若手の宵祭り -冬の宵-
https://fabcafe.com/jp/events/tokyo/yoimatsuri-winter/
20以上の酒蔵による日本酒と、若き造り手たちのトークを楽しむミートアップ -冬-
暦の上では大寒を迎え、冷たい北風に肩を縮めて歩く今日この頃。日本酒がひときわ染み入る季節です。1月20日(金)、FabCafe Tokyoでは「若手の宵祭り -冬の宵-」と題したミートアップを開催し、今後の日本酒業界を担う蔵元や日本酒との出会いを求める約100名もの参加者が集いました。
このイベントの主体である「若手の夜明け」は、2007年にスタートして以来15年、32回にわたり開催されてきた次世代を担う蔵元にフォーカスしたイベントです。2007年に開催以降、蔵元たちによる開催のバトンタッチを経て、2022年9月からは株式会社Clandが企画・運営を引き継ぎ第3期に入りました。第3期「若手の夜明け」には、清酒蔵の蔵元だけでなくクラフトサケの醸造家や酒販店の面々も加わり、日本酒業界全体をさらに盛り上げる活動を展開しています。
「若手の夜明け」のスピンオフ企画である今回の「若手の宵祭り -冬の宵-」には、3蔵の代表者がスピーカーとして登壇しました。
秋田県南部に位置するにかほ市の飛良泉本舗は室町時代から続く、日本で3番目に古い酒蔵です。海と山が近接する自然に恵まれた土地で、酒蔵も日本海の目の前にあります。鳥海山から湧き出る元滝伏流水を使った、秋田でも数少ない硬水による日本酒。その昔、良寛和尚に「飛びきり良い白い水」と称賛されたことから「飛良泉」と名付けられました。
大学卒業後、東京で広告の営業マンをしていた齋藤雅昭 専務取締役は2017年に酒蔵を継ぐことを決意しました。蔵に戻って最初に行ったのは、物が多すぎて足の踏み場もない蔵の改造です。余分なタンクを捨て、麹室も再構成。衛生面から作業場ごとに履物の履き替えを徹底しました。齋藤さんは酒蔵の継承を「破壊と再生」と表現します。
「破壊と再生」は設備や資材だけの話ではありません。齋藤さんは、造りたい酒を追究するため、杜氏制を廃止。これまで蔵を支えてきた社員と別れ、新体制への転換を図っています。齋藤さん自身も昨年から酒造りに取り組んでいますが、何しろ知識や経験もない中でゼロからの挑戦です。齋藤さんの方針を理解して蔵に残った社員たちに教わりながら奮闘の日々を送っています。背水の陣とも言える状況ですが、齋藤さんの思いは揺るぎません。「良いものができてきているので期待していてほしい」と参加者に宣言しました。
奈良泉本舗(秋田県にかほ市)の齋藤雅昭さん
阿部酒造:酒蔵が身近になれば日本酒はもっと身近に
新潟県柏崎市で1804年から続く阿部酒造の6代目、阿部裕太さん。米、米麹、水というシンプルな原料から幅広い味と香りを生み出せる日本酒の魅力を広めたい一心で家業に入りました。阿部さんは「酒蔵が身近になれば日本酒も身近になる」という考えのもと、ユニークな取り組みをいくつも行っています。
一つは、ノンアルコール飲料の開発です。日本酒を造る工程では麹や酒粕など様々な副産物ができることをヒントに、2022年から甘酒やクラフトコーラシロップを製造・販売。日本酒を飲まない人にとって、酒蔵は縁遠いものと思われがちです。ノンアルコール飲料を造ることによって、年齢を問わず接点を持つことを考えて取り組まれています。
また、アパレルブランド「ユナイテッドアローズ」や元NMB48の高野祐衣さんが始めた酒販店「ゆい酒店」などの異業種・新規参入企業とも積極的にコラボレーション。チャネルを増やすことで新たな接点を模索しています。
最も特徴的なのは担い手創造事業です。蔵を立ち上げたい人へ修行の場を積極的に提供し、これまでに3蔵が卒業して国内外に羽ばたいています。日本酒の造り手は慢性的に不足している一方、国の育成事業でも募集しているのは経験者のみ。酒造りを学ぶ場がなく業界の人手は増えずにいます。「蔵が未来の担い手を育てることで将来的に返ってくるものがあるはず」という考えのもと、阿部酒造は積極的に受け入れています。
阿部さんは「美味しい酒を造るのはもちろん、プラスαの取り組みが必要」と語り、さまざまな自社の取り組みが将来的に結実することへの期待を覗かせました。
阿部酒造(新潟県柏崎市)の阿部裕太さん
広島県の南部、瀬戸内海に面した竹原市は塩で栄えた街。浜旦那たちは塩造りの閑散期に日本酒を仕込んだといいます。藤井酒造はその竹原で江戸末期の1863年から続く酒蔵です。
彼らは藤井酒造にしか造れない酒にこだわり、「酒母を大切にした酒造り」をコンセプトに掲げています。蔵の天井や壁で育った150種にも及ぶ蔵付き酵母を採集し、そのうち固有の酵母2種を培養。来季にはこの酵母を使った酒造りが始まるそうです。また、手法も全量生酛造りへと移行中で、2023年には完全移行を予定しています。手間も時間もかかる生酛造りですが、藤井酒造にしか造れない日本酒を究めるべく取り組んでいます。
