Project Case

2023.5.21

常軌を逸した情報量と解放される精神の輪郭を逆撫でる -WAKWAK BOX Project 成仏サティスファクション 制作報告書 Melt X project

高次素材設計技術研究舎 -Melt.
浅井、斎藤

トイレでクソしてる時もオアシスは最高のバンドだって思ってるよ

William John Paul Gallagher

WAKAWAK BOXプロジェクト概要

背景

高度経済成長の中で広告はいち早く目を惹き、購買行動を促すことが求められ、「早い・安い・うまい」な広告が街に実装されてきた。街には押し付けがましい広告が溢れ、それらに引っ張られる形で街のテンポ感も早く形成されてきた。

対して、現在ではコロナ禍の生活も相まって生活の豊かさ=QOLを高めることが大切なファクターとなり、街と人の生活のテンポにミスマッチが生じている。それにより、街に出るだけでなんとなく心が疲弊してしまうのではないかという仮説が、議論を深める中で見えてきた。デジタルサイネージからできるアプローチとして「じっくり眺められるデジタルサイネージのコンテンツとは?」を検討する中で、鑑賞体験の強度を担保するためには枠に収まるコンテンツと共に、鑑賞空間そのものを生み出すことがひとつの解になると考え、プロトタイプを制作した。
サイネージメーカーであるファーストの持つリソースで「デザインのいい街」を生み出し、支えるための空間実装プロジェクトとして「WAKWAK BOX Project」はクリエイター、様々な場を運営する事業者とのワクワクの共創をおこなう。

プロジェクト概要

  • X Projectパートナー:株式会社ファースト
  • 実施期間:2022/6/8〜2022/12/05
    • 企画・制作:2022/6/8〜2022/10/8
    • 1st レビュー:2022/7/7 @ファースト社屋内
    • 2nd レビュー:2022/10/7 @ファースト社屋内
    • 実地検証:2022/10/8 @東別院 くらしの朝市
    • アディショナル制作:2022/10/9〜2022/12/3
    • アディショナル検証:2022/12/3〜4 @ソフトピアセンター Ogaki Mini Maker Faire2022
  • 体制
    • 企画制作:高次素材設計技術研究舎 -Melt.
    • 筐体制作:株式会社ファースト
  • 制作パートナー
    • 音響システム開発:Signal Compose inc.
    • オープニング映像:Kenon 國文うつほ
    • 座布団提供:西畠家

概要

前身となる汁物ダイヴにて課題として浮き彫りになったヘッドフォンを使わない音響体験を探求するため、Signal Composeをクリエイティブパートナーとして迎え、更なるWAKWAK BOXにおける体験の可能性を追求した。さらなる没入感の演出と設営や取り回しの良さの向上、またMelt.外とのクリエイターとの共同制作の観点から、2ndプロトとして空間音響システムH.I.S.S(Hyper Immersive Sound System)の開発実装を行い、H.I.S.Sを活用したコンテンツとして、成仏サティスファクションの制作、実装、体験展示を行った。

実装コンテンツ

WAKWAK BOX内での鑑賞体験の強度を検証するためのデモコンテンツとして成仏サティスファクションを制作した。本コンテンツは高情報量と低情報量の急激な落差に伴う精神的な緊張と弛緩がととのい(没入)のトリガーであると仮説を立て、実装を行った。
体験者はまず、WAKWAK BOX内ににじり口を模した開口部より入室し外界との視線を遮るとともに儀式的な通過を行うことで、コンテンツへの没入を高めていく。
内部では座布団の上に着座し、正面のモニターを見つめる。手元にはスイッチがあり、正面のモニターにはそのボタンを押すことを勧められる。
スイッチを押した瞬間から、2分間の立体音響と映像によるコンテンツが開始される。
前半の1分は高情報パートであり、激しいBGMと同調して激しく切り替わる映像と音源が回転することによって、短時間に多数の情報を与える。
一分後には、前半パートと一変し穏やかなBGM、穏やかな映像と共に低情報を与えることによって急激な情報の落差を作り、緊張と弛緩の切り替わりを作る。
2分後には、また待機画面にループで戻りコンテンツは終了する。

上記コンテンツを実装するため、BOXの形状としては茶室型を採用し、4畳半程度の正方形型の立方体とした。にじり口を地面から300mmの高さに設置し、それとフラットになるように足場を配置、中央に座布団を置くことで自然に体験者がベストポジションに配置されるように内部空間をデザインした。四角にスピーカを設置するために高さ調整可能なスピーカスタンドを内部に設置し、音源に対してより没入できる音場の生成が可能である。

3D音響システム

H.I.S.S.はTouchdesignerと連携し、3D空間音響の制御を行う。複数chの音源出力による多数スピーカの同時制御をおこなうことで、音源の回転や遠近感の実現をしている。待機画面、コンテンツ前半、後半の3音源をシームレスに切り替えることが可能である。
システムに関してはこちらの記事(準備中)を参照のこと。

