Project Case

2020.11.5

SUPPOSE DESIGN OFFICE×ヒダクマによる協働プロジェクト「FabCafe Nagoya」のサスティナブルな設計意図とは?

(この記事は、FabCafe Hidaを運営する株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)に掲載された記事の転載です。)

森を想起させる天井架構。「広葉樹の耳」を組木の工法で構造化

2020年9月、名古屋市内のランドマークとも言える久屋大通公園内に開業した「Rayard Hisaya-odori Park(レイヤード ヒサヤオオドオリパーク)」。そのなかに「FabCafe Nagoya」(ファブカフェ ナゴヤ)が株式会社ロフトワーク(本社:東京都渋谷区)と株式会社OKB総研(本社:岐阜県大垣市)との協働によりグランドオープンしました。FabCafeはテクノロジーとデザインを掛け合わせてイノベーションを生み出す場として、世界で12拠点を展開しています。名古屋においても、国内外のクリエイティブコミュニティと東海エリアを拠点に活動するデザイナー、エンジニア、企業等がつながり、新たなムーブメントを起こしていくことを期待します。

FabCafe Nagoya 内観

FabCafe Nagoyaの内装デザインを手がけたのは国内外のアワードを多数受賞するSUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス、以下 サポーズ)、ヒダクマは木材コーディネーション、家具製作、製作ディレクションを担当しました。広葉樹の持つ特性や独特な風合いを生かしながら、小さな材が組まれて大きなものをつくりだす、というサポーズの主たるデザインの方向性に対し、ヒダクマは端材の活用や工法を積極的に提案。木を無駄なく使うための材の選定から製作、現場施工を通じて、サポーズの内装プロジェクトを全面的にサポートしました。

森のような天井架構、その意匠と連動した窓際ベンチや、スケール感のあるルーバーが特徴のカウンター。どれも余すところなく木を活用する「素材の循環」を追求。ベンチやローテーブルの脚の組み方には、組木の技法を施しました。

この記事では、FabCafe Nagoyaの空間・プロダクトの魅力と製作プロセス、そして設計を担当したサポーズ吉田愛さん・廣川大樹さんのメンバーズボイスをお届けします。

【プロジェクト概要】

  • 支援内容
    木材コーディネーション・家具設計製作・家具製作ディレクション
  • 期間
    2019年10月〜2020年09月
  • 体制
    クライアント:株式会社OKB総研・株式会社ロフトワーク
    建築監修・内装設計・家具設計:吉田愛・五十嵐克哉・廣川大樹(SUPPOSE DESIGN OFFICE)
    木材コーディネーション・家具設計製作・家具製作ディレクション:
    岩岡孝太郎・黒田晃佑・浅岡秀亮・門井慈子・飯山晃代(ヒダクマ)
    製作・協力(順不同):
    西野製材所、藤井家具製作所、やまもと建築、野中木工所、トキワランバテック、go-products、木と暮らしの制作所、オークヴィレッジ、カネモク 、飛騨職人生活、小倉鉄工、諏訪建築、はしもと建築、保木口建築、京左官、門前左官、山岸工務店、及川幹(飛騨市・広葉樹コンシェルジュ)、とらまめ、飛騨市森林組合、野口ハードウェア、田中建築、Filaments inc.

 

大量生産に向かない広葉樹を無駄なく使うチャレンジ

耳材天井架構

今回のプロジェクトにおいて、もっとも象徴的かつチャレンジングな製作となった天井架構。サスティナブルな小さな材を活かした空間体験としての可能性を広げたいというサポーズの考えのもと、小さな材を4つ合わせた梁となる部材を挟み込み、量を軽減させ、構造的な合理性と意匠性をハイブリッドに構築。ボックス型の既存の建物のなかに、「屋根の下」という新たな空間体験を提供しています。
使用したのは製作工程で一番最初に切って捨てられたり、薪として利用される通称「耳材」およそ800本。有機的な形状の広葉樹の数を増やすことで、形の抽象度を上げ、スケルトンの天井と空間全体に馴染ませる意匠に仕上げました。下から見上げると、広葉樹の森のなかにいるような錯覚に。

