Column

2016.4.2

「デジタルファブリケーションのこれから」を考える。YOKOITO Talk Vol.0 開催レポート

FabCafe Kyoto編集部

デジタルファブリケーション” の未来を考える会

2016年3月12日、MTRL KYOTOにて、デジタルファブリケーションを活用してものづくりを支援する “YOKOITO” 代表の大谷太郎さんによるトークイベントが開催されました。会場には、デザイナーやエンジニアをはじめ、有形無形問わずものづくりに関わる人たちが集まりました。
YOKOITO Talk Vol.0「YOKOITO 大谷氏と考える、デジタルファブリケーションのこれから」

大谷 太郎

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株式会社YOKOITO代表取締役 / 慶応義塾大学環境情報学部在籍。
大学入学前にYOKOITOの素となる企画書を作成、大学入学と同時に起業準備に入り資金調達の上、株式会社YOKOITOを設立。3Dプリンターを軸としたデジタルファブリケーション機器によるものづくり工程の改革に取り組むと同時に、インターネットや急速な情報化・オープンソースが生み出すプロダクトとそのプロセスについて研究している。

YOKOITO

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デジタルファブリケーションを活用してものづくりを支援する。MTRL KYOTOでも、FABを用いたサービスやプロジェクトをサポートしてもらうパートナーシップを築いています。
http://yokoito.co.jp/

テーマは「デジタルファブリケーションのこれから」。
MTRL KYOTOにも、3Dプリンターやレーザーカッター、CNCフライスといったツールを設置しています。「メイカーズムーブメント」や「3Dプリンター」が日本でも話題のワードになってはや2年。個人がこれらのデジタル工作機器を気軽に/安価に使える施設が国内でも増えてきました。そのことがもたらす未来について、既にデジタルファブリケーションを使っている人も、これから触れるという人も、皆であらためて考える場となりました。

そもそも“デジタルファブリケーション”ってなに?

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大谷「“デジタルファブリケーション”の定義ってご存知ですか?いまのところ決定的なものはまだなく、ある程度の知識や経験がある人の間でも、『個人向けの工作機械』程度の共通認識でしかありません。」

デジタルファブリケーションは、一般的には、3Dプリンターなどの、コンピュータと接続して、デジタルデータを元に工作・出力を行う機械のことをいいます。「標準機器」と呼ばれるツールはありますが、年を追うごとに実質的には更新されているし、また個人個人にとって「≒ NC工作機械」だったり「≒ レーザーカッター」だったり、捉え方は微妙に異なっていることもあります。そこで、大谷さんはデジタルファブリケーションをあらためてこう定義しました。

「デジタルファブリケーション = 未来が今になる速度を早くする原理」

そしてここには3つの要素があると、大谷さんは言います。

要素(1)  他者の頭の上でもものをつくれる

デジタルデータの作成と具現化のツールが個人レベルで普及することで、イメージしているかたちを正確に他者に共有できるようになります。
このことは、単にデータそのものを共有できるという話にとどまらず、ものづくりの手法(ノウハウ・プロセス)自体をソフトウェアとして他者へタイムレスに共有する「脳の効率的な外部化」をもたらします。

大谷「これは革命的なこと!(興奮)デジタルファブリケーションの可能性でいちばん本質的な部分なのに、あまり一般的に伝わってないのがもどかしい」

要素(2) 機能とともにディスプレイを超えて表現ができる

(1)に挙げたイメージ・ノウハウの共有のみならず、デジタルファブリケーションによって、「イメージの実体化」が可能となりました。
大谷「共有の範囲を画面の外に広げられる。『モニタの上でRGBデータを見る』、じゃなくて『実際に触れる』ものがつくれて、やりとりができる!とんでもないことです(興奮)」

要素(3) 専門性を跨いだファブリケーション

最後に、「専門性を跨(また)ぐ」ことが挙げられました。
いったいこれはどういうことか。

大谷「ノウハウも含めた共有がものづくりの前提になる。そうすると、つくることの専門家でない人が、最終製品化までの開発は無理でも、『とりあえず動かしてアイデアを伝える為のもの(プロトタイプ)』をつくることができるところ。このレベルまでの手段を習得する時間と労力が格段に小さくなる。始めようと思えば始めることが出来る。「とりあえず動かす」という前提に立てば、いろいろな技術をモジュール的に組み合わせられるようになった。新しいアイデア、新しい価値を持ったものが生まれるきっかけをつくる、このチャンスを誰でも持つことができるようになった。」

