Interview

2022.6.30

地球とつながる食体験 ー masharu(Museum of Edible Earth)× 田辺年男(Ne Quittez Pas オーナーシェフ)

ジュディット モレノ|Judit Moreno

FabCafe クリエイティブディレクター

第10回を迎えたYouFab Global Creative Awardは、26カ国から335作品が集まり、その中から19作品を受賞し、過去最大規模となりました。今年は「Democratic Experiment(s)」をテーマに、2つの作品がグランプリに選ばれました。そこで、グランプリ受賞者であるオランダのthe Museum of Edible Earth創設者、masharuさんが来日し、FabCafe Tokyo/Kyotoでの展示や土を食べるワークショップを開催しました。

masharuさんの京都ツアーについてはこちらをどうぞ。

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masharuさんは、日本滞在中に、各メディアで高く評価されている、土を使用するフランス料理店「Ne Quittez Pas」の田辺年男シェフを訪問。田辺さんの風味豊かで土の香るコースを堪能したあと、それぞれのプロジェクトの背景や課題、考え方について話しました。

田辺:さて、今日の土のコース料理はいかがでしたか。

masharu:最高でした。土のスフレグラッセから、ゴボウ等などの日本の定番野菜が入ったメインまで、全部おいしかったです。また、いくつかのコースが素焼きのお皿やお碗に盛り付けられていたのもよかったです。

田辺:陶器は土の味を引き立てますよね。

masharu: 本当ですね。また、温度や食感、香りの違いも印象的でした。雨や木、あるいは甘草を思わせるものも。今回の日本旅行で最高の思い出になりました。実は2013年、土料理について調べていたころに初めて田辺さんの土のコースを知り、ずっとレストランに来たいと思っていました。実は今日はthe Museum of Edible Earthのサンプルをいくつか持ってきました。よろしければ召し上がってみてください。

田辺:ありがとうございます。これらは粘土ですよね?採取された場所はフランスとコンゴですか。 (一口食べて)美味しいですね。なぜ土を食べたり、研究したりするようになったのですか?

masharu:きっかけは自分の欲求です。子どもの頃から土を食べたいという衝動がありました。今思えば、ずっと都会で暮らしてきたことが関係しているのかもしれません。子供の頃の自然体験といえば、夏を田舎で過ごしたことくらいです。土を食べるということは、自然や地球ともっとつながりたいという直感的な欲求だったのかもしれません

the Museum of Edible Earthを始めてから、ようやく自分に正直に生きられるようになったと感じています。このプロジェクトは、お金やキャリアのためではなく、自分が信じているものだからこそ続けられているんです。

田辺:私にとっても、土を味わうという発想はごく自然なものでした。料理人になったとき、農学博士と一緒に日本全国をまわり、質の良い野菜を探しました。その時に博士はいつも土の話をし、「土は食べられるんだよ」とも教えてくれました。たとえば、ニンジンを抜くと土がついていますよね?ポンポンと軽く払うと砂が落ちて、そのまま食べることができるんです。

masharu: 最初から土をレストランで使っていましたか?

田辺:いえ、土のコース料理を始めたのは10年前で、テレビの料理コンテストでオリジナルメニューを依頼されたのがきっかけです。突然閃いたんです。土を煮てソースを作った結果、優勝しました。そして翌日から、全国から「土の料理が食べたい」という電話が毎日のようにかかってきました。その時、土に興味を持っている人がたくさんいるということが分かりました。

masharu:私は各国の土食文化や伝統を調査してきましたが、多くの国では土をそのまま食しています。田辺さんのように、土を料理するというのは非常にユニークなんです。私自身、料理人とコラボレーションしたのはほんの数回しかありません。オランダでは土が食品として認められていないため、アートパフォーマンスとしてでしか実施できず、一般に販売することはできません。展示という枠組みとして開催している土の試食ワークショップによって、参加者たちに自己責任で土を食べていただいたりはできますが、レストランとは全く違います。

田辺:当店で提供している土は、日本国内の特定の場所で採取されたもので、非常に厳しい検査を通過し、加熱も徹底しています。栃木県の地下5〜10メートルから採掘した黒土と白土、そして最近、九州の金沢バイオ研究所で作られた人工土も試用しています。日本の土地は農薬や排水などで汚染されていて、食べられる土を探すのは極めて大変なんですよ。

masharu:人間が自分たちに対して、そして、地球に対して何をしているのか、色々と考えさせられますね。たとえば、土を食べることが健康的かどうかについては、様々な議論や研究がありますが、それ以前に、私たちは明らかに不健康な商品を、どこのスーパーでも簡単に購入できますよね。自己破壊も、地球破壊も、人間社会の中で非常に常態化しているように感じることがあります。

