Interview

2023.5.23

マリアナ海溝のエビから始まった―――地方と世界を結び、未利用資源から価値を生み出す挑戦!サンウエスパ インタビュー・レポート

岐阜県 株式会社サンウエスパ/これまでの試みと、描く未来の商流、価値づくりについて、代表取締役 原社長にお話しを伺いました

居石 有未 / Yumi Sueishi

FabCafe Nagoya プロデューサー・マーケティング

Nagoya

『Recycle Revolution』をビジョンとして掲げ、無価値なもの、未利用なものを再定義することを事業ドメインとする株式会社サンウエスパ。今回は、そんなサンウエスパのこれまでの試みと、描く未来の商流、価値づくりについて、代表取締役 原社長にお話しを伺いました。


  • 原 有匡

    株式会社サンウエスパ 代表取締役

    1980年岐阜生まれ。2011年株式会社サンウエスパに入社し、2015年より現職。2020年にはカンボジアに UNWASPA Co., Ltd. を設立、同CEO就任。「未利用なもの、無価値なものを再定義する」をドメインに据え、事業を展開する。座右の銘は「鶏口となるも牛後となるなかれ」。MENSA会員。

    1980年岐阜生まれ。2011年株式会社サンウエスパに入社し、2015年より現職。2020年にはカンボジアに UNWASPA Co., Ltd. を設立、同CEO就任。「未利用なもの、無価値なものを再定義する」をドメインに据え、事業を展開する。座右の銘は「鶏口となるも牛後となるなかれ」。MENSA会員。

すべては、
マリアナ海溝のエビから始まった

私が入社した11年前の2012年、この業界で何か面白いことができないかなと考えていた時に、偶然、『マリアナ海溝の水深約1万900メートルに生息するエビの体内から、おがくずなどを高効率で分解する酵素を発見した』という新聞記事を読んだんです。

おがくずはセルロース(木材などの植物繊維の主成分の炭水化物)なので、それを分解できるということは、古紙も糖に変えられ、更にはエタノールがつくれる。つまり、古紙からエネルギーを生み出す可能性を感じたんですね。それが、今やっているすべての事業のはじまりです。

2016年に、紙からバイオエタノールを作る事業をスタートし、実証プラントを稼働していたのですが、エタノールって生物学的に作っても、化学的に作っても、結局どんなアプローチで作ろうが同じ化学式のエタノールができる。最終成果物に違いはないんです。バイオエタノールがどんなに意義のあるプロセスを経て作られていようが、化学的に作られた安価なエタノールに、付加価値で差がつけられるような市場が形成されていません。

その現状に加えて、日本の規制が厳しく、この国でのバイオエタノール事業に難しさを感じていました。同時に、リサイクル分野においてグローカリゼーションこそが今後の鍵となると考えていたこともあり、バイオエタノール事業において規制が少ないカンボジアに渡りました。

既成概念にとらわれず
ビジネスモデルを考える

カンボジアで視察を行い、そこでホテイアオイという植物の存在と、その課題を知りました。ホテイアオイは世界の侵略的外来種ワースト100にも選ばれていまして、7か月で200万倍に増殖し、世界中の熱帯・亜熱帯地域で異常繁茂しており、漁獲量や生物多様性、水上交通などに負の影響を与えている植物です。

古紙とホテイアオイは、ものは異なりますが、”価値の再定義”という点において、私たちのビジネス領域と一致しています。そこで、カンボジア工科大学などとホテイアオイの共同研究を行い、ホテイアオイを活用したバイオエタノール事業を始めました。

そして、いざ作ろう!というところまで行ったのですが、 蓋を開けてみると、やはり収益面で問題があり、これだけでは事業を継続することが難しい。日本や諸外国でも、政府主導のプロジェクトなどでセルロース系バイオエタノールを作っているのですが、年間数万キロリットルとかの製造量でも、高額の燃料になってしまうんです。僕らのエタノールの製造規模だと、それよりも更に高い価格になってしまうので、現状、燃料として商品化することはできない。でも、今は足元の収益性をどうにかしなければ、そもそもこのチャレンジを続けられない。

そこで辿り着いたのが、飲料用アルコールというアイデアでした。歴史的に存在している全てのお酒って、バイオエタノールなんですね。つまり、このバイオエタノールも、燃料ではなくお酒にすることができると考えたんです。

そして、飲料となると、燃料の100倍以上の高付加価値化ができることに加え、カンボジアには豊かなスパイスやフルーツなどのボタニカルがあるので、この土地ならではの美味しいジンが作れるんじゃないかと思ったんです。そんな経緯から、カンボジア法人の子会社『UNWASPA』を立ち上げ、クラフトジン『MAWSIM(マウシム)の製造を始めました。

MAWSIM GIN TROPICAL CITRUS
マウシム ジン -トロピカルシトラス-
カンボジアにおける未利用バイオマスからのエタノール製造事業より派生して生まれた『クラフトジン:MAWSIM GIN』。”MAWSIM”とはアラビア語で「季節」の意。季節風(モンスーン)の語源。前職の古美術品ディーラーでの知識を活かし、飲み終わった後のビンを花瓶として活用する文化も継承している。
エキゾチックなボタニカルの宝庫であるカンボジアで、ごく小規模に蒸留した瑞々しいジンを、ブルーグリーンのケルデル瓶に詰めた一品。4種のトロピカルシトラスの絶妙なバランスが、清々しく滑らかな余韻をもたらします。すべてフレッシュフルーツを用いています。風味はもちろん、コンセプトや素材からも、原社長の徹底したこだわりが伝わります。

