Project Case
2019.6.11
FabCafe編集部
「今日を愛する。」がコーポレートスローガンのライオン株式会社。1918年の設立以来、120年以上にわたって日々の生活を支えるプロダクトを製造しています。2018年1月、ライオンの研究開発本部内に製品開発をする研究所ではなく、新規事業を生み出す研究所としてイノベーションラボが設立。歯磨き粉や洗剤といった100年以上前のイノベーションが継続してライオンのビジネスのコアになっていることへの危機感がその設立の経緯です。
FabCafeは、自らが運営するグローバルクリエイティブアワード「YouFab Global Creative Awards 2018(通称YouFab2018)」にて、ライオン株式会社とコラボレーションを行いました。
世界中のアーティストから作品を募集すると同時に、関連イベントを通じたコンセプトのプロモーションや、バンコクでアーティストとの共同リサーチを実施し、ライオンの新規事業創出の種を探りました。
プロジェクト概要
支援内容
- グローバルアワード「YouFab」の仕組みを使った新規事業創出・クリエイター共創プロジェクトの戦略づくり
- FabCafeの国内・グローバル拠点を利用した現地アーティストとの共同リサーチの設計・実施
プロジェクト期間
- 2018年6月〜2019年3月
FabCafeが主催するグローバルアワード、「YouFab」 はデジタルのものづくりとフィジカルのものづくりを横断するアイデアやクリエイティブを評価するアワードです。現在までに30ヶ国以上・1300名を超えるクリエイターが参加し、130名以上の受賞者が生まれています。
7年目の開催となったYouFab2018のテーマは「Polemica!!」。スペイン語で「議論」とか「喧々諤々」といった意味です。世界中から、議論を巻き起こす問いを世に示す作品を募集しました。
「ライオン賞」を設置し、“仕事と暮らしが溶けあう未来”を世界中のアーティストに問いかける
今回のYouFabの取り組みでは、イノベーションラボが掲げるテーマ「MERGE- 仕事と暮らしが溶けあう未来」を中心にして、世界中のクリエイティブ層と対話するプロセスを、オフライン・オンライン問わず様々な形で作りました。
「MERGE- 仕事と暮らしが溶けあう未来 」に込められたメッセージ
加速度的に変化している私たちの働き方や暮らし方の少し先の未来は、20世紀に引かれたライフプランから今後さらに多様化していくことが予想されます。会社組織と個人の関係性、仕事と家事と自分事、学びと遊び、パブリックとプライベート、デジタルとリアルなど、さまざまな境界の繋ぎ目が「溶けあう」社会ではどのような体験を求め、日々を過ごしていくのでしょうか?ライオンは「今日を愛する。」というスローガンを掲げ、創業127周年の今を進んでいます。そして、我々が今目指しているのは、これまでの当たり前を‘REDESIGN’し、未来の習慣を作り出していくことです。10年後の世界、「MERGE – 仕事と暮らしが溶けあう未来」では、どんな生活が待っているのでしょう?皆さんと一緒に未来を描き、共に創り出していくことを楽しみにしています。
作品募集を通じて、世界各国のアーティストが自らが考える「MERGE」を発表
2018年8月1日から10月31日までの募集期間中、「MERGE – 仕事と暮らしが溶けあう未来」をテーマにプロダクトやサービス、アート、プロジェクトを募集しました。その結果、22ケ国71作品の応募がありました。
審査では、ライオンチームとYouFabチームで何度も打ち合わせを重ね、その審査基準や審査の方向性を議論。数々の作品と、そのバックグラウンドとして示される未来の暮らしをひとつずつ想像しながら、作品審査を行いました。
ライオンチームも含めた審査員同士の本気の意見がぶつかり合い、喧々諤々のディスカッション。社内のディスカッションだけでは到達できなかった貴重な議論がいくつも巻き起こった瞬間でした。
ライオン賞受賞作品「Hack the Natural Objects.」
選出の経緯
何でもなく、いつもそこにあるもの。いつもは見逃しているもの。自然が創り出した造形。実は私も自分で木を削りだしたキーホルダーを30年以上使っています。
使い続けていながらも、その手触り感や愛着を忘れていました。この作品の、自然の造形を活かし、人工的な機能を付けることにとても共感するとともに、この世界がもともと持っている自然とヒトが作ったものとのMERGEという、僕たちが持っていなかった概念に改めて気づかせてもらいました。
──ライオン 研究開発本部イノベーションラボ 所長 宇野大介
ライオン賞のテーマ「MERGE- 仕事と暮らしが溶けあう未来」は、懐が広く、多様なアイデアを受け入れられる土壌、これが本アワードを通じて感じたことである。10年後の2027年の生活を想定してテーマを置いているが、今から10年前はスマートフォンの普及前夜に当たる。この10年間の変化を考えれば、次の10年の暮らしや働き方がいかに多様性に富むかが分かる。
応募作品に自然との調和をコンセプトにしたものが多くみられたのも、10年単位で変わりゆく大きなうねりのようなものを感じた。我々が選んだ「Hack the Natural Objects.」は、自然物が持つデザインを活かしながら、機能を付与して生活に溶け込ませるというものである。生活の中で多様な接点を持つライオンだからこそ、製品としての機能美だけでなく、いかに自然に、いかに違和感なくよりよい暮らしを実現していけるのか、という問いを提示してもらえたと感じている。さて、この難解な問いにどのように応えようか。
──ライオン イノベーションラボ 主任研究員 藤村昌平
YouFab2018 ライオン賞受賞作品「Hack the Natural Objects.」
「TRUSTLESS LIFE」
