Event Report

YouFab Global Creative Awards 2016 授賞式レポート

 

デジタルファブリケーション(Fab)の普及により、ものづくりの可能性は大きく拡大しました。そして今、Fabのとらえられ方自体がツールベースのものに留まらず、より概念的なものへと変わりつつあります。今回で5回目を迎えるYouFab Global Creative Awards2016は、アワードという枠組みを通して、Fabを「デジタルとフィジカルを横断し、結合する創造性」と定義し直そうとしています。

去る3月7日、渋谷ヒカリエにて、YouFab Global Creative Awards 2016の授賞式が行われました。受賞作品の紹介および審査員のコメント、イベント後半に行われた審査員によるトークショーをお届けします。

(文=高橋ミレイ)


196作品の中から選ばれた受賞者たちが国内・海外から集合 ! 

授賞式の開会の挨拶を行ったのは、YouFab  Global Creative Awards チェアマンの福田敏也さん。挨拶の中で「デジタルによってできたプロダクトや事象が、フィジカルに変換されていく過程をつなぐものが”Fab”という概念であり、そこにどれだけの創造性が生まれるかに価値がある」という議論を審査委員長の田中先生と議論したと述べました。それは、あらゆるコミュニケーションにおいてデジタルが生活の中に当たり前に存在する今、私たち自身がどう変化できるのかという問いにもつながります。
「今回、色んな方々にオープンに応募いただき、次の形もふくめて自由な形を選択できるようになりました。今後もまた新たな方に挑戦していただくことを期待しています」と述べました。

その後は授賞式に移り、196作品の中から選ばれた23作品の受賞者に賞状が手渡されました。

ファイナリスト、そして学生部門賞、一般部門賞に賞状が渡された後は、準グランプリとグランプリに賞状とトロフィーが手渡されました。

準グランプリを受賞した『干渉する浮遊体』は、センサー付きのカメラでセンシングしたシャボン玉と、音と映像が連動する作品です。審査員の四方幸子さんは、「『干渉する浮遊体』は自然や技術、デジタルと、様々なものが組み合わさってできており、今回のアワードのテーマに沿っていると思います」とコメントしました。

『干渉する浮遊体』は、日本各地に在住し異なる専門性を持つ6人のチームで制作されました。エンジニアの水落大さんは「本作の中で、デジタルを使うことで、フィジカルな体験を創造することは、原理を作ることであると同時に、新しいメディアを作ることでした」と語りました。コンセプトを担当し、ふだんは大学で生体膜を研究する菱田真史さんは、「シャボン玉のような、身の回りにひそむ自然の美しさを可視化できる作品にしようと考えて作りました。身近な自然の美しさに、人々が目を向けるきっかけになればと思います」と制作意図を語りました。

グランプリを受賞したのは、OTON GLASSです。OTON GLASSは、脳梗塞で失読症になった家族をサポートするツールとしてスタートし、開発におけるリサーチの中で新たなニーズや意義を見いだして進化してきました。

作品についてコメントしたのは、田中浩也さんです。
「OTON GLASSは、最初はお父さんを助けたいというところから始まりました。しかし、代表の島影さんは、プロジェクトを通じて失読症やディスレクシアで困っている方が世界中にたくさんいるということに気づいていきました。この作品には、パーソナルな物語から、社会的な課題発見に至るまで、彼の中で飛躍があります。さらにその過程で色んな専門分野を持つ仲間たちが集まってきました。OTON GLASSを評価したポイントは、これまでにないタイプの創造性が感じられた点です。ひとりが持つ作家性とも違うし、チームの集団性とも言えない。その両方の矛盾を飲み込みながら、継続している所に私は心惹かれました」と評しました。

また、ヤマハ賞審査員の川田学さんは、「良いアイデアや良いプロトタイプは、妄想を掻き立てるものだと思います」とコメント。「OTON GLASSの説明動画の中で、OTON GLASSを体験した人の表情を見た時、技術者およびデザイナーとして、妄想が脹らみました。まさにヤマハ賞テーマである”エモーションのスイッチ”がカチっと押されたような作品でした」。