従来型の製造業のプロセスではできなかった『あらゆる個人がテクノロジーに接続・共有してものづくりを行える』という新しい価値が生まれ、表現の領域が大きく広がっている」と大谷さんは語ります。

専門性を跨ぐ事例

・FabCafe
「デジタルツールを普段使わない人には敷居の高かったデジタルファブリケーションの間口を広げ、個人のものづくりの可能性を広げています」
http://fabcafe.com/tokyo/

・YOKOITO x 靴型製造「靴型を3Dプリンタでつくる」
「靴型屋さんはデジタルテクノロジーの専門教育を受けているわけではなかったのですが、自身の専門性にデジタルファブリケーションを掛け合わせることで、新しいビジネスデザインができました」
http://yokoitoblog.hatenadiary.jp/entry/2015/10/26/142503

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まとめ

・デジタルファブリケーションとは、「未来が今になる速度を早くする原理」

・デジタルファブリケーションの3要素
(1) 他者の頭の上でもものをつくれる
(2) 機能とともにディスプレイを超えて表現ができる
(3) 専門性を跨いだファブリケーション

・デジタルファブリケーションがもたらす未来
→ 専門家ではない人が、テクノロジーに接続・共有してものづくりを行えるようになることで、表現の領域が大きく広がっていく

Q&A

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トーク中は、いつでも自由に質問ができるインタラクティブな形式で進められました。いくつかの質問と回答を、抜粋して紹介します。

Q. 「個人が扱える3Dプリンターでは、まだ工業製品のような精度を出すことができない。この課題は今後どう解決される?」
A. 「デジタルファブリケーションの価値は『かたちをつくる』ことにあり、精度の追求や最終製品化はまた軸の異なる話。あたらしいものをつくろうとするとき、今までではありえなかった具体性で人に伝えることができるという可能性が重要だと考えている。」

Q.「現状の課題は?」
A.「結果物は簡単に共有できるけど、データのカスタマイズやツールを使いこなすためのスキルを習得する体系的なシステムや共通規格がまだ整備されていない。このあたりは今後ソフト・ハード両面から進んでいくのではと、考えています。」

Q.「デジタルファブリケーションで私は何をつくるべきでしょうか?」
A.「もう幾つかの会社で行われていますが、“課外活動”としてなにかつくってみる、提案してみることがひとつの手だと思います。『なにをつくったか』ではなく、『なにかをつくる、というアクション自体』が価値になります。異なる領域・専門性のクロスオーバーのなかに、可能性はあります。ニッチな専門技術を追求するのではなくて、『世界観を定めて、そこに必要なものは専門外のことでも全部やってみる』べき。」

Q.「YOKOITOが京都の地で活動する意義は?」
A.「日本には伝統(と呼ばれる)産業、技術が根付いていますが、現代においてはマーケットも人材も、また道具も、時代の変化への対応を迫られている。デジタルファブリケーションでそのリバイバルを実現できないか。本来ものづくりが盛んで様々なテクノロジーが集まってくる場所だった京都で活動することで、伝統的な産業のつくり手の方達と一緒にチャレンジすることができるのでは、と考えています。」

Q.「徐々に広まってきたとはいえ、まだデジタルファブリケーションを活用する人は少ないと思うし、オープンソース・共有という考え方が日本には根付いてない。どうやってこの価値観を広めよう?」
A. 「『 いますでにものをつくっている人から仲間を探す』ことではないかと思います。機器の使い方は自分たちから公開してしまえばいい。アイデアはオープンにできない場合もあるけれど、手法はオープンにすべき。今回のトークイベント自体が、ナレッジのオープンソース化のしかけでもあります。」

トークを終えて

未来を考えるセッションの中で明らかになってきたのは、むしろ可能性を実現するにあたっての「現状の課題」でした。
課題が具体的になっているということは、すなわち、デジタルファブリケーションが身近になってきていることの証左でもあります。
「テクノロジーとナレッジのオープン化」が今後進んでいくなかで、ニッチな専門性を掘り下げるだけでなく、異なる領域間を文字通り“横糸”のようにして織りあげていくことが、デジタルファブリケーションの役割になってくるのではと感じるひとときでした。

このYOKOITOトークは、今後もデジタルファブリケーションに関わる様々なテーマで開催を予定しています。

(text : MTRL KYOTO 木下浩佑)
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