Column
2022.11.3
高田 幸絵
FabCafe Kyoto カフェマネージャー
COUNTER POINT(以下CP)は、FabCafe Kyotoが提供するプロジェクト・イン・レジデンスのプログラムです。「個人の衝動」をキーワードに、好奇心と創造性に突き動かされたプロジェクトのための3ヶ月限定の公開実験の場を提供しています。2020年10月にスタートし、これまでに9期39組のプロジェクトを受け入れてきました。
CPには、何かに駆られたように手を動かし作り続けるひとが集まっています。彼らはなぜ普段の環境を飛び出し、今この場所に集まっているのでしょう。現在開催中の成果発表展「Exhibition: COUNTER POINT 9th」前日に開催したメンバーの座談会をレポートします。
「Exhibition: COUNTER POINT 9th」開催概要
■ 会 期 |2022.10.29 (土) – 2022.11.12 (土)
■ 会 場 |FabCafe Kyoto
■ 参加プロジェクト(*順不同・敬称略)
・遠吠え 洞窟 小宇宙 ─ 小熊彩香
・曲線と直線 ─ 垂谷 知明
・NOT THE SAME 実験室 ─ 林ホノカ
・手のひらの建築 ─ 本田凌也
>>> 展示の詳細はこちら
今回の展示に参加したのは、CP9期で活動していた5プロジェクトのうちの4組 4名です。以下、それぞれの活動や展示内容についてご紹介します。
ステートメント
遠吠えで素粒子に還ろうと思ったら、自分の内側にある美しい洞窟を発見し、己の小宇宙と繋がりました。
I wanted to make a new world people can howl anytime. But before I knew it, I found my beautiful inner cave and reached small cosmic.
活動を振り返って
「『私はこんな楽しい世界にいるんだけどみて』と、自分の洞窟を表現することが、自分の遠吠えと、宇宙と、いろんな内なるものにつながりました。」
自分の世界を表現する方法を試行錯誤し続けた小熊さん。オオカミのお面の輝きや、布の重なり、カリンバの振動…表現者 小熊彩香の始まりが、あの洞窟の中にあります。
ステートメント
私が4年前から行なっている「曲線と直線」の活動を、より加速化し本格化させるために、今回のレジデンスで定めた目標が、「この活動の価値や魅力を改めて洗いだし言語化し、しっかり価値づけを行うこと」でした。この3ヶ月間はFabCafe Kyotoの皆さんと制作し、ディスカッションし、ご意見を頂きながら、価値や可能性を言葉にまとめることに努めました。そしてその成果が、今回募集させて頂く2つのワークショップ企画に収斂しております!ご参加お待ちしております!
活動を振り返って
「今回、カップルを対象にした新しいワークショップを企画しました。これまで親子が多かったから、進め方とか、声の掛け方とか、これまでとは全く違うはずなんですよ。だからこそ、チャレンジせなあかんって思ってます。」
日々のセッションにも今回生まれたワークショップにも、たくさんの挑戦を盛り込んだ垂谷さん。このプロジェクトは「ワークショップ」である以上に、「アーティスト・垂谷知明の作家性が最も強く表れた作品」ともいえる、のかもしれません。
ステートメント
アートを買う文化が日本にはまだあまり根付いていないので、作品を少しでも身近に感じ、手に取ってもらえるような形に落とし込みたい気持ちが以前からありました。 そこで8月に展示して賞をいただいた『NOT THE SAME』という作品たちを基にキーホルダーとアクリルスタンドを制作し始めました。 UVプリンタの仕組みは面白く、印刷回数やグロスなど、方法を色々試しながら実験を繰り返しました。今回はその実験品をお披露目&販売したいと思います。 また絵を描き始めた頃からショーウィンドウを飾るという目標があり、その第一歩として、作品をFabCafe Kyotoさんの窓に飾らせていただきました。楽しんでもらえると嬉しいです。
活動を振り返って
「自分が表現したいことと材質の関係性を、自分自身の作品と向き合いながら作ることができたと思います。いろんな機械を使うことで、表現方法が広がった、材質に関する考えが広がったかな。」
クオリティを追求するとテクノロジーは透明になり、強度を持った表現だけが残る。とにかく自らの手を動かしコンセプトやアイデアを有無を言わさぬ説得力をもって具現化していく過程に、圧倒された3ヶ月でした。
ステートメント
カウンターポイントでのプロジェクトでは、”建築をもっと身近に”をモットーに活動してきました。世の中に溢れている建築の魅力をもっと多くの人に知ってもらうために、建築の魅力を一部抽出して、玩具や雑貨、文具などの身近な手のひらサイズのプロダクトを作成しました。 ぜひ実際に手に取って、触ったり、使ったり、遊んだりしてみてください。そして、これはなんの建築だろうと、少しでも興味を持って頂けたら嬉しいです。
活動を振り返って