<仕様>
材料:ナラ、クリ、ヒメコマツ、広葉樹耳材多種
使用した耳材本数:約800本
サイズ:30m×10m
仕上げ:防炎塗装

小上がりフローリング

豊富な樹種が特徴の広葉樹は、曲がっていたり節があったりと大量生産には向きません。そこでヒダクマが独自に編み出した新しい木取りルールにより、無駄のない使い方とランダムな張り方を施したのが、この広葉樹無垢材フローリング。(※参考記事:https://hidakuma.com/blog/20191216_suzuyo_process/)明るい色味のブナとサクラを採用し、スケルトンの天井とソリッドな天井架構に対し、柔らかい印象の小上がり空間となりました。

<仕様>
材料:ヤマザクラ、ブナ
サイズ:約50平米
仕上げ:ガラス浸透塗料
その他仕様:ランダム貼り

木ルーバー大カウンター


ルーバーが印象的な長さ13mに及ぶ大カウンターは、空間のなかでも目を引くアイコニックな存在。このデザインはサポーズが飛騨を訪れた際に目にした、木材の桟積みの様子を再現したものです。天板はメリハリをつけるために木ではなく厚みのあるモルタル風塗装とし、見切りに入っているサクラ材は鉄媒染の技法を用いています。経年変化でグレーへと向かうルーバーのクリ材と共に、空間に馴染んでくることが期待されます。こうした塗装や精巧な木口面のルーバーの加工は、どれも飛騨の職人の高い技術力により実現しました。

<仕様>
材料:クリ、ヤマザクラ、カチオン(モルタル風塗装)
木口面に現れる木材の総数:432個
軸組材料
サイズ:長さ13,480mm、奥行き1,096mm×h1,110mm
仕上げ:白木オイル塗装、鉄媒染(見切り材のみ)

窓際連続ベンチ

ボルトで引っ張り合うような設計とし、脚数を減らす工夫をした。

サポーズの意向である「天井の意匠と連動させ、細いもので支えるデザイン」にするべく、構造的に荷重のかかる脚部分の強度を保ちながら、金物を極力使わずに4つの部材で組み上げています。相欠(あいかき)という組木の技法により、9つのベンチが連続しているのではなく、一枚の長い天板を各脚が支えているような設計とし、脚部の透過性を確保しました。

<仕様>
材料:カバサクラ、カバの木合板
サイズ:13,710mm×600mm×h400mm(ひとつ1,200×600×h400mm)
仕上げ:白木オイル塗装

クッション

空間の色のトーンに合わせた色を選定。Φ3mmのパイピングをしてできるだけ面が出るような工夫をしました。またチューブ状のクッションと四角いクッションの境界線が緩やかに溶けるよう、中綿の量を調整して製作。

<仕様>
材料:ミスティック アクアクリーン
サイズ:1,800mm×600×h50mm(四角)、Φ180・1,800mm(チューブ)

窓際カウンター

こちらも天井の意匠と連動し、縦のスリットがまっすぐに落ちるように設計。構造強度を保つために、力強い大きな貫(ぬき)が採用されています。脚部は板材としての面を出すために、貫の木口面が余計なノイズとして外部に出ないよう、ダブルの脚の一枚目の板で止まるように細工を施しています。

<仕様>
材料:カバサクラ、天板カチオンワン・モルタル風塗装
サイズ:3,420mm×420mm×h1,000mm
仕上げ:白木オイル塗装

BEAMテーブル

天板のカチオンはモルタルが乾燥仕切る前に霧吹きで水をかけ、意図的に乾燥時間のズレをつくりながら左官することで、色合いのムラをつくり出しました。ムラがなければ平面的な印象になるところ、この風合いを出すことで奥行きを感じることができます。

