び」「改めて」を意味する「re」と私たちの生活の様々なコト「koto」を示す言葉からできている。「日々の事ごとを丁寧に見つめなおす事が物事をより良くする」という考え方と、「コトの要件や定義をより深く突き詰める」というあり方を表している。
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