「アイデアを出して、それをどう形にするか。想定と全然違うものができたり、微調整したり、何度も何度も試行しながら制作したのが、難しかったけど、学びであり、3ヶ月で得たものです。」
3D プリンタとテーブルを行き来しながらお店の中で試作を繰り返していた本田さん。この展示には、建築への愛・探究心・遊びごころがぎゅっと詰まった、クリエイターの原石があります。
髙杉静代さんの作品展示は、個展形式で計画中です。CP期間中には2回のワークショップ(以下WS)を企画・開催しました。
ここからは、座談会の内容を抜粋してご紹介します。
まずはみなさんに、3ヶ月間で一番強く心が動いた瞬間について聞きました。
小熊さん: その日初めて会ったひとと、お互いの話をしないまま、音鳴らしたり声を出したりしながら3時間ずっとセッションしていた時間があって『生まれてきてよかった』って思いました。自分が思い描いていた理想の世界を体感することができて、その場には愛しかなかったんですよ。いつも孤独な気持ちで生きていたので『自分はひとりじゃない』っていう安心感がすごく大きかったです。
小熊さん:ひとりで遠吠えしてるときは「誰かに何か思われるんじゃないか」っていう不安が常に根底にあります。あの時間は、他者が周りにいながらその思いから解放された瞬間で、初めての経験でした。こんなにジャッジがなくて、言葉がなくても通じるって思えたのが、うれしかったです。
「他者がいる中での解放」でいうと、髙杉さんが開催したWS「穏やかに招き入れる “破壊” の世界」が思い出されます。
本田さん:3ヶ月間で僕が一番エキサイトした瞬間は、髙杉さんのWSでの出来事だったなって思います。自分の中の新しい感情に出会えました。あのWSのなかで、僕は「アンコンシャスバイアスをこわす」を引き当てました。
※このWSは、参加者が別の参加者の「こわしたいもの」をランダムに選び、指定された方法で「こわす」という内容でした。
本田さん:こわしかたが分からなくて、紙を使ってとにかく色々やってみていたら、最後に、その紙になぜか愛着が生まれていました。最初の目的は「こわす」だったはずなのに、全く別のところに行き着いた。その紙は、今も部屋に置いています。今まで自分の中になかった感情が生まれた瞬間でした。
髙杉さん:そう、その体験をWSでは作りたいと思ってた!あの時間で一番大切なことは、本田さんのようなプロセスを経て、自身のコンフォートゾーンから逸脱する体験です。だから、まさに狙い通りの方法で体験してくれた。ありがとうございます。
髙杉さん:私の根底には、自分らしく自由に表現して振る舞いたいっていう欲があって、私の基本姿勢であり、全ての原動力なんです。言葉でも物質でも、表現しないと、それは無かったことになる。無かったことにしない・されないために、制作活動を行なっています。12月に計画している個展では、自分の制作ヒストリーも踏まえつつ作品を展示する予定です。FabCafe Kyotoに集まる人に「面白いことをしてる人がいる」と思ってもらえる展示にしたいと考えてます。
制作中にどうしても生まれる端材や、使用する素材の環境負荷についての話も。
林さん:アクリルを制作に使うにあたって、飲食店で使われていた(飛沫感染防止のための)アクリルボードを再利用できないかなって当初は思ってました。飲食店から使用済みのアクリルボードを集めるのが難しくて、最終的にはアクリルの端材を買って制作したんですけど。
林さん:作品を作ってて、これはゴミなんじゃないかって罪悪感が湧いてくる時もあります。作ってる間は孤独だから「こんなの売れるわけない」とか、思っちゃう。作品が売れてくれたらうれしいけど…それでも、自分を信じてやっていくしかないというか。クリエイターだから、そこと向き合っていくしかないのかなって思います。
この3ヶ月ではプロダクトの制作に取り組んだ本田さん。普段は建築学科に通う大学生です。
本田さん:環境負荷について考えることは、建築を作る上で絶対に外せない点。特に「自分が作る意味」は考えないといけないなって思います。環境のことを、どう自分なりに折り合いをつけて展開していくか。僕なりの考え方を見つけたら、作れるものがあると思うので。その、僕なりの考え方が何なのかは、まだ探しているところですが。
最後に、CPで取り組んだプロジェクトの今後の展開について聞きました。
垂谷さん:自分は、絵が全て。内向的な性格なので、「曲線と直線」というプロジェクトがないと、こんなにたくさんの人とコミュニケーション取るなんて難しくて。でも「曲線と直線」があることで、目の前の人とこんなに長い時間一緒に絵を描けて、常に違う刺激がもらえるのが、とてもありがたい。このプロジェクトを始めたことで、自分は絶対にパワーアップしてるんですよ。プロジェクトを始めた4年前と比べて自分がパワーアップしてることを、個人制作の作品を描くときも感じてます。
垂谷さん:自分がパワーアップしたなって感じたら、どんどんいろんなことがやりたくなってきて…どんな人と描くかによっても絵に違いが出るし、プロのアーティストと一緒に描いても新しい可能性が生まれると思ってます。今回、このプロジェクトの体験にちゃんと価格をつけられたことによって、企業との(コラボレーションの)話も生まれました。この活動があることによって、個人制作だけでは到達し得ない、未知なる景色を見られる予感があって、その布石になった3ヶ月でした。