<仕様>
材料:カバザクラ、天板カチオンワン・モルタル風塗装
サイズ:1,900mm×350×h1,000mm
仕上げ:白木オイル塗装

小上がりローテーブル

天井架構や窓際の長いベンチなどと意匠を揃えるべく、細い部材でどう支えるか、技法に工夫を凝らしたデザイン。脚にはこちらも組木の技法、相欠を用い、先端部はしゃくりを入れて(削って溝をつけること)2本の脚が貫を抱えながら支える構造に。木の多い空間においてアクセントになるよう、天板は人工大理石を用いました。

<仕様>
材料:クリ(脚)、天板人工大理石
サイズ:Φ750mm×h360mm
仕上げ:白木オイル塗装

木テラゾテーブル

サスティナブルな新素材として、サポーズとヒダクマが協働で生み出した木テラゾのテーブルです。細かい木の破片は捨てられてしまうか、アクセサリーやウッドチップとなるのが通常でした。家具としての価値にいかにして組み込むか、そして木を無駄なく使うことを目標に、モルタルに混ぜ込むことでテーブル天板として活用。異素材とミックスすることで、木だけでは出せない風合いと質感へ転換させ、まるでクッキーのような可愛らしい表情が現われました。

<仕様>
材料:ホオノキ、ミズメザクラ、カバザクラ、サワグルミ、トチ、クリ、MORTEX
サイズ:φ450mm×h420mm

KILI椅子(丸太)

木テラゾテーブルの両サイドにある椅子がKILI

空間全体の設計として直線が多いことから、また対面する窓際ベンチのつくり込まれた脚部分と差別化を図るためにも、つくり込み過ぎないデザインに。加工もあえて加えないソリッドな丸太と、一部面を削った丸太をアクセントに配置しています。

<仕様>
材料:ミズナラ
サイズ:Φ350mm×h350mm程度
仕上げ:キシラデコールクリア塗装

MOKA椅子(鉄)

写真手前の黒色の椅子がMOKA

柔らかいフェルト素材を冷たい黒皮鉄が支えるデザインに。シンプルなつくりゆえに鉄の歪みが生まれるため、溶接部分に羽を少し設け、安定した面で接合することで歪みを矯正しました。

<仕様>
材料:フェルト(天板)、黒皮鉄(脚部)
サイズ:Φ350mm×h350mm程度
仕上げ:艶消しクリア塗装

フローリングテーブル

天板はフローリングと同じサクラ材を使用。黒皮鉄でぐるりと縁取ることで、程よい緊張感が生まれています。

<仕様>
材料:サクラフローリング材(天板)、黒皮鉄(脚部)
サイズ:600mm×750mm×h700mm
仕上げ:白木オイル塗装(天板)、艶消しクリア塗装

作業台として使いやすいよう若干高めに設計し、3本脚にすることで軽さを出しています。

<仕様>
材料:木口表し積層合板(天板)、ミズナラ(脚部)
サイズ:600mm×420mm×900mm
仕上げ:白木オイル塗装

飛騨でのキックオフ、サポーズが考えた方向性

ロフトワークによるプロポーザルでサポーズが建築監修、内装設計者として採用され、ヒダクマと初めて手を組んだプロジェクトがキックオフします。

  • ヒダクマ岩岡の説明を聞くサポーズチーム。ヒダクマ会長の林千晶もツアーに同行。

  • 飛騨を訪問したサポーズ吉田さん(写真中央)は、土場で木材が桟積みされた様子を見て、木の風化した色合いが印象的だと話した。これが後にカウンターの意匠へ繋がる。

まずは当初の設計ラフ案を持ってヒダクマの拠点である飛騨を訪れたサポーズ代表の吉田さんと五十嵐さんと廣川さん。ヒダクマの案内する森や製材所、工場を巡り、森の循環や仕組みを知ります。サポーズチームは、「小径木だから出来ることってなんだろう?」という課題に対し、クリエイティブの力でどんなふうにこの素材の特色を活かすことができるか思考しました。