そしてthe Museum of Edible Earthは、自然環境の破壊が進行していることを浮き彫りにしています。最近の例を挙げると、私たちは元々ウクライナの土のサンプルを多く収集していますが、それらの産地が戦争の影響でひどく汚染されてしまいました。我々の一生涯の間では、もう入手できないでしょう。人間は地球が不変であることを当然のように思っていますが、地球は我々が思う以上に速く変化していますし、我々が環境に大きな影響を及ぼしているのも大きな事実です。

田辺:全く同感ですね。そして、何を、どのように食べるかによって、私たちの環境との関わり方が決まってくると思います。人間は天然な存在であり、食べることで自然界とつながると信じています。

masharu:土を食べると、地に足がついた感じがします。地球の市民になって、色々な場所とつながっている気がしますね。土を食べる人と話すと、伝統や欲求について説明してくれる人が多いのですが、中には「土を食べると不思議な夢を見る」や「記憶がよみがえる」のような超越的な体験をする人もいます。人間のルーツはアフリカ大陸にあります。幾世を経て進化してきましたが、その過程は全て我々の中に根付いています。たとえば、私がロシアで生まれたことや、今はオランダに住んでいることなどは、全体のストーリーの最後の部分、最も表面的な層に過ぎない。結局のところ、私たちは皆同じルーツと、同じ惑星をシェアしているんです。

だからこそ、the Museum of Edible Earthは移動型であることが非常に重要なんです。世界中のサンプルを集めているので、一箇所にとどまるのはおかしいと思うからです。さらに、このプロジェクトでは「交換」という要素もとても大事にしています。そこで今日は田辺さんのために、私が世界から集めたサンプルをお持ちしました!そして、もしよろしければ、レストランで使用されている土のサンプルもお譲りいただけたら嬉しいです。

田辺:もちろん、うちの土を喜んで差し上げますよ。コレクションに追加していただくことで、日本の土、そして私のレストランについて、もっと色々な方に知ってもらえたら嬉しいです。

masharu:移動型のthe Museum of Edible Earthはお客さんに会いに行くので、あらゆる人にアプローチできます。多くの場合は、土や自然環境から離れた生活を送っている都市に住む人々や、政府機関や大手企業に所属する人々を主な対象としていますが、基本的には誰にでもオープンな博物館です。我々は皆人間であり、地球という惑星に抱かれているので、一人一人大切な存在なのです。Earth(土とも地球とも意味する言葉)は排他的であってはならないものです。

田辺:どんな文化、国籍、背景の人でも、結局のところ、他の生物と同じように地球から生まれました。土を食べるか食べないかは別として、Earth(土という意味でも、地球という意味でも)がないと生きていけないというのは事実です。

masharu:賛成です。私たちはこのEarthの上を歩き、このEarthに住み、やがてEarthに帰るんですから。

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YouFabでは環境、社会、経済、政治など、現在私たちの世界で実際に起きている要素とクリエイティビティが交差する作品に注目しています。今ある常識に挑戦する世界中のクリエーターを対象とし、好奇心や想像力を刺激するような、”ハックされた”新しいアイデアに期待しています。

YouFab 2021年版の全受賞作品について公式ページまで、2022年版の最新情報についてFacebookInstagramを参照ください。

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  • ジュディット モレノ|Judit Moreno

    FabCafe クリエイティブディレクター

    スペイン出身。バルセロナ自治大学で東アジアの学士課程(2013)、関西外国語大学で1年留学(2012-2013)、キングス・カレッジ・ロンドンで文化イベントマネジメントの修士課程(2015)を経て、在バルセロナ日本国総領事館の広報文化班に6年間在勤。同時に、翻訳通訳の仕事にも手がける。2022年に入社、海外クリエイターとの共同プロジェクトを支援し、言語と国境を超える絆づくりを目指す。異文化交流、絵描き、伝統工芸、緑化デザインに関心がある。

    https://loftwork.com/jp/people/judit_moreno

    スペイン出身。バルセロナ自治大学で東アジアの学士課程(2013)、関西外国語大学で1年留学(2012-2013)、キングス・カレッジ・ロンドンで文化イベントマネジメントの修士課程(2015)を経て、在バルセロナ日本国総領事館の広報文化班に6年間在勤。同時に、翻訳通訳の仕事にも手がける。2022年に入社、海外クリエイターとの共同プロジェクトを支援し、言語と国境を超える絆づくりを目指す。異文化交流、絵描き、伝統工芸、緑化デザインに関心がある。

    https://loftwork.com/jp/people/judit_moreno

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