クリエイティブパートナー

音響システム開発 

大和 比呂志 / dropcontrol Signal compose ( https://signalcompose.com/

オープニング映像制作

Kenon 國文うつほ( https://www.instagram.com/kenon_utsuho/

座布団提供

西畠アニキ

常軌を逸した情報量と解放される精神の輪郭を逆撫で乾燥した感想

没入する体験には沢山の状況があるかと思いますが、そのひとつに温泉やサウナにおけるストレスとリラックスを同居させることによる没入、いうなれば他の感覚の遮断という体験があるかと思います。この状況を熱を情報に置き換えて実験体験制作をおこなったのが成仏サティスファクションです。
熱を情報量として置き換える時に、温泉・サウナであればはじめはアツいお湯に浸かり、自身の中のある一定の閾値を超えた時に我慢の限界に到達し、湯から上がり熱の受取を止めます。熱の受取をやめた体は、速やかに冷却されることになります。
これた一連の流れを情報量として置き換えたものこそが今回の体験の全体像となります。

情報量の多さとは、前提知識の共有なしに様々な新しい概念や、小さなコミュニティーの中でしか共有できていないネタなど新規の情報を強制的に与えるということでお湯を再現しようとしました。
その後には良くはわからないが、なんとなくわかるような情報をゆったりとしたテンポで与えることで湯から出た状態を意識しています。
今回のこの体験で、成仏というある種”到達した”状態への入り口のニュアンスは共有できたかと感じています。
ととのうも成仏も究極的には、説明することのできない内省的な自己解釈による愉悦の状態であるのかもしれません。
そういった意味では、我々は常に思考することを義務付けられているように追い立てられて生活をしているこの営みは実は健全では無いのかも知れません。

思考の放棄を容認される環境への入り口を、成仏サティスファクションは示してくれたかも知れません。(浅井)

 

なんとかと挨拶は短いほうが良いといいますが、成仏も短いほうが良いです。「2分で簡単♪即成仏」をパンチラインに、東別院くらしの朝市というコンシューマーな場所とOgaki mini maker faire2022というディープな会の2箇所で本作を提供して分かったこととしては、成仏は誰しもを笑顔にするということです。サウナやデジタルドラックなどなど、様々な評価をいただきましたが、とにかく体験してみないと本作の「2分で簡単♪即成仏」の本質を理解することは難しいかもしれません。現と精神の境界をなぞる行為を無意識におこなえるハコとしてのWakWak BOXには非常に高度なコンテクストが実装されていたと実感してます。解脱し、ネクストステップへの階段を登る体験版をちょっとやってみませんか?皆様のお声がけお待ちしております。(斎藤)

はじめまして。Melt.です

Melt.(高次素材設計技術研究舎=Meta-level-material design-Engineering Learning Team)では、感性・技術を分け隔てなく取り扱いクリエイティブにおける発想のジャンプをもたらすデザインプロセスを”高次素材”と定義し、その設計手法の探求と一般化を指針として活動しているオープンラボです。

実践的オープンリサーチとクリエイティブプロダクションを反復することで高次素材の設計手法を人の手により一般化していくことを目指しています。

ワクワクはどこへ行くのか

汁物ダイヴ、成仏サティスファクションとイマーシブでインタラクティブな体験をハード・ソフトの両側から開発してまいりました。

本体験を下支えする箱こそがWAKWAK-BOXです。汁物から圧倒的にバージョンアップされ、屏風のように折りたたむことで仮設性が高まりました。5分で簡単に外界と区切られた空間をポップアップできる仮設空間としての可能性を引っさげて、私達は次なるワクワクの実装場所を大募集しております。WAKWAK-BOXについて気になる、使ってみたいなどのお問い合わせはお気軽に下記のお問合せフォームよりご連絡ください。

プロジェクトパートナーである株式会社ファーストのWebサイトでWAKWAK Boxについてより詳しく知ることができます。

株式会社ファースト WAKWAK BOX Project~ワクワクボックスプロジェクト
https://www.first-sp.com/sp/wakwakbox.html

Special Thanks

Kenon 國文うつほ

西畠家

小沼あみ

東別院くらしの朝市

Ogaki Mini Maker Faire

Author

  • 高次素材設計技術研究舎 -Melt.[Meta-material design-Engineering Learning Team]

    高次素材設計技術研究舎=Metamaterial design-Engineering Learning Team(以下Melt.)では、全ての人へ新たな視点をインストールすることを目的としています。フィジカルに存在する物質ではなく、物理現象や思想を含めたあらゆる要素を素材と捉え、それらをものづくりとして実装するための設計手法の探求、及びマテリアライズの可能性を研究する有志による団体です。
    鉱石や木材、樹脂、水資源などの有視有限の物質のみならず、音や風などの物理現象といった”無形の素材”を取り扱える様になることで、現状の発想と創造の枠を破る新たなマテリアライズのロールモデルを形成し、プロトタイピングを通じてかつて無い設計手法をオープンに展開します。

    https://fabcafe.com/jp/labs/nagoya/melt

    高次素材設計技術研究舎=Metamaterial design-Engineering Learning Team(以下Melt.)では、全ての人へ新たな視点をインストールすることを目的としています。フィジカルに存在する物質ではなく、物理現象や思想を含めたあらゆる要素を素材と捉え、それらをものづくりとして実装するための設計手法の探求、及びマテリアライズの可能性を研究する有志による団体です。
    鉱石や木材、樹脂、水資源などの有視有限の物質のみならず、音や風などの物理現象といった”無形の素材”を取り扱える様になることで、現状の発想と創造の枠を破る新たなマテリアライズのロールモデルを形成し、プロトタイピングを通じてかつて無い設計手法をオープンに展開します。

    https://fabcafe.com/jp/labs/nagoya/melt

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