Event report

2019.8.21

かやぶきやかご編み、曲げ木に宿る職人の技術を学ぶ ニューヨーク州立大学バッファロー校の飛騨合宿

FabCafe Hida 編集部

About

2019年7月11日、ニューヨーク州立大学バッファロー校の建築学科のサマープログラムの一環として、建築家のニック・ブルシア助教授率いる11人の学生が飛騨での合宿にやってきました。
学生は、FabCafe Hidaに7日間滞在し、地元の家具メーカー、大工や茅葺き(かやぶき)職人、かご編み作家からそれぞれの技術を学びました。
このプログラムはFabCafe Tokyoヒダクマとの共同企画・運営。プロジェクトマネージャー・ディレクターとしてFabCafe Tokyoの金岡大輝、テクニカルサポートメンバーとして、建築系プログラマーでデザイナーの堀川淳一郎さんが参加しました。

 

 
昨年からひきつづき、飛騨での合宿を計画してくれたニック先生から、今回の飛騨合宿では「縄文文化など日本古来の建築や技術を学びたい」という要望をいただき、プログラムを設計。

合宿では、茅葺きやかご編みの技術を職人さんから直接学ぶことのできるワークショップや旧石器時代から縄文時代の遺物を見れるみやがわ考古民俗館、古墳や伝統的な木造建築をめぐるツアーなど盛りだくさんのプログラムを実施。
また、独自の曲木技術を持つ飛騨古川の家具メーカー・イバタインテリアさんの特別協力により、圧縮曲木を素材提供してもらい、編み構造体を滞在製作しました。

ヒダクマでは、滞在期間中、飛騨で何を感じ、発見したのかを学生たちにインタビュー。このブログでは、学生たちの声を合宿の写真とともに紹介します。

昨年(2018年)の合宿の様子はこちら:
「日本が誇る伝統技術を現場で体感。先端と伝統が融合する木工合宿 in 飛騨」

 Program

DAY 1

元大工・直井さんガイドによる飛騨古川街歩き
真宗寺の輪転蔵経堂見学

DAY 2

【バスツアー】
・板倉の建築を見る「種蔵」散策
・縄文文化を学ぶ「飛騨みやがわ考古民俗館」鑑賞
・飛騨国府にある岐阜県内最大級の石室「こう峠口古墳」見学
・室町初期の建築・阿多由太神社本殿参拝

【ワークショップ】
 大工・田中さんの組木(仕口)をつくるデモンストレーション

DAY 3

曲木技術を間近で見る。イバタインテリア工場見学

DAY 4

かご編みの技術と創造力で世界的に活動するアーティスト・佃さんのかご編みワークショップ

DAY 5

茅葺き職人・藤原さんによる実践講座

DAY 6

イバタインテリアの圧縮曲げ木をつかって、編み構造体を製作

DAY 7

製作2日目(合宿最終日)
地域のみなさんを招いて成果発表会・交流会

Interviewee

滞在期間中、ヒダクマから飛騨での合宿について感じたことを学生にインタビューさせてもらいました。答えてくれたのは、このメンバー。


Nick Rit(ニック)
木工全般が得意。大学の木工のワークショップで、講師をしている。CNCのチュートリアルをしたり。家族も建築関係の仕事をしています。


Jennifer Persico (ジェナ)
ディテールまでこだわって模型を綺麗に作ることができます。


Austin Wyles(オースティン)
家系が木工の家系で船とか作っています。木工全般と模型作り、物を直したりすることが得意です。


Chris Sweeney(クリス)
コンピュータ上でも模型でもアイディアを伝えることが得意です。


Mira Shami(
ミラ)
3Dやデジタルでモデルとか絵を作ることが得意です。


Marissa Hayden(メリッサ)
スケッチとかフィジカルな、ドローイングが得意で、表現力やプレゼン力があります。

 

Q. 今回飛騨で行った場所・体験したことの中で、一番印象に残っていることはなんですか?

クリス:FabCafe Hidaでの滞在製作が楽しかった。ワークショップで自然にみんなが動き、一体感が生まれることが素晴らしいです。

ミラ:茅葺きが楽しかったです。どこかおいしいところだけ学ぶのではなく、最初から最後まで全部体験して作り上げることができたのは大きな成果です。その中でも職人さんから直接教えてもらえるということがよかったです。

ニック:茅葺き体験が一番よかったです。飛騨に来て茅葺の屋根を見たときにどうやって作ってるんだろうと、不思議に思っていたところで、YouTubeとかも見たけど作り方の情報が出てこなかったから体験でき嬉しかったです。

茅葺き職人・藤原さんからわらの扱いを習う学生たち。

ニック:種蔵の集落も勉強になりました。

ジェナ:種蔵の道中の山々が綺麗でとても癒されました。

美しい里山・種蔵では、そこに住むひとたちならではの暮らしや建築を学びました。

メリッサ:田中さんのデモンストレーションはレベルが高くてすごい。見ていてスカッとしました。

オースティン:大工の田中さんのデモンストレーションと古川の街歩きがよかったです。実際に古くから住んでいる人に街を案内してもらえるのは観光だけじわからない細かな部分まで知れるので楽しかった。木工がすきで、動画や本とかで見ていたことが実際目の前で見れて感動しましたし、職人さんに直接質問できるのも嬉しかったです。

田中さんによる組木をつくるデモンストレーションでは、目の前でスピーディに木を加工するのを目の当たりにしました。

 

古川の街歩きでは元大工の直井さんから建築の特徴や歴史を学びました。

 

 

