Column

2016.9.2

デジタルファブリケーションで「チームのものづくりが加速する」。YOKOITO Talk Vol.1 開催レポート

FabCafe Kyoto編集部

「デジタルファブリケーションの未来」について考えるトークイベント

YOKOITO TALKは、参加者の皆さんと話し手が意見交換をしながら「デジタルファブリケーションの未来」について考えるトークイベント。テーマのキュレーションを務めるのは、3Dプリンターをはじめとしたデジタルファブリケーションを活用してものづくりを支援する”YOKOITO”。MTRL KYOTOでもFABを用いたサービスやプロジェクトをサポートしてもらうパートナーシップを築いています。
(2016年3月に開催されたYOKOITO TALKキックオフのレポートはこちらから

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今回のテーマは「チームとデジタルファブリケーション」

デジタルファブリケーションに関する話題では、「個人のものづくりの可能性を広げる」という点がよく取り上げられます。ですが、デジタルファブリケーションを活用したものづくりにおいては、「少規模な」「適材適所の」「オンラインの」チームでの協業が可能になることに、実は大きなインパクトがあります。

そこで今回は、デジタルファブリケーションを活用し、北海道から福岡まで全国規模のオンラインチームでのものづくりを加速させるサークル「テクノアルタ」代表の小島有貴氏をゲストに迎え、テクノアルタのプロジェクトを事例として取り上げながら、オンラインチームによるモノづくりがどう変化したか、そこにデジタルファブリケーションをどう活用するべきか、ディスカッションを試みました。本レポートでは、そのアウトラインをあらためて整理してご紹介します。
(text : MTRL KYOTO 木下浩佑)

スピーカー

小島 有貴(技術サークル「テクノアルタ」代表 / 電機メーカーエンジニア)

「作りたい人」と「欲しい人」を結び付けたい想いから技術サークル「テクノアルタ」を立ち上げ、電機メーカーでソフトウェアエンジニアとして勤務の傍ら、全国の尖ったデザイナやエンジニア達とオンラインベースでプロダクト開発に取り組む。メンバー各々の興味と持つスキルにあわせて地域や専門を超えてチームを組みながら進める方法を探求しつつ、プロジェクトを進めている。「NT金沢2013」や「CosFAB」など、デジタルファブリケーションに関係したイベントの企画や運営にも数多く携わっている。

商品化してくれ!:冷蔵庫に住む初音ミクをファンが開発 扉を開けるとミクがしゃべる – ねとらぼ
森山和道の「ヒトと機械の境界面」 -デジタル技術×コスプレによる「電飾コスプレ造形」とは 〜デジタル工作機器でコスプレに新しい表現を目指す「CosFAB」開催 – PC Watch

「技術サークル」が実現する、オルタナティブなものづくりの可能性

テクノアルタは有志の「技術サークル」。マーケットありきではなく、「つくりたい想い」を実現するための製品開発プロジェクトに取り組んでいます。プロジェクトの基準は、「わくわくするかどうか」。
テクノアルタには、デザイナー、エンジニア、プログラマーなど、それぞれ多様な領域で本職をもつつくり手がメンバーとして所属しています。プロジェクトごとに、全国各地に広がるクリエイターネットワークを活用した製品開発を行っており、そのものづくりのプロセスでは、オンラインツールが効果的に用いられています。

有志のプロジェクトで製品化までを実現

個人クリエイターが、(クライアントからの受注ではなく)自身のモチベーションからものづくりを行うとき、アイデアやダーティープロトタイプを実際に販売可能な「製品」にまで引き上げるには、いくつものボトルネックがあります。
たとえば
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個人のものづくりのボトルネック
・アイデアの具現化において、自身の専門外のスキルやテクノロジーが必要な場面
・必要な数量を安定して製造する手段
・流通ルートの確保や在庫管理
・権利・ライセンスの知識
・事務やマネジメントなど、自分の手を動かしてものをつくる「以外」に必要な諸雑務の知識とマンパワー
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…などなど。
テクノアルタは、多様なバックグラウンドをもつメンバーのネットワークを用いて「開発〜製品化のノウハウ」そして「人材」をシェアし、バックヤードやマネジメントの役割を担います。

