Project Case

2019.6.12

学生主体の3Dモデリングワークショッププログラム「Fusion360 学生アンバサダープログラム」インタビュー

オートデスク株式会社

学生自身が企画・運営する複数回のワークショッププログラム

アメリカに本社を持つオートデスク株式会社(以下、オートデスク)が提供している、クラウド型CAD/CAMツール『Fusion 360』。3Dモデリングに必要な高機能を備えながらも、個人の趣味利用に加え、学生、教員、教育機関であれば無償で利用できるという大胆な施策を打っています。

「よりやる気のある若い世代が、これからの時代のツールを使いこなせる担い手になってほしい」と考えたオートデスクは学生アンバサダーを任命し、学生自身が企画・運営する複数回のワークショッププログラム(Fusion360 学生アンバサダープログラム)を実施。その環境づくりをサポートしたのがFabCafe、そしてFabCafe MTRLでした。プログラム第1期を終えたところで、どのようなプロジェクトだったかを振り返り、オートデスクとFabCafeのキーマンに企画の狙いや今後の展望を伺いました。

インタビュー/執筆:長谷川 賢人

3DCADソフトFusion 360とは?

Fusion 360とは、オートデスク社が提供しているクラウドベースの高機能3DCADソフトのひとつです。3DCADソフトは通常、数十万~数百万円の価格がつけられていますが、Fusion 360は月額数千円で運用することが可能。しかも非営利・趣味用途であれば無料で使いつづけることができます。そのため、3Dモデラーやクリエイターたちの間で爆発的に利用が広まりつつあります。

 

『Fusion 360』利用拡大に、学生が自ら学び、教えあえる環境を目指して

──今回のプログラムを実施された経緯をお聞かせください。

渡辺朋代(オートデスク) 『Fusion 360』をはじめ、弊社の主力製品は学生に無償提供していますが、まだ学校内で学ぶ機会が少なく、かつ触れる機会の少ない学生へも広めていきたいと考えていました。

学生が無料で使えるといっても、それだけで使いはじめるきっかけがなかったり、使い方がわからない場合があるため、ツールを通じた仲間ができたり、より広めるためのアイデアを出し合ったりと学生自身のやる気を見つけるお手伝いをしたい。そこで、カフェとワークスペースという人々が集って楽しめる環境をお持ちで、学生とのつながりもあるFabCafeにお力添えいただくことになりました。

エデュケーション プログラム マネージャー 渡辺 朋代さん

川井敏昌(FabCafe) 私たちFabCafeの強みはオープンな「場所」と、そこを拠点に活動する人々の「コミュニティ」にあります。特に後者を私たちは「マイクロコミュニティ」と呼び、ファッションやテクノロジーといった関心領域に紐づくコミュニティをたくさんつくろうしています。その「コミュニティ」に対して共創したりプロモーションできたりすることがFabCafeにとっての資産だと考えています。

学生とのネットワークについても、今年の5月に世界最大のスタートアップイベントであるSlush Asia学生チームと300人規模のハッカソンを運営したりFabCafeとしてもより広く繋がっていきたい。そんな話を藤村さんとしていたタイミングで、今回のお話をいただいたので、是非やりましょうと。あっという間に進みましたね。

FabCafe 川井 敏昌

小原和也(FabCafe MTRL) 今回は私たちから提供できる、「場所」や「コミュニティ」の強みを自由に使ってもらい、できるだけ学生のアイデアや発想を取り入れようと考えました。ワークショップも企画づくりから手取り足取り教えるよりは、考え方を明示して状況を整えることを意識しました。

渡辺 最初の企画となった「ポストカードをデザイン!」には驚きました。3Dツールのアウトプットを2次元にするのは大胆な発想です(笑)。『Fusion 360』の強みであるレンダリング機能を活かしつつ、グラフィックに興味がある人たちを呼べる企画になっており、参加者のリアクションを見ても大成功だと感じました。

それ以降も、学生のメンタリングやスケジューリングは小原さんたちが中心に担ってくれました。結果論ではありますが、各大学で順番にワークショップを行ったのも良い意味で競争を生み、学生の心に火を灯していたなと思います。

ツールに触れる可能性を広げる、学生主導のワークショップ

──ワークショップを通じて得られた実感や成果はいかがでしたか?