この訪問からサポーズは、「小さな広葉樹が組み上げられて大きな空間がつくられること」「公園のなかで憩える小屋のような空間にする」、というふたつの方向性を持ちます。

角材の端っこ「耳材」を活用して天井架構をつくるアイデア

多数の小径木を組むことで大きな造形を表現するサポーズのラフ案を見たヒダクマに、あるアイデアが浮かびます。木材で最初に切り落とされる“耳材”と呼ばれる、いわばパンの耳のような端材を活用したらどうだろうか?カウンターや床材などの大きなものをつくる際に生まれる耳材を使用すれば、材料の循環になるでは、という提案をします。サポーズ側もヒダクマと組むならば、ぜひチャレンジしてみようと応えました。

近しい形のものが並ぶと、「形が並んでいること」が強調されて、そのものの形の意味は薄れる(資料:ヒダクマ)

これら一つひとつ特徴的な形状の華奢な耳材を組むことで、個性の強い曲がった小径材の存在感を柔らげることができます。

形状の決定と、二転三転する材料

意匠の要とも言える、4つの耳材が組み合わさり柱になる部分のモックアップを、サポーズ作成の図面を元に製作。耳材で実現する形にすべく、さらに細かく部材の大きさを調整していきます。

天井架構の図面(資料:サポーズ)

  • ヒダクマ製作のモックアップ

  • すぐに曲がってしまう耳材

こうして形状の方向性が固まるなか、実際にどのくらいの長さの耳材が存在するのかを調べたところ、ある問題に直面します。天井に吊るためにはある程度長さが必要ですが、一般的な木工職人の工場から出る耳材は短手のものばかり。さらに木材のもっとも辺材部分である耳材は変形しやすいため、長手のものを入手するのは困難であることが判明します。

そこで、長くて細めの枝の使用へ変更する案が浮上。耳材の4本組だと最低でも1,200本必要である計算であったのが、枝材を4つに割ると1/4の300本でこと足りそうでした。長さの面でも問題なく、さらに枝材は森の未利用材の最たる部分でもあったことから、急遽方向転換し、いざ森へと枝材を探しに出かけたのでした。

  • 途轍もない山のスケールを感じた雪山での作業

年明けのよく晴れた日、手にノコギリを持って雪山へ入り、長さ1,500mmの枝300本を確保すべく探しはじめました。しかし、生木を切る作業は想像を絶するほど不効率で、2時間ほど作業しても10本しか材を調達できません。
納期も迫り頭を悩ませたヒダクマが森林組合に相談すると、数日後に選りすぐりの枝材を集めてくれました。その後もヒダクマの人脈を駆使し、多くの工場、職人たちから枝材を集めていきました。

三次元的な枝は3点交点のある直線的な架構に上手く組み合わせることができない。(資料:ヒダクマ)

材料集めと同時並行で再度設計を進めるうちに、今度は製作の問題が持ち上がります。3Dモデルで検証したところ、天井架構には直線的な材が求められるのに対し、三次元的に曲がった枝材はどこを軸として回転させても、うまく組み合わせることができません。職人との打ち合わせを重ねた結果、耳材を4本組み合わせるという当初のプランへと戻すことに。

巨大なモックアップ製作がチームを動かす

実際のモックアップ。フォークリフトで上下させて微妙に空間内のスケール調整を行った。

高さ調整を行うサポーズチーム。「これだけのモックアップをつくってくれることは稀であり、その熱量に応えなくては」と感じたそう。

4本の耳材で構成する方向で再度検証を進めましたが、こちらも一筋縄ではいきません。サポーズの意向でもある華奢な材を集めて架構をつくるには、材料一つひとつを削れるところまで削る必要があり、構造上の検討が必要です。また4,000mmの既存躯体に対してGL(地上)からの距離をどのくらいに保つか、といった空間の意匠も考えなければなりません。こうした問題は3Dモデル上では想像が難しく、職人へ製作を依頼するためにも、やはりモックアップを製作して、効率的な作業工程を見出す必要性を感じたヒダクマ。

