Event report

2024.10.10

【フォトレポート】京都巡回展『分解可能性都市 ─自然と共生する未来の都市生活考』

FabCafe編集部

Kyoto

大解剖🔍『分解可能性都市』展

国内外で高まる、都市の分解可能性とその実践

2024年10月1日(火)から10月23日(水)まで、FabCafe Kyotoにて開催中の展示企画『分解可能性都市 ー自然と共生する都市生活考』。生産と消費が目まぐるしく繰り広げられる現代に、「分解」という視点を設けてみることで、かつての循環の在り方を取り戻すような国内外の取り組みがずらりと並びます。そんな分解展を余すことなくお伝えすべく、FabCafe Kyotoスタッフが展示の様子を大解剖。ぜひその全容をご覧ください。

▼展示詳細についてはこちら
https://fabcafe.com/jp/events/kyoto/20241001-decomposition-city-kyoto/


かつて小田急線が走っていたシモキタエリア。沿線一帯が地下鉄化されることで生まれた空き地はなんと1.7km。

デベロッパーが一方向的な開発を行うのではなく、世田谷区、小田急電鉄、住民の三者でディスカッションを重ね、2020年に社団法人として立ち上がったのがシモキタ園藝部でした。

世田谷区と小田急電鉄から委託を受け、お手入れの依頼を有償で請けることで、園芸学校やプロからの植栽講座などを通じ、市民が主体となって緑化を推進する仕組みが生まれています。

中にはハーブティーやコンポスト事業部、養蜂を始めるメンバーまで、部の中で発案し実践が行なわれる、ゆるやかで有機的な「手入れのデザイン」が広がっています。定量的な調査により、1.7kmの中で生物多様性が戻ってきている…なんて側面も。

手入れの権利が個人に渡ることで、管理・被管理ではない干渉し合う関係が、人と人、人と地域のあいだに生まれている点にもぜひご注目ください。

一般社団法人シモキタ園藝部
シモキタ園藝部は、世田谷区の北沢・代沢・代田地域を主なフィールドに、まちの植物を守り育てていくことを目的として2020年に発足した一般社団法人です。「「緑」を地域の恵みとして共有し、だれもが緑とともに生きられるまち」を目指しています。
https://www.instagram.com/shimokita_engei/


広葉樹や曲がり木の利活用を主たるミッションとする事業体、通称「ヒダクマ」のオフィスは、文字通り余すことなく木を活用することを提案しています。

短い部材を三角に組み重ねたトラス構造を採用することで、建築には扱いにくい曲がった木材もうまく建材として活用することができます。
また建物が役目を終えた際も、ボルトを外せば取り壊すことなくもう一度建材や家具の材料として活用することが可能に

まっすぐな針葉樹が主流とされる建築の世界において、あえて曲がった広葉樹の活路を見出すことに挑んだ本プロジェクトは、建築の入選展SDレビューでも賞を受賞。昨今多発する災害や都市におけるライフスタイルの変化から、建築業界にも分解を前提とする流れが生まれているのかもしれません。

「森が近い飛騨だからできたわけではなく、あらゆる都市にもこの可能性は秘められている」という、展示主催者の一人である株式会社ロフトワーク岩沢エリさんによる言も印象的です。

株式会社飛騨の森でクマは踊る
森や伝統文化といった地域資源とテクノロジーを融合させながら、循環型のものづくりや空間づくり等のプロジェクトデザインを行っている。
https://hidakuma.com/
https://www.instagram.com/hidakuma_dance/

株式会社ツバメアーキテクツ
「今、ここに、どんな空間をつくるべきなのか」その前提から共に考え、設計活動を行う建築設計事務所
https://tbma.jp/
https://www.instagram.com/tsubamearchitects/


野菜のヘタや皮など、非可食部として捨てられる産業廃棄物は、その量なんと年間2000万トン。
そんな「食べられない」とされてきたものを、栄養価をそのままにおいしく食べられる形へと生まれ変わらせる機械が開発されています。

ASTRA FOOD PLAN株式会社によって開発された「過熱蒸煎機」は、熱された水蒸気を用いることで食材へのスピーディーな殺菌と乾燥を実現します。乾燥させたものは、ミルにかけることでふりかけや調味料などにアップサイクルすることが可能に。

食材残渣を多く排出してしまう工場へ導入することで産廃の大規模な素材化に取り組むなど、ひとつの実践に留まらないビジネスモデルとして成立している点にも注目です。

ASTRA FOOD PLAN株式会社
「サスティナブルな社会の実現」をミッションに掲げるフードテックベンチャー。循環型フードサイクルの構築を目指して「かくれフードロス」削減に取り組んでおり、独自開発した『過熱蒸煎機』で、食品ざんさ等をアップサイクルした高付加価値パウダー『ぐるりこⓒ』を提供しています。
https://www.astra-fp.com/
https://www.instagram.com/astra_fp_/


at FOREST株式会社が向き合うのは、新しい弔いの形。

墓石の代わりに樹木を墓標とする樹木葬などは耳にすることもしばしばですが、彼らが提案する循環葬にはその墓標すらありません。
火葬後の遺骨を森林の土中に埋葬するこの葬法には、私たち自身が森林循環のプロセスの一員になれる可能性が秘められています。

私たちの骨に含まれるリン酸カルシウムなどが森林の育成を助け、またその収支はさらに森の保全へと活用されます。この体が、森を豊かにできる素材であることに気がつく不思議。