CP期間中のディスカッションを経て、「曲線と直線」を体験できる2種類のワークショップが生まれました。どちらも、展示期間中に開催されます。
ワークショップ「曲線と直線」- アーティストと対話しながら共同で作品をつくる午後
開催日時|2022.10.29 (土) – 2022.11.15 (火) ※11/12(土)を除く
時 間 |13:00 – 17:00
会 場 |FabCafe Kyoto
参加費 |30,000円(税込)
絵の苦手な方はもちろん、老若男女を問わず参加OK。アーティストの思考や感性を間近で体感しながら学び、自分も描き、その協働のプロセスを楽しみながら、気が付けばアッと驚くグラフィックと物語が生まれるワークショップです。
申込・詳細はこちら
ワークショップ「曲線と直線」 – パートナーと2人でつくる、世界にただ1つの絵画と物語
開催日時|2022.11.12 (土)
時 間 |13:00 – 14:30
会 場 |FabCafe Kyoto
参加費 |1組 3,500円(税込)+ 別途 1ドリンクずつご注文ください。
「大切なパートナーと対話しながら一つの絵画作品をともにつくる」ワークショップです。対象は、16歳以上のカップルや夫婦など。性別は問いません。2人1組でお申込みください。
申込・詳細はこちら
林さん:試作していたアクリルスタンドの土台がぐらぐら揺れちゃうときに、スタッフの方から「0.0何ミリまで調整したら、いいものができるんじゃないか」って言われて。これまで「0.何ミリ」は気にしてたけど、それよりもっと小さいところは気にしてなくて。でも、そんな小さいところまで気にするの、楽しい。その姿勢がいい。と思いました。
林さん:細かいところを微調整して作っていくものづくりの姿勢もいいものだなって思った。ガッて(大胆に)いく部分と、繊細な部分の両方を、大事にしたいです。
自問自答しながらも手を動かし続けること。新しい環境に飛び込み、分からないことや、知らないことにこそ可能性があると信じること。細部まで自分のこだわりを追求すること。CP9期メンバーの活動に共通していたのは、この場所で出会った新しい存在と向き合い、自分の制作活動に取り込んでゆく姿勢であるように思います。
その姿勢を可能にするのは、CPが最も大切にしている「個人の衝動」であり、個人の強い思いこそが世界を豊かにしていくのだと、私たちは改めて思うのです。
「個人の衝動」から新たな表現が生まれた9期メンバーの作品たちを、ぜひFabCafe Kyotoの店頭でご覧ください。
「Exhibition: COUNTER POINT 9th」開催概要
■ 会 期 |2022.10.29 (土) – 2022.11.12 (土)
■ 会 場 |FabCafe Kyoto
■ 参加プロジェクト(*順不同・敬称略)
・遠吠え 洞窟 小宇宙 ─ 小熊彩香
・曲線と直線 ─ 垂谷 知明
・NOT THE SAME 実験室 ─ 林ホノカ
・手のひらの建築 ─ 本田凌也
>>> 展示の詳細はこちら
※Nomadic toys – 高杉静代さんの作品は、12月に個展形式で展示を予定しています。こちらもお楽しみに。
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COUNTER POINT|偏愛を社会に発信させるプロジェクトインレジデンス
「COUNTER POINT」は、FabCafe Kyotoが提供するプロジェクト・イン・レジデンスのプログラムです。「組織を頼らず自分たちの手で面白いことがしたい」「本業とは別に実現したいことがある」そんな好奇心と創造性に突き動かされたプロジェクトのための、3ヶ月限定の公開実験の場です。流浪する河原者たちが新しいスタイルの芸能”歌舞伎”を生み出した京都・鴨川の近く、築120年を超える古民家をリノベーションしたFabCafe Kyotoを舞台に、個人の衝動をベースにした新たなエコシステムの構築にチャレンジしています。
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高田 幸絵
FabCafe Kyoto カフェマネージャー
趣味のカフェ巡りをきっかけに、ひとが集まって活動する空間に興味を持ち、京都工芸繊維大学大学院でワークプレイスデザインを研究する。マンションコミュニティ運営サポート会社での勤務とパンデミックを経て、街における「カフェ」の重要性を改めて感じ、ロフトワークへ入社。コーヒー以外の関心は、フェミニズムと考現学。
趣味のカフェ巡りをきっかけに、ひとが集まって活動する空間に興味を持ち、京都工芸繊維大学大学院でワークプレイスデザインを研究する。マンションコミュニティ運営サポート会社での勤務とパンデミックを経て、街における「カフェ」の重要性を改めて感じ、ロフトワークへ入社。コーヒー以外の関心は、フェミニズムと考現学。