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(▲ 当日のスライドより)

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(▲ テクノアルタの汎用電飾モジュール「EdelColor」。モジュールやアプリケーション、制御ハードの製作も行う。)

オンラインチームのメリット・デジタルファブリケーションのメリット

facebookグループなどを活用しオンラインの情報共有プラットフォームを設けることで、コアメンバーのみならずサポートメンバーもリアルタイムで情報を常に共有。
「有志のサークル」という環境だからこその気軽な投稿で、「進捗管理」よりも「進捗共有」が自然に行われ、空いた時間で事務作業をサポートしたり、専門家のレビューを仰いだりと、リソースのシェアと効率化がなされています。

そして、デジタルファブリケーション。
元となるデータとそれを出力できるデジタルファブリケーションがあれば、遠隔でのチームでも情報のみならず手に取れる「形状」の共有が容易となり、試作〜評価〜ブラッシュアップのサイクルが格段にスピードアップします。
たとえば、コスプレイヤー×造形師×エンジニアのチームのプロジェクト「電飾聖」の開発においては、意匠面・構造面ともに3Dプリンターが大きな役割を果たしました。

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副業的ものづくりの意義 -個人メイカーとスタートアップの間の選択肢

技術サークルの製品開発は、趣味で一つのものを手作業でつくる「個人メイカー」と、大きなビジネスとして製品を量産する「ハードウェアスタートアップ」の間の規模といえます。小さなチームで少量の製品を開発し販売するというこの形態には、どんな意義と可能性があるのでしょうか?

◎マーケット
趣味だからこそ込められる熱量とクリエイティビティが、有志の製品開発プロジェクトのコアになります。「自分がほしいものをつくる」ことが最大のモチベーション。そして、「自分の欲しいは世界の誰かも欲しい」でもあります。ニッチでも(だからこそ)熱心なファンがつき、市場となりえます。市場ができることで、より多くのプレイヤーが参加できるようになり、また利益が生まれ、その先の製品開発への投資となります。

◎イノベーション
イノベーションには多様性が必要といわれます。従来のマーケティングのロジックに沿わない「くだらない」「ビジネス的でない」ものづくりの選択肢が増えることは、テクノロジーや表現の発展において大事なこと。そんななかで、ビジネス的な成功以前に「自分がほしいものをつくる」ことそのものが目的になった有志のプロジェクトはオルタナティブな価値をもちえるのではないでしょうか。

有志チームのプロジェクトをドライブさせるために

最終目標は「製品の完成とビジネス的成功」ではなく「自分たちが楽しめるかどうか」というプロセスにこそあり(つまりステークホルダーはメンバー自身)、これが従来型の製品開発とは大きく異なります。関わるメンバーが面白いと思えることへのモチベーションをなくしてしまったプロジェクトは推進力を失います。
プロジェクトに関わる皆が満足して積極的に関われるようにするために、プロジェクトマネージャーはその舵取りを行います。
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有志チームのプロジェクトマネージャーの役割

1. 人によって異なるモチベーションを可視化・関数化
2. 成果物のポジティブかつシビアなフィードバック
3. ワークフローの作成と管理
4. ゴールとビジョンの共有
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こうして、関わるメンバーの「モチベーション」「専門性」を最大化させ、かつ専門領域や物理的距離を越えた「協業」を加速させることで、有志チームのプロジェクトから実際に製品が生まれています。

まとめ

・メンバー間のコミュニケーションのオンライン化とデジタルファブリケーションの活用によって、異なる領域の専門家同士が”マッシュアップ”した小規模な有志チームが、これまでは個人レベルでは難しかったクオリティの製品を開発し世に出すことが可能になった。

・有志チームのプロジェクトの推進力は、既存のマーケットでのビジネス的成功ではなく、「自分たちが全力で楽しむこと」。そこには新しいマーケットとイノベーションの可能性がある。

・有志だからこそチャレンジできることがある反面、モチベーションを失ったプロジェクトは推進力を失う。プロジェクトマネージャーが、関わるメンバーの「モチベーション」「専門性」を最大化する舵取りをすることで、プロジェクトはドライブし、製品が完成する。

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