そこでワンスパン8mにも及ぶモックアップをつくり、飛騨へ再訪したサポーズチームと確認作業を行います。形状と空間内での存在についてのスタディを行い、形状のさらなる微調整を進めました。

ときには遠くまで耳材を求めて足を運ぶことも。「こんな小さいものを集めてどうするんだ?」と問う製材所や工場へ説明して周り、ようやく必要数を獲得。

必要な耳材総数は800本、加工で弾かれる本数を入れると1,000本をも超える量であるため、引き続き飛騨の職人、周辺の製材所、チップ工場などを周りながら集めました。

また必要な部材点数が多かったため、パーツを細かく細分化し、たくさんの職人の力を借りながら、木口面の加工や塗装を進めていきました。

現場を支える臨機応変な職人技術

材料調達と意匠設計がようやく終わり、いよいよ現場での作業に入りたいところでしたが、天井の配管ダクトとの位置の調整が難航し、なかなか確定しません。兎にも角にも材料を組んだ状態で部材を名古屋へ運びます。そして衝突しそうな箇所を設計図にプロットし、位置を想定しながら、現場での組み立てを開始。

天井架構は直線の長いラインが見せ場ですが、反りやすい広葉樹の耳材を職人たちの高い技術力により矯正され、緻密に組み上げられていきます。こうして、およそ800本に及ぶ木々が覆う天井架構が生まれました。

  • 現場で部材加工をする大工・山本さん

  • ところどころでダクトをちょうど避けるよう、現場で臨機応変に職人が部材に加工を施しながら、架構をつくった。

  • 着々と出来上がる現場

  • 直前まで検証が行われた吊りもとの位置

工期中に勃発したコロナ禍の影響で、現場での確認作業や製作チームで集まることが不可能となり、一時工事も中断されました。その分を取り戻すかのように1ヶ月という短期間で、設計チーム、職人たちとの連携作業を積み重ね、ようやく完成に至りました。

吉田 愛|Ai Yoshida
建築家
SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役
1974年広島生まれ。2001年からSUPPOSE DESIGN OFFICE。2014年より共同主宰。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設など国内外で多数のプロジェクトを手がける。主な作品にONOMICHI U2、BOOK AND BED TOKYO、hotel koe tokyoなど。JCDデザインアワード2016大賞、中国建築大賞2014大賞など受賞多数。2017年より、絶景不動産、社食堂、BIRDBATH & KIOSKなど新規事業を立ち上げ、プロデュース、経営総括を担い自社運営するなど、建築を軸に分野を横断しながら活動している。
http://www.suppose.jp

五十嵐 克哉|Katsuya Igarashi
SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd.
1988年埼玉県生まれ。2004年 熊谷工業高校建築科卒業後、カナダと日本を往復しながら放浪。2012-2013年、STUDIO AK 一級建築士事務所。2016年からSUPPOSE DESIGN OFFICE。受け入れられる多様な空間の愉しさや、対話のなかで小さなことまで感じ取り、細部までこだわり抜くこと、違った角度のあり方を模索することを、頭の中に留めながらその人にとっての愉しさを創りたいと考えている。
http://www.suppose.jp

廣川 大樹|Daiki Hirokawa
SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd.
1995年埼玉生まれ。2014年工学院大学建築学部に入学し、2017年休学。設計事務所で1年の経験を経て、2019年大学卒業後、SUPPOSE DESIGN OFFICE入社。学生休学中、内田ゴシック建築の改修、福島県の復興プロジェクトを担当する中で建築が残るの時間の経過と儚さを経験。その経験をもとに空間の経年変化に対して、その時の季節、訪れる人々、天気など一回性を大切にした空間を目指している。
http://www.suppose.jp