縁あって藤井酒造に入社した広報の中川加奈さんですが、実は入社するまであまり日本酒に馴染みがなかったそう。そんな中川さんの視点から、日本酒の楽しみ方を4つ紹介していただきました。
1つ目は、いろいろな日本酒を飲んで好みの味を知ること。2つ目は、好きな店を見つけることです。日本酒に詳しいプロにおすすめを提案してもらうことで新たな出会いがあり、世界が広がります。3つ目は、時間を置いたり温度を変えたり、味わい方を変えてみること。特に[日本酒:ソーダ=1:2]で飲むソーダ割りは日本酒に馴染みがない人でも飲みやすく、次も日本酒が飲みたくなるとか。そして4つ目は、どのような場でどのような人が日本酒をどう作っているのかを知ることが日本酒を楽しむ秘訣であると紹介しました。
藤井酒造(広島県竹原市)の中川加奈さん
3蔵それぞれのプレゼンテーションを終え、オーディエンスからの質問コーナーでは愛知県で「敷嶋」を造る伊東株式会社9代目蔵元の伊東優さんにも飛び入り参加していただきました。
初めに、今季の酒造りで嬉しかったことを全員に尋ねたところ、阿部さんは「完売が続き注文に生産が追いついていないしたこと」と答え、会場に集まった日本酒好きの方々へ感謝を述べました。齋藤さんは「(体制変更を経て)自分の日本酒が造れたこと。蔵人と一緒に飲んで泣きました」と感慨深く振り返ります。伊東さんは「何よりこの場に来られたこと。昨季は2人体制で大変だったが、多くの人に飲んでもらえたおかげで今季は増員できた」とコメント。中川さんは「竹原から単身赴任で東京に来ている方が、告知を見てこのイベントに来てくれたこと」と語り、場が温かな空気に包まれました。
続いて話題は、昨今多様化する日本酒の流通チャネルについて。卸を経由して酒販店に並ぶパターンだけでなく、蔵から酒販店へ、あるいは蔵が消費者と直接繋がるBtoCのパターンも増えています。齋藤さんは「我々は酒販店の助けを借りることで酒造りに集中したい」とコメント。一方、阿部さんは「一人でも多くの方に飲んでほしい。既存のルートや手法に縛られず、とにかく接点を増やすことを考えている」と回答しました。正解はなく、蔵元の方針によって選ぶ道はさまざまであることが改めてわかりました。
中川さんのエピソードに笑いが止まらない3人の蔵元たち
また、プレゼンテーションの中でもたびたび話題に上った就職や人事に関するお話も伺いました。ハローワークを経由して入社したという中川さんは「社員の中には移住センターから紹介されて入った人もいる。まず行動を起こせば道が拓けるかも」と背中を押すメッセージを送ります。また、伊東さんは「繁忙期は大変だが、夏休みは余裕を持って取れる。メリハリをつけて働きたい人に酒蔵は向いているかも」と語りました。
他にも失敗談やこぼれ話、来季に向けての抱負などが語られ、大いに盛り上がりました。それぞれの人となりや日本酒に対する熱意を感じ、改めてファンになったという方も多かったのではないでしょうか。
伊東株式会社(愛知県半田市)の伊東優さん
会場には北海道から九州まで総勢23蔵の協力により、カウンターに日本酒がずらり。チケット制の試飲会にはパンフレットを片手に飲み比べる人の行列ができました。また、プレゼンテーションでも紹介されたクラフトコーラや仕込み水で造られたサイダーなどのノンアルコールドリンクもあり、親子連れの来場者も揃って喉を鳴らします。おつまみとして「おばんざいと日本酒や」の玉木さんによるおばんざいも販売され、舌鼓を打ちながら会話も弾む賑やかなミートアップとなりました。
全国23蔵のお酒が届きました。(お燗も出しました)
おばんざいユニットObanzaiの春那さん(左)と京香さん(右)
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FabCafe Tokyo
FabCafeは世界中に拠点を持つ、クリエイティブコミュニティです。
人が集うカフェに、3Dプリンターやレーザーカッター等のデジタルものづくりマシンを設置。“デジタル”と“リアル”の壁を自由に横断し、未来のイノベーションを生み出します。地域のクリエイターやアーティスト、企業とともに、食、アート、バイオ、AIから教育まで、ものづくりの枠を超えたラボ活動も行っています。FabCafe Tokyoは、2012年にスタートした第一号拠点。シングルオリジンの豆を使ったコーヒーや、旬の野菜を使ったフード、パティシェが作るスイーツなど、こだわりのドリンク&フードをご用意しています。FabCafeは世界中に拠点を持つ、クリエイティブコミュニティです。
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