Column

2022.6.1

京都のクリエイター/研究者とのクロスオーバー ーオランダ在住リサーチャー 24時間の弾丸ツアー

浦野 奈美

SPCS / FabCafe Kyoto

こんにちは。FabCafe Kyotoの浦野です。去る2022年5月4日、YouFab Global Creative Awards 2021のGrand Prize受賞者でオランダ在住リサーチャー、masharu studioさん(以下、masharuさん)が急遽京都に来ることになり、京都で活動するクリエイターや研究者の方々とのワークショップやツアーを実施しました。たった1日の滞在でさまざまなクリエイターとのクロスオーバーが生まれたので、その様子をレポートします。

  • 今回の旅人:masharu studio

    世界各地に伝わる「土をたべる」文化を調査した移動式博物館で土食文化の体験を通じて、地球そのものから非人間、無生物と人間の存在との関係を結び直すヒントを与えてくれるオランダの「the Museum of Edible Earth」。今回、YouFab Global Creative Awards 2021でGrand Prizeを受賞し、FabCafe Tokyoで展示を行うために来日しました。masharuさんは、展示期間中に、実際に摂取可能な土を食べてみながら、アーティストトークおよびワークショップを行いました。
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  • YouFab Global Creative Awards 2021

    2012年にFabCafeに集うクリエイター向けのコンテストとしてスタートした「YouFab Global Creative Awards 」(以下、YouFab) は、クリエイターと社会を繋ぐグローバルなプラットフォームを目指すアワードです。第10回目となる、YouFab 2021では、審査委員長に伊藤亜紗氏(東京工業大学科学技術創成研究院未来の人類研究センター長)を迎えました。伊藤氏が提唱する「民主的なものづくりと民主主義の実験」を意味する「Democratic experiment(s)」のテーマのもと、過去最多の335作品の応募があり、19作品の受賞作が選出されました。
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今回masharuさんが宿泊したのは、京都市の中央卸売市場にある野菜卸の女子寮兼倉庫をリノベーションしたアートホテル&ホステル、KAGAN HOTEL。巨大な市場のあるこのエリアは、実は、京都市内でもアーティストや研究施設などが集まるクリエイティブスポット。昔から京の食を支えてきた土着の風俗と、自由なクリエイティブが混じり合うとっても面白い場所なのです。

Photo by Atsushi Shiotani

KAGAN HOTELは、宿泊エリア、カフェ、ギャラリー、そして制作スタジオのエリアに分かれています。アーティストインレジデンスも実施しており、参加したアーティストは制作と展示ができます。ちなみに、FabCafe Kyotoのプロジェクトインレジデンス「COUNTER POINT」もKAGAN HOTELと連携中。私たちのレジデンスに参加する方は、KAGAN HOTELにもお得に泊まれて、内容によっては展示パートナーになってくれる可能性もあるので、ぜひご贔屓に!

  • 展示エリア。展示企画を行う際は、地下のギャラリーと、1Fのカフェスペースが展示場所。

  • 制作エリア。アーティストレジデンスに参加しているアーティストは、それぞれ制作ブースが利用できるそうです。

  • Photo by masharu

  • ホテルにチェックインしたら、まずはFabCafe Kyotoへ。今更ですが、少しご紹介を。FabCafe Kyotoは五条通りの少し南、京都タワーのよく見える道に面して、2015年から営業しています。京都は北から南にかけて、一条、二条、三条、、と道が走っており、昔公家の住まいだった京都御所のある二条から南に行けば行くほど、庶民文化がグラデーションのように広がっていきます。御所から離れた五条に私たちがカフェをオープンさせたのは、当時、余白のあるこのエリアで、新しいチャレンジをしようとする人たちが集まってきて、何か面白いことが起こりそうだという直感を感じたから。2022年の今も、新旧の文化が入り混じって新たなカルチャーを生み続けています。

さて、カフェに到着すると、早速、素材の可能性を模索する事業「MTRL」のプロデューサーの木下から、さまざまなマテリアルの紹介が始まりました。FabCafe Kyotoには、西陣織や組紐などの伝統素材から、漆や縄文杉などの天然素材、強化段ボールやバイオレザーなどの工業素材まで、あらゆる素材を紹介、新たな活用方法を一緒に模索しています。(FabCafe Kyotoは特に素材のサンプルが多いので、ぜひ気軽に体験しにきてください)

今回、masharuさんが来るということで木下が取り出したのは、リモナイトという、阿蘇山で産出される土。これは、脱臭剤や染料(ベンガラ)に使われていると同時に、サプリメントの原料にもなっているとのことで、早速皆で試食。masharuさんは「おいしい」とコメントしていましたが、私は土の味覚で情報を得ることが初めてで、若干混乱しました(笑)