岩岡 孝太郎|Kotaro Iwaoka
ヒダクマ代表取締役社長 / CEO
1984年東京生まれ。千葉大学卒業後、建築設計事務所に入社し個人住宅や集合住宅の設計を担当。その後、慶應義塾大学大学院に進学しデジタルものづくりの研究制作に従事。2011年、クリエイティブな制作環境とカフェをひとつにする“FabCafe”構想を持って株式会社ロフトワークに入社。2012年、東京渋谷にオープンしたデジタルものづくりカフェFabCafeのディレクターとして企画・運営する。2015年、岐阜県飛騨市にて官民共同企業である株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)の立ち上げに参画し、2016年FabCafe Hidaをオープン、森林資源を起点とした新たなプロジェクトに挑戦する。2018年4月同取締役副社長、翌年より現職。
https://hidakuma.com/

黒田 晃佑|Kousuke Kuroda
ヒダクマ 木のクリエイティブディレクター
大阪府出身。大学で建築と木工を学んでいるうちに、光の現象に興味を持ちフィンランドへ暮らしと共にある家具や照明のデザインを学ぶために留学。そののち、木という素材の扱いを家具に限定せず考え森と関わっていくヒダクマに興味を持ち2019年から参加。人と素材、デジタルとアナログなど事象と事象のバランスを調整したり、繋ぐことで新しいものや価値を創る事を目指す。日常や生活を大切にしていて、散歩や音楽を探したりが趣味。
https://hidakuma.com/

公園に対して敢えて屋根という低さの制約を作ることでカフェに滞在する人の意識を公園側につなげたいと思いました。小径木でこの空間をつくることで、建物自体の四角い工業的な空間から、公園の東屋にいるような、大きな木のしたで木陰から明るい外を眺めるような居心地のよい空間へと変化させ、公園へと繋がる開放感を設計しています。
カフェや厨房機能、レーザーカッターやUVプリンターなどか置かれる作業場として、そしてカフェカウンターとしてコミュニケーションの肝となる13mのビックカウンターは、製材場に視察に行った際に見てとても印象的だった整然と材料が積まれた風景からインスピレーションを受けています。圧倒的な量の加工前の材料が置かれた風景の美しさから継承しデザインしました。例えば一本の丸太だけがどーんと置かれたカウンターのような迫力を、小さな材の集積に置き換え、丸太に劣らないインパクトで、FabCafeを象徴するアイコンとして存在感を放っています。
また、本来捨てられる耳材や曲がりのある木をつかうこと、木の皮をあえて残すことで、製材されて薄れてしまう木の記憶を残しました。このFabCafe Nagoyaではインテリアとしてのデザインにとどまらず、小さな材で出来る空間体験としての可能性や、技術とデザインの掛け合わせによって森の循環に還元する仕組みの可能性など、デザインを介してそれらのきっかけとなるような場となればうれしいです。

SUPPOSE DESIGN OFFICE
吉田 愛

今回、プロジェクトを進めるにあたり、飛騨の森でクマは踊るさん(通称:ヒダクマ)との協業はプロジェクトを飛躍させる重要なポイントとなりました。飛騨の森に新しい価値を生み出すヒダクマさんの取り組みを、実際に飛騨古川へ足を運び、様々な場所を見学させていただくなかで、広葉樹の独特な性質や、小径木の実態、様々な木の表情といった色々な側面を見ることができました。
プロダクトに留まらず、小さな材で空間体験の可能性を広げることや、木の隅々まで使い切るサスティナビリティな考えは、ヒダクマさんとの数多くのコミュニケーションを取ったからこそ可能にできたと思います。
また、相欠きや相決りなどのヒダクマさんが得意としている伝統的な組木を使い、ビスを極力使わないデザインとしていることに関しては、ヒダクマさんと細かい寸法感、制作方法のやり取りを重ねることで、伝統的な手法と美的な視点など、お互いの得意分野を尊重し合い、細部までも空間に良い影響を与えるようにつくれたかと思います。
広葉樹の小径木や製材規格などの、ある種制限のようなものに対して、丁寧にヒダクマさんと向き合ってきたことで、今後に繋がる良いプロジェクトになったと思います。