藤村祐爾(オートデスク) 僕はエバンジェリストとして『Fusion 360』を広く伝える活動をしています。この業界を見ていても、学生主導によるワークショップで自らコミュニティを拡大させていくのは、あまり前例を聞いたことがなく、試みとしても面白い。アンバサダーの活動を他大学の学生が真似てくれるようなことがあれば、僕は今後に向けての大きな意義があったと感じますし、願わくば波及していってほしいなと思います。

インダストリー ストラテジー & マーケティング Fusion 360 エヴァンジェリスト 藤村 祐爾さん

川井 実情として、先生が使っているCADツールは、カリキュラムとして組まれていたり、企業とパートナー関係にあったりして、なかなか変えられません。学生さんが先導して試し、推薦してくれるケースから、先生が触れてみる機会も期待できます。

藤村 『Fusion 360』は4年前にリリースし、日本語版は1年前に提供を始めたばかり。先生からすれば「覚えて、教える」までいくのも難しい。だからこそ「これから使い始める」という学生主導のムーブメントを起こせたのは良かったと感じています。

小原 それぞれの大学ごとに、個性を活かした活動をしてくれたのが面白かったです。日大芸術学部はデザイン系だったり工学院大学はロボット系だったり、自分達ができることを軸に楽しんでくれたことは成果だと思います。

世界の拠点を活かしたワークショップから、ニューヒーローを!

──オートデスクとFabCafeによるコラボレーション、今後の展望をお聞かせください。

渡辺 単なる『Fusion 360』の使用法の習得に終わらず、学生自身が主体的にワークショップで教える立場になってみるというのはみな初めての経験だったのではないでしょうか。どう自分を表現するか、どうすれば効果的に教えられるかといったことを、学生は苦労しながらも実践から学んでいました。彼らのビジョンや視野を広くするお手伝いが、このプログラムを通して今後もできるのではと思います。

川井 「広げる」という点で、FabCafeはスペイン、フランス、タイ、台湾、シンガポール、それから日本(東京、飛騨)と国を超えた拠点を持っていますから、世界規模で同様の取り組みが出来たらいいですね。それぞれの拠点が、既に複数の大学とのコネクションをもっているので、世界規模で競い合っても面白いかもしれません。

小原 5年前にデジタルファブリケーションが流行り始め、クリエイターやパートナーとさまざまなコラボレーションをし、「コミュニティ」を作り上げていきました。それは日本に限った話ではなく、各国のFabCafeでも日々様々なコラボレーションが行われています。ですので、世界規模でもこの人たちならこういう形でやると上手くいくんだという最適なファシリテーションを提供できると感じています。

FabCafe MTRL プロデューサー 小原 和也

ブレントン ワイアット(オートデスク) 私たちとしては、CADやCAMをもっと身近に学生さんたちに感じてもらい、使いこなしてもらい、次の世代に橋渡しをしたいと考えています。オートデスクは建築やものづくりに携わる新時代の人材育成を積極的に世界で行い、輩出を目指していきます。

Autodesk Education Senior Manager – Japan, A/NZ, Korea Mr.Brenton Wyett(Autodesk)

藤村 最近、モデリング、設計、切削、解析、基盤プログラミングをすべて自分でこなせる15歳の『Fusion 360』ユーザーに出会ったのですがです。そういう「ニューファブヒーロー」がもっと増えて、大人を「ぎゃふん!」と言わせてほしい。切れる包丁だって使わなければ薄い金属ですから、ツールを提供する僕らもFabCafeさんとのワークショップなどで「使いたい」と思われる紹介をして、世の中に広めていかないといけない。ファンを増やして、ものづくり全体をボトムアップしたいなと考えています。

川井 オートデスクさんとは既に学生アンバサダー2期目をスタートしますが、今後もアンバサダーを継続的に育成して「コミュニティ」をつくりたいと考えています。そこへ、機材や資材を提供するメーカーやクリエイターを掛け合わせながら、学生たちがものづくりをしていく機会をさらに提供するのがFabCafeとしての使命です。本日はありがとうございました。

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  • FabCafe編集部

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

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