今回、masharuさんが来るということで急遽ミートアップを企画。食に関わる研究者やアーティストの方々を中心にお声がけしたところ、開催5日前の声がけとGW真っ只中だったにもかかわらず、何人もの方々が集まってくれました。ミートアップでは、masharuさんから「Museum of Edible Earth」のプロジェクトを紹介いただき、masharuさんが世界中で集めてきたサンプルを実際に試食しながら、ビール片手にカジュアルにディスカッションしました。

「Have you ever tasted earth?」からスタートしたmasharuさんのプレゼンテーション。

 

 

  • masharuさんは、約10年間で世界中から400以上の食用されている土のサンプルを集めています。サンプルとして対象になるのは、少なくとも1人が食用として食べている土であること。

  • ソニーコンピュータサイエンス研究所京都研究室ディレクターで、身体拡張を研究している暦本純一さん。京都でのプロジェクトのひとつがガストロノミーということで、興味津々。

今回メインに試食したのは3種類。順に試食しながら印象を共有していきます。

京都工芸繊維大学とYCAMバイオ・リサーチの津田和俊さん(左)。アイスクリームを食べているみたいですが、土を試食しています。

京都をベースに活動するアーティストの新宅加奈子さん。終始笑いが止まらない。

参加者はサンプルを食べながら、味の印象をmasharuさんにフィードバック。写真は、2021年に京都のカルチャースポットINTA-NET KYOTOをオープンした鈴木宏明さん(左)と、リサーチャー/アーティストで手食文化を研究している八幡亜樹さん(右)。

「土でありおいしい」や「ミルキー」などの言葉が。ほとんどの人にとって土のテイスティングは初の体験だったものの、受け取った情報をそれぞれの記憶や経験と紐付けながらどんどん言語化していく。

  • メインで試食した3つのサンプル以外にも何種類か試食させてくれたサンプルたち。コンゴのミネラル感のある土が人気でした。FabCafe Kyotoに多少あるので、興味のある方はスタッフにお声がけください。

  • 津田さん(左)、京都工芸繊維大学でデザインリサーチを専攻している奥田宥聡さん(中央)、博士課程でフードテックの研究をし、サマースクールプログラムを企画中の緒方胤浩さん(右)も、masharuさんと話しながら試していました。

プレゼンテーションと試食ワークショップのあとは、質問をしたり、それぞれのプロジェクトを紹介するなど、カジュアルに各々が情報交換。

ミートアップのあとにmasharuさんを連れて行ったのは、「液体料理」を開発し続けているセキネモトイキさんが営む、nokishita711というバー。「カクテルではありません、液体料理です」とご本人が言う通り、一般的なカクテルとは全く違います。肉や魚、虫などの素材はもちろん、さまざまな方法で発酵させたり抽出したりと、どのメニューもレストランの食事のような素材のバリエーションと調理がされた、アルコールドリンクなのです。もちろん、土も使っている。ということで、ぜひmasharuさんに紹介したかったのです。

京都市内の繁華街から少し路地に行ったところに現れるnokishita711。(Photo by masharu)

Photo by masharu

Photo by masharu

Photo by masharu

どんな時に土を食べるんですか?という質問に、タバコやスナックのように嗜好品として楽しんでいる、というmasharuさん。おもむろに手持ちの土を取り出し、お酒と一緒にかじり始め、テーブルに置いて皆にも振る舞っていました。

Photo by masharu

バーに一緒に行ったのは、セキネさんとも「飲む植物園」というプロジェクトで何度もコラボレーションしており、FabCafe Kyotoでもシリーズイベント「制約の多い花屋」を実施中のフラワーアーティストedalab.の前田さん。複雑な表情(笑)

 

  • おもむろにセキネさんがmasharuさんに試食を薦めたの香炉の灰。良いお香の灰はカクテルに入れても香り高いとのこと。たしかに、とても華やかな香りがしました。

  • セキネさんが発酵させた麹。古い甕を使ったことで甕の味が移っているということで、これもmasharuさんに味見をしてもらっていました。

セキネさんは最後に中国茶を淹れてくれ、あらゆる味で胃も頭も心もいっぱいの体を落ち着けてくれたのでした。(Photo by masharu)

たった1日の滞在で、多くのクロスオーバーが生まれたmasharuさんの京都遠征。京都は昔も今も、あらゆる文化が入り混じる街です。そんな京都で活動がしたい方、何かきっかけを作りたい方は、いつでもお気軽にFabCafe Kyotoにお声がけください。

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Author

  • 浦野 奈美

    SPCS / FabCafe Kyoto

    大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

    大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

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