受賞歴
・World Gin Awards 2023/Flavoured Gin部門 World’s Best
・IWSC 2023/Flavoured Gin部門 金賞(95点)

ありがたいことに、『MAWSIMは高い評価をいただきました。しかし、ジンを作ることはゴールではなく、過程の一つです。ゆくゆくは、このバイオエタノールビジネスを企業単体として実現し、地域のエネルギーにしていきたい。

また、外来水草の繁茂は日本でも大変な問題となっており、除去したうちの95%以上が焼却処分されています。この膨大な水草をゴミとして燃やすのではなく、生物資源としてバイオ炭に変える事業を始動しています。これにはもちろん、カンボジアで行なってきた、未利用水草の利活用研究を活かしています。この技術はすでに確立していまして、植物が成長過程で吸収したCを固定させ、農業利用できる炭をつくることができ、循環型ビジネスモデルの実現を目指せると考えています。

炭をキノコの菌床として使用するための実証実験を担当する川合さん
入社時からバイオエタノール事業に携わり、カンボジアにも足を運んできた

 

菌床の実験/現在はエノキなど人工栽培が可能なキノコを中心に検証を行っている

無価値から価値を生む
振り幅のブランディング

炭を活用した事業計画としては、キノコの菌床としての活用を検証しています。炭は多孔質なので菌が入り込みやすく、菌床に向いているんです。そして、キノコを育てた後の廃菌床(廃棄する菌床)を畜産業の敷料に再利用することで、炭の消臭効果が発揮されて糞尿の匂いがやわらぎ、尚且つ、その廃敷料(廃棄する敷料)を農地利用することによって、もともと土壌改良材として優秀なバイオ炭に、有機物(糞尿)が加わり、さらに高付加価値なものが出来上がるのではないかと、循環型ビジネスモデルの仮説を立てています。

また夢のある取組として、水草のバイオ炭から国産トリュフを栽培することをフラッグシップとして掲げています。トリュフはマツタケと同じ『菌根菌』という種類なのですが、生きている木と共生しないと育たないため、未だ人工栽培が確立していません。ですが、海外では人工栽培の事例があり、2023年2月に日本森林総研も国産トリュフを人工的に発生させることに成功しており、トリュフの人工栽培には面白さと可能性があると考えています。

単に炭にして終わりではなく、より価値を上げるために、未利用資源をどう再定義できるか、どれだけ振り幅を出せるかが、私たちの無価値から価値を生む事業ブランディングの要なんです。

カンボジア法人 UNWASPAの名前を思いついたきっかけは、Sの文字が隠れたSUNWASPAのサイン
日頃から、日常や情報からの着想を大切にし、事業のヒントとしている

  • SUNWASPA

    1969年に岐阜県下における古紙等再生資源の回収及び卸売業として創業。現在では従来の事業に加え、カンボジアにおける未利用バイオマスからのエタノール製造事業、そこから派生したクラフトジン製造販売事業などを手掛ける環境課題ソリューション企業としてフィールドを拡げる。『Recycle Revolution』をビジョンとして掲げる。

    商 号:株式会社サンウエスパ
    代表者:代表取締役 原 有匡
    所在地:〒501-3156 岐阜県岐阜市岩田西3丁目429番
    創 業:1969年3月
    事業内容:再生資源卸売業

    https://sunwaspa.com/

    1969年に岐阜県下における古紙等再生資源の回収及び卸売業として創業。現在では従来の事業に加え、カンボジアにおける未利用バイオマスからのエタノール製造事業、そこから派生したクラフトジン製造販売事業などを手掛ける環境課題ソリューション企業としてフィールドを拡げる。『Recycle Revolution』をビジョンとして掲げる。

    商 号:株式会社サンウエスパ
    代表者:代表取締役 原 有匡
    所在地:〒501-3156 岐阜県岐阜市岩田西3丁目429番
    創 業:1969年3月
    事業内容:再生資源卸売業

    https://sunwaspa.com/

2023年6月2日 Fab Meetup Nagoya vol.10 に、サンウエスパ 川合 稜太さんが登壇します。よければぜひ、イベントまでお越しくださいませ!

“Fab Meetup Nagoya”は、多種多様なバックグラウンドの人たちが、ゆるーく食を楽しみながら、アイデアやプロジェクトをシェアするMeetupシリーズ。クリエイターが「つくること」にまつわるショートプレゼンテーションを行います。FabCafe TokyoやKyotoでも実施され、業界の垣根を超えた人が集まるコミュニティが各地で育ってきました。
2023年度のFab Meetup Nagoyaでは、シリーズごとにテーマを設け、より深く対話していきます。今回のテーマは”共生”。サンウエスパのクラフトジンもお楽しみいただけます。

詳しくはこちら!

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  • 居石 有未 / Yumi Sueishi

    FabCafe Nagoya プロデューサー・マーケティング

    名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
    美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
    FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
    好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。

    名古屋造形大学大学院 修了。卒業後、大学の入試広報課にて勤務。2021年2月 FabCafe Nagoya 入社。
    美術館 学芸員インターンシップ、教育機関でのワークショップ・プログラム企画運営、取材・広報などの多岐にわたる業務で培ってきた柔軟性と経験を活かし、関わる人の創造力や表現力を活かせる環境づくりを行う。
    FabCafe Nagoyaでは、クリエイターと企業・団体が共創する『人材開発プログラム』や『アイデアソン』『ミートアップイベント』などを企画運営しながら、FabCafe Nagoyaという空間の面白さを、より知ってもらうタッチポイント設計や店頭サービス開発を、日々行なっている。
    好きな食べ物はいちご。ライフワークは作品制作。

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