いつも使っているモノが壊れたとき、それを修理するのか、捨てて新しく買い替えるのか。誰もが日々の暮らしの中で、こうした判断を迫られる瞬間があるはずです。
かつては、モノが壊れたら修理して使い続けるのが当たり前でした。しかし、現代はどうでしょう? 修理は面倒くさそう。自分ではやり方がわからない。買い替えた方が安くて早い。そもそも修理ってできるんだろうか? 私たちは無自覚のうちに、修理という営みから遠のきつつあることに気づきます。
実はアメリカでは、2010年台から、モノの所有権をめぐって「修理する権利」に関する議論が始まっていました。主に自動車やデジタル機器に関して、メーカーがユーザーの修理する自由を阻んでいることが問題視され、市民運動の後押しによって法改正が進んできました。欧州では、循環型経済への移行という大きなテーマに向けて、フランスの修理可能性ラベルの導入(*1)や、EUの「修理する権利」指令(*2)が採択されました。
こうした欧米での社会変化を概観すると、現代を生きる私たちにとって“修理可能性”は社会的なイシューであることが分かります。
*1フランスの修理可能性ラベル:2021年からフランスで義務化された制度。スマートフォンや洗濯機などの家電製品に対し、修理のしやすさを10段階でスコア化し、店頭での表示を義務付けている。消費者が「買った後も直して長く使えるか」を基準に製品を選べるようにし、メーカーには修理しやすい設計を促す狙いがある。
*2 EUの「修理する権利」指令:2024年にEUで採択された法律。保証期間を過ぎた製品であっても、技術的に修理が可能であればメーカーに修理を義務付けることなどが盛り込まれている。製品を使い捨てにするのではなく、修理して長く使うことを消費者の「正当な権利」として守り、環境負荷を減らすための強力なルール。
そんな中、FabCafe Tokyoでは、オランダのアムステルダムで始まり、世界に広がりつつある「リペアカフェ」に注目しています。
リペアカフェは、市民が壊れた家電や服、自転車などを持ち寄ると、地域のリペアラーがそれらを一緒に修理してくれたり、修理の仕方を教えてくれたりする場所です。この小さな活動が世界に3,500箇所以上に広がる一大ムーブメントとなりつつあります。日本でも、サーキュラーデザインを実践している団体や企業などが、市民に向けてリペアの場をひらく活動を始めています。なぜ今、こうしたリペアの取り組みが人々を惹きつけているのでしょうか?

アムステルダムのリペアカフェの様子(映画『リペアカフェ』より。提供:IDEAS FOR GOOD)
2025年12月17日、FabCafe Tokyoでは、アムステルダムのリペアカフェの取り組みに迫るドキュメンタリー映画『リペアカフェ』の上映会と、企業でリペアの取り組みを実践している方々によるトークイベントを開催しました。
リペアを通じて人々の記憶や地域の繋がりを再生させる「リペアカフェ」の活動を糸口に、生活者と企業がどのように手を取り合い、持続可能な循環文化を築けるのか。そのヒントを探るクロストークの模様をお伝えします。
映画『リペアカフェ』予告編(IDEAS FOR GOOD)
FabCafe Tokyo CTO/COOの金岡大輝は、なぜ今、FabCafe Tokyoとして「リペア」と「リペアカフェ」の活動に関心があるのか、その理由を語りました。

FabCafe Tokyo CTO 金岡大輝(右から二番目)と、本イベントを企画した、Loftwork Inc. Culture executive 岩沢エリ(右端)
「テクノロジーが高度化するにつれ、それらがどんどんブラックボックス化し、あたかもそれらが魔法のように扱われています。修理することは、モノとそこに利用されているテクノロジーに自ら介入する行為です。
私たちはモノに対して受け身な態度で接するのではなく、ブラックボックスを開け、そこに能動的に関わっていく姿勢を表明していくこともできる。テクノロジーをひらくという観点から、リペアはFabCafeとして継続的に関わっていきたいテーマだと考えています」
リペアを通じてモノの仕組みを理解し、それらを能動的に扱えるようになることで、テクノロジーに関与する自由と主体性を自分たちの手に取り戻すことの重要性を確認しました。
イベントのクロストークでは、映画『リペアカフェ』の監督を務めたIDEAS FOR GOOD 瀬沢正人さんが登壇。映画を制作した経緯は何か、また欧州で広がっているリペアのムーブメントを日本の文化にどう馴染ませるかという問いかけから始まりました。