SUPPOSE DESIGN OFFICE
廣川 大樹

 

飛騨の広葉樹材で家具として使われるのは5%と言われています。家具の製作過程でも切ったり削ったりを繰り返すので、出来上がった家具に使われている実際の広葉樹の量はさらに少なくなります。では、残りの95%以上はどうなってしまうのか。牛舎の寝床だったり、キノコの菌床だったり、紙や段ボール、燃料としてちゃんと有用に使用されています。FabCafe Nagoyaで使用した耳材や小さな丸太も95%側に含まれていた素材です。今回使用しなくても、きっとどこかで有用に使われていたでしょう。僕らは、この森づくりから始まる循環をサスティナブルなシステムにしていきたい。持続していくには、多様性(多用性、用途の多さ)が必要だと考えています。そのために既存の循環に介入し、「耳材は屋根になるか」「小さな丸太は何になるか」と、問いかけ、試み、実現しました。95%側の広葉樹の多様性をまた少しだけ拡張したFabCafe Nagoyaを訪れ、FabCafeコミュニティに参加し、それぞれの期待と問いを胸に飛騨の森までたどり着いてもらえるといいな、と願っています。

ヒダクマ
岩岡 孝太郎

今回のプロジェクト期間中に、世界的にウィルスが蔓延する出来事がありました。これからの生活のなかで「カフェでゆったりと時間を過ごす」という振る舞いも、もしかすると貴重な体験に変わっていくのかもしれません。
フィジカルな場所の意味、ものをつくる、という行為の中身が問われていくなかでヒダクマとして何ができるかを考えた結果、木を余すことなく使ってみる、という試みにサポーズさんと挑戦させていただきました。困難な状況下でプロジェクトを併走してくださった皆様、本当にありがとうございました。
店舗で見上げた天井にある一つひとつの形の集積が、森の木々と山々の形へ思いを馳せるきっかけになると幸いに思います。

ヒダクマ
黒田 晃佑

店舗名:FabCafe Nagoya(ファブカフェ ナゴヤ)
所在地:愛知県名古屋市中区三丁目6番18号 RAYARD Hisaya-Odori Park内
店舗面積:283平米(85.6坪)
出店日:2020年09月
席数:70席
最寄駅:名古屋市営地下鉄 久屋大通駅 徒歩3分
Webサイト:http://www.fabcafe.com/jp/nagoya/

 

文・石塚 理奈
竣工写真:長谷川 健太

11/24オンラインイベント開催決定!SUPPOSE DESIGN OFFICE × ヒダクマ 「パンの耳的な広葉樹の利用法とは?木架構が映えるFabCafe Nagoyaの空間解説」

SUPPOSE DESIGN OFFICEの吉田愛さん、廣川大樹さんをゲストにお迎えし、設計のコンセプトや、小径広葉樹がどのように調和し、スケールの大きな空間に生まれ変わったのかを解説するオンラインイベントを11月24日に開催します。「サステナビリティとデザイン」をテーマにしたトークセッションも必見。ご参加お待ちしております。

■開催日時:2020年11月24日(火)16:00-18:00
■ 参加費:無料
■ 会場:オンライン開催(Zoom)
■お申し込み・詳細:https://hidakuma.com/events/online-event20201124/

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ヒダクマでは、木の空間や建材、家具の提案から設計、設置など、皆様のアイデアを具現化するため、専門スタッフがトータルにサポートします。お問い合わせはこちら

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  • FabCafe編集部

    FabCafe PRチームを中心に作成した記事です。

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