Q. 飛騨の滞在で、今回の作品に活かせそうなインプットはありましたか?

オースティン:メイさんのかご編みのチュートリアルは、手の感覚とかで編めてしまう感じが素晴らしかったです。

ニック:メイさんのワークショップ。(理由はオースティンと一緒で)今回の全体のプロジェクトで、みんなでトライした複雑な編みをデジタルで表現したりすることがおもしろかった。今後もデジタルと伝統技術を組み合わせてやっていくことを続けていきたいです。

メイさんこと、佃さんのかご編みワークショップ。佃さんのつくったかご編みの作品のレクチャーもありました。

学生たちは編み構造のかたちを紙でいくつも試作。

 

イバタインテリアの工場で曲木がつくられる工程を見学しました。

 

クリス:ずっと紙でモデリングしてきたから、メイさんのワークショップで違う素材でより木に近い素材に触れられたのがよかった。あの素材だけで、メイさんがあんなに作品を作っていたことに驚きました。最初は、このプロジェクトがここまでできるとは正直思っていなかったけど、実際に色んな人にあったり、教えられてここまでこれたのは信じられない。飛騨に来たことで、グッと加速したように思います。

メリッサ:イバタインテリアさんの実際の圧縮曲木の素材を実際にみれたことが製作を進める上で原動力になりました。メイさんのワークショップも同じくよかったです。

最終日はあいにくの雨。

 

そんな中、真剣に製作を続ける学生たち。

合宿最終日夕方から始まる成果発表会のギリギリまで製作を続けました。

 

Q. 今回飛騨で行った場所・体験したことの中で、一番印象に残っていることは何ですか?

オースティン:東京にいたり、トラベルウォークで京都や広島など1日ごとに移動したけど、人が多くて。飛騨はそんなことがないから、ふるさとというかホームのようなあたたかい感じがしてそこがほかと違います。

ニック:色々周ったけど、旅行している感じで長く同じ場所にいることはなかったから。飛騨は山も綺麗だし、自然をゆっくり見ることができてよかったです。

種蔵の風景。

 

メリッサ:山並みの景観がとても美しいし、田舎だけど見るものもたくさんあって、そのバランスがよかったです。

クリス:東京にいたときは、ペースも早いし、出会った人が何をしている人なのかを知る機会もなかったから、疎外感のような社会に関わっている感覚がなかったけど、ここに来たら挨拶も当たり前にするし、その人が何をやっている人なのかもわかります。人とのふれあいの密度が違うから、そこが飛騨の滞在を特別にさせるのかな。プロジェクトも佳境に入ってきて色んな人の協力を得てひとつのものが集結していく感じがエキサイティングだった。

イバタインテリアのみなさんとニック先生。

 

一緒に製作すると一気に打ち解けます。

 

ジェナ:こんなにコミュニティに触れられたことはほかの場所ではなかった。外に出たら誰かと挨拶を交わすし、実際にこのプログラムで色んな人に触れ、コミュニティを感じられたことがよかったです。

ミラ:飛騨はほかと全然違います。特別な場所になりました。FabCafe Hidaでみんなで畳の部屋で寝ているのもそうだし、挨拶をするのもそう。コミュニティの近さを感じました。飛騨にきて、海外で新しい家族を得たような気持ちです。FabCafeの優子さんやご飯をつくってくれたマザーが気遣ってくれ、安心しました。

FabCafe Hidaでのマザーズハウスのマザーによるディナーは楽しみのひとつ。

 

最終日の夕食の様子。作品を製作したFabCafe Hidaの中庭にてみんなで食べました。

 

まとめ

伝統や文化が色濃く残り、自然やコミュニティの近さ・暮らしを感じられる、飛騨古川の魅力。今回の長期滞在の学生さんに与えた学びや癒しは飛騨だからこそ味わえたのではないでしょうか?

成果発表会には多くの地域の方々が集まってくれました。

 

成果発表会では、ニック先生が組木のデモンストレーションをしてくれた大工の田中さんから聞いた言葉が心に残っていると紹介。
「田中さんは独自の仕口をつくったことはありますか?」と質問したところ、田中さんは「いいものは大体昔の人がつくっている。でも、日々の改善や小さい挑戦を続けることが職人たる姿勢」と答えたそう。この言葉からニック先生は「僕らも何年も何年も繰り返しつくって挑戦していくことで、初めて後世に残せるものができるのかなと思いました。その脈々と受け継がれている伝統に対する姿勢に一番インスパイアされました。」と話してくれました。


ニック先生の感想を、飛騨の職人さんやここで暮らす人々に届けることができたこともとてもうれしく思います。また、合宿で様々な飛騨の方とコラボレーションすることで、学生やニック先生、そして地域のみなさんが興味や知識をシェアできたり、新しい発見や刺激が生まれたなら、それは私たちにとって喜びです。ニック先生が新しいことにどんどんチャレンジされているように、私たちヒダクマも飛騨にある伝統技術・文化を知り、職人さんとの出会いや繋がりをFabCafe Hidaという場所でつくっていきたいと思います。

Special thanks!!


訪れてくれたニューヨーク州立大学バッファロー校の建築学科のみなさん、ニック・ブルシア助教授、FabCafe Tokyoの金岡さん・吉岡さん、
堀川さん、ありがとうございました。また飛騨に遊びに来てくださいね。
そしてこの合宿にご協力をいただきました地域のみなさん、本当にありがとうございました。


飛騨の伝統的な組木などの木工技術、文化を学ぶ合宿をしませんか?

ヒダクマでは、建築を学びたい方・建築家やデザイナー、教育機関、企業などを対象に、建築やデザイン、林業、まちづくりなどを学ぶことができる合宿・滞在プログラムを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください。お問い合わせはこちら。

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