クロストーク登壇者。左から、
- 平田 健夫(合同会社CYKLU CEO)
- 畑野 健一(株式会社ゴールドウイン ザ・ノース・フェイス事業本部 ザ・ノース・フェイスアパレル事業部 エキスパート)
- 瀬沢 正人(IDEAS FOR GOOD編集部 クリエイティブ・ディレクター)
- 金岡 大輝(FabCafe Tokyo CTO/COO)
金岡大輝(以下、金岡):映画『リペアカフェ』は、まさに、修理という行為の根源に触れるような内容でしたね。 瀬沢さんがこの映画を作ろうと思ったきっかけは何ですか?
IDEAS FOR GOOD 瀬沢正人さん(以下、瀬沢):約3年前、オランダでリペアカフェを運営するピーターさんに出会ったのが始まりです。初めて訪れた時、車椅子の男性が古い壁掛け時計を大事そうに持ってきたところに遭遇しました。ピーターさんがその時計を直している姿を見て、彼は時計だけでなく、持ち主の人生や記憶そのものを直しているのではないか、と感じたんです。
また、撮影を進めるうちに、直しているのは人の記憶だけではないとも気づきました。一つは「コミュニティ」です。都市において一人ひとりの孤独の問題がある中で、リペアカフェは地域の繋がりを修復しています。もう一つは「地球環境」。大量生産・大量消費のリニア(直線型)エコノミーで切れてしまった資源の循環の輪を、リペアという営みで再び繋ぎ直しているのだと感じました。

IDEAS FOR GOOD 瀬沢正人さん。映画『リペアカフェ』の監督を務めた

子供のおもちゃを直す、キッズ向けのリペアカフェも存在する。(映画『リペアカフェ』より。提供:IDEAS FOR GOOD)
金岡:リペアカフェが世界に広がった背景には、欧州を中心とした「修理する権利」運動があったと思います。一方で、「修理する権利」に関しては、日本ではまだ、無風状態とも言われていますね。リペアやリペアカフェのムーブメントを日本にローカライズしようとした時に、どんな視点が重要になると思いますか。
瀬沢:オランダでの「もったいない」の価値観は、一部が壊れただけで全部捨てるのは非合理的だという、非常にロジカルな考え方に基づいています。対して日本には、八百万の神などに見られるように、モノに対して命や人格を見出すアニミズム的な感性があります。「捨てるのが寂しい、申し訳ない」という感情です。この日本独自の愛着や情緒の感覚を活かすことで、欧米のコピーではない日本らしいリペア文化が作れるのではないでしょうか。
続いて、企業としてリペアの活動に取り組む畑野健一氏(株式会社ゴールドウイン)と、平田健夫氏(合同会社CYKLUS)を交え、ブランドの垣根を超えたプロジェクト「DO REPAIRS」が紹介されました。
金岡:「DO REPAIRS」は、本来競合するはずのアパレルブランドが協力し、連帯してリペアの取り組みを行っています。プロジェクトが始まった経緯を教えてもらえますか?
ゴールドウイン 畑野健一さん(以下、畑野):ゴールドウインは、元々「安いものを大量に作る」のが苦手な会社なんです。良いものを長く使ってもらうことを大切にしています。そのようなブランドの姿勢を伝えるために、競合他社と組んでリペアのメッセージを発信しようと始まったのが「DO REPAIRS」でした。初回は、原宿のキャットストリートを拠点に、THE NORTH FACE(ゴールドウイン)、パタゴニア、FREITAGの3ブランドでスタートしました。
CYKLUS 平田健夫さん(以下、平田):当時私はパタゴニアに在籍していましたが、畑野さんから「一緒にやりませんか」と声をかけていただいたとき、二つ返事でOKしました。一社でやるよりも、協力して「モノを長く使う」という文化を広げる方が社会へのインパクトが大きいと考えたからです。
畑野:面白かったのは、最初は3社で始めたのですが、近隣のブランドさんが「自分たちも参加したい」と興味を持ってくれて、直近のイベントでは20団体以上が参加する大きなムーブメントになりました。

ゴールドウイン 畑野健一さん(写真中央)。DO REPAIRSの発起人。
金岡:参加したスタッフや周囲の変化はどうでしたか?
畑野:普段、富山の工場で黙々と作業しているスタッフがイベントに参加し、お客様から直接「ありがとう」と言われる経験をしたことで、劇的にモチベーションが上がりました。
平田:パタゴニアでも同様でした。また、異なるブランドのリペアスタッフ同士が「どうやって直してるの?」「うちはこうやってるよ」と技術交流を始めたのも、まさにコミュニティが生まれた瞬間だと感じました。

店頭で、お客様とリペアスタッフが相談しながらリペアのやり方を決めていく体験を提供した。(提供:DO REPAIRS)

街角にリペアのある風景をつくるのも、「DO REPAIRS」ならではのユニークな取り組み。(提供:DO REPAIRS)
金岡:リペアのムーブメントをさらに広げていくためには、多様なプレーヤーの巻き込みが必要ですね。特に若い世代は重要な役割を担うのではないでしょうか。
平田:「Community Loops」という環境省の実証事業で、大学と連携して学生主体にリペアカフェを企画してもらったことがあります。学生たちのクリエイティビティはすごく高くて、例えば古着から可愛いワッペンを作ってリペアに使ったりと、新しいアイデアがたくさん生まれました。若い世代は古着を選ぶのが当たり前になっていて、親から受け継いだものを直したいというニーズもあるようです。