もうひと作品、ライオン賞選外佳作として受賞したのは加藤明洋さんの「TRUSTLESS LIFE」。この作品は、近未来にブロックチェーン技術が実現するであろう未来の社会を、人と人とが対面でプレイするボードゲームとして表現することにより、多くの人々がその可能性と課題を想像できるゲームです。
選出の経緯
ブロックチェーンのような、最先端で難解な故に得体のしれないデジタル技術を、手触り感のあるボードゲームに仕立てた点、更にボードゲームながらもスマホを駆使してゲームを進める仕様に、大いに興味を持ちました。見た目の完成度の高さ、ヘキサゴンを使ってボードゲーマーの心をくすぐりつつ、ブロックチェーンによる社会の変化を実感させてくれそうなところが、とても気に入っています。今回のYoufabにて、様々なコミュニケーションの形を見せていただきましたが、この作品もまた違ったコミュニケーションの体験が出来そうです。何はともあれ、一度これで遊んでみたいですね。
──ライオン 研究開発本部イノベーションラボ 所長 宇野大介
今後、ヒトの価値は何によって測られるのだろうか?これが「Trustless Life」に刺激された私の感情である。このゲーム上では、肩書や生まれは関係なく、活動実績とスキルで評価され、行動が制限される(できることが増えると表現したほうが好ましいかもしれない)。社会全体に適応されるルールは一つであり、ログは分散型で管理される。ブロックチェーンを通して未来を見ると、この世界も一つの答えであるとは思う。一方で、過去の行動記録から信用によって評価するのではなく、未来への期待や可能性を信頼という形で評価する世界を「MERGE」を通じて創り出してみたいものである。
──ライオン イノベーションラボ 主任研究員 藤村昌平
YouFab2018 ファイナリスト (Lion honorable mention) 受賞作品 「TRUSTLESS LIFE」
FabCafe Bangkok(タイ)を活用した、「仕事と暮らしが溶けあう未来」のグローバルリサーチ
日本でのリサーチで得た、キーワード「MERGE」。では、広くアジアに目を向けたとき、日々人びとはどう暮らし、働いているのでしょうか。YouFab応募期間中に、バンコクのFabCafe にてリサーチを行いました。
リサーチではバンコクに暮らし働く3人のペルソナに密着。バンコクの現地のアーティストを招待し、ライオンチームとYouFabチーム、地元アーティストのチームで、2泊3日の合宿形式でMERGEを体現するプロダクトのアイデアを練りました。
リサーチの目的は2つ。1つ目は、海外における「MERGE」を探ること、2つ目は、イノベーションラボにおける今後のアーティストとの共創プロジェクトに向けてのプレワーク。イノベーションラボメンバーとアーティストがタッグを組み、チームに分かれてリサーチを行いました。
参加アーティスト:Van(左):タイに古来から伝わる伝統的な民間療法にヒントを得た食材や調理法に現代的なアレンジを加え、独創的なタイ料理に挑戦し続けている。バンコクに複数のレストランを展開し、タイのグルメシーンを牽引する注目のシェフ。食や健康を自身の生き方にも投影する独自の強い思想を持つアーティスト。
Kanittha(右上):テキスタイルアーティスト。ファッションとしての織物だけではない、幅広いデザインを通じた織物の可能性を模索している。
Saran(右下):プロダクトデザイナーとしての知見と、ストーリーテラーとしてのテクニックを交えて、鋭い分析に基づく課題解決型のデザインを得意とする。グラフィックデザインからファーニチャーデザインまで、国内外の有名ブランドとのコラボを精力的に行なっている。
バンコクに身を置いて見えてきたのは、日本のリサーチは全く違うペルソナのマインド。日本でのリサーチを踏まえ飛び出した世界で、自分たちのテーマを一度立ち止まって考えるとてもいい機会になりました。
日本人の方々をインタビューしてまとめた「MERGE」という世界感。一方でその定義づけ自体が、チームの中での常識になってしまっている部分がありました。テーマを決めて、かたちにして置くと、自分なりの解釈がみんなの常識になっていると思ってしまうこともあります。日本の常識の中ではない海外の地で「MERGE」というフィルターを取って、自分たちの取り組みを客観視することができたのは、非常にいい気づきでした。
── ライオン イノベーションラボ 主任研究員 藤村昌平
オフラインイベントを通じたオープンなディスカッション
また、応募期間中に、YouFab「ライオン賞」に関連したトークイベントやワークショップを開催。ライオンが世に問う 「MERGE」についてオープンなディスカッションを通じて、少し先の未来のそれぞれの暮らしについて、様々な文脈を照らしながら考えを巡らせました。
アワードは企業のテーマを世の中に向けてオープンにディスカッションできる場
プロジェクトの締めくくりには授賞式および受賞作品展を開催。海外からも受章者が駆けつけ、世界中のアーティストが一堂に会しました。
テーマとして設定した未来の解釈をアーティストに問う。そしてその作品を通じて未来をみる。その試みはどのようなものだったのでしょうか。
100年後のライオンの姿やその時の暮らしを考える時、短期的ではなく、中長期的にコミットメントするためのビジョンを考える上ですごくいい礎、というか”置き”としていい材料になっている。イノベーションラボがライオンという組織の中でどう立ち回るんだっけ?という時にすごく意味のある問いだてをすることができました。
また、YouFabや関連イベントを通じてMERGEというテーマをオープンに世に示すことによって、様々な人とオープンにディスカッションできる状態それ自体が、非常に意味のあることだと思います。
── ライオン イノベーションラボ 主任研究員 藤村昌平
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