Column
2018.3.27
FabCafe編集部
世界10都市に広がるFabCafeネットワーク「FabCafe Global」が主催する、デジタルファブリケーション領域のグローバルアワード「YouFab Global Creative Awards 2017」。去る2月9日、同賞の授賞式が東京・渋谷「100 BANCH」にて開催されました。
デジタルファブリケーションの黎明期、日本国内のシーンの盛り上がりと歩調を合わせながらその発展に貢献してきた YouFab も今年で6回目を迎えました。昨年からはファブ(Fab)の定義を「デジタルとフィジカルを横断し、結合する創造性」と再定義。単なる「デジタルデータを使ったものづくり」に留まらない、真にイノベーティブなクリエイションを発掘する試みへスケールアップしています。
ここでは選出された20作品の表彰、グランプリ受賞者によるプレゼンテーション、そして審査員によるトークショーの三部形式で行われた当日の様子を前編/後編にわけてレポートします。
(文=庄司里紗、写真=加藤甫、編集=鈴木真理子)
常識に挑み、文脈を逸脱する「Rock It!」な作品が多数選出
今回の会場は、渋谷に新しく登場した「100 BANCH」。2018年に100周年を迎えるパナソニックが、次の100年のための未来創造拠点として新設したコラボレーションスペースです。
イベントは、YouFabのチェアマン・福田敏也さんの開会挨拶からスタートしました。
YouFab 2017のテーマは「Rock It!」(やっちまえ!)。常識に挑み、これまでの文脈を軽やかに逸脱し、未知なる領域へ果敢に踏み出す作品を支援するYouFabの理念が表れています。そんなテーマにふさわしく、今年もデジタルファブリケーションの新たな可能性を開拓する意欲作が多数選出されました。
作品の審査は、慶應義塾大学環境情報学部教授 田中浩也さん(審査委員長)、京都工芸繊維大学特任教授 Julia Cassimさん、アーティスト 福原志保さんほか、国内外から選ばれた計5名の識者によって行われました。
第一部の贈賞式では、国内外から集まった277作品から厳正な審査を経て選ばれた20作品へ、賞状の授与が行われました。
今回の受賞作は、ファブの技術をベースにしながらも、豊かな創造性や拡張性、社会への問題提起を意識したより野心的な作品が多い印象でした。また、バイオロジーや建築にファブを掛け合わせた領域横断的な試みも目立ち、日本のデジタルファブリケーションが新たなフェーズに入ったことを象徴するラインナップが揃いました。
ファイナリスト、学生部門賞、一般部門賞、HAPTIC DESIGN 賞に続き、いよいよ準グランプリ、そしてグランプリへの贈賞です。準グランプリ・グランプリには、賞状とトロフィーが授与されました。今年のYouFab トロフィーも、国内外で活躍する彫刻家・名和晃平氏の手によるもの。精細な 3D プリンティング 技術を駆使して製作されています。
準グランプリは、アメリカの Marc Fornes さんによる「Minima | Maxima」。2017年にカザフスタン・アスタナ市で開催された国際博覧会の依頼で制作した作品です。
「Minima | Maxima」に使われているのは、薄さわずか2mmのアルミニウム素材。その構造には、細長く切り出されたおよそ5300枚のアルミ板を、まるで編みかごを編むように3層に重ねる、という独自のアイディアが活かされています。3D モデリングによって緻密に計算された曲面は、強度を保ちながら美しく複雑なカーブを描き、互いに支え合うように構成されています。そのため、およそ4階建てのビルの高さ(約13m)に匹敵する巨大な構造物にもかかわらず、一切の柱や梁を使わずに自立しています。
外観デザイン、素材の先進性、構造面などにおいて、デジタルなものづくりのポテンシャルをダイナミックかつ意欲的に表現した点が高評価につながり、今回の受賞となりました。
Marc Fornes さんからは「不可能に挑む想像力と高度なデジタルファブリケーション技術に対して、YouFab が評価してくれたことをうれしく思います。今回の賞を制作に関わった全てのチームメンバーに送ります」とのコメントが寄せられました。
そして栄誉あるグランプリに輝いたのは、アメリカのバイオアーティスト、Amy Karleさんの作品「Regenerative Reliquary(再生可能な聖遺物)」です。
亡骸を保存するのは、命が消えた肉体を生命の記念として祀るのが目的です。しかし本作では、それとは逆のプロセスをたどることで、「命を持たない無生物から生命の可能性を生み出す」という哲学的なテーマに挑んでいます。バイオテクノロジーとアート、そしてファブの技術が結晶した本作は、YouFab の歴史に大きなインパクトを与えた記念碑的な作品といえるでしょう。
審査委員長の田中さんは、グランプリ選出の理由について次のようにコメントしました。
「グローバルとローカル、古いものと新しいもの、生物と無生物。ファブは今、そのような”対極にあるもの同士”をつなぐ技術へと進化しています。その結果、それら両極のはざまには、未知の中間領域が生まれている。今年の最優秀賞は、まさに生体素材とデジタルファブリケーションの融合を象徴的に示しています。現代社会に非常に高次の、哲学的な問いを投げかける作品だと思います」
後編ではグランプリを受賞したAmy Karleさんのプレゼンーションと、審査員によるクロストークの模様をお伝えします。→後編へ
授賞式に参加した受賞者のみなさんの集合写真。改めておめでとうございます!
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