CYKLUS 平田健夫さん(写真左)。
瀬沢:私も『リペアカフェ』の上映会を各地で行ってきましたが、その中で、Z世代の方たちが映画に涙する様子がありました。リペアカフェには「何もできなくても受け入れられる」という安心感があります。そうした受容のあり方が、若い世代に響いているようです。SNSなどバーチャルな繋がりへの疲れもあってか、彼らはより「手触り感」のあるリアルなコミュニティを求めているのかもしれませんね。
金岡:社会にインパクトを与えるために、事業としての持続性も見逃せません。会場の皆さんから、「企業として収益やコストとどう折り合いをつけるか」という質問も出ています。
畑野:正直に言って、企業としてはリペア単体で収益を上げるのは難しい面もあります。しかし、リペア事業を通して、良いものを長く使う「ロングライフ製品」への転換を図ることで、ブランド価値を高めることは可能です。安く大量に売るモデルから脱却するという考えが必要ではないでしょうか。
瀬沢:オランダのフィリップスの事例では、リペアやリファービッシュ(再生品)事業に力を入れたことで、顧客との接点が増え、結果的にロイヤリティが向上し、売上にも貢献したというデータがあります。リペアは顧客との関係性を育てる機会にもなりますね。

金岡:行政からのコミットという観点では、どのような関わりやサポートがあるといいでしょうか?
畑野:例えば、リペアを実践している企業を政府が認証したり、アワードで賞を与えるような制度などがあると、取り組む企業の後押しになるのではないでしょうか。
瀬沢:リペアカフェにはコミュニティを再接続させる力もあります。地域のレジリエンスを高める施策として、リペアカフェに注目している自治体が増えています。こうした動きを一過性のブームで終わらせないために、中間支援組織のようなプラットフォームの必要性を感じています。企業や行政、市民を繋ぎ、リペアの価値を可視化して伝える仕組みを作っていけると良いと考えています。将来的には、図書館や駅にリペア拠点があるような「リペア・アズ・インフラストラクチャー(インフラとしてのリペア)」が実現できると良いのではないでしょうか。
企業にとっては、事業の持続性という観点から、決して容易な道とは言えないリペア。一方で、リペアという行為の非財務的な価値に目を向けると、そこには多くの可能性があることを実感できました。長く使えるモノとの向き合い方が、ブランドの価値につながること。また、企業連携を通したリペアの活動は、そこに関わる社員が仕事への自信と誇り、組織を超えた連帯を生むきっかけにもなります。
さらに、リペアカフェが世界に広がっている背景には、サステナビリティや修理する権利といった原動力があったことはさることながら、そこに参加する人たちにとって「モノを修理すること」以上の価値があったと言えそうです。誰かと一緒にリペアする行為(コミュニティ・リペア)が、モノを介して人と人とが手触り感のある交流を実感できる機会であること。また、そうした実感の積み重ねが、機能を失いつつあるコミュニティを再起動させることにもつながることが、トークの中で紹介された実践の中から伺えました。
モノを慈しみ、長く使い、そしてその知恵を分かち合うことが、これまでの組織やコミュニティでは補えなかった人々のつながりを編み直すきっかけになる。また、そうしたムーブメントが広がることで、来るべき循環型の社会や経済においても大きなインパクトを生む。リペアという小さな活動を社会で実践し・広げていくことに、未来への可能性を感じた一夜となりました。
執筆・編集:岩崎 諒子(FabCafe Tokyo)
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岩崎 諒子
FabCafe Tokyo
株式会社ロフトワークで、クリエイターコミュニティLoftwork.com(現AWRD)の企画・編集・コミュニティ運営を担当。クリエイターと企業、自治体などとの共創プロジェクトの設計と事務局業務に従事した。2019年より、同社マーケティングDivで、組織体制変更に伴うリーダーインタビューシリーズをはじめ、マーケティングとブランディングを横断するコンテンツの企画・編集に携わる。2024年から地域共創に特化したマーケティング・PRに従事。2025年10月より、FabCafe Tokyoでコミュニティ運営を担当。二児の母。
株式会社ロフトワークで、クリエイターコミュニティLoftwork.com(現AWRD)の企画・編集・コミュニティ運営を担当。クリエイターと企業、自治体などとの共創プロジェクトの設計と事務局業務に従事した。2019年より、同社マーケティングDivで、組織体制変更に伴うリーダーインタビューシリーズをはじめ、マーケティングとブランディングを横断するコンテンツの企画・編集に携わる。2024年から地域共創に特化したマーケティング・PRに従事。2025年10月より、FabCafe Tokyoでコミュニティ運営を担当。二児の母。