受賞にあたってのプレゼンテーションで、OTON GLASSの代表の島影さんは今後の展望について語りました。

「開発を進めているうちに、後天的な失読症だけではなく、先天的に文字を読むことが困難なディスレクシアの方に出会い、現在はその方たちのためにOTON GLASSの開発を進めています。また翻訳機として使いたいと参加してくれている海外の方や、メガネをかけても視力が上がらない弱視の方もプロジェクトに参加してくれています。彼らと一緒にもう一度ゼロベースから発想して、新たなプロトタイプを制作しました。今後は製品化のために資金調達を行って開発体制を整え、段階的に販売台数を増やして、誰もが文字を読める世界を実現したいと思っています。YouFabの審査員の方々には、プロダクトを中心に集まった共同体による野性的なものづくりの運動を、他のどのアワードよりも生々しく批評していただきました。またいただいたコメントからも、従来のものづくりのあり方自体を飛び越えていけという期待が込められているように感じました。それに答えるべく、僕たちなりのFabの実践を続けていければと思っております。ありがとうございました」。

受賞作品の多様性とFabのシーンの拡張がみられたYouFab 2016 

イベント後半は、審査員たちによるトークが行われました。登壇者は田中浩也さん、四方幸子さん、川田学さん。モデレーターは福田敏也さんです。

YouFab2016の総評として、田中さんは「カテゴリに分類するのが難しい作品が多く受賞したことを評価しました」とコメント。四方さんも受賞作品の多様性とFabのシーンの拡張がうかがえるとコメントする一方で「ただ、アートハックが少ないと感じました。ハックよりも洗練されたデザインやシステム、ソーシャルな作品が多い。よりプリミティブな部分に対してハックするものと今の洗練されたFabとのギャップが出ているので、これをどうするかが今後の課題だと思っています」と、問題提起をしました。


福田さんは、「『干渉する浮融体』の事例が示すように、Fabには科学者の妄想の気づきやフィジカル化をサポートしている側面もあります」と、Fabがアートと科学技術の橋渡し役になる可能性を提示しました。アートと科学技術といった異なる専門分野に軸足を置くメンバーが、互いにフィードバックを受け渡すことで新しいものが生まれる。その風潮は近年ますます高まっているようです。

上位贈賞された作品以外で、審査員から注目されたのは、人間の手や素材そのものが感じられるような作品でした。たとえば田中さんがピックアップした「Coffee Coffee Bar」は、コーヒーの出し殼を3Dプリントの素材にしてカフェの空間を作ることで、ハックの立ち位置を再定義しています。

また、川田さんは重力によって3Dプリンティングをする「The World's First Analog 3D Printer」に注目。「ただ使う道具ではなく、プレイする楽器に近い」とコメントし、利便性を越えてものづくりをすることに対する喜びを、もう一度人間側に持ってきたことを評価しました。

YouFab2016がアワード通じて募集した「デジタルとフィジカルを横断し、結合する創造性」というキーワード。背景には、審査委員長の田中さんが教鞭を執る慶応SFCで提示したFabキャンパス構想がありました。田中先生は次のように述べます。
「慶応SFCは日本で最初にインターネットを導入したキャンパスでした。当時はデジタル技術によって旧い社会の仕組みを壊し、新しい社会の仕組みを作っていこうという夢がありましたが。その夢は現在ほぼ叶っています。ですが、今年入学する新入生の多くは99年生まれなので、私たちが持つような”デジタル化”という概念がありません。異なる世代の間で共有できるテーマを考えた結果、デジタルとフィジカルが双方向に連結するというテーマが生まれました」。

多様なムーブメントとしての分岐点に向かうFab 

今後Fabが向かう先にはどのような未来があるのでしょうか。四方さんは、今後のFabは自明のことや多くの現代人が忘れた知識や世界の見方を再発見することが重要だと指摘します。
「これからはデジタル以前の時代にあった技術や素材を振り返ってみる時期だと思っています。たとえば日本の和紙を作る技術もそうですが、それぞれの土地や生態系から生まれた人間の営みや技術、工芸、素材や、現代では忘れかけられている川や海をめぐる交流や山に住むマタギのコミュニティなどを見直す。さらにそれらをアートと科学技術と新しくつなげることで、次の創造が生まれるのではと思います」。

来年のYouFab Global Creative Awardsの展望について、田中さんは世界中のFab拠点で作られているあらゆる実験的な作品が応募されることが理想だと言います。「アワードのテーマを先行させるのではなく、実際に世界のFab周りで何が起きているかのリアリティを先行させなければならない。その中でエッジの効いた動きを、面白く刺激し、応募作品として集まることで議論をすることができる、絶妙なコンセプトを作るのが僕らの仕事になるでしょう」。

3Dプリンターやレーザーカッターに代表されるようなツールベースから離れ、より概念的で多様なムーブメントとしての分岐点を迎えるFabがどのような様相を見せていくのか、今後も目が離せません。

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