多死社会といえる現代。その死者数は年間150万人にのぼると言います。他方、出生率は70万人にとどまるなかで、私たちはその命をどう未来に継承できるでしょうか。

布張りの上製本で閉じられた冊子や、埋葬のための凛としたプロダクトの佇まいにもご注目ください。

at Forest株式会社
「墓を建てず森を育てる」エンディングサービスRETURN TO NATUREを企画・運営しているベンチャーです。森林保全、活動、埋葬を組み合わせ、家制度やジェンダーにとらわれない持続可能な選択肢を提供することで、死を森づくりにつなげ、緑豊かな未来に貢献しています。
https://atforest.co.jp/
https://www.instagram.com/return2nature.jp/


MycoDarumaは、きのこの菌糸でできただるま。祈念が成就すると、土に還すことができます。

いわゆる「分解者」として位置づけられる菌類など微生物の多様性が、近年の都市では低下しつつあります。かたや私たちの足元には、いつもきのこの存在が。
実は世界で2位の食用きのこ生産量を誇る日本ですが、その活路はやはり食用のみとまだまだ限られています。ヨーロッパでは菌糸を活用したプロダクトが多く開発されている潮流も汲みつつ、菌糸のプロダクトや建築を探索するデザインスタジオと企業、職人によって開発されたのが、こちらのMycoDaruma。
紙でできただるまは成就するとお焚き上げに出すのに対し、菌糸はその分解スピードの高さから土に還すことも可能に。祈りのためのモチーフに、地球規模での循環という意味性を付与することで、そこには新たな文脈や文化体系が生まれる予感も。
私たちの暮らしを取り巻く文化や行為が、素材を起点にリデザインされることで、相乗的に向上していく微生物多様性や都市の分解可能性。だるまを手に乗せて感じるずっしりとした重みには、小さくとも確かに力強く生きている菌糸のエネルギーが感じられます。

株式会社BIOTA
生活空間の「微生物多様性」を高め、健康で持続可能な暮らしを目指すバイオテクノロジーベンチャーです。環境マイクロバイオームのゲノム解析を基にした研究開発を行い、バイオインフォマティクスを用いた受託解析や共同研究を提供。さらに、研究成果を活かし、建築設計、ランドスケープデザイン、都市計画に関するコンサルティングも展開しています。
https://biota.city/


タイにあるFabCafe Bangkokが開発したのは、廃材からスケートボードを作る技術。会場には、プラスチックの袋や竹からできたスケートボードが並びます。

コロナ禍前後、タイではスケートボードが大流行し、一部ブランドの商品価格が高騰するなどの背景が。タイの首都・バンコクに拠点を置き、サステナビリティに挑戦するプロジェクトを多数発信するFabCafe Bangkokならではのやり方で、欲しいものをいかに遊びながら作ることができるのかを実践します。

私たちが何かを消費するたびに生まれる端材や廃材など、都市において分解されないものたち。それらを市場価値の高いものへと転換するFabCafe Bangkokの遊び心とクリエイティビティ、そしてとりどりの色彩をぜひご覧ください。

FabCafe Bangkok
デザイン、テクノロジー、アートを融合し、クリエイティブな交流とコラボレーションの場を提供する、タイのバンコクに位置するカフェ型ものづくりスペースです。サステナビリティ関連プロジェクトのテストサイトとしても機能しており、プラスチック廃棄物の再活用やゴミのエネルギー転換などのデザイン・プロトタイピング・検証プロジェクトの実績を多数持つ。
https://fabcafe.com/th/bangkok/
https://www.instagram.com/fabcafebangkok/


キッチンの天板に使用するような人工大理石の端材で作られたテーブル「つながるつくえ」。制作したのは、商業空間の施工や家具製造などを手掛ける大阪の株式会社船場。

再生・減量化が難しく最終処分場に流れる産業廃棄物は年間1600万トンに及び、その活用方法の探究は喫緊の課題になっています。

素材、技術開発や先端研究を基軸にする事業開発支援チーム「MTRL」は、パナソニックホールディングス株式会社による端材活用エコシステム開発プロジェクトのパートナーとして、端材の用途開拓からプロトタイプ、プロダクトの制作までを実施しました。

端材が持つストーリーを引き継ぎ、また誰かと誰かがつながるための製品に生まれ変わる……そんな愛着のリレーがこの机の上から始まっています。

MTRL(マテリアル)
MTRL(マテリアル)は、株式会社ロフトワークが運営するデザインのアプローチで、「素材・技術開発、研究開発」における「意味のイノベーション」を実現するためのプロジェクトデザインチームです。
https://mtrl.com/
https://www.instagram.com/fabcafe.mtrl/

岩沢兄弟
「モノ・コト・ヒトのおもしろたのしい関係」を合言葉に、人や組織の活動の足場となる拠点づくりを手掛けるクリエイティブユニット。空間・家具などの立体物設計、デジタル・アナログ両方のツールを活用したコミュニケーション設計が得意。
https://battanation.com/
https://www.instagram.com/iwasawa_bros._design/


福音館書店から発行される、身近な「ふしぎ」に迫る月刊誌「たくさんのふしぎ」シリーズ。著者であり農学史研究者の藤原辰文さんは、これまで20世紀の食と農の歴史を研究してきました。

シリーズ待望の「食べる」では、全ページに渡って食材の作り手からそれを享受する私たち、その身体の中で食べたものを分解する微生物の一つ一つまでが余すことなく丁寧に描かれます。あくまで子供向けのような表情をしていながら、その内容やボリュームはある種の学術書のよう。おにぎりひとつとっても、私たちはこれだけたくさんの世界を想像しながら食べることができているか、改めて考え直したくなる一冊です。

京都を拠点とするイラストレーター・スケラッコさんによる親しみのあるイラストにもぜひご注目ください。

福音館書店
https://www.fukuinkan.co.jp

スケラッコ
https://www